ガーくんの全身が光に包まれる。
サンダー目掛けて羽ばたきながら徐々にその姿を変えて行き。
「キュワァァァォォォォ!」
“クロガネのつばさ”
ココガラからアオガラスへと進化したガーくんが放つ渾身の一撃がサンダーへと叩き込まれて……。
―――ギュオォォォァァァ
ぐらり、とサンダーが揺らめく。
ダメージが相当に来ているらしく、足が揺れている……絶好の機だった。
「今!」
ボールを構え、投げる。
元気いっぱいの時のサンダーならば避けるか、蹴り返してくるか……とにかくまともにボールに入れることなどできないだろうが、今のサンダーならば。
とん、とボールがサンダーへぶつかり……赤い光と共にその姿がボールへと吸い込まれる。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
―――ギャォォォォォ!
ボールが弾けて、サンダーが飛び出す。
「しつこいわね」
嘆息しながらもう一度ボールを構える。
抵抗すれどもどうせもう限界は近いのだ……後は逃げられないように囲んでボールを投げ続けるだけであり……。
「キューちゃん、もう一度『ちょうおんぱ』」
そんな私の指示に従って、サンダーへと『ちょうおんぱ』が放たれる。
すでにふらふらのサンダーにそれを避けるだけの元気はなく、見事に真っ芯を捉え、サンダーの思考を揺らす。
これで逃げ出そうにも揺れる視界に方向感覚すらおぼつかないだろう。
準備は整った、とボールを投げようとして。
“ね む る”
サンダーがその場で座り込んだ。
「は?」
一瞬思考が止まる。
まさか、なんて言葉が脳裏を過る。
何をやっているのか……理解できる。
急速に回復していくサンダーに、それが『ねむり』状態になって体力を回復する技だと気づく。
ここまで削ってきたものが全て回復していく。
「嘘でしょ」
呟きと共に、サンダーを指さし。
「
二つ目の撃鉄を振り下ろした。
“しんくういき”
『ねむる』は『ねむり』状態になり、体力を
体力を完全に回復してしまうのは非常に強力な技ではあるが、『ねむり』状態になるという非常に大きなデメリットがあるので覚えさせているトレーナーは決して多くはない。
何よりも。
「動けないでしょ……どれだけレベルが高かろうと、どれだけパワーがあろうと
“しんくういき”
嵐の反転。吹き荒れていた嵐が逆巻いて集約されていく。
その対象をサンダーへとすれば『ねむり』状態となり体を動かせない今のサンダーにこの暴風の渦に抗う術はない。
そして『しんくういき』によって完全に身動きを封殺された以上。
「ほい、ゲット」
このボールを避ける術も無ければ、捕獲に抗う力も無い。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
* * *
「まさか自分から詰みに来るなんて、まあこっちの手札を知らない以上は仕方ないのかもしれないけれど」
本来ならば折角削った体力をまた回復されて窮地、だったのかもしれないが、『ひこう』タイプを持たない野生ポケモンなどほぼ封殺してしまえるのが私の力である。
『風』の異能ならばいざ知らず『嵐』の……『大嵐』を操る力というのはそれほどまでに強力で、凶悪で、強烈なのだ。
そしてここは野生のフィールドであり、レギュレーションのあるトレーナー戦ではない。
『ひこう』タイプを除けば、だが。
『ひこう』タイプに特化してしまっている力のせいか、『ひこう』タイプ相手には一気に強みが減じてしまうのもまた事実だった。
たとえ飛ぶことすらおぼつかない飛べない鳥が相手だろうと『ひこう』タイプを持っている以上は私の力の強化『対象』に入ってしまう。
力が強すぎてその辺りは上手く調整できないのだ……『ひこう』タイプならば無差別に強化してしまう性質上、私の一番の天敵は実は同じ『ひこう』タイプになる。
まあだからこそ『はねやすめ』が使えないのだ。
