「遠いわねえ……」
ブラッシータウン駅から列車に乗って終着駅からさらにアーマーガアタクシーを乗り換える。
それでようやくたどり着いた先が『ヨロイ島』だ。
聞いた話によればこのヨロイ島、なんと『個人所有』の島らしい。
町の三つや四つくらいは収まりそうなほどの広大な島だが、元は無人島で人の手も入っておらず、ワイルドエリアとは別の形で自然の形がそのまま残っているらしい。
そのため、ガラル本土では見かけないようなポケモンも生息しているらしく、珍しいポケモン目当てに島を訪れるトレーナーや、人工物のほとんど無い自然のままの風光明媚な景色を楽しみたい観光客などが偶に訪れることもあるんだとか。
何よりこの島には島の所有者にして元ガラルチャンピオンが開く『マスター道場』なる修行場があるらしく、そこへ入門せんとするトレーナーの存在もあってこうしてガラル本土から直通のアーマーガアタクシーの駅が存在しているらしい。
ここに来る途中、空から島を一望できたのだが何ともまあ自然の色の濃い土地だ。
一歩駅から踏み出してみれば、比較的に寒い地方のはずのガラルなのに、まるで南の島のビーチにでも迷い込んでしまったかのような錯覚を起こす。
さすがに気温自体は2月ということもあって低めだが、さざめく波に白い砂浜……そして遠くに見えるサメハダーの背中は故郷のホウエンを彷彿とさせた。
「バトルリゾート……バトルハウス……50連戦、う、頭が」
嫌な思い出に思わず顔をしかめながら、浜辺を道なりに歩いていく。
正直、どこに何があるのかさっぱりなので一先ずユウリの言に従って『マスター道場』を目指すことにする。
―――マスタード師匠ならソラちゃんが探してるポケモンのことも知ってるよ!
とのことらしい。
マスタード師匠……というのが元ガラルチャンピオンでこの島の主でもあるマスター道場の道場主の名前だそうだ。
ユウリも道場でバトルについて学んだらしい……チャンピオンになった後で。
普通逆では? と思うかもしれないが、実際のところチャンピオン就任当時はまだユウリ自身、自分でも自覚するくらいには未熟だったらしい。
何せ私と別れてからバトルの勉強を始めたとは言え、たった二年、三年程度。
しかもモンスターボールを握ったこと自体去年のジムチャレンジ開始前が初めてだと言うのだからさもありなん。
まあ逆に言えば、そんな未熟な状態でガラルのトップに立って、そこからさらに多くを学んでもっと強くなった、ということでもあるのだが。
―――チャンピオン戦について、ユウリは何か思うところがあるらしい。
私との約束……を別にしても、だ。
私はその当時のことを知らないので、ユウリから聞いた話とその時のユウリの様子から察する程度ではあるが、ユウリ自身が今の自分の境遇……或いは待遇に納得しているわけではない、と言ったところか?
多分それは増長しているとかではなく、寧ろ逆の意味で……。
だからチャンピオン就任後、さらに強さを求めた。
強くなって、そしてどうしたいのか……それは分からないが、ヨロイ島へ行き、バトルを基礎から磨き直し、カンムリ雪原へ行き伝説に語られる怪物たちと戦って自らの強さを確かなものとした。
その理由は……。
いや、これはきっと私が考えるべきことではない。
「求められてもいない感傷なんて不要ね」
ただの憶測でユウリの心情を量るものではないだろう。
少なくとも、私が同じことをされたら死ぬほど腹が立つと思うので。
だから口を閉ざし、言葉を止める。
気持ちを押し付け合うばかりが友情ではないだろう。
少なくとも私はそう思うから。
* * *
何とも変わった建築様式の建物だった。
何となく実家にも似た雰囲気は感じるが、横に広い一階建ての瓦屋根の道場は本当に同じガラル地方なのかと疑いたくなるほどに『文化』の隔たりを感じた。
その外観に驚きながらも入口の戸を開く。
入口の先に広がっていたのは、『かくとう』道場によく似た木目の床に胴着を着た門下生らしきトレーナーたち。
中央のバトルコートでは今まさにバトルが行われていた。
「ヤンチャム! ローキックっす!」
「負けるなワンリキー! からてチョップだ!」
黒と白のツートンカラーが特徴のやんちゃポケモンのヤンチャムと未進化だというのにすでにパワフルな動きで相手へチョップを繰り出すかいりきポケモンのワンリキーだ。
両者共に『かくとう』タイプのポケモンであり、内装も相まってますます『かくとう』道場のようにしか見えない。
「おんや? 見慣れない子がいるねー? チミはワシちゃんの道場に何か用かなー?」
そうしてバトルを見ているとすっと、真横から声が降って来る。
ぴくり、と肩を震わせながら視線を向ければ青銅色のジャージを着た老人が笑みを浮かべ立っていた。
「えっと、勝手に入ってごめんなさい……ここにマスタードさんって人いる?」
「うふふ、ワシちゃんがマスタードだよん。それでチミはどちらさん?」
