街のあちらこちらで人とポケモンの声が響くのを聞きながら、ポケモンセンターのロビーに置かれた椅子にもたれかかる。
ソラからセンターでの待機を告げられてからすでにそれなりの時間が経ったはずだが未だに喧噪が止む気配は無く、周囲を見渡せば同じロビーには自身と同じような不安げな表情の人々が多く集まっていた。
何かできることは無いのか。
そんなことを考えてみるが、けれどトレーナーではないシノノメに今できることなど思いつかなかった。
一体今何が起きているのか、実のところシノノメだってもう察することはできた。
―――森のヌシが群れを率いて街へと侵攻しているのだ。
「……本当にこんなことが」
シノノメが物心ついたころ、すでにガラルにおいてトレーナーとは『ポケモンバトルを職業とする人』のことだった。
勿論シノノメとて他の地方においてトレーナーが野生のポケモン災害における抑止を担う人材であるという事実を聞いたことはあったが、けれど『ワイルドエリア』なんてものが作られるくらいには開発が進み、野生環境というもの自体が限定されたガラルにおいてポケモンによる事件というのは極めて稀であり、その大半はジムリーダーやジムトレーナーの力があればどうにかできてしまう程度のものでしかなかった。
故に街がポケモンの群れに襲撃される、なんてそんなことが現実に起きるなんてシノノメが今の今まで思いもしなかったのだ。
閉ざされたセンターの扉に視線を向ける。
もしかすれば今にもあの扉を破壊して野生のポケモンが雪崩込んでくる可能性があるのだとすれば。
「……怖い、なあ」
怖い、恐ろしい、震えあがる。
吐露したそれが本音であり、そしてだからこそ自分はつくづくトレーナーというものに向かないと思い知らされる。
ソラは、躊躇しなかった。
一瞬も迷うこと無く動き出した。
それはソラのパーティが強いからとかそういうことじゃないのだ。
例え今のシノノメにソラのパーティがあっても動けるとは思えない。
逆にソラにシノノメの唯一の手持ちがあったとして、きっとソラは同じ行動を起こすのだろう。
動けること、動けないこと、傷つくことを恐れないこと、恐れること。
ポケモンバトルの資質とはそんなメンタリティにも大きく現れることは知っていて。
そしてそれを痛感させられるたびに自分の才能の無さを自覚する。
「羨ましい、なんておこがましいよね」
ここで動けない程度のシノノメが、一体何を言っているのだと自嘲するように呟く。
未練がましくホルスターに下げていたはずのボールは今机の上にあって、ボールの中央にある開閉のスイッチを押せばいつでもたった一体のパートナーは飛び出してくる。
否、そうでなくともロックがかけられていないボールは、中のポケモンが出てこようと思えば出てくることができるはずなのだ。
シノノメはこのボールに収まっているポケモンとは友好的な関係を築いていると自負している。
姉にもらってからもう10年近い付き合いなのだ、実質家族のような間柄だとすら思っている。
シノノメが暗い表情をしている時、何度も励ましてくれた大切なパートナーだ。
にも関わらず、今ボールが微塵も揺れ動く気配が無いのはつまり―――。
「怖いんだよね……分かるよ、私もだから」
怯えている、恐れている、恐怖している。
この現状に、街が襲われているというその事実に。
誰だって怖いに決まっている。きっとソラだって、ソラの仲間だって怖いに決まっている。
野生のポケモンにルールは無い。襲われれば大怪我……或いはそれ以上だってきっとある。
そして
それがポケモンを率いる力、プロでは『統率』と呼ばれる能力。
仲間の心を奮い立たせる力、恐れを払拭し、気概を持たせる力。
それが無いからシノノメは立ち上がれない。
それが無いから今このボールは開かない。
いや、或いはそれも言い訳なのかもしれない。
パートナーが動かないから、動けないから。
「だから仕方ない……」
そんな言い訳をしているだけなのかもしれない。
なんてつまらない思考に嘆息する。
そうして机の上のボールを片付けようと手を伸ばす。
瞬間。
コンコン、とノック音が聞こえた。
入口の扉を叩く音、それにロビーに集まっていた皆が視線を向け。
コンコン、と再びノック音。
小さな手で扉を叩きながら、扉のガラス越しにロビーを覗くのは白い帽子を被った1人の少女だった。
* * *
「あーもう! どんだけいるのよ!」
吹き荒れる風が街に被害を出さないように制御しながら襲いかかるポケモンたちを捌いていく。
