ふと思ったことがある。
―――何故サンダーはいつも走っているのだろうか?
私がワイルドエリアでたむろしているといつもサンダーが猛スピードで走って去っていく姿を見るが、ユウリが捕まえようとした時は普通に歩いていたらしい。と言ってもユウリに気づいた途端に走って行ってしまったらしいが。
私が出会った時はいつでも走っている、ユウリが出会った時は歩いていた。
その差は一体何だろう?
その答えは―――。
* * *
今日も今日とてワイルドエリアである。
実際のところ、最低でもレベル30は無いと裏特性を仕込むのに必要な能力が足りない。
レベルというポケモンの強さに関わる秘密が解明され、レベル1のポケモンの能力にほぼ差が無いという事実が判明した。
つまりポケモンの能力の差とはレベルが上がるほどに大きく変化するわけだ。
逆に言えばレベルが低い内は最終的に高くなる能力値もさほどではない。
当たり前のことではあるのだが、この当たり前のことが新人トレーナーには意外と分からなかったりする。
この辺りがプロとアマの『思考の差異』と言えるのだろう。
アマは『今の強さ』を見る。
だから手っ取り早くレベルの高いポケモンを集め、高い能力値に物を言わせて勝とうとする。
だがそれで勝てるのは最初の内だけだ。
プロトレーナーは『最終的な強さ』を見る。
たとえ今がどれだけ弱いポケモンだろうと、最終的に強くなれる『見込み』があるならあらゆる手を使って手に入れようとする。
この違いは結局のところ、争っているステージの違いだ。
アマの舞台は即ち公認ジムなどの『相手に合わせて加減してくれる相手』や自分たちと同じアマの『成長途中の相手』が基本だ。
だがプロの舞台とは即ち『対戦相手がレベル上限いっぱいまで上げ切っている状態』がデフォルトなのだ。
だから現状どれだけ強いポケモンだろうと、最終的にどこまで強くなれるのかを考え、必要か不要かを考える。
まあそれは良いとして。
現在ガーくんは『レベル27』。
未だに進化は無く、いよいよ以って『切っ掛け』が必要だという自分の勘が正しく思えてきた。
もう少し上げれば強力な『ひこう』技である『ドリルくちばし』も覚えそうだし、取り合えず『30』まで上がったら一旦方針を変えてもいいかもしれない。
育成するにしても、ココガラのままかアオガラスに進化してからかでまた方針が変わる。
というかココガラのままではどう足掻いてもリーグトレーナー相手に戦えるとは思えないため、どうにかして本格的に育成する前に進化させる必要がある。
ただどうやったら進化するのか見当もつかないため、やれることを手あたり次第やるしかないのが辛いところだが。
「……ん?」
ワイルドエリアは広大ではあるが、人工物がほとんどない。
西のほうは木々が多く、東は山間のため視界が悪いが、中央エリアはキバ湖という湖が広がっているためかなり遠くのほうまで見渡せるのだが、目を凝らすと遠く……湖の反対側のほうで僅かに土煙を上げながら凄まじい勢いで移動する存在が見えた。
「サンダーね」
今日はあちら側にいるらしい。はっきりとは見えないが、走っている間は土煙が舞い上がっているため所在を確認するのは容易かった。
だがしばらくすると直前まで濛々と舞い上がっていた土煙が見えなくなる。
「……止まった?」
ワイルドエリアの地図で確認すればエンジンシティの入口よりさらに西側……キバ湖の北西の方角と言ったところか。
「あっちは……ダメね、『中間域』だわ」
それなりに強力なポケモンが出現する領域なだけに今の私では入ることはできない領域だ。
ただ土煙が消えたということはつまり止まった……もしくは速度を緩めた、ということなのだろう。
本当に常時走っているわけではないらしい。
「入るのは無理……だけど近くまで行ってみましょうか」
せめて『浅域』側から様子を伺うだけでもできないだろうか、と地図を頼りに移動をする。
『うららか草原』から抜けて『キバ湖西』と『キバ湖東』の間の橋を通れば向こう側に行けるらしい。
『キバ湖の瞳』と呼ばれる『キバ湖東』の中央に浮かぶ島は『深域』に属する領域であり、それを囲む『キバ湖東』も『中間域』であり一部が『深域』指定もされているらしいので近くを通る時は注意が必要になるらしい。
ワイルドエリアに入る時に必ず『ピッピにんぎょう』を渡されるのはワイルドエリアがそれだけ危険な地域であるという証でもある。