「私はソラ……ユウリに話を聞いて訪ねて来たんだけど」
ユウリの名を出した途端に、老人……マスタードが目を丸くし、破顔した。
「ユウリちんの紹介ならウェルカムだよん、まあ元々マスター道場は誰でもウェルカムだけどねん」
何というか、独特な喋り方の人だなあ、とは思いつつもそれが不快にならないのはあの人の良さそうな笑みのお陰なんだろうな、とも思う。
ただまあ聞いていた通り……ただ自然体でそこに立っているだけではあるが、何とも言えない『厚み』を感じる。
歴戦のトレーナーから感じるものと同じ多くの経験を積んだトレーナー特有の『深さ』と『厚み』が確かにあって、言動だけ聞けば確かに強そうには見えない老人だが、その気配だけは元チャンピオンというのも納得できた。
「それでチミはマスター道場に入門希望な感じ?」
「あ、いや……このヨロイ島で捕まえたいポケモンがいるんだけど、島に詳しい人なら知っていないかなって」
「うふふ、おっけーよん。この島のことならワシちゃんだいたいなんだって分かるから、なんでも聞いてねん」
とのことだったので、今私が欲しいポケモンの特徴を告げると、少し考える素ぶりをしてからぽん、と手を打って。
「それだったら分かるよん。後で分布データ送ってあげるねん」
「ホント? ありがとう、助かるわ」
「お安いごようだよん」
そう言ってジャージのポケットから取り出した小型の電子機器をぽちぽちと操作すると私のスマホロトム宛てにデータが送信されてくる。
「ところでソラちんにお願いがあるんだよね」
「は? え、あ、うん……えっと、何、ですか?」
「ユウリちんの紹介ってこともあるし、ソラちんのバトルの腕、見せてくんない?」
さてじゃあ早速捕獲に行こうか、と思ったところに突然の待ったがかかり戸惑ってしまう。
ただまあこうして台詞と共にボールを突きだされ、バトルを申し込まれた以上は。
「良いわ! 少し派手に行くから精々吹き飛ばされないようにしなさいな」
「うふふ……楽しくなってきたねん」
相手は元チャンピオン。
現チャンピオンの打倒を目指すならばこのくらいは超えて行かねばなるまい。
ちょうどバトルコートでバトルが終わったらしく、マスタードがコートの傍らに立つ胴着姿の青年に何か告げると周囲がざわめき立つ。
「ソラちん、準備おっけーよん。さあ、やろっか」
おいでおいで、と手招きされたのでバトルコートへと立ち。
「しっかり立ってなさいな、でないと」
ボールを構え。
「彼方まで吹っ飛ばされるわよ」
心の内側で撃鉄を落とした。
“ぼうふうけん”
* * *
―――勝った。
いや何というか、それしか言えないバトルだった。
何の波乱も無く、いっそ味気ないほどに順調に終わった。
「いやーソラちん強いね、ワシちゃん負けちったよ」
「よく言うわよ……全力で手抜いてた癖に」
使ったポケモンもレベル30か40ほどのコジョンドとレントラー。
ダーくんすら出す必要も無く、ガーくんとキューちゃんだけでどうにかなった辺り、本当に試していただけと言った感じだ。
「ソラちんだって全然全力じゃなかったよねん」
「当たり前でしょ、こんな室内で全力出したら道場吹っ飛ぶもの」
私の『おおあらし』は自然現象ではないのだ。
事実の書き換えによって『おおあらし』という天候を発生させているのだから、室内だろうと室外だろうと一切関係なく嵐は巻き起こる。
ただし閉塞した空間でやると風の逃げ道が無いため嵐を引き起こす爆発的なパワーが閉所で一気に爆発して嵐の爆弾が閉塞に穴を空けるどころか何もかも吹っ飛ばすほどの強大なパワーで爆発することになる。
道場が吹っ飛ぶだけならまだしも、室内の人間全員破裂して死にかねないほどの強風と風圧が炸裂する大惨事となってしまうような力、誰が全開で使うものか。
「うひゃー、怖いねー。まあ今回は腕試し、次やる時は……
一瞬鋭くなった視線に背筋がぶるり、と震えるが次の瞬間にはまた元の笑みに戻っていた。
何とも底の見えない老人である。経験から言わせてもらうならこういう相手は厄介なのだ。
「それで、何がしたかったのよ」
先ほどのバトルに湧きたちながらも練習に戻る門下生を他所に道場から出て歩く。
「本気でただの腕試しだけだったわけじゃないでしょ」
このヨロイ島は毎年多くのトレーナーが訪れる。
本土に居ない珍しいポケモンが欲しいだけのトレーナーもいれば、過酷な自然環境の中で自らを高めようとするトレーナーもいる。
そんなトレーナーたちが誰も道場に寄らないのか、なんてことを考えればきっと無いだろうし、そんなトレーナーたちを相手にみんなあんな腕試しをやっているのか、と言われたらきっと違うだろう。
ユウリの紹介だったから、というのも考えられるがそれでも初対面の人間にいきなり、というのは少し強引ではないだろうか。
いや、もしかたら本当にただの腕試しだった可能性も?
