「ふふ、うふふふふ、うふふふふふふふ……」
少女が手をかざす。
笑みを浮かべ、手を突き出す。ただそれだけの何気ないそんな光景に。
瞬間、背筋に走る思考をかき乱すノイズのような恐怖が本能を突き動かす。
「吹き荒べ!」
ほとんど無意識によって行われた嵐の生成は常のリミッターなど簡単に振り切って。
うねりをあげる乱気流が暴風の盾となって私とシキ母さんを少女から遮断し。
直後。
“スペルキャスター”*1
“ムーンフォース”
かざされた手に一瞬で集約された月の光が放たれ、そうして軽々と嵐の壁を破壊し爆発した。
私のほとんど全力の防御は、けれど魔女の何気ない一撃で軽々と破られる。
衝撃が私たちを襲う、けれど嵐によって幾分か軽減されたのか体が持っていかれるほどのものでは無い。
問題は。
「……軽減して、これ?」
「…………」
こちらのほとんど全力の防御を突き破られた上にダメージを通されたこと。
はっきり言って今の手持ちでこれを受けることのできるポケモンはかなり限定される。
大半のポケモンは一撃で『ひんし』にされることは想像に難くない……。
そして想定される相手の『ゲット』のトリガーは……。
「落ち着きなさい、ソラ」
最悪を想像し、思わず体が強張る私にぽん、とシキ母さんが肩を叩く。
「確かにすごい火力ね、でもこれはトレーナー戦じゃない。公式戦じゃない。やりようはいくらでもある」
1つずつ数えてみなさい、という耳元の呟きに無意識的に手持ちのポケモンの中で対処方法が1つ、2つ、3つと湧き上がって来る。
それらが頭の中に浮かんで来るたびに少しずつ体の力が抜けていく。
そうだ、やりようはある。これは公式戦ではない。ルールなんて無いのだから、だったら真面目に相手をする必要はない。
力で押してくるならばうまく躱してやれば良い、ただの力と力の比べあいだった昔とは違う。トレーナーは日々進歩している。トレーナーもまた過去から進化しているのだ。
「……大丈夫、まだやれる。まだ行ける。まだできる」
「……もう大丈夫ね、なら後は頑張りなさい」
もう一度、ぽんと肩を叩いてシキが離れていくのを黙って見送る。
本当はシキにも魔女を相手にして欲しい……が魔女の配下の群れを放っておけば囲まれた時点で負けだ。
アレを前にして後ろを気にしながら戦うなんて無理だ、となると数の暴力にさせないためにも群れを止める必要がある。
だから後ろを万全にするためにもシキがあちらに向かうのが正しい。
だから必然的に私はあの魔女を相手にすることになる。
素早く思考を巡らせる。一瞬の隙すら命になる野生でのバトル、だがここは相手のホームグラウンドであり、相手のほうが強力なのだ、無鉄砲に戦ったところであっさりと負けるだけだ……故に。
「まずは手札を探る」
呟き、ボールを投げる。
最初に出すのはここ一番で信頼を置くことのできる相手。
つまり。
「頼んだわよガーくん」
パーティのエースに外ならない。
「うん……任せて、母さん」
ボールから飛び出した黒髪の少年……ガーくんが一瞬こちらを見やり、頷く。
街の防衛の時から戦いっぱなしだが、ここまでで十分休むことはできたようで疲労の色は見えない。
一番の戦力が問題ないことに内心で安堵しながら戦場を見据える。
「場を整えるわよ」
呟き、心の中で撃鉄を落とす。
―――荒れ狂え。
“ぼうふうけん”
突如『おおあらし』が場に吹き荒び、天候が荒れ狂う。
森中に張り巡らされた力が、魔女が丹念に込めたのであろうこの地に染みた力が嵐によって凄まじい勢いで削られていく。
先日のような先の見えない撤退戦ではなく、今度はこちらが攻める側、故に出し惜しみはしない。
自身の限界まで振り絞って嵐の勢いを増す。
「……邪魔ね、アナタ、とても、とても、とても」
自らの領域が削られていくのを感知した魔女がこちらを見つめ、忌々しそうに呟くがその表情は変わらない。
代わりにとばかりにその手を突き出して―――。
“スペルキャスター”
“ムーンフォース”
「ガーくん、一手守って」
「分かった」
“まもる”
再び放たれる月の光がガーくんを襲うが直前に貼ったバリアが技を完全に遮断する。
それを見て『まもる』が通じることを確認し、すぐ様次を指示する。
「行って、ガーくん!」
「吹っ飛べ……っ!」
“ストームライダー”*2
“カラスのわるぢえ”*3
“よろいのつばさ”*4
ふわりと飛び上がり、吹き荒ぶ風の勢いのままに魔女へと急接近したガーくんがばさり、とマントのように服を翻しながらラリアットのように鈍色のエネルギーを纏った腕を叩きつける。
「ぐ……痛い、痛い、わ。痛い、痛い、痛い」
『こうかはばつぐん』な手応えにやはり街でポプラから聞いた情報通りの種族かと納得する。
ブリムオン、というホウエンには生息しないポケモン。
タイプは『エスパー』と『フェアリー』で間違い無いだろう。擬人種というのもあるし、推定色違いの特異個体だろうが変異種ではない。
『はがね』技が抜群なので『フェアリー』、そしてトレーナーのポケモンすら『ゲット』してしまうのは種族由来のサイコパワーの応用による洗脳の類と考えれば『エスパー』なのも間違いない。