体力を回復できる技を入れるメリットよりもほんの一時だろうと『ひこう』タイプを失ってしまうデメリットのほうが圧倒的に大きいから。
「この辺はまあ……要調整よねえ」
強力ではあるが、大味な力なのは自覚している。
だが受け継いだものがでかすぎるのもまた事実。力が強い、というのもまた困りものなのだ。
まあそれはさておき。
「ガーくん」
「キュワォォ!」
私の呼びかけにすっかり姿の変わってしまったガーくんが応える。
アオガラス、という種族に進化したらしいのだが、図鑑を見てみるとまた文字化けしている部分がある。
「やっぱり専用個体のまま進化するのね」
何とも興味深い個体だ。
とは言え、全体的に能力値が大幅に伸びている。
サンダーとの戦闘の経験もあって、一気にレベルも30を超えているし。
「そろそろ何か仕込もうかしらね」
目安はレベル30で一つ、レベル60で一つ、レベル90で一つ、と言ったところか。
一気に三つ仕込むことはできないのか、と言われるとできなくはないが、使えるかはまた別、ということになる。
要するに使い慣れてない技術三つも一気に仕込んだところで、実戦でいざ発揮しようとすると頭がこんがらがってしまうのだ。
この辺りは『技の数』も同じようなことが言える。
だから一つ仕込んでは何度も何度も実戦で使い熟し、使い慣れ、そうして無意識レベルで使えるようになったら次を仕込む、その目安が30レベル置きなのだ。
「幸い……ちょうど良いアテができたことだし、ね」
地面に転がったボールを拾い上げ、笑みを浮かべた。
* * *
「は? は?? は~~~?!」
「今更嘘だったとは言わせないからね……約束したわよね、サンダー捕まえてきたわよ?」
リシウムに聞いたスマホの番号に電話をかけて呼び出す。
約束した一週間の間は手を出さずに様子を見る、と言っていたこともあって呼び出したらすぐにやってくる。
―――んで、なんの用? やっぱ無理だった感じ?
と初っ端から失礼なことを言って来るリシウムにサンダーを捕まえた……と言った時の反応が先ほどの語彙が喪失したようなそれである。
「嘘、じゃないんだよね?」
「多分大丈夫だとは思うけれど……出してみる?」
ボールから危険な感じはしないので、出しても大丈夫だとは思う。
ただ万一何かがサンダーの琴線に触れて暴れ出すと危ないのでユウリが居るところで出そうかと思っていたのだが。
「いや、もしもん時はこっちで何とかするっしょ……出しておけー」
「ふーん、まあじゃあ行くわよ」
ボールの開閉スイッチを押すと同時に赤い光が飛び出し、やがてそれがサンダーの形を取る。
そうして光が収まると同時にサンダーがそこに居て……。
「…………」
ジロリ、とこちらを睨みはするがやはり暴れ出す気配は無い。
とん、と一歩詰めよればびくり、と一瞬反応を返しこちらを見る目が鋭くなる。
「…………」
さらに一歩、無造作に詰めよればサンダーが警戒するように頭を低くし。
「
告げた言葉の意味を理解しているのかしていないのか。
とにかくサンダーが一瞬体を硬直させて……。
頭を下げた。
「それで良い……私が勝った、アンタが負けた。それが分かってれば良いわ」
その頭にそっと手をのせる。
硬い質感の毛だ。元は羽なのだから当然なのかもしれないが。
無遠慮に撫でつけるが、サンダーは抵抗しない。
プライドは高いようだが、それでも自分が負けた、という事実は理解しているらしい。
これなら大丈夫だろう、と手を離してボールへと戻す。
それからリシウムへ振り返り。
「もういい?」
「おっけ……わーったっての。どうやったのかって聞きたいとこだけど、ま、そんなのはマナー違反だし。約束は守るよ。うちのジム使いたいなら好きにしなよ」
「助かるわ……取り合えずジムチャレンジ始まるまでに一通りはやっておきたいしね」
ジムチャレンジについてユウリから色々話は聞いているが、それでもやはりリーグ戦……ファイナルトーナメントまで時間が少ないのにジムチャレンジでさらに時間を削られていく以上、そこまでにどれだけ準備を積み重ねられるかが重要となる。