危険度ごとに領域を分けてはいるが、『浅域』に『中間域』のポケモンがやってこないとは言えないし、『中間域』に『深域』のポケモンがやってこないとは言えない。そんなものは野生のポケモンの気まぐれ一つなのだから。
とは言え、場違いなほどに強力なポケモンが出没したら確実に何らかの異変があるはずなので、それを見逃さなければ早急に逃げだすことだってできる。
それにそういうことが起きないようにそれぞれの領域の狭間にリーグスタッフが常駐しているのだから、実際には事故は滅多に『報告されない』*1らしい。
「長い橋ね」
端から端まで4000メートルを超えるとんでもない長さの橋がかかっているが、ポケモンに破壊されないように定期的に『むしよけスプレー』を散布したり、経年劣化で朽ちた部分を補修したりしながら随分と長い間ここに架けられているのだとか。
因みに歩き切るのに3、40分くらいはかかるらしい。
とんでもない長さではあるが、他地方にもっと長い橋があるとかなんとか。
「絶景ね」
湖を左右に両断するかのように架けられた橋から眺める光景はその一言に尽きた。
人里から隔離され、工業廃水に汚染されること無く保たれた美しい湖は陽光を反射して鏡のように煌めいていた。
水面を『みず』ポケモンたちが泳ぎ、それを狙う鳥ポケモンたちが空を舞う。
何よりどこを見渡しても自然が続く景色は、何となくホウエンを思い出して懐かしくなった。
そうして歩いていると、ふわり、と空から鳥ポケモンが降りてきて欄干の上に停まる。
「あら、キャモメね」
ホウエンでも良く見かける『うみねこポケモン』の『キャモメ』だった。
「ぴひょ?」
「こっちでもいるのね……おいで」
そっと手を差し出せば、ばさばさと翼をはためかせてキャモメが私の手の上に停まる。
何気に私の手の上に停まるくらいに小さなこのポケモンも体重10kg近くあるのだが、まあ私は普通の人よりは力は強いのでそれほど苦も無く片手にキャモメを乗せたままその頭を撫でる。
「よしよし、お前人懐っこいわね」
昔から『ひこう』タイプには好かれる
野生の中で育ったなら寧ろ警戒心は強くなると思うのだが、まるで無警戒に私に撫でられて目を細めるその姿は愛嬌はあったがとても野生のソレとは思えないほど緩みきって、私の手の上で羽繕いまでしていた。
「よく見たらお前、少し体が大きいわね」
通常のキャモメの全長は0.6メートルほどなのだがこいつは0.8……いや0.9メートルはあるだろうか?
一回り二回りほど体躯が大きい。と言っても特異個体というほどでもない、この程度なら個体差で済む話ではあるが。
「体が大きいとタフなのよね」
単純な話、同じ種類のポケモンでも体がデカいのと小さいのとでは前者のほうが耐久力が高い。
打たれ強く、粘り強いタフなポケモンになるのだ。
「うーん、まだ拠点も無いし、無暗に増やすのは控えようかと思ってたんだけど」
私の目の前に降りてきてこんなに懐いてきているのだ。
「お前、私と来る?」
告げて空のモンスターボールを差し出すとこてん、と小首を傾げ。
「ぴひょろ~♪」
とん、とボールの先端のスイッチをクチバシで押し込み、そのまま放たれた赤い光がキャモメを包んでボールへと収納する。
かたん、かたん、とボールが揺れて、そのままカチッ、とロックのかかった音。
それが捕獲完了の合図だった。
* * *
「やっと着いたわ」
橋を抜けきると思わずそんな言葉が出てくるほどに長かった。
最初は絶景だなんだと思っていたのだが、さすがに三十分以上同じ景色を延々と見ているのは飽きてくる。
最終的に頭の上にガー君を乗せて、先ほど捕まえたキャモメを腕の中でモフりながら歩いていたのだが、とにもかくにも湖の反対側に到着した。
遠くに見える高い建物が『見張り塔跡』なのだろう。
変な話だがあの『見張り塔跡』は『深域』でその周辺は『中間域』らしい。
『深域』と言っても基本的には何も居ないのだが、時々とんでもない怪物が住み着くことがあるのだとかなんとか。
ここから見る限りではサンダーの姿は見えない。
「もっと近づいてみましょうか」
緩やかな坂道を登りながら『浅域』の境界あたりまで近づく。
道の端のほうにリーグスタッフが立っていた。
ということはここまで、ということだろう。
「居ない……わね」
さすがにこちらまで来るのに時間をかけすぎたか、と嘆息し、諦めるかと思ったその時。
ドドドドドド、と地響きが聞こえだす。
「どこ?!」
耳を澄まし、地響きのする方向を探しあてる。視線を向ければ土煙が見えた。
