心が温かくなる。
先ほどまでの不安や、苦悩や、恐怖が……まるで氷のように固くなった心が、溶かされていくように解けていく。
「……そうか。私……好きだったんだ」
自分で呟いた言葉に、今更のように納得する。
心がそれを受け入れる。
―――ソラはポケモンが好き?
先ほどまで答えることのできなかったかつての問いに、けれど今なら答えることができる。
「好きよ、ずっとずっと……昔から」
家族として……いることが当たり前になるくらいに。
仲間として……共にあることを疑わないくらいに。
戦友として……力を合わせることを躊躇わないくらいに。
「ガーくん」
「……なに、かな。母さん……今ちょっと、きついん、だけど」
「
その言葉と共に掲げたボールから飛び出した赤い光がガーくんへと伸びる。
ガーくんは今度こそ抵抗しなかったが、或いはすでにできるほどの力が残っていないのか。
とっくの昔に限界のはずの体でよくここまでと思うと同時に、自身の情けなさがそこまでさせてしまったことを理解し、後悔する。
「……調子にのんじゃないわよ」
視線を上げる、そこには相変わらずこちらを見つめ、ようやく視界から消えたガーくんに笑みを浮かべる魔女の姿があって。
きっ、と見つめ思わず拳に力が入る。
戦況は何も変わっていない。相も変わらず状況は絶望的なまま……否。
そっと胸に手を当てる。
とくん、と心臓が鼓動を刻むの感じる。
同時にそこに確かにある温かなものを握りしめるようにきゅっと手に力を込める。
「今なら……多分、できるわ」
呟き、ホルスターに手を伸ばして
それは技能とは異なる、異能とも異なる、ただ純然たるトレーナーとしての技術の一つ。
両手にボールを持ち、一度だけ深呼吸して……その片方を投げる。
「ウーちゃん! “なみのり”!」
投げたボールから飛び出した
波が魔女たちを飲みこまんと流れ出し、私は一瞬遅れて次のボールを投げる。
「チーちゃん! “ハイパーボイス”!」
大波が敵を飲みこむと同時にもう一つのボールから
“ハミングスカイ”*3
“ハイパーボイス”
「―――ッ!!!」
チーちゃんの発する強烈な音の圧が大波でダメージを受けていた魔女の取り巻きたちへと追撃、撃破する。
だが反撃とばかりに魔女がその手に光を集め始める。
“なみにのまれる”*4
光が放たれるより先にウーちゃんがボールへと戻って来る。
即座、入れ替わりに次のボールを投げる。
“フェイクアバター”*5
飛び出した
その爆発に紛れて手持ちに戻って来たリーちゃんとさらに入れ替えるように次のボールを投げる。
「ダーくん!」
“らいとううんぽん”*6
“じゅうおうむじん”*7
“とうほんせいそう”*8
“きょうらんどとう”*9
“ダブルウィング”
ボールから飛び出した瞬間、目の前から消えたかと錯覚するほどの超高速で駆け抜けたダーくんが一瞬のすれ違いざまに魔女へと両の翼を使った連撃を叩き込む。
その凄まじい威力にさしもの魔女も一瞬体が折れ曲がりそうになる、がそれでも倒れない。
だが別に構わない。
“さかさかぜ”*10
『おいかぜ』の解除と共に強烈な吹き戻しが発生し、場にいた2体のポケモンたちがボールの中に戻るとそれを待っていたとさらに次のボールを投げる。
“しっぷうじんらい”*11
“ジェネレーター”*12
未行動だったチーちゃんとの交代によって特性が発動した
“じりょくどうせん”*13
“かみなり”
放たれた雷撃は魔女を激しく打ち据える。
そうしてついに魔女の膝が崩れる。だがこのまま追撃はさせまいと魔女の取り巻きが森から参戦しようとするのを『おおあらし』を強めることで阻止する。
だがその隙に魔女が先程より焦ったような表情で手をかざして―――。
“しっぷうじんらい”
特性の効果によってスーちゃんが手元に戻って来る。
それを入れ替わるようにさらに次のボールを投げる。
“スペルキャスター”
“ワイドフォース”
放たれた強烈な一撃が飛び出したポケモンへと命中する、だが『あく』タイプを持つ
さらに攻撃が不発に終わった直後のタイミングを見計らい次のボールを投げる。
「ラーちゃん……『ストーンエッジ』!」
飛び出した
同時に地面から飛び出した岩の刃が
まさかの味方への攻撃に魔女が一瞬驚き、手を止める。
同時、フーちゃんからはらり、と千切れたタスキが零れ落ち。
“ぎゃくじょう”
“オーラバーン”*14
“じゃえんのつばさ”*15
“もえあがるいかり”
放たれた黒い炎が魔女とその取り巻き全てを飲みこむ黒炎の海となって燃やし尽くしていく。
駆け付けた取り巻きたちがその火力の前に一瞬で『ひんし』となり、魔女もまたダメージが回復しない内のさらなる追撃に体をふらつかせる。
そして私の手元にフーちゃんが戻って来ると、最後のボールを手に取る。
「頼むわよ、ムーくん」
真上に投げたボールから飛び出したのは5メートルを超す白銀色の巨体。
魔女へと狙いを定めた
“ばくげきき”*16
“ばくげき”*17
