サンダーと戦うにあたって重要なことが一つ。
「行って、ガーくん!」
それは。
「飛び回って攪乱!」
―――技を出さないことだ。
レベルだけ見てもダブルスコアどころか下手すればトリプルスコアが付きそうなサンダーを相手に普通に戦うと一発で倒されて終了だ。
だがこうしていざ戦い始めるとサンダーから逃走の気配は無い。
リシウムとの戦闘を見たかぎりだと、目の前から敵がいなくなれば走り出すのかもしれないが、少なくとも目の前に敵がいて逃げるという選択肢はないらしい。
故に重要なのは『逃げまわる』ことだ。
敵にもならない相手から逃げ出すサンダーをどうにか戦闘にこじつけようと追いかけるこちら、から敵を見れば倒しにかかるサンダーと、勝てない相手に逃げ回るこちら、つまり鬼ごっこの鬼が逆転するわけだ。
「ガーくん、風に乗って逃げなさい」
サンダーの攻撃は基本的に直接攻撃しかないらしい。
こうして改めて見れば『かくとう/ひこう』タイプという予想は多分当たっている。
そしてこれまでの研究でサンダーが飛べないわけではないが、飛ぶことが苦手だということは分かっている。
羽が退化してしまっているサンダーにとって『飛行』とは跳躍からの滑空に等しい。
だがこの『おおあらし』の中でそれができるか、と言われれば難しいだろう。
少なくともトレーナーがついて専用に訓練したのならともかく、野生で本能のままに暴れ回るような今の状態でそれができるか否かと言えば無理だろうと予想している。
故にサンダーは走るしかない。
移動のために走り、攻撃のために走り、そして少しずつ体力をすり減らす。
しかも『おおあらし』はただ風が吹き荒んでいるだけではない……同時に『あめ』も降っているのだ。
舗装されたバトルコートやアスファルトの道路ならともかく土がむき出しで自然のままの状態で放置されたワイルドエリアで『つよいあめ』が降り注げば土は泥濘となる。
足元が滑る、ということはふんばりが利かない、ということでもあり、だからこそサンダーにとってこの場所は非常に走りづらい状態となるのだ。
ガーくんにしろ、キューちゃんにしろ基本的に飛びあがって移動するこちらに対して、走って移動するサンダーにとってこのフィールドは『しつげん』に等しい。
出会った瞬間猛スピードで走り出すサンダーを相手に『戦う場所を選ぶ』ということは不可能だ。
だからこそ不利なこちら側は『戦う場所を作る』必要がある。
『おおあらし』の中だろうと平気な顔してサンダーの周囲を『ちょうはつ』するように飛びまわるガーくんを鬱陶しそうに蹴散らそうとするがけれどやはり足場の悪さに苦戦するサンダー。
さて、後はどれだけのこの状況を維持できるか、その勝負になる。
「キューちゃん、もう一発『ちょうおんぱ』」
放たれた音の連なりが、サンダーを捉える。
―――戦いはまだ始まったばかりである。
* * *
数の利は生かすべきだろう。
というか寧ろ、それしかこちらの有利は無いのだから。
基本戦術はガーくんのかく乱、そしてキューちゃんの『ちょうおんぱ』による自傷狙い。
そして。
「ガーくん! 『クロガネのつばさ』!」
「ぴぎゅうあああ!」
“クロガネのつばさ”
昨日の夜解析がようやく終わったばかりのガーくんのこの技を
サンダーが『こんらん』して『わけもわからずじぶんをこうげき』した隙にしか狙えない以上、かなりリスキーな行動ではあるが、もしそれができれば。
ほぼ詰み、まで持っていけると思っている。
まあそれができれば苦労はしないのだが。
「まず一回」
呟きながら次の指示。
ガーくんだけではない。この視界不良の『おおあらし』の中で正確に両者の位置を把握するために、こちらも右に左にと動き回る必要がある。
“らいめいげり”
「下から来る! 右に動いて浮き上がって!」
“ドリルくちばし”
「跳び上がって上から来るわよ! 真下に回って左右に動く!」
“らいめいげり”
「また下から……今度は左に……今!」
“ドリルくちばし”
「下から突き上げ! もっと上に逃げて!」
すっかり『こんらん』がとけてしまったサンダーの猛攻撃を凌いでいく。
基本的にサンダーは跳ねることはあっても飛ぶことは無いので高所を取ると攻撃が届かなくなる。
だがガーくんだってこの『おおあらし』の中で自在に飛ぶにはまだまだ訓練が足りない。
そもそもシンプルに
さらに余り高所を取り過ぎると、サンダーが届かないと悟り……今度はこっちを狙い出す。
