ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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クロガネのつばさ④

 

 

「『しあわせタマゴ』でも持ってくれば良かったわね」

 

 『うららか草原』から西へ移動し『こぼれび林』に移動し、周囲に潜んでいる『ナゾノクサ』や『タネボー』に『ハスボー』『スボミー』など比較的『ひこう』タイプが優位に立ち回れる相手を選んで通り魔めいたバトルを仕掛け順調にレベルを上げていく。

 

 図鑑で確認すれば現在『レベル12』。

 

 まだ二、三時間程度しか経過してないことを考えれば上出来だろう。

 

「お腹空いてきたわね」

 

 時計を見やれば現在午後一時過ぎ。

 レベリングに集中していて気付かなかったが、もうお昼の時間だ。

 そう言えばお昼のことを考えてなかったな、と思い出し『集いの空き地』まで戻ろうかなんてことも考えてみたが折角レベリングが良いところなのに水を差されるのもなんだかなあ、とも思ってしまうわけで。

 

「そう言えばさっき『きのみ』が生ってたわよね」

 

 記憶を頼りに少し歩き、やがてたくさんの『きのみ』が生る木を見つける。

 別々の『きのみ』が同じ木にたくさん茂っているのも不思議な話ではあるが、まあ今は都合の良い話。

 

「よいしょ、っと」

 

 どん、と木の幹を蹴り飛ばせばぐわん、と木が大きく揺れてぼたぼたと『きのみ』が落ちてくる。

 何種類か『きのみ』があるが、人間でも大半は可食は可能だ。ただ生で食べられる『きのみ』となると数はぐっと少なくなる。

 いや別に不衛生だとかそういう問題ではなく、単純に『味がきつい』のだ。酷く辛かったり、酷く酸っぱい、酷く苦い、など料理の味付け、隠し味に使う分には美味しくとも生食するにはきつい、というものはそれなりの数存在するし、後はやたらと『殻が硬い』ものもあったりして採れたてが食べられる『きのみ』は実はそんなに多くない。

 

 味が良く、生食できる『きのみ』と言えば『オレンのみ』と『オボンのみ』だろう。

 あとデザートとしてよく食べられているのが甘味の強い『モモンのみ』だ。

 落ちてきた『きのみ』の中から適当に拾い、服で軽く拭いてから口に放り込む。

 噛み締めた瞬間に口の中で果肉が弾け、ぷちぷちとした食感と広がる甘味と酸味のバランスが爽快だった。

 

「ほら、アンタも食べなさいよ」

「ぴぎゃ!」

 

 クチバシを大きく開くガーくんにひょい、と『オレンのみ』を放り込んでやれば、もぐもぐと美味しそうに食べて嬉しそうに鳴く。

 

「結構量もあるし、これで小腹は満たせそうね」

 

 二つ目の『オレンのみ』をひょい、と口に運びながらそんなことを考えていると。

 

「ちゃーん!」

 

 ひょっこり、と木の上から小動物のようなポケモンがとことこと降りてくる。

 ポケモン図鑑をかざすと『ホシガリス』というポケモンらしい。

 

「なに? 欲しいの?」

「ちゃーん!」

 

 片手に『きのみ』を持ってゆらゆらと揺らすとその通りと言わんばかりにホシガリスが声をあげる。

 

「良いわよ、どうせこんなにいっぱいはいらないし」

「ちゃーん!」

 

 喜色満面と言った様子で早速転がっている『きのみ』を一つ手に取り大きく口を開けた……直後。

 

 

 ―――ドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

 

 僅かな地響き。

 遠方から何かが走って来るかのような音。

 その感覚に既視感を覚えて、咄嗟にココガラとホシガリスを抱えてその場から飛び退る。

 

 直後。

 

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

 

 ―――ギャォォォス!

 

 

 地響きと土煙を立てながら爆走する『何か』が先ほどまで私たちのいた場所を通り過ぎていく。

 

「な、なに今の……?」

 

 ワイルドエリアの『浅域』であんな暴走車みたいなポケモンが出るというのは聞いていないのだが。

 と、直後にピー、と電子音が響く。音の発生源は私の手元のスマホロトムからだった。

 

「あ、一瞬だったけどちゃんと引っかかってる」

 

 本当に僅かな間の交差ではあったが、優秀なスマホロトムが今のポケモンについて図鑑の中からデータを検索し、引っ張り出してくれていた。

 そうして表示された検索結果に視線を落とし……。

 

 

「サンダー?」

 

 

 表示されていたのは茶色のカラーリングの鳥ポケモンで、その名前は『サンダー』と表記されていた。

 

 

 * * *

 

 

「え~! ソラちゃんあのパチモノサンダー見つけたの!?」

 

