ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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クロガネのつばさ②

 

 取り急ぎ必要なものが二つある。

 

 育成するポケモンと育成する場所だ。

 

 前者に関してはガラルの持ち込み規制でアオ以外全員使えないし。

 後者に関しては早急に確保できなければプロリーグどころではなくなってしまう。

 

 凄まじく当たり前のことだが、ポケモンを育てることは簡単なことではない。

 

 ただ旅しながらトレーナーや野生のポケモンとバトルを繰り返すだけで強くなれるのならば誰でもプロトレーナーになれる。

 実際にはプロトレーナーとはその地方におけるトップトレーナーの集団であり、強くなるための『あらゆる手段』を模索し続けるが故に強者であるという存在だ。

 

 バトルをすることで経験を積んで『レベル』を上げることはできる。

 

 だがそれだけなのだ。

 それ以外が何も得られない。

 よっぽど才能があればバトルをしながら『裏特性』の一つくらいは手に入るかもしれないが、リーグトレーナーなら誰だって裏特性は三つくらいは仕込んである。

 

 レベルを上げることは強くなるために必須事項ではあるが、レベルだけ上げても強くはなれない。

 

 裏特性とは技術だ。

 

 技術とは鍛錬の中で身に着けるものであり、実戦で初めて花開く。

 鍛錬も無く実戦で開花するような技術は才能に寄り過ぎていて、確実にポケモンの体を酷使するし、ポケモンだって体を酷使し過ぎれば『壊れる』こともある。

 

 何にだって才能は必要だが、才能だけではダメなのだ。

 

 こと育成において最も重要なのは『理論』であり、理論を通すための『環境』なのだ。

 

 分かりやすく言えばコイキングが陸上でできる訓練など跳ねることだけだが、水の中なら泳ぎ方から攻撃の仕方までなんだって訓練できる。

 これはかなり極端な例ではあるが、技術とは前提として『それを熟すのに必要な能力』があって、『それを熟すための練習』を重ねてようやく身に付く類のものだ。

 

 だからこそ『それを熟すための環境』が必要になる。

 

 昔から『育て屋』の敷地が非常に広いのは別に伊達でもなんでもなく、『種族』に関係無くポケモンを受け入れ、育てようとするならばあれだけの土地が必要になるのだ。

 

 先の例のように『みず』タイプのポケモンを育てるならば水辺が一番最適であるが、水辺で『ほのお』タイプが育てられるか、という問題。

 同様に『じめん』タイプならば砂地などがあることが望ましいが、止り木も何も無い砂地で『ひこう』タイプが過ごせるか。

 

 そんな風にまず『タイプ』ごとに『過ごす環境』が異なるのに、ここにさらに『訓練する』ための環境も必要になる。

 この辺り『かくとう』タイプが使いやすいと言われる由縁ではあるが、あれはあれで厄介な問題がある。

 

 簡単に言えば『かくとう』タイプは使いやすくはあっても使いこなすのは難しいのだ。

 何故なら『かくとう』タイプに技術を仕込もうとするならばトレーナー本人にある程度以上の『格闘技』に対する技量が求められる。

 なまじ人に近い姿を持っているが故に、そこに仕込む技術はポケモン由来のものよりも人に由来するもののほうが適してしまう。

 だからこそ『かくとう』タイプを使うトレーナーというのは、本人も格闘技に精通している場合が多い。

 

 この辺はまさに良し悪し、と言ったところか。

 

 実際のところ、どのタイプにしたって簡単ではない。

 

 ただ強いて言うなら大地があるならばどこでも適する『くさ』、川や海など比較的環境が用意しやすい『みず』、水辺でなければ後は引火にだけ気を付ければ良い『ほのお』のいわゆる御三家と呼ばれるタイプが比較的容易である。だからこそ初心者用に渡されるわけだが。

 

 まあそれはさておき。

 

 私の専門とする『ひこう』タイプは場所は余り周囲の環境自体は選ばないのだが、相応の広さと高さが必要になる。ホウエンになら専用の施設があったのだが、さすがに育成だけホウエンでやる、というのは無理な話だ。

 

 となればこちらでどこか育成のための拠点が必要になるわけだが。

 

「そういう意味では父さんは反則よね」

 

 うちの実家は割と広い。

 ミシロタウンという田舎町だからこそ、土地が余っているのかかなり大きな旅館風の建物に広大な庭。それにプールまである。

 でもそれは育成施設とか一切関係なく、じゃあ昔トレーナーだったという父さんは一体どこで育成をしていたのか、と問えば。

 

 ―――え、その辺の空き地とか。派手にやるならまあ森とか?