と考えていたのだが。
「うふふ、ソラちんは鋭いねー。実はそんなソラちんの腕を見込んでちょっとお願いがあるんだよねー」
どうやら本当に何かあったらしい。
* * *
「うーん」
ダーくんの背に乗り、凄まじい勢いで駆け抜けていく景色を見やりながら唸る。
極端に疲労しないような適度なペースを保ちつつ、『おいかぜ』を吹かせて背を押してやっているのでしばらくスタミナの心配は無さそうだった。
「厄介事押し付けられた感じはするんだけど」
マップで現在位置を確認する。
目的地までの道のりを辿れば、確かにこのままで良いようだ。
『清涼湿原』を抜ければ一気に足元がしっかりとしたものになる。
硬い土を踏みしめて走るダーくんの速度は先ほどまでの比ではない……ただし揺れが酷いのが難点だが。
「あいたたた……鞍でもつけようかしら」
まあそこまでするなら素直に自転車に乗ったほうが良いのだろう。
スマホロトムで地図を確認しながら進みたかったのでダーくんに乗っているが、目的地までもう迷うようなところも無さそうだし、自転車で行っても良いのではないだろうか、という気もしている。
そんなことを考えているとダーくんが突然速度を緩める。
一体どうした、と考えている内にやがて足を止め……。
「ギャォォ!」
「どうしたのダーくん……って、ここ」
目の前に広がるのは大きな洞窟の入口。
どうやらいつの間にか目的地の手前まで来ていたらしい。
「中はそんなに複雑じゃないらしいし、ここを抜けたら目的地ね」
呟きながら『慣らしの洞窟』へと足を踏み入れる。
サンドにカラカラと『じめん』タイプのポケモンが多く見える。
だがよく見れば他にもガルーラやラッキーと言った珍しいポケモンもいた。
足を踏み入れ、歩いてみるとすぐにあることに気づく。
「何か外より暖かいわね、ここ」
洞窟であり、日の光が差さない故に外より寒くなるのが洞窟という場所のはずなのだが、何だか外より気温が高い。
「って、コータスがいるじゃない」
洞窟の片隅が何かぼんやりと光ってると思ったら、コータスがもくもくと煙を吐き出していた。
この洞窟が何だか暑いような気がするのはそのせいか。
しかも一本道ながらもいりくねった道の影響か風の通りが悪い。
端的に言えば湿度が高いのだ。
そのせいで先ほどからじんわりと汗ばんできた。
「換気したいわね」
個人的に寒いのよりは暖かいほうが好きだ。
ホウエンの出身はだいたいその傾向にあると思う。
ただ汗をかくのは……まあ少し気になってしまう。
力を振るえば風を吹かすことくらいはできるのだが、無暗に野生のポケモンの生息環境を荒らすと厄介なことになりかねないので我慢しながら歩いてしばらく。
我慢しきれず自分の周囲にだけ風を生み出して涼みながら歩いていると前方に光が見えた。
「ゴール、ね」
光に向かってさらに歩いて見えてきた洞窟の出口を抜ければ。
―――『鍋底砂漠』に出る。
「ここにいるのね」
マスタードからの依頼の対象。
「砂海竜が」
今作は割とぽんぽん仲間増やしていくよ。
まあ『ひこう』縛りあるから最大でも10体あるかないかくらいだけど……あれ前作と変わらない気がする(
マスタード戦はカット。
理由? 正直戦うとは思ってなかったからデータ作ってなかった(
オールアドリブの弊害だね……。
本気のマスタードと戦う時はちゃんとデータ作るわ。
それまでにソラちゃんのパーティ完成させる必要があるけど。