「キューちゃん! 『まもる』!」
「ぴひょ~!」
“まもる”
“らいめいげり”
『おおあらし』を切り裂いて飛び出したサンダーの猛烈な蹴りが僅かに早く展開されたキューちゃんの展開した壁に防がれる。
昨日わざマシンで覚えさせたばかりの技だったが、使えるようになるまで何度も特訓させたのはこの瞬間のためだ。
「ガーくん、今!」
キューちゃんへと意識を向けたサンダーへと、ガーくんが高所から急降下して。
“クロガネのつばさ”
二回目の攻撃……ダメージは大して通っては無いだろうが、それでも少しずつ少しずつ小さなダメージは積み重なっている。
背後からの急襲に、サンダーが意識を向けて。
「キューちゃん!」
“ちょうおんぱ”
三度目の『ちょうおんぱ』。
ガーくんに意識が向いた瞬間に放たれた音波にサンダーが再び『こんらん』する。
直後。
―――ギォォォォォォォァァァァアアアアアア!!
“らいとううんぽん”*1
ようやく本気で戦う気になったらしいサンダーが動きだす。
「は、はや?!」
移動しづらいはずのこの泥濘の中を先ほどまでと比較にならないほどに速度で移動し、一瞬でこちらに迫ってきてその鋭いクチバシを振りかざし―――。
わけも わからず じぶんを こうげきした!
振り下ろしたクチバシが自らを傷つける。
その隙にその場を即座に移動し、気持ち先ほどよりも距離を取る。
「あ、あぶな! 危なかったわ」
『こんらん』状態で自傷しなければ今ので終わっていたかもしれなかった。
それほどまでの突然の急襲に動揺してしまう。
“クロガネのつばさ”
だがそんな私の動揺を他所に、自己判断でサンダーの隙を見つけたガーくんが翼で殴打する。
これで三度目。
「キューちゃん、『なきごえ』!」
「ぴひょろ~♪」
“なきごえ”
隙をついてキューちゃんの鳴き声が響き渡る。
基本的に『音』を発する技は避けようがない上に無差別に届くので野生のポケモン相手の時にはかなり便利な技だ。
特に集団で襲って来る相手や、目の前の相手のように素早く動きまわるような相手でも音というのはそれ以上の速度で相手に届く故に、基本的に回避ができない。
そして耳に届けば強制的にその火力を少しずつ少しずつ削いでいく。
と、思っていたのだが。
“と う そ う ほ ん の う”*2
―――ギャアアアォォォォアアアアアアアア!
「あ、しまった?!」
『こうげき』を下げたと思ったのだが、逆に力を漲らせていく様子を見て失敗を悟る。
どうやら『まけんき』のような特性か裏特性でも持っていたらしい。
基本的に大半の野生のポケモンは裏特性なんて持ってはいないのだが、野生環境の中で長年生きてきた個体の中には自然とそういう技術を身に着ける存在もいる、というのは知ってはいたがリシウムの時に『ちからをすいとる』を使われても発動していなかったのでそんな地雷があるとは気づいていなかった。
「あの時はまだ戦闘状態じゃなかったってこと……やる気を出した時にだけ発動するのね」
『まけんき』のような特性は特にポケモン自身の精神状態で発動が左右されたりするので、もし特性じゃなく裏特性だったとしても多分同じようなものだ。
これは困ったことになった。
ガーくんは通常のココガラより『ぼうぎょ』が高いらしいので『クロガネのつばさ』とかいう攻撃をしながら『ぼうぎょ』も積める優良技で六段階積み上げればサンダーの攻撃でも耐えることができる、と踏んでいたのだがさすがにサンダーの火力まで上がる、となると怪しくなってきた。
となるといっそのこと……。
「ガーくん……もっとシビアに、行けるわね」
「
「よし。キューちゃん、どんどん『なきごえ』よ」
戦法を変える。
ここから第二ラウンドだ。
* * *
自傷三度目。
『こうげき』が二度上がっているサンダーだけに、その自傷行為は自らの体を酷く傷つける。
同時に激しい動きにどんどんスタミナが減っていっているのか、少しずつ動きが鈍っていくのが見て取れた。
だがこれだけ傷ついても、一向に弱る気配が無い……どころか闘争の気配が強まっているのはサンダーというポケモンの気性の激しさ、そして『いじっぱり』な性格をあらわしていた。
「すっごく好み! 良い、やっぱり絶対欲しい!」
何とも気が合いそうなやつだと思う。
ああ、だから。
「さっさと倒れなさいな!」
三度目の『なきごえ』。
同時にサンダーの『こうげき』が逆に上がっていく。
そして。
―――ギャァァァァァ……ォォォオオオオオオオオオオ!!
