ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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岩鳴り散らす大地の共鳴

 ―――ギャォォォォス!

 

 ボールから飛び出したダーくんが、飛び出した勢いのまま走り出す。

 

 “らいとううんぽん”

 

 ぐんぐんと速度を上げ、全力疾走で瞬く間にギャラドスとの間を詰めて。

 

「貫け!」

 

 “ドリルくちばし”

 

 ギャラドスが反撃の一手を出すより早く、その身に纏った砂礫の鎧の隙間……『急所』を的確に貫く。

 硬質化した砂礫の鎧も、けれど『急所』に当てれば意味の無い産物だ。

 ダーくんとの相性は極めて良いと言える。

 

 ―――ゴォアアアアアアアアアアアアア!

 

 ギャラドスが悲鳴を上げながらも怒りに身を任せながら反撃にその身を大きく振りかぶり。

 

 ―――叩きつける。

 

 “ じ し ん ”

 

 その巨体由来のパワーから放たれた圧倒的なまでの振動が大地を揺らし……。

 

「無駄、無駄、無駄!」

 

 飛んでいないダーくん含め、全員『ひこう』タイプ故にその攻撃は無意味と化す。

 『タイプ』相性とは物理的な物ではない。飛んでいないから、地面に足をつけているから技が当たる……なんてのは違うのだ。

 

 『ノーマル』タイプが『ゴースト』技を受けても平然としているように、『ゴースト』タイプが『かくとう』技を受けてもまるで無意味と為すように。『フェアリー』タイプが『ドラゴン』技を受けても微風に吹かれた程度にしか感じないように、

 『ひこう』タイプのポケモンは根本的に『じめん』タイプのエネルギーを受けつけない。

 当たるとか当たらない、とかそれ以前の問題なのだ。

 とは言え足場が揺れて走りづらいのもまた確かで。

 

「ダーくん! ジャンプ……からのキック!」

 

 こちらの指示に従って、ダーくんがその場で跳躍。

 少し訓練すれば『とびはねる』なども覚えそうなほどの跳躍力で跳びあがり、羽をばたつかせながら滑空して落下方向を制御。

 重力に引かれるままに勢いをつけて。

 

 “らいめいげり”

 

 その頭部を蹴り上げる。

 頭部はほとんどの生物にとっての『急所』だ。

 常に高い位置にあって狙いづらい場所ではあるが、上からなら寧ろ狙いどころではある。

 

 二度目の攻撃、だが先ほどの『ドリルくちばし』ほどのダメージを感じないところを見ると、やはり『ひこう』タイプも複合しているらしい。

 

「この『おおあらし』の中で平然と動いてるからおかしいとは思ってたけど……また『ひこう』タイプなのね」

 

 どう足掻いても私は『ひこう』タイプを使うことを最も得意とし、同時に相手にすることを苦にするらしい。

 この短期間でこれだけ強力な『ひこう』タイプと続けざまに会うなど、ホウエンに居た頃では考えられないような話だ。

 

 頭を揺らされ一瞬ぐらついたギャラドスだったが、それでも先ほどよりはダメージは軽いと反撃とばかりにその尾を揺らして。

 

 “ステルスロック”

 

 砂礫の中に転がる岩の塊を尾を弾き飛ばすと、あっちこっちに岩が飛び散る。

 しかも飛び散った岩がまるでその場に張り付けられたように固定される。

 

「ステルスロック……厄介なもの仕掛けられたわね」

 

 バトルコートなら交代際にダメージを受ける程度の技だが、野生戦だともう少し面倒が増える。

 というかバトルコートに仕掛けられたなら『おおあらし』でもろとも吹っ飛ばすだけなのだが、吹っ飛ばしてもそこら中に岩なんて転がっている。

 これを全部吹っ飛ばすくらいまで出力を上げると、持続時間のほうに問題が出てしまう。

 

「でもこれに何の意味が……?」

 

 仕掛けられたのは今戦ってるこの場所自体では無く、この場所をぐるりと取り囲むように一回り外だ。

 移動範囲を狭められたくらいの意味はあっても、走っている最中に当たる危険性はほぼ無い。

 だが何の意味も無くやったことだとはどうしても思えない。

 

 すでに二発、ギャラドスはダーくんの攻撃を受けている。

 

 ダーくんが侮れない強力な相手だという認識はあるはず、警戒もしているはず。

 ならここに来て無意味な一手は取らないはずだ……。

 

 だったら、この岩には何の意味がある?