つまりタイプや能力自体は通常の種族と恐らくそう代わり無いはず……。
「お返し、お返し、仕返し、返すわ」
魔女の手に再び光が集まり。
“スペルキャスター”
“ムーンフォース”
三度目の光がガーくんを襲う、だが。
“あらしのよろい”*5
全身に纏った嵐の鎧が光のダメージを大きく削いでしまい、ガーくんはたいした痛手も無さそうに攻撃を受けきる。
感覚的に体力の2、3割程度のダメージくらいか。トレーナー戦では無い以上、技の数に制限は無い、となると『はねやすめ』等を絡めていけば十分に受けきることは可能だろう。
「あら? あらあら? あらあらあら? 硬いわね、硬い、硬い、硬い……なら、ならなら、なら」
自身の攻撃に自信があったのか、ガーくんに受けきられたことに驚く魔女。
だが直後にふっと笑みを浮かべて。
「起きて、起きる、起きなさい、起きて、起きて起きて起きて起きて」
とん、と魔女が足元を……
途端に。
―――ざわり、妙な感覚が全身を襲う。
同時にぶわり、と森が……『ルミナスメイズの森』が輝き始める。
木々が、茸が、草が、大地が、森の全てが淡い光を弾けさせ、その全てが光の粒となって浮き上がる。
まるで光でできた胞子のようにふわり、ふわりと。まるで夜の蛍火のように、ひらひらと。
「今度、今度、今度はもう少し、少しだけ、痛い、痛い痛い、痛いわ」
“スペルキャスター”
“ワイドフォース”
“ルミナスメイズのもり”*6
サイコフィールドを伝いガーくんの足元からサイコパワーが噴き出す。
まるでパワースポットから噴き出すエネルギーかのような、薄紫色の超巨大なパワーがガーくんの耐久を一撃で吹き飛ばしていく。
“あらしのよろい”
「がっ……あ! ぐぅっ!」
「なっ……!?」
身に纏う嵐の鎧すら軽々と貫いて、たったの一撃でガーくんの限界を超えたダメージにガーくんが思わず膝をつく。
私のパーティで一番耐久力があるはずのガーくんがたったの一撃で『ひんし』寸前まで追い込まれた光景に絶句してしまう。
先ほどのダメージがあったから、という見方もできなくはない。だが一つ確かなのは今確かに『ひんし』になるダメージをガーくんがただの気合だけで堪えたという事実だ。
先ほどのダメージがだいたい2~3割程度のダメージと見ていた。そこから一撃で残りの体力を消し飛ばすほどの一撃となると普段はあまり使うことの無い『はねやすめ』ではどうやっても受けきることはできない。
そして特殊耐久という面でガーくん以上の面子はうちのパーティにいない。
そのガーくんが完全に受けきれないとなると他の面々では出しても一撃でやられることになる。
「冗談じゃないわよ……っ」
確かに私の目的はあの魔女を倒すことではない、が少なくとも洗脳を解除させるためには自身の生存に全力を注がせるくらいには追い詰める必要がある。
だが今の技は恐らく『ワイドフォース』だ。単発で使い切りの必殺技とかそういうものではない。
この森を味方につけて撃っているだけの
それが必殺級の威力を持っているとなると、ここからどうやって追い詰めれば良いのか。
「フーちゃんなら……いやでも」
例えばフーちゃん……ファイヤーならば『あく』タイプなので『ワイドフォース』を無効化できる。
けれど先ほどのように『ムーンフォース』を撃たれれば弱点攻撃となり一撃で倒されるだろう。
それを読んで交代? だがそれを察知できないような相手ではないだろう。
ガーくんを一度ボールに戻したい、だが少しでも動きを見せればもう一度攻撃してくる気配がある。
その時なんの技を撃って来るのか、そしてそれを誰に受けさせるのか。
手札をどう切るか、どうやってあの相手を追い詰めるのか。
ひたすらに思考を回し続ける私をあざ笑うかのように、魔女が笑みを浮かべて―――。
「おいで、おいで、おいで、おいでおいで、おいで……私、私、私の仲間たち」
その呟きと共に、森の暗闇を切り裂いて、ポケモンが飛び出してくる。
1匹はガラル種のギャロップ。
そしてもう1匹がティーポッドのような姿をしたポケモン……ポットデス。
「この状況でまだ増えるの!?」
不味い、と内心で毒づいた直後。
「うふ、うふふ、うふふふふふ、少し、少しね、落ち着くの、一杯、いっぱい、たくさん、ちょうだい、ちょうだい、ね?」
“まじょのちゃかい”*9
“いのちのしずく”
こぽり、とポットデスが自らの体を傾ければ中から液体が滴り落ちる。
それを両の手でお椀を作った魔女が受け取り、飲み込む。
直後、魔女の体の傷が少しずつ癒されていく。
ガーくんが与えたはずのダメージがすっかり癒されていく。
その光景を見やりながら、呆然とする。
「…………」
言葉が出ない。
最早絶句する他ないではないか。
誰も受けることすらできない火力で押しつぶし、これだけの数の群れを連れ、さらに群れを使って回復すらしてくる。
ちらり、と視線を向ければ膝を突いて荒く息を吐く『ひんし』寸前の
どうやって勝てば良いのだろう?