動きのパターンに変化が訪れる。
ガーくんを狙う……と見せかけながらこちらへ一直線。
「キューちゃん『まもる』!」
意表は突かれたが、それでも先ほどより鈍った足ではこちらの護りが先に完成する。
“まもる”
“ドリルくちばし”
キューちゃんの作り出した防壁を、けれどサンダーは突破できず……。
「ガーくん……っ! 『まもる』!」
ガーくんへ攻撃させて意識を逸らそうと指示を出そうとした瞬間に過る嫌な予感に咄嗟に指示を切り替える。
同時に展開していた『おおあらし』を収束させ、ガーくんをこちら側へ引き寄せる。
“まもる”
“らいめいげり”
ほんの一瞬、本当にあと一瞬ほどの差でガーくんが私たちの前に立ちふさがり、防壁を展開する。
ほとんど入れ替わりにサンダーが放った蹴りがガーくんの防壁に弾かれる。
―――危なかった!
完全にこちらに狙いを集中させていた。
いや、未だに狙いをつけられている。
まだ危機は去っていない、それを理解し。
「ガーくん! 『ドリルくちばし』! キューちゃん『ちょうおんぱ』!」
“ドリルくちばし”
弱点タイプになるだろうガーくんの攻撃がサンダーへと命中する。
瞬間。
―――ギォォォォォォォァァァァアアアアアア!!
“とうそうほんのう”*3
急激に高まるサンダーの力に背筋が凍る。
“ちょうおんぱ”
放たれた音波、もしこれが外れたら……あの恐ろしいまでの暴威が荒れ狂うことになろうことは明白で。
「当たれえぇぇぇ!」
―――絶叫した。
『音』を放つ技に分類されるが、その本質は『音波』……つまり精神を揺らす波を放つ技だ。
放たれた狭い範囲の音波を正確に命中させる必要がある性質上、その命中確率は大よそ五割と言われる技である。
勝つか、負けるか……まさに五分の勝負。
そして。
「ギャアアォォォ……」
こちらに向かって攻撃をしようとしていたサンダーだからこそ、こちらへ向かって走り寄っていたからこそ、その音の連なりは正確にサンダーを射抜いた。
「当たった!」
だが『こんらん』しても自傷するか否か、また分の悪い賭けであり……。
“らいめいげり”
放たれた蹴りがガーくんを捉える。
攻撃のために接近していたが故に、その攻撃は正確に、そして的確にガーくんの『急所』を貫いて……。
「ぴぎゅ……ァァッァ!」
普通なら絶対に耐えられないだろう威力の技だが、事前に持たせておいた『きあいのタスキ』の効果で一度だけダメージを『こらえる』ことを可能とする。
だがこの一度だけだ……ダメージを『こらえる』ために握りしめられたタスキは破れ、その効果を失ってしまう。
「ガーくん!」
まさにそれは念のために持たせておいた保険……命綱だった。
それが発動したという時点で勝負としては負けに傾いているということに他ならず……。
撤退すべきか、という考えが頭に浮かぶ。
だがそれより早く、サンダーが動き出して。
「ま、ず……キューちゃん!」
キューちゃんが『まもる』を展開する。
だがそれはサンダーにそう『誘導』されてしまったことで。
「し、まっ!」
よく見ればサンダーは近寄っているだけでまだ技を出していない。
つまり、『まもる』の展開が終わるまで待って攻撃するつもりなのだと気づいて……。
「ま、ず……い!」
ガーくんは吹き飛ばされ、キューちゃんはすでに『まもる』を使用した。
相手の強力な攻撃を弾くほどの力を集約する技だけに連続で使用するには成功率に不安があるが。
「それでも……やるしか!」
二度目の『まもる』を指示する。
だがやはり練度が圧倒的に足りない……昨日捕まえたばかりのポケモンがそれほど上手く『まもる』を成功させられるわけがなく、構築されたはずの壁が一瞬で砕ける。
待っていましたとばかりにサンダーがそのクチバシを振り上げて……。
わけも わからず じぶんを こうげきした!