 

 その答えは直後に出る。

 

 

 “ じ し ん ”

 

 

 再び巨体を持ちあげての大地への叩きつけ。

 どぉぉぉん、と地響きがすると同時に大地が大きく揺れて。

 

 “さばくをおよぐりゅう”*1

 

 撒き散らされた『ステルスロック』へ『じしん』の揺れが響き渡り、まるで『ステルスロック』をスピーカーにするかのように『振動』が空気を伝って『空間の揺れ(音技)』となって耳を揺らした。

 

「ぐっ……あっ」

 

 三半規管を揺らされ、平衡感覚を失う。

 咄嗟に膝をついて倒れるのを拒否するが、頭の中がぐわんぐわんと回っていて、耳の奥に未だに『音』がこびり付いている。

 揺れる視界の中でダーくんが同様に揺れているのが見えた。

 

「キュー……ちゃん!」

 

 上空で待機しているはずのキューちゃんへと指示を出す。

 

 “ちょうおんぱ”

 

 僅かの時間稼ぎでも良い。

 『こんらん』させている間に、ダーくんが復帰できる。

 そんな予測の下の指示だったが、元の命中は5割少々だ……放たれた音波はけれどギャラドスに命中しない。

 そうしてこちらが立て直すより早く、ギャラドスが追撃に移ろうとして。

 

 “クロガネのつばさ”

 

 上空から飛び掛かったガーくんがその邪魔をする。

 

 

 ―――グォォォオオオオ!

 

 “かみくだく”

 

「キュワァァァォォォォ!」

 

 “クロガネのつばさ”

 

 邪魔だ、とばかりにギャラドスがその大きな口を開く。同時にその口の前にエネルギーでできた牙が現れ、ガーくんを攻撃する。

 痛みを堪えながらガーくんが二度目の攻撃を出すが根本的に能力値が足りていないのか、さほどのダメージにはなっていない。

 

 だが。

 

「ナイスよ、ガーくん」

 

 起き上がる。

 先ほどまでの揺れはすでに収まった。

 ダーくんも同様、すでに立ち上がっていつでも戦える準備はできていた。

 

「まさかステルスロックをこんな風に使うなんてね」

 

 特異な個体や長く生きた『ぬし』などはトレーナーに仕込まれずとも、自らの技を組み立てて裏特性を獲得することがあるらしい、とは知っていたがまさかここまで完成度が高いとは思っていなかった。

 

 ()()()()()()

 

「つまりあれがあると問題になるのね」

 

 ぱん、と両手を打ち付け、鳴らす。

 それをスイッチとして『おおあらし』の勢いが強まっていき、周囲にあったはずの『ステルスロック』を一息に吹き飛ばしていく。

 これでもう先ほどの『じしん』は使えない……。

 

「この状態が維持できるのは……まああと三手、四手ってところね」

 

 その間に『詰ませる』必要がある。

 

 だから。

 

「ダーくん!」

 

 現状の最大戦力へと指示を出した。

 

 “ドリルくちばし”

 

 “かみくだく”

 

 放たれた一撃に、負けじとギャラドスも応戦する。

 先ほどの『じしん』のダメージのせいかダーくんの動きが鈍い、だがギャラドスもまたダメージを隠しきれていない。

 

 先ほどよりも互いに弱った一撃がぶつかりあい……ギャラドスが撃ち負ける。

 

 両者の技の威力に差異は無い……だが、いや、だからこそ天候とタイプの差で『ひこう』技を出したダーくんが勝つのは道理と言える。

 ぐらり、と態勢を崩したギャラドスにダーくんがすかさず追撃を放ち……。

 

「ぶち抜きなさい、ダーくん!」

 

 同時に二つ目の撃鉄を振り下ろす。

 

 

 “しんくういき”

 

 

 『おおあらし』が収束してダーくんの下へと集っていく。

 互いに『ひこう』タイプなのでダーくんの時のように行動制限はかけられないが、それでも。

 

「―――ギャアァァァァォオオオオオオ!」

 

 “らいとううんぽん”

 

 “ドリルくちばし”

 

 『おおあらし』のエネルギーを全て解き放つかのような暴風と共に撃ちだしたダーくんの一撃がギャラドスの『急所』を的確に貫いて……。

 

「ゴ……ガ……」

 

 さしもの威力にギャラドスも耐えられずにその身を倒……。

 

 

 ―――ゴガアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

 ―――倒れない。

 

「なっ……まだやる気?!」

 

 すでに『ひんし』限界のはずの体力で、けれどギャラドスが大きく息を吸って。

 

 

 “さかいのぬし”

 

 