 

 環境の無さをポケモン自身の才能で全部埋めるようなやり方でそれでもホウエン地方の頂点に立ったのだからこうして育成場所に悩む身からすれば反則だとしか言いようがない。

 

「そう言えば、ユウリってどこで育成とかやってるの?」

「私? 私はお姉ちゃんのジムを時々借りてるかな」

「お姉ちゃん?」

 

 はて、幼馴染としてユウリのことは昔から知っているが、姉がいたなんて聞いたことも無いのだが。

 

「あー、正確には従姉でね。今はノーマルタイプジムのジムリーダーやってるんだ」

 

 なんて言いながらユウリがテレビをリモコンを操作してチャンネルを次々と変えて行き。

 

「あ、あった……ほら、この人だよ」

「あら? 見たことあるわね」

 

 とある旅番組でチャンネルを止めると、そこに映っている一人の少女を指してそう告げる。

 そう言われて見てみれば、私でも見たことがあるくらいの有名人がそこに映っていた。

 

「この人アイドルじゃなかった?」

「三、四年くらい前にトレーナーになったんだよ」

「へー」

 

 他地方でもあるホウエンのテレビでも見た覚えのあるアイドル……確か『リリィ』とかいう名前だったはず。

 正直芸能人とかそういう関係にほとんど興味の無い私でも知っている、という時点で相当な有名人であることは間違いない。

 そんな人物がユウリの従姉だったという事実を初めて知った……初めて?

 

「ん? でもなんか聞いたことあるような」

「ソラちゃんに言ったことあったっけ?」

「確か六年くらい前に親戚がテレビ関係の仕事に就いてるって聞いたような」

「ソラちゃん、そんな昔のことよく覚えてるね」

「……別に」

 

 親友との思い出を大切にしているだけで、別にそれ以上ではないのだ。

 なんて、言ったらユウリがまたはしゃぐから言わないけれども。

 

「まあそれはさておいて、ジムを借りる、というのはちょっと私には無理そうね」

 

 私が使うとしたら『ひこう』タイプジムになるのだろうが、さすがにそんなところに伝手も無い。

 それに土地を買ったり、施設を作るならば資金も必要になる。

 ホウエンのほうは父さんに資金を援助してもらって作ったのだが、さすがに二度目は申し訳が無い。

 いや、正確には最初のほうの施設だってプロトレーナーとして稼いで返すつもりではあったし、一年目である程度目途は立っていたのだが、ガラルに来てしまった以上それも全部パァだ。

 

 父さんのことだからちゃんと頼めばもう一度貸してはくれると思うが。

 

「今年はあの子たちがトレーナーになるし、私ばっかり借りるのも悪いわね……それは最終手段にしておきましょうか」

 

 すでに自立している私と違って、今年トレーナーになる妹たちは父さん以外に頼れる相手がいない。

 父さんの貸せる資金だって無限ではない以上、私が借りるのは妹たちの借りる額まで削ってしまいかねない。

 だとするならばすでに独り立ちしている私のほうが遠慮するべきだろう。

 

 それでももうそれ以外にどうしようも無くなったら、頭を下げて頼むしかないだろうが……できればそれは避けたい。

 

「さて、どうしたものかしらね」

 

 呟き、嘆息一つ。

 

 考えることは山積みだった。

 

 

 * * *

 

 

 レベル、という概念について実をいうと過去と現在で大分意味合いが違っている。

 

 正確にはレベル、という概念が『絶対数』で表せることができるようになったのがここ最近の話であり、逆に言えばそれ以前でレベルとは『相対数』で表されていた。

 

 例えばココガラという種族の『平均的』な能力の『上限値』を『レベル100』とする。

 当然ながら個体ごとに才能というものがあって、平均値より高い能力の個体もいれば低い能力の個体もいるわけだ。

 だから限界まで育てても才能ごとにレベルが80~120くらいまでばらけることがあり、正直言って『目安』以上のものにはなっていなかった。

 

 だが近年になって『ポケモンが戦闘などで経験を積んだ時に一瞬にして能力値が一定数上昇する』ということに気づいた研究者がいた。

 これを突き詰めていった結果、ポケモンが『経験』を一定以上得た時に、それを糧として能力を上昇させる、という性質があることが発見される。

 

 この能力の上昇をゲームなどで『レベルが上がった』時に酷似していることから、この能力の上昇回数を『レベル』と定義し、そのポケモンが何度能力が上昇しているかを計測できるシステムが発明された。

 

 現在におけるレベルとはポケモンの才能などに関係無く『何度能力上昇が起こったか』を示す数値であり、このレベルを計測する機械を作成するにあたって『種族や個体の才能ごとに能力の上昇値が変わる』ことや『実はポケモンはレベル1の時の能力値というのは変わらない』という事実が発覚する。

 

 正直言って、これらの発見はそれまでのトレーナーたちの育成論に革命を巻き起こした。

 

 さらに父さんがかつて発表した『基礎ポイント』についての考察と共に、ポケモンの育成理論が一新されたと言っても過言では無かった。

 

 現在のリーグトレーナーたちのレベルはかつてのトレーナーたちよりも一回り高くなっていると言っても良い。

 とは言え、それは底上げがされたというだけであり頂点もまたより洗練された強さを獲得しているらしいので、相対的には何も変わってない……いや、寧ろ強さに理論ができただけにチャンピオンのほうが強くなってるんじゃないか、という噂ではあるが。

 

 まあつまり、今現在におけるレベルとはポケモン図鑑でも分かりやすい強さの目安の一つであり、ポケモンの能力値に関係する重要な要素でもあるということだ。

 

 正確にはポケモン図鑑自体が計測できるのはレベルだけであり、ボールに収め捕獲することで能力値などのより正確なデータを計測できる。現代のモンスターボールに設計段階でそういう機能が付与されているのだ。

 

 故に野生のポケモンに出会った時にトレーナーに分かるのは相手のレベルだけだ。

 

 ポケモンの才能や持っている技、特性などは実際に捕まえてみないと分からないことが多い。

 

 まあ、何が言いたいかと言うと。

 

「凄いわね、アンタ」

ぴぎゅあ(なにがー)?」

 

 頭の上で安眠されるほどに懐かれておいてなんだが、実はまだココガラをボールに入れてない……つまり捕獲してない状態だったので、分類的には野生のポケモンのままだったのだが、アーマーガアのことがあったので取り合えず捕獲だけはしておこうとボールに入れたのだが。

 

 

【名前】―――

【種族】“■■■■■”ココガラ/原種/特異個体

【レベル】1

【タイプ】ひこう/はがね

【おや】ソラ

【特性】はとむね

【持ち物】―――

【技】つつく/にらみつける/■■■■■

 

【備考】『専用個体』

 

 

 技の部分の黒くなっているのは『表記エラー』だ。

 そのポケモンが使える技に関してはボールに登録されているデータの中にあるものを参照して表示している。

 そのデータはポケモン図鑑等で過去に蓄積された記録などから作成されている。

 分かりやすく言えば、新しく作った技や特定のポケモンの専用技などデータに記録されていない技をボールが検知するとこうしてエラーが出るのだ。

 

 いや、それ以前の話。

 

「進化前……それも生まれたばかりで【専用個体】とか初めて見たわ」

 

 ポケモンの育成という点において『専用個体』とはその究極形と言える。

 最も有名なのがカントー地方の元チャンピオン、レッドのエースである“レッドの”ピカチュウだろう。

 元来強い種族ではないはずのピカチュウがトレーナーであるレッドと共に幾多もの激戦を潜り抜け、勝ち続けてきた結果、レッドというトレーナーに『最適化』した存在となった。

 レッドのトレーナーとしてのスタイルに最も適応し、文字通りレッドのためだけの『専用』のポケモンとなった。

 

 けれどそれは長年レッドと共に戦い続けてきた結果、そうなっただけの話であって、生まれたばかりのココガラが私のためだけに専用のポケモンとなっている、というのは何ともおかしな話だ。

 

「私の力で孵ったせい? さすがにちょっと責任感じるわね」

 

 いや、元からそういう風に育つんじゃないか、という予感はあったのだ。

 何せ言葉が通じていないのに意思疎通ができるほどに『私と近しい』のだ。

 上手く育てれば専用個体に育つのではないか、という思いがあったのは否定しない。

 だがそう思っていた時にはすでに専用個体だった、なんていうのはさすがに予想外だ。

 もうこの子は私のためだけのポケモンとなった、そうなってしまった。

 

 ならば。

 

「名前つけてあげないとね」

 

 ユウリはポケモンにニックネームをつけない派閥の人間らしいが、私は名前をつけるほうだ。

 多分父さんの影響だろう……あの人はポケモンと人を区別しない。

 人が生まれたならばその子供に名前をつけるように、ポケモンを仲間にしたらならば必ず名前をつける、そういう人なのだ。

 

「何が良いかしらね」

 

 ココガラ、アオガラス、アーマーガアと進化するらしい。

 

「ココ『ガ』ラ、アオ『ガ』ラス、アーマー『ガ』アで全部ガが入ってるし……」

 

 よし、決めた。

 

「お前、今日からガーくんね」

ぴぎゅぅうあ(たんじゅん)!」

「うるさいわよ」

 

 こういうのはシンプルイズベストなのだ。

 

「ほら、レベリングするわよ、ガーくん」

ぴぎゃ(はーい)

 

 勢いだけは良い返事にくすり、と笑みを漏らした。

 

 

 




今日は多分、あと一話くらいだけ投稿する。
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