どうにかこうにか勝った、とは言え周囲は『すなあらし』に『おおあらし』にで荒れ果てているし、こちらの戦力は大幅に減じているということもあって一度マスター道場に戻る。
マスタードに依頼を完了したことを感謝されながらその日は一度帰還し、ダーくんたちをしっかりと休ませながら翌日もう一度『鍋底砂漠』まで向かう。
元々別のポケモンをゲットしようとここまで来たのだがとんだ回り道である。
まああんなのがいたんじゃのんびり探索もできなかったのも事実だが。
「それにしても、逞しいわねえ」
あのギャラドスを捕獲したのが昨日だと言うのに、すでにあちらこちらにポケモンが歩いている。
たった一日で環境の変化を察知し、すっかり元通りだ。
まあ昨日の戦いの爪痕はあちらこちらにと残されてはいるが……。
「それにしてもどうしたものかしらね」
考えるのは昨日捕まえたギャラドスだ。
『じめん/ひこう』の特異個体にして、陸棲の変異種。
潜在能力まで加味して言うならば文句なしの優良個体だ。
なんだったら多少の育成と技幅の調整くらいをすればそのままリーグに出せるかもしれないほどの。
ただ。
「どうにも好みじゃないのよねえ」
我が儘のようだが、私がもっぱら使うのは『鳥ポケモン』だ。
私の能力を考えると『ひこう』タイプならば使いに支障は無いが、けれど何というか……そう。
「好みじゃないのよねえ」
その一言につきた。
マスタードからはこちらで好きにしてくれて良い、とは言われているが逃がすにも無責任な話だし、そもそも野生に返したらまた暴れ出すのが目に見えている。
誰か良さそうなトレーナーに譲り渡すのが一番だろうか?
「ああ、そう言えばリシウムがいたわね」
まだよく知らない相手ではあるがあれで『ひこう』タイプジムのジムリーダーらしいので実力と人格面ではある程度の保証はあると言っても良い。
それに賭けの結果とは言え、ジム施設を借りても良いと言ってくれているのだから礼にはなるだろう。
単純に私の好みではない、というだけであのギャラドスが秘めたる強さは間違いなく一線級なのだから。
「ならまあそうしましょうか」
一つ懸念が片付いたところで本題だ。
「どこにいるのかしらね」
しばらく砂漠を歩いて探しているが、目的のポケモンは見つからない。
そうこうしている内に時刻が正午近く。
太陽が真上に昇り、日差しが一段と強くなってくる。
「あっついわね」
『おおあらし』でも呼んでやろうかと思いつつも周囲に風を吹かせるだけに留める程度に能力を使いながら歩いて……。
ちち、ちちち
小さなさえずりが聞こえた。
「ん……?」
そっと耳を澄ますと。
―――ぴぃぴぴぴっぴ
鈴のような澄んだ音が聞こえる。
それが目的のポケモンの鳴き声であることを理解し、耳を澄ましながら音の方へと歩く。
相手は小さな小鳥だ……ゆっくり、相手を驚かさないようにそっと。
そうしてさえずりに導かれるままにそっと岩の木陰を覗けば。
「みーつけた」
「ぴぴ?」
赤い上半身とグレーの下半身、そして黒と白の尾羽。
コマドリポケモンのヤヤコマ。
ガラル本土には居ないポケモンなので最悪の場合ホウエンかカロスあたりから取り寄せないとならないかと思っていたが、ここに居てくれて助かった。
「よーし、よし……ほら、おいで」
バッグからポケモンフードを取り出し、手のひらの中に転がすとそっとヤヤコマへ向ける。
「ぴ……? ぴぴ、ぴぃ!」
警戒心の薄そうな無垢な瞳でこちらを見やりながら、その視線が手のひら……の上のポケモンフードへと向く。そうして少しだけ観察するように見つめ、ちょん、とクチバシで突く。
「ぴ、ぴぃ!」
食べられる物だと認識したヤヤコマがちょんちょん、とポケモンフードをついばみ始める。
とは言っても体が小さいのでその勢いは遅いが。
たっぷりと時間をかけながら全て食べ終えたヤヤコマがけぷ、と息を吐くのを見計らって声をかける。
「ねえ、ヤヤコマ。私と一緒に来ない?」
「ぴぃ?」
首を傾げるヤヤコマによしよし、と頭を撫でながら未使用のモンスターボールを置く。
「お前がその気なら私がお前を強く育ててあげる。だから私と一緒に戦ってちょうだい」
「……ぴぃ!」
分かったのか、分かっていないのか……けれど何となくやる気になったのは感じる。
基本的にポケモンというのは強くなることには素直だ。
レベルを上げ、進化し、強くなる。それこそが野生環境の中で生きる方法だと知っているからこそ、野生のポケモンほど強さを求める。
図鑑で解析してみればまだほとんど生まれたばかりと言っても良いくらいレベルの低いこのヤヤコマも、けれどやはり野生環境に身を置いている以上、強さを求めるのは時間の問題で。
とん、とボールのスイッチをクチバシで突く、赤い光に包まれてヤヤコマの姿がボールに吸い込まれていく。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
* * *
一番欲しかったヤヤコマのゲットが終わったため、後このヨロイ島でやるべきことは一つ。
「どこにいるのかしらね、ファイヤー」
ファイヤーのゲットである。
とは言え、今日までの二日間、このヨロイ島の半分ほどは探索したと思うのだがファイヤーらしき姿を見ていない。
ユウリ曰く、捕まえようにも島中を飛び回っているせいでサンダーと同じく足止めしなければ見向きもされないのだとか。
ただ逆に言えば、島中を飛び回っているせいで目撃だけなら比較的容易らしい。
空を見上げて視線を彷徨わせていれば近くに、或いは遠くに薄っすらとでも見ることは可能だと言っていたのだがこの二日間で一度も見なかった、というのはなんともおかしな話だ。
「もうヨロイ島から居なくなったのかしら」
マスター道場で聞いてみたがいつの間にか見なくなった、とのことなので本格的にその可能性もありそうではあるのだが、問題はその場合、次にどこに行ったかさっぱり見当がつかないことだ。
この島にいる、と決め打ちしてじっくり探すか。
或いはもうこの島には居ない、と考えて本土のほうへ戻るか。
目撃情報だけ集めておいて、その間にフリーザーを捕まえる、というのもありだ。
はてさて、どうしたものか。
『チャレンジビーチ』の浜辺を歩きながらそんなことを考える。
遠くに見える塔のような建物は一体何なのか。
「灯台か何かかしらね」
それにしては木製だしそれっぽい感じは無さそうだ。
まあこの島の所有はマスタードなので、マスター道場のほうで使うような施設なのかもしれない。
なんて考えながらふと海のほうへと視線を移して……。
「ウッ?」
「ん?」
視界に入ってきた光景に一瞬思考がフリーズする。
海辺を青い鳥ポケモンが泳いでいた。
多分ペリッパーたちのような水