勿論私だけが戦っているわけでも無く、後から後から応援としてジムトレーナーたちもやってくるのだが、どうやらここ以外の場所でも騒動が起きているらしくポプラやビートといった主力クラスのトレーナーは街中に散っているらしい。
だがそうだとするなら群れも大きく分散しているはずだ、はずなのだ、にも関わらず先ほどから倒しても倒してもキリが無い。
すでに20近い敵を倒しているはずなのだが全く減った様子が無いのはさすがにおかしいだろと言いたい。
倒した敵が復帰している、という可能性も考えたが『ひんし』となったポケモンを回復させる術など野生のポケモンが早々持っているはずも無いし、『ひんし』となって転がっているポケモンの姿は見ているのでやはり単純に数が多いということなのだろう。
「街自体の被害は……大したことない」
こんな森の中にある街だけあって、こういう事態が予見されていたのか一般の人たちの避難は迅速だった。
街の入口を守っていたトレーナーたちも敵を倒すより時間を稼ぐことに徹して応援の待ち、人数が揃ってから反撃に出ているためこちらの被害もそう多くは無い。
襲いかかってくるポケモンたちも街を破壊するより脅威を消し去ることに集中しているのかトレーナーに向かってばかりなので街の被害も少ない。
ただ本当にキリが無い。敵の数が多すぎてあとどれだけ戦えばいいのか、今どのくらい戦い続けているのか、それすら分からない。
見てはいないが、これ以上応援が来ないということは街の四方がそんな状況なのだろうことは予想に容易く、そしてそれだけの規模の群れが秩序だって襲いかかってくるという異常性が際立った。
「それに群れのヌシポケモンはどこ……?」
これだけの数が出てきているのだ、まさかこれが偵察なんてことも無いだろうし、必ず群れのヌシが出て来ているはずだ。
それを倒すことができればこの群れも一気に統率を失って逃げ出すと思うのだが、問題はその群れのヌシがどこにいるか、だ。
少なくともこの辺りでは見かけていない。何度か挑発するように『おおあらし』を範囲を狭めて発動してみたが、反応する様子は無かったので間違いないと思う。
あの嵐はヌシの領域を削る、近くにいるなら必ず反応するはずだし、もし無視すれば群れの統率にまで影響が出るはずなのでこれは絶対だ。
だが後方で連絡を取り合っているジムトレーナーらしき集団がいるが、そちらが慌てた様子も無い。
いや、正確には状況に慌てているが、どこかの防衛ラインで問題が起きたという様子は無い。恐らく四方の戦況もここと同じように被害は少なく反撃にも出ているが数が多すぎて時間がかかる、という状況。
「早く終わらせてしまわないと……」
元よりジム戦帰りで疲れた体に突発的に始まった襲撃。
トレーナーとしてそれなりに体を動かすこともあるので体力はある方だが、それでも連発するバトルでの消耗を考えるとこのまま長引くと自身が戦力外になってしまう可能性を考える。
呼吸を荒げるほどでは無いが、手足に溜まった疲れはじわじわと思考を侵してくることをソラは知っている。
野生のポケモンとの戦いという咄嗟の状況判断が生死すらも分けかねない今の状況でそれが割と致命的になりかねないという事実も。
だが簡単に引くわけにもいかない。
トレーナーが職業となり、トレーナーが『プロ化』した今の世界において、プロトレーナーとはこういう時に戦う義務がある。
勿論それより先にポケモンレンジャーやポケモンハンターなどの専門の人間たちもいるが、それでもプロトレーナーがポケモン災害から逃げ出すわけにはいかなかった。
それからさらに長い時間を手持ちの4体を駆使しながらそうして戦い続ける。
やはり疲れのせいか途中危ない場面もあったが、他のトレーナーからのフォローもあってどうにか切り抜けていく。
まだ終わらないのか、まだか、そんなことを数えきれないほどに呟いた頃。
「これは……」
突如として敵意が霧散する。
相変わらず生気も感情も欠片も見せない空虚な瞳だったが、けれどこちらに襲いかかるようなことも無く、本当に唐突に立ち止まり―――そうして一歩後ずさる。
全員がタイミングを合わせたかのように一斉に下がり、そうして踵を返し、道中で『ひんし』となったポケモンたちを回収しながら群れが森の中へと消えていく。
「……まだこれだけいたのね」
森へと消えていくその背を見やりながら、ざっと数えただけで100を超えていることに気づき、表情が引きつる。
これが四方で発生していることを考えればその総数は400を超えて、下手をすれば500に届くのかもしれない。
たった1つの群れがそれだけの数に膨れ上がっているなど聞いたことも無い、まさしく前代未聞の存在。