一番の懸念だった育成環境については『ひこう』ジムを借りられることが決定した以上はこれからはパーティメンバーを揃えることが必要になるだろう。
「ところでさ」
「あん?」
その中で一つ。
かなり気になっていることがある。
パーティメンバーについて、どんなパーティを組むのか、そのためにどんな面子を揃えるべきなのか、色々考えるべきなのだろうがその前に一つ。
「サンダーがいるってことは、あとフリーザーとファイヤーとかもいたりするの?」
可能ならば全員揃えたい。
そんな欲が私の中にあった。
* * *
残念ながらリシウムはフリーザーとファイヤーについての情報は知らないらしかった。
だがいるのはいるらしい、リージョンフォームのフリーザーとファイヤー。
サンダーと同じく滅多に人前に現れないためほとんど分かっていることが無いらしい。
そもそも何故サンダーがワイルドエリアにいたのか、それを考えると……。
「ユウリ、フリーザーとファイヤーについて何か知らない?」
「ん? 知ってるよ!」
凄まじくあっさり情報源を見つける。
どうしたのかと問うユウリに、今日サンダーを捕まえたことや、他の二匹も捕まえたいことも含めて話す。
「あー、うーん。一応知ってるのは知ってるんだけど……まだそこにいるかは分からないよ?」
「どうせ他にアテも無いし、構わないわよ」
「そっか。取り合えず私が前に捕まえようとした時はフリーザーは『カンムリ雪原』を飛び回ってたよ」
「カンムリ雪原?」
「うん、ここからさらに南のほうの地域なんだけどね。ブラッシータウン駅からでも行ける場所なんだけど……パスがいるから行くなら予約しておいたほうが良いよ!」
「分かったわ……取り合えず後で予約しておきましょう」
しかし、雪原か……。
「寒い、わよね?」
「すっごく寒いよ」
「うーん」
正直に言おう。
私は寒いのがすごく苦手だ。
この辺も母さん譲りの体質らしい。
裁縫の得意な母に作ってもらったコートがかなり温かいので今は何とかなっているが、ガラル地方自体が結構気温が低めなのにこれ以上寒いところ、となると私がきついかもしれない。
「あーちょっと大きめだけど私が着てた防寒着着る?」
ごそごそとクローゼットを漁り、やがて引っ張り出してきたのはオレンジ色の生地の厚手の防寒着だった。
ユウリのものらしい防寒着を体に当ててみるが……。
「大きいわね」
「ソラちゃんはちっちゃくて可愛いね!」
「うっさい」
鏡の前で自分の体にあてて比較してみると悲しいほどのぶかぶかだった。
とは言え着れないほどではない……か?
「少し裾とか折って仕立てちゃおうか」
「良いの?」
「うん、ちょっと貸してね」
そう言って裁縫導具を出したユウリが手慣れた様子で衣服に針を通していく。
「私が今度着る時のためにほどけるようにはしてあるから、余り無茶な運動はしないでね」
「……ま、逃げなければ」
サンダーのように走り回られると困るが……さてどうなることやら。
「ああ、そう言えばファイヤーのほうの居場所は知ってる?」
「前に私が捕まえようとした時はヨロイ島にいたよ」
「ヨロイ島?」
「アーマーガアタクシーを使って行ける場所でね、マスター道場っていう私の何代か前の元チャンピオンが開いてる道場があるんだよ」
「自由ねえ」
「と言っても道場の秘伝は私がもらっちゃったから今はただの道場だけど」
「秘伝……も気になるけど、まあ元チャンピオンに見てもらえるってだけで『ただの』道場ってことは無いわね。それで、そこにファイヤーがいるの?」
「うん、島のところどころに人工物はあるけど、大半は手つかず……というか自然のままに置いておかれた島でね、そこにファイヤーが飛びまくってたよ」
「なるほど」
「因みにヨロイ島に行くにもパスがいるから注意だよ!」
「何? そっちもなの?」
行けるのは一方。
さて、どちらに行くべきか……。
種族値の暴力に味を占めた女ソラちゃん。