 『すなあらし』を吐き出す。

 すでに『おおあらし』が解除されているため再び周囲に『すなあらし』が発生しだす。

 同時にギャラドスが技を放ち、硬直したダーくんを見据え……。

 

 “かみくだく”

 

 反撃の一撃を放ち、ダーくんが限界を迎える。

 すでにあの『じしん』で『ひんし』寸前まで追い詰められていた体を無理矢理に動かしての一撃だったのだ。追撃の一撃に最早耐えられるはずも無い。

 

「ま……ずい」

 

 最大火力のダーくんがやられた。

 そして天候も書き換えられてしまった。

 もう一度『おおあらし』にするにはまだ時間がかかる……少なくともこの戦闘中にもう一度能力を使うことは無理と考えるべきだ。

 

 だが相手もすでに限界寸前のはず……ならあと一撃見舞えば。

 

 そう、考えたところで。

 

 

 “すなあつめ”

 

 

 ギャラドスの全身が再び砂礫を纏い始める。

 同時にその身に宿る力が急速に回復していくのを感じる。

 

「ガーくん! キューちゃん!」

 

 咄嗟に叫ぶ。

 これ以上時間をかけたらこちらが『詰む』。

 それを理解し、同時にすでに王手がかけられていることに歯がみする。

 

 “ドリルくちばし”

 

 『すなあらし』の視界不良の中だが、ギャラドスが回復のため動かない……だからこそガーくんの技が命中し、けれどダメージが回復に追いつかない。

 

 続いてキューちゃんがその身に集めた『みず』のエネルギーを放とうとする。

 

 ―――これで落ちなかったら、詰みだ。

 

 回復しきったギャラドスにこちらが撃てる手が無くなる。

 

「キューちゃん! ()()()!」

「ぴーひょ!」

 

 自分のポケモンにそんな無茶振りすることしかもうできないことに、歯がみする。

 けれどそんな私の無様に、それでも任せろ、と応えるかのように、キューちゃんが声を挙げて……()()()()()()()()()()

 

「あっ……」

 

 呆然としながらその光景を見つめる。

 

 徐々に、徐々に、光に包まれたキューちゃんの姿が大きく……変わっていく。

 少しずつ少しずつ、その姿は変わる……鳥の姿から()()姿()()()

 

「え……あ……」

 

 そうして―――。

 

 

「ひゃっほーい! 私におっまかせだよ、トレーナーさま!」

 

 

 ―――光が収まると共に、そこに一人の少女が立っていた。

 

 “あめふらし”

 

 ぽつ、ぽつ、と『すなあらし』が止んでいくと入れ替わりに空から雫が落ちてくる。

 やがてその勢いは加速度的に増していき、すぐさまざあざあと猛烈な勢いで雨が降って来る。

 

 “みずのはどう”

 

 滴り落ちる雨の雫がギャラドスの姿を露わにすると同時に空に舞う少女がその手に宿った『みず』のエネルギーを収束……解き放つ。

 

「グ、ゴアアオォォォ……ッ!」

 

 弱点タイプの、それも『あめ』によって威力の強まった一撃にさしものギャラドスも限界だと言わんばかりに悲鳴を上げて―――。

 

「今っ!」

 

 硬直した一瞬の隙をついてボールを投げる。

 投げるチャンスは何度かあったはずだが、どうにも捕獲しようにもボールに収まってくれる確信が無かったのだが……今なら『入る』と確信できる。

 

 かたり、とボールが揺れる。

 

 …………。

 

 かたり、とボールが揺れる。

 

 ……………………。

 

 かたり、とボールが揺れて。

 

 ……………………………………。

 

 

 “かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。

 

 

 * * *

 

 

 図鑑を開けばそこには確かに自分の手持ちのはずの『キャモメ』だったはずの少女が載っている。

 

「キューちゃん?」

「はーい、そーですよ! ペリッパーに進化しましたので、今後ともよろしくですよ、トレーナーさま!」

 

 両分けにして垂らされた水色の髪を揺らしながら少女……キューちゃんが笑みを浮かべる。

 

 確かに白と水色のシャツに、黄色のハーフパンツ、髪の色も水色だしそれっぽいと言われればそれっぽい。

 何より被っている帽子が白、水色、白の二色で分けられ、両側の白地に目の代わりのボタン、ツバの部分が黄色くクチバシの代わりと見事にペリッパーの顔そのものだ。

 ところで肩にかけているバッグは一体どこからでてきたのだろう? リップル母さんとかも同じようなのを持っていたが……。

 