もうダメかと思った直後、けれど『こんらん』してしまっているサンダーは自らを傷つける。
―――ギャォォォォォォォアァァァァ?!
「ガーくん!」
その絶大な力が故に、自傷ダメージは凄まじいものになる。
サンダーが自らが受けたダメージを許容しきれず、ついに悲鳴を上げる。
最早サンダー自身の体力も限界に近いことを悟ると同時に最後のダメ押しだ、とガーくんへと指示を出す。
ただ。
―――動ける、か?
『きあいのタスキ』で『こらえる』ことができたとは言え、許容限界を大幅に超えたダメージに『ひんし』寸前の体でやれるか? という疑問に、のろのろと動くガーくんの重い体を引きずる動きが無理を証明していて。
もう良い、と言ってやりたい。
だが。
「行って、ガーくん!」
「ぴぎゅ……ァァァァァァ!」
それでも私の声に応えんと精一杯の虚勢を張るガーくんだからこそ、行け、と命じて……ガーくんもまたそれに応えるかのように。
瞬間。
【種族】サンダー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】87
【タイプ】かくとう/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】しっぷうどとう(自分が『ひこう』技を出した時、味方と交代する。行動前の味方と交代して場に出た時、『ひこう』タイプの技を出す。)
【持ち物】なし
【技】らいめいげり/ドリルくちばし/きあいだめ/みきり/????
【裏特性】『とうそうほんのう』
タイプ相性が『こうかはばつぐん』の技を受けた時、『こうげき』が最大まで上昇する。
自分の能力が下がった時、『こうげき』が2段階上がる。
????
【技能】『????』
????
【能力】『らいとううんぽん』
最初に場に出た時に『すばやさ』が最大まで上がるが、場にいる間毎ターン『すばやさ』が下がる。
相手より先に行動した時、攻撃技が必ず相手の急所に当たる。
【能力】の説明。
アビリティ枠。つまりポケモン自身が持ってる能力。もっと簡単に言うと図鑑説明には載ってるのにデータとしては載ってないフレーバーテキストを実際の能力としてデータ化したようなやつ。
今回で言えばガラルサンダーって原作でもロトム自転車よりも速いスピードでワイルドエリア走ってたけど、あれ別にデータ的にはなんら反映されてないよね? って。まあこいつの場合、この性能で特性『かそく』とかあったら強すぎるから仕方ないのかもしれないが、バランス調整の問題でデータ的には実装されてないけど、実際こいつこういうのできるじゃん、みたいな能力がここに入る。ただしバトルでも使えるほどの能力にするためには実機換算で『準伝説』クラスの才能がいる。なのでその辺のトレーナーのポケモンが誰でも持ってるわけではないです。
因みにサンダー君、本気出す時は大概ブチギレてて冷静じゃないのでセルフ変化技縛りして『みきり』とか使いません(
誰かこいつにとつげきチョッキ持たせろ……。
あ、きあいだめとか一応持たせてるけど存在価値がないやつ。
時間無いから2000字ほど書いたら寝て仕事終わってから残り書こうと思ってたのに、めっちゃ書きやすくて1時間で4000字ほど書けたので更新。