方角的にこちらへ来る……チャンスではあった、が。
「無理ね」
まだ手が足りない。
そのことを自覚し、今回も観察だけに留めよう、として。
「オーライオーライ……もっと追い込め、もっともっとだ」
聞こえた声に振り向く。
後方からスマホ片手に前方の土煙……その先頭のサンダーへ視線を向ける少女がいた。
黒のキャミソール、白いホットパンツに青いパーカーに青いスニーカーとなんというかワイルドエリアに来たにしては随分とラフな格好をしたクリーム色のセミショートヘアで、口元にロリポップのものらしい棒が突き出ている。
「足止めの準備は良い? オッケー、なら戦闘準備だ」
ひょい、とスマホロトムを投げるとロトムが宙に浮きあがって通話を継続する。
「カウント5」
パーカーのポケットに突っ込んだ手が引き抜かれるとその手に持ったボールを振りかぶる。
「4」
猛スピードで接近してくるサンダーを見やり。
「3」
ボールを投げる。
「2」
投げられたボールがサンダーの元へと伸びて。
「1」
ぐいん、とサンダーが方向を変えよう……とした瞬間。
「
“■■■■■■■■”
「?!」
「0」
方向転換しようとしたサンダーだったが、いつの間にか真っすぐ進んでいて、その進路上から飛んできたモンスターボールがサンダーへとぶつかり、赤い光がサンダーを包む。
サンダーを完全に格納したボールが地面に落ちて。
かたん、と一度揺れて。
「あ……ダメだわこれ」
弾けるような音と共にボールが内側から破裂しサンダーが飛び出してくる。
―――ギィイャォォォオオオオオス!
「はあ……しょーもな」
無理矢理閉じ込められたことに怒り心頭のサンダーが足を止め、咆哮をあげて威嚇する。
それを見た少女が溜め息を吐いて、先ほどとは反対側のポケットに突っ込んだ手を出すと、その手に持っていたボールを投げる。
「しゃーなし……行くよ、フワライド」
投げられたボールから紫色の風船のようなポケモン、フワライドが飛び出しふわりふわりと浮き上がりながらサンダーを見つめる。
“らいめいげり”
先に動いたのはサンダー。
高所にいるフワライドへ向けての飛び蹴りだったが、フワライドは避けることすらせず直撃……だが。
「フワライドはゴーストタイプだっつーの……『おにび』」
“おにび”
放たれた青い炎がサンダーへと命中し、サンダーを『やけど』状態にする。
イラついた様子のサンダーがフワライドを睨みつけ。
“ドリルくちばし”
ドリルのように回転するエネルギーを纏ったクチバシでフワライドへと攻撃する。
さすがにこれは痛手だったか、悲鳴を上げるフワライドだが、『やけど』によって半減した威力ではまだ『ひんし』には遠い。
「『ちからをすいとる』」
“ちからをすいとる”
直後にサンダーからエネルギーが吸い取られ、フワライドがすっかり回復する。
逆にサンダーは全身が弛緩したかのように力が抜けた様子だった。
「じーわじわと行こうか」
このままサンダーを追い込むつもりなのだ、と理解すると同時に。
―――ギォォォォォォォァァァァアアアアアア!!
サンダーが絶叫する。
同時に、どんどん、とその場で何度となく足踏みを始め。
「あ、やっべ」
“らいとううんぽん”*2
“ドリルくちばし”
サンダーの本気の一撃にフワライドが崩れ落ちて『ひんし』に追い込まれる。
「戻れ! っと、マジでやべーわこれ」
呟きながら次のボールを構え。
“しっぷうどとう”*3
―――ギャォォォォ!
それより早くサンダーが少女を追い抜き、そのまま駆け去っていく。
「あ、おい……ちょ、待てやコラ!」
慌てた様子の少女が声を荒げるが、凄まじい速度で駆けていくその姿はあっという間に景色の中へと消えて行き。
「くはあ……ここまでやって失敗とか、マジサがるわ」
はあ、だっる。と片手で顔を覆いながら嘆息する少女がやがてこちらへと視線を向けて。
「誰?」
「こっちの台詞よ」
それが互いに交わした最初の台詞だった。
さっくり2匹目ゲット。
今更だけど『浅域』『中間域』『深域』ってのはワイルドエリアがバッジ対応でレベル変動することへの解釈みたいなものですね。
バッジ増えたからより深いところまで潜っていける=強いポケモンが出てくる。
みたいな。
レイドだって☆5レイド出すなら後半じゃないと出てこないし。
ストミ終わってると忘れがちだけど、序盤でレイドは星1~2までしかでません。
つまり安全を確保できるだけの実力が無いと強いポケモンのいるところに入れない、という感じですね。