「擬人種になったのね」

「そーですね、なんか進化する時に『あ、これなんかいけそう』って思ったら気づいたらなっちゃってました!」

「あ、そう……まあなっちゃってたなら仕方ないわね」

 

 基本的に私の今のパーティもそうだしホウエンの時のパーティでも『擬人種』というのはアオ以外に居なかったので、何となく慣れない。

 アオもまた擬人種には違い無いのだが、アオの場合それ以上に弟というのがあったので気にならなかったのだが、こうしてポケモンが自分(ヒト)と同じような姿形をしていて言葉を喋るというのはなんというかこう……不思議な気分になる。

 いやまあそれを言ったら私の母親たちなんてほとんど元擬人種なのだが、母さんたちの場合はもっとシンプルに家族、或いは母親という感覚が先行していたのでそういう身内感覚を抜きに擬人種と接するのは多分これが初めてになる。

 

 そうして改めて接してみれば……戸惑うことが多かった。

 

「ボール、入れても大丈夫なのよね?」

「え、別に全然問題無いですよ?」

「そうよね……うん、ポケモンなんだからそうに決まってるわよね」

 

 そうしてボールをかざし、キューちゃんを戻す。

 人と同じ姿をした存在がボールの中に吸い込まれていくのを見ると、何とも変な気分だ。

 アオで何度も見たはずなのに……本当に今更過ぎる話。

 

「ふう……」

 

 嘆息一つ。

 

 とにもかくにもキューちゃんが進化したことは良いことだ。

 何よりも擬人種、ということは並の個体よりも強いことが確定しているわけで、今後を考えれば全く以って問題はない。

 

「何はともあれ……これからもよろしくね、キューちゃん」

 

 呟きながらボールを一つ撫でれば、かたり、とキューちゃんのボールが揺れた。

 

 

*1
相手の場の状態が『ステルスロック』の時、自分の出す『じめん』タイプの技が『音技』になり、『いわ』タイプを追加して相性の良いタイプでダメージ計算する。




>>エネミーデータ

【種族】“砂海竜”ギャラドス/変異種/特異個体
【レベル】82
【タイプ】じめん/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】されきのよろい(直接攻撃する攻撃する技で受けるダメージを半減し、相手から『みず』タイプの技を受けた時、『ぼうぎょ』が2段階上がる。)
【持ち物】さらさらいわ
【技】じしん/かみくだく/すなあつめ/ステルスロック

【裏特性】『さばくをおよぐりゅう』
天候が『すなあらし』の時、『とくぼう』が1.5倍になる。
天候が『すなあらし』の時、相手の命中が0.8倍になる。
相手の場の状態が『ステルスロック』の時、自分の出す『じめん』タイプの技が『音技』になり、『いわ』タイプを追加して相性の良いタイプでダメージ計算する。

【技能】『――――』

【能力】『さかいのぬし』
相手から攻撃を受けた時、5ターンの間天候を『すなあらし』にする。
天候が『すなあらし』の時、タイプ相性が『こうかはばつぐん』のダメージを3/4にし、毎ターン自分のHPを最大HPの1/8回復する。


【備考】
ギャラドスとサダイジャとの交配によって生まれた砂漠を泳ぎ陸地で生きるギャラドスという突然変異種。





特異個体と変異種の違いについて。

簡単に言えば『原種が特異な変化を起こす』のが特異個体で、『原種から生態が変わった』のが『変異種』。
実機で言うなら『色違い=特異個体』で『リージョンフォーム=変異種』ですね。
因みにデルタ種に関しては磁場による特殊環境における後天的に刺激による変化と定義するので当作品においては『特異個体』扱いになります。

まあだからどうしたって話ですが、一応の補足説明。







ペリッパーの擬人化イラスト可愛いのがあったので、キューちゃんは擬人化しました(

因みに詳しくは書いてなかったけど、昔々ドールズ時代(12,3年くらい前)までは擬人種……ヒトガタとは6V限定でした。
ただしドールズ時代に色々ありまして、現在では『個体値合計151以上(平均25以上くらい目安)』あれば擬人種になれます。
というわけで別にキューちゃんが6Vとかそんなわけではないです。

多分 H31 A4 B30 C28 D31 S27 くらい(アバウト

過去の擬人種は天才、今の擬人種は秀才、くらいに思っとけばいいです。

あとドールズ時代にも言いましたが、ゲームみたいに個体値が全部乱数で決まるとかそんなことは無いので、野生の環境の中で生きるために基本的に総じて個体値は高めになってます……低かったら生存競争に負けて死ぬからね。生き残ってるのは優秀なのが多い。
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