羽ばたきと共に舞い落ちたいくつもの羽が同時に大爆発を起こした。
* * *
荒く息を吐き出す。
時間にしてほんの5分にも満たないほどの攻防。
だがポケモン2体を同時に繰るというのは信じられないほどに自身を疲弊させた。
どんな技を撃てば良いのか。
味方の技に巻き込まれないように出すタイミング。
次に何をすれば良いのか。
相手は何をしてくるのか。
そのために誰が何ができるのか。
どの順番で繋げていくか。
ほんの短い間の攻防の中で考えることは普段のシングルバトルの十倍近い。
公式バトルではできない文字通り野生ならではの
さらに自らの能力を駆使しながらの戦いは恐ろしいほどに身を削る結果となった。
はっきり言って先ほどまでなら絶対にできなかった。
だが今ならできる……その理由が。
「絆、かあ……」
私の父さんはそういうタイプのトレーナーだったらしい。
人とポケモンとの……否、戦友との絆を何よりも大事にするトレーナー。
絆とはつまり互いを思いやる気持ちであり、同時にそれは相互理解でもある。
私が何をしたいのか。
彼らがどうしたいのか。
それらが絆を通して互いに伝わって来る。
別にそれは異能だとかそういう不可思議なものじゃなくて。
お互いを思いやったが故に
だがそのなんとなく、がとても大事なのだ。
私が何をしたいのか、彼らに
それだけでどこに、だとかどれだけ、だとか具体的な指示が省ける。
彼らがどうしたいのか、私に
それだけでどのように伝えるか、どのように動かすか、そんな思考の手間が省ける。
それはほんの少しの差だ。
場に出した手持ちのポケモンを一瞬見やり、視線を配る……その程度の間。
けれどほんの一瞬の差で決着がつくことも多いポケモンバトルにおいて、その一瞬の差がどれだけ大きいか。
そして何よりこれまで一匹ずつ気を配りながら動かさなければならなかったものが、ある程度他所の気を配れるようになった。
つまりバトル中に一匹ごとに注ぐリソースが減った。だからこそもう一匹を出し、動かす余裕ができた。
『統率』タイプのトレーナーのような能力値の底上げ、さらに能力変化の引継ぎができることも大きいが、何より大きかったのはそこだった。
信じて、用いること。
信じて、任せること。
信じて、頼ること。
一方通行な思いが双方に通じたことでようやく自分が本心からポケモンを信じ切れていなかったことに気づく。
ポケモンにだって意思はある。そして育成を通して私のやり方を知っているのだから……任せても良いのだ。頼っても良いのだ。
そんなことにすら、私は今更のように気づいた。
それを気づかせてくれたのは、何よりも私を慕ってくれていた自分のエースだった。
「ありがとう……ガーくん」
ぴくりとも動かないボール。骨身の芯までダメージを受けてしまっていることは想像に難くない。
そこまでしてくれたことも、そこまでさせてしまったことも、どちらも自分のためだと理解しているから、だから謝罪ではなく感謝を零す。
きっとガーくんにとってそのほうが良いのだろうと
ボールに戻した手持ちたちをホルスターに仕舞いながら、視線を上げる。
そこに膝を突いて完全に崩れ落ちる魔女の姿があって。
「なぜ? なぜなぜ? なぜ?」
自らの敗北を信じられないといって様子で目を見開き、ぶつぶつと呟く魔女へと近づき。
「返しなさい」
魔女の肩に止まるその小さなポケモン……エモンガを見やる。
シノノメが子供の頃にユウゼンにもらったのだというポケモン。
臆病な性格だったはずなのにシノノメを守るために咄嗟にボールから飛び出し、そのまま魔女へと連れ去られていったシノノメの大切なパートナー。
「その子を待っている人がいるのよ……だから、返しなさい」
魔女の目の前に立ち、ボールを片手に告げる。
今ここでこの魔女を倒すことはできる……だがこの状況になって何となく分かってしまった。
ポプラがこの魔女に何十年と付き合い続けた理由。
災厄と呼ばれながらもこの魔女が今まで誰にも倒されなかった理由。
それが分かってしまったから、私はこの魔女を倒さない。
ガーくんを嬲られた怒りは当然ある。
だがその怒りのままに鬱憤晴らしのようにこの魔女を倒すことはガーくんも望まないだろうから。
だから許す……とは言わない。言わないが、これ以上感情に振り回されるような格好悪いところは見せたくない。
だから要求はたった一つ。
「その子を、返しなさい」
反論すれば問答無用で
そして有無を言わさないままに倒す。そのくらいの脅しを込めて魔女へと迫れば。
「…………」
苦々しく表情を歪ませながら、魔女が頷いた。
相手の攻撃を『回避』するか『みがわり』状態が解除された時、味方と交代できる。
ようやく連携ギミック用の技能出せた。
これからは『きずなのつばさ』が前提になるので、ソラちゃんの手持ちのデータがかなり変わりそう。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い