「森の魔女、ね」
おとぎ話、或いは逸話として語られるだけのことはある、ということか。
超越種とはまた別の意味で『伝説のポケモン』と呼べるかもしれない。
そんな存在が率いる群れと今まさに戦っていたのだと考えるとぞっとしない話だ。
ソラとて別に恐怖心が無いわけではないのだから。
トレーナーである以上、野生のポケモンと生死を賭けて戦うこともある、それは分かっていたがそれでも現実にそれを突きつけられると背筋が凍る。
勿論、ワイルドエリアで戦ったバウンティたちとの戦いもまた恐ろしいものがあったのは事実だが。
あれはあくまで『相手の領域に戦いに行った』が故のことであり、『相手側から殺しに来た』なんて状況では無かった。
何よりあのだだっ広い平原が続くワイルドエリアならばソラの『全力』が出せるが故にその恐怖心も誤魔化せたが、この森は違う、この森は魔女の領域だ。魔女の棲家であり、魔女の箱庭であり、魔女の手の内だ。
化け物の胃の中で戦っているようなそんな状況は疲労を加速させることは先日の戦いが証明している。
「そう考えれば相手側から来てくれるのはまだマシなのかしら」
少なくとも、この森のヌシの領域……それも棲家に
* * *
人は見かけによらない、なんて言葉はよく耳にするものだが。
人どころか
擬人種。
ポケモントレーナーならバトルの場である程度見かけたこともあるし、なんだったら手持ちにいることだってあるだろうその存在は、けれどバトルの場から離れると一気にその姿を減らす。
単純に外見的にあまりにも人らし過ぎるその姿に、バトルの場でも無ければそれがポケモンだと気づけない、なんてことだってある。
だから、そうあまりにも迂闊だった。迂闊だったが、けれどそれは仕方のないことだったのかもしれない。
扉をノックした存在、白い人の形をしたそれを見て、それを人間だとバトルをテレビやスタジアムで見たことしかない、自ら体験しない一般の人間たちがそれをそう認識するのは。
けれどそれはあまりにも迂闊で、そして過ちだった。
その代償をシノノメは身をもって知る。
「待って―――」
手を伸ばす。
「可愛い子だね、私と一緒に来る?」
視線の先、白い少女の手の上で、まるで少女に従うかのように、こちらの声にまるで反応しない自身の唯一のパートナーへと。
「待って!」
恐怖に縛られた体が、けれどそれ以上の激情を持って動き始める。
けれどそれはあまりにも遅すぎた。
「じゃあ、いこっか……私たちのお家に」
呟く少女の言葉に反応するかのように、一体のポケモンが歩いてやってくる。
紫とシアン色のパステルカラーの鬣をした馬のようなポケモン。
ガラル地方特有のギャロップ。決して狂暴では無いが、恐ろしいポケモンの登場にセンターの避難していたはずの人々が恐怖に駆られる。
そんな人間たちの都合など知ったこと無いとばかりにギャロップは少女の前で膝を折り、少女はそれが当たり前というかのようにその背に乗る。
「さあ、帰ろう、ね?」
呟き、その背をさっと撫でればギャロップが走りだし、あっという間に森に消えていく。
いつの間にか街中に響いていたはずの喧噪は消え、後にはただ静寂に浸った森だけがそこにあって。
「あ、ああ……ああああああ……」
震える手で……
白魔女さん
【挿絵表示】
いつものメーカーだと同じような子ばっかになるので、YSDメーカーってやつお借りしました。
服のラインナップが秀逸で良いね。
https://picrew.me/ja/image_maker/1387003
【種族】“白魔女”ブリムオン/特異個体/擬人種
【レベル】156
【タイプ】エスパー/フェアリー
【特性】????
【持ち物】????
【技】????
【裏特性】『まじょのちゃかい』
自分と同じタイプの技を出す時、相手のタイプが技と同じならタイプ相性に関係なく『こうかはばつぐん』になる。
????
????
【技能】『????』
『こうかはばつぐん』となるタイプの技で相手を倒した時????
【能力】『マザーグース』
『????』状態のポケモンの中で最も『すばやさ』が高いポケモンと同じ『すばやさ』になるが、対象の『????』を使用できなくなる。
毎ターン開始時に????
【称号】『もりのヌシ』
フィールドが『ルミナスメイズのもり』の時????
因みにタイマンするならユウリちゃんとザシアンいるとフィールド効果ごとぶった切れるのでくっそほど楽になる。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い