 レベリングを終えてワイルドエリアからユウリの家へと帰還すると先にユウリが戻ってきていたので今日あったことを告げると驚愕したと言わんばかりに声を荒げた。

 

「サンダー、ってカントーやカロスで伝説のポケモンとか言われてるやつよね?」

「一応こっちのはサンダーのリージョンフォームだって言われてるらしいよ」

 

 リージョンフォーム。

 つまり環境の違いから来る生態の変化を起こしたポケモンたちのことだ。

 ポケモンは本来環境に適応する力が高いためそういうことも起こり得るらしいが。

 

 サンダーは伝説のポケモンと称されているが、これは単純に個体数が非常に少なくまたサンダーという種族自体が非常に強力な潜在能力を秘めているためにそう言われているだけであって超越種では無い。分類的にはただ強いだけのポケモンだ。

 生命の範疇にある以上、環境に適応しその姿を変えることも……あるのかもしれないが。

 

「でも実は通常のサンダーとは関係ない別の種族なんじゃないか、なんて意見のほうが最近は強くなってるらしいけどね」

「まあ鳥なのに走ってばかりで飛ばないとかドードーとかそっちを連想するわよね、普通」

 

 サンダー、フリーザー、ファイヤーと合わせてカントー三鳥、伝説三鳥なんて呼ばれたりもするがその身に秘めたポテンシャルは非常に高い。

 ホウエンリーグのほうで一度だけサンダーを使うトレーナーと戦ったことがあるが()()()()()()()()()()()などという意味の分からないことをやっていた。

 

 本当にサンダーのリージョンフォームなのかそれとも別の種類のポケモンなのかは分からないが、あの速度と気迫……感じる強さはかなりのものだ。

 

「欲しいわね、あれ」

 

 飛ばずに走ってばかりだったけれども『ひこう』タイプもきちんと入っている。

 何となくシンパシーを感じたから間違いない、あれは『ひこう』タイプだ。

 全く放電している様子が無いので『でんき』タイプが入っているかどうかはかなり怪しいところだが。

 

「でも凄い勢いで逃げて行っちゃうよ? 私も一回捕まえようと思って自転車で追いかけたのにあっという間に逃げられちゃったもん」

「アオでも追いかけられそうにはないわねえ」

 

 というかアオは今『ポケバンク』*1を経由してホウエンに戻ってもらっている。

 

 ユウリが言うには『ジムチャレンジ』に参加する際に『リーグに登録済』のポケモンは使えないらしい。

 

 基本的に『ジムチャレンジ』とはその年の才能ある期待の新人トレーナーが挑戦するものであり、別にそれ以外が挑戦してはならないという決まりはないのだが、ポケモンを育て始めたばかりの新人トレーナーと最初からある程度以上ポケモンを育てている二年目以降のトレーナーでは『差』が大きくなるためその年のファイナルトーナメントに参加できるチャレンジャー枠が決定するセミファイナルトーナメントまではその年までにリーグに登録されていない……つまりジムレチャンジする年になってから捕まえたポケモンだけを使って戦う必要があるらしい。

 

 つまりアオは去年リーグ登録したポケモンなので、ファイナルトーナメントに勝ち進むまで使用できないのだ。

 

 因みに現在が二月の初めであり、ジムチャレンジの開催が四月の初め。

 そこから四カ月かけて七月が終わるまでがジムチャレンジの期間であり、八月の半ばにジムチャレンジをクリアしたトレーナーたちでセミファイナルトーナメントが開催される。

 これに勝ち残ることで九月からのファイナルトーナメントに出場することができ、このファイナルトーナメントに勝ち上がることで九月の終わりにチャンピオン戦をすることとなる。

 

 チャレンジャーが何でもありになるのはファイナルトーナメントなので、少なくとも七カ月弱はアオは使えないということだ。

 

 まあ別にジムチャレンジ外でなら普通に使えるのだろうが、アオには母さんたちにリーグ移籍の件から説明をしておいて欲しいので直接ホウエンのほうに送っておいた。

 父さんに関しては現在イズモ地方にいるため後で私から電話しておくとする。

 

 まあ父さんも母さんも何か言ってくるとも思わないけれど。

 

 それはともかくとして。

 

 アオが居ない以上、今手持ちで使えるのがガーくんだけということになるが、さすがにガーくんでサンダーを相手にするのは無理がある。

 

「順調にガーくんを育てるしかないんじゃないかなあ……多分、ほっといてもあんな暴走特急誰も捕まえられないと思うし」

「それしかないかしらね」

 

 ユウリのそんな言葉に嘆息し、頷くしか無かった。

 

 

 * * *

 

 