そんなことを咄嗟に考えてしまうくらいにはどうしようも無い状況だった。
それを自覚すると同時に足元から少しずつ絶望感が沸き上がって来る。
全身から血の気が引いていくのが自分でも分かってしまう。
どうする?
それを考える。
だが答えは出ない。
どうすれば良い?
考える、考える、考える。
だが答えは出ない。
どうする、どうすれば良い? 逃げるしか……シノノメのポケモンは? でもだからって何ができる? 逃がしてもらえるのか? シキ母さんと協力できれば……見捨てるの? このままだと自分の手持ちすら奪われるかもしれない……嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ぐるぐると思考が空回り続けて動けない私を見つめ魔女がにこりと哂って。
「うふ、うふふ、うふふ……ねえ、ねえねえ、ねえ。アナタ、アナタアナタアナタ、邪魔よ、邪魔、邪魔ね、邪魔だわ、だからだからだから」
ゆっくりと、魔女が手をかざす。
同時に両脇からギャロップが、ポットデスが、こちらを逃がさないとばかりににじり寄って来る。
その手の中心に光が徐々に集まっていき。
そして。
「死んで?」
―――言葉と共に光が放たれた。
うおぉぉぉ~! 数年温め続けた三大災禍の最大の秘密(ギミック)をようやく出せるぞー!
【種族】“白魔女”ブリムオン/特異個体/擬人種
【レベル】156(100+56)
【タイプ】エスパー/フェアリー
【特性】スペルキャスター(特殊攻撃技を使用する時、自分の『とくこう』を2倍にしてダメージ計算する。自分の技の数が2倍になる。)
【持ち物】たつじんのおび(森で落とし物を拾った)
【技】ワイドフォース/ムーンフォース/マジカルフレイム/シャドーボール/めいそう/もりののろい/まほうのこな/ハロウィン)
【裏特性】『まじょのちゃかい』
自分と同じタイプの技を出す時、相手のタイプが技と同じならタイプ相性に関係なく『こうかはばつぐん』になる。
場に『つかいま』状態の『ヤバチャ』か『ポットデス』が1体以上いる時、毎ターン終了時に『いのちのしずく』を出す。
場に『つかいま』状態のポケモンが3体以上いる時、????
【技能】『テイミング』
????した時、????した相手を『つかいま』状態にする。この効果は1ターンに1度だけ発動できる。
状態変化:つかいま
┗対象のポケモンは捕獲済状態となり『“白魔女”ブリムオン』に所有される。この状態のポケモン10体につき、『“白魔女”ブリムオン』のレベルを+1する。またこの効果は対象がトレーナーのポケモンでも発動する。
【能力】『マザーグース』
『つかいま』状態のポケモンの????
毎ターン開始時、味方の場に捕獲した『つかいま』状態のポケモンを2体まで出せる。場に出せるポケモンの数に上限はない。場に出したポケモンが『ひんし』になった時、『つかいま』状態が解除される。場に3体以上の『つかいま』状態のポケモンがいる時、相手の攻撃の対象にならない。
【称号】『もりのヌシ』
フィールドが『ルミナスメイズのもり』の時、自分のHPが2倍になり、相手から受けるダメージが半減する。
【備考】色違い6V固体。
『ルミナスメイズのもり』の最奥に百年以上のもの間隠れ潜むポケモン。
フィールド効果:ルミナスメイズのもり
『くさ』『エスパー』『ゴースト』『フェアリー』タイプの技の威力が1.2倍になり、それ以外のタイプの『とくぼう』を半減する。
フィールド効果『サイコフィールド』で発動する技の効果が発動する。
『もりのヌシ』は状態異常にならなくなる。
ぶっちゃけフィールド効果さえなければかなり強いポケモンくらいで済む。
ガーくんも受けれてたしね。
フィールド効果がモリモリなのは魔女さんが100年近く丹念に領域を形成してるからですね。
10年くらいだと最初の1,2倍上昇くらいで終わる。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い