 翌日、またもやワイルドエリアへ向かう。

 

 ガーくんのレベリング……という用事は確かにあったが、それ以上にやはりあの『サンダー』が気になってしかたなかった。

 

「ガーくん、アレやっちゃって」

「ぴぎゅううあ!」

 

 “ク■ガネの■ばさ”

 

 硬化した翼に打たれて相手が『ひんし』になったのを確認するとガーくんを呼び戻す。

 図鑑を見やれば先ほどの技の解析もほぼ完了していた。

 

 

 わざ:ク■ガネの■ばさ 『はがね』タイプ

 攻撃後、100%の確率で『ぼ■■ょ』を上げる。

 

 

「やっぱ優秀だったわね」

 

 ほとんど見えている情報から察するに、かなりの優良技だ。

 体感的に威力はドリルくちばし、などよりも上……『そらをとぶ』と同じくらいと言ったところか。

 少なくとも『はがね』タイプとなると『アイアンヘッド』を覚えさせるよりは威力も高そうだったし、追加効果も優秀だった。

 

「本当に育成しがいがあるわね」

 

 メキメキと強さを伸ばしていくガーくんに笑みを浮かべていた、直後……微かな地響きが聞こえてくる。

 

「来たっ」

 

 声を殺し、徐々に大きくなっていく地響きのする方向を見やる。

 少しずつ見えてくる土煙、そして昨日は気づかなかったがその土煙の大本である先頭で走るのは―――。

 

「サンダー!」

 

 茶色と黒の二色のカラーリングは原種のサンダーとかけ離れていた。

 走って来るサンダーのその視線が一瞬こちらへと向いて……。

 ぐん、と急カーブをして私を大きく避けるような円の軌道で走り去っていく。

 

「凄いわね……あれだけの速度でカーブしても一瞬も速度を緩めないのね」

 

 走ることにかけて凄まじいポテンシャルがあるのは分かった。

 後は普段どうやって生活しているのか、とか何を食べているのか、どこで寝ているのか、いつ起きているのか。

 

 少しずつ少しずつで良いのだ。

 

 ガーくんが育つまでこうして毎日情報を集めて。

 

 そうしてガーくんが育ったその時は。

 

「絶対にゲットするんだから」

 

 ―――決意するかのようにそう宣言した。

 

 

 

 それから一週間、毎日毎日ワイルドエリアへと向かう。

 ここ数日ユウリが拗ねているので今度たくさん構ってやらないとならないだろうけれど、今はこちらが先だ。

 

 少しずつだがサンダーを捕獲するための情報は集まってきている。

 

 それと並行してガーくんのレベリングも順調に進み、すでに20レベルを超えていた。

 

「なのになんで進化しないのかしらね?」

「ぴぎゃ?」

 

 ココガラがアオガラスに進化するのに必要なレベルはすでに満たしているはずだ。

 よっぽど育成が下手なトレーナーだと進化するのに必要なレベルより高いレベルを要求されることもあるが、私は寧ろ育成能力は高いほうだと自負している。そういうのが得意な母にしっかりと教わり、何度も実践したのだから。

 実際ホウエンに残してきた五体にプロリーグで活躍することができるだけの力がある以上、それは確かな事実だ。

 

 ならばどうして進化しないのか。

 

「専用個体だから……もしくは特異個体だから、どっちかしらね」

 

 特異個体というのはどんな特異性を持っているのか見ただけじゃ分からないことが多く、データとして表記されるわけじゃない以上、いざそうなってみないと異常性が明るみに出ないことも多い。

 専用個体に関してはそもそも『未進化』の専用個体というのが居ないので分からない。例えばレッドのピカチュウも未進化ポケモンではあるが、あれはもう“レッドの”ピカチュウという一つの独立した種族になっていて、『かみなりのいし』を使ってもライチュウには進化できない。進化系統から外れてしまっているのだ。

 だがそれはピカチュウの状態で専用個体へと変貌するほどの経験を積んだからこそであり、私のココガラの場合確実に進化するはずだ。

 

「うーん」

 

 何となく、の勘ではあるが。

 

 何か切っ掛けがいるんじゃないだろうか、と思う。

 

 ただ普通に経験を積んでレベルを上げるだけでは進化できないのではないか。

 

 ではそうだと仮定してその切っ掛けとは……。

 

 

*1
地方間をまたいだポケモンの移送サービス。通常ボックスの中のポケモンはその地方の中でしか引き出したり、預けたりすることができないが、ポケバンクのサービスを利用すれば地方をまたいでのポケモンの預け、引き出しが可能となる。




次回! ドーモ、ガラルサンダー=サン。 ソラチャンデス! イヤァァ!

みたいな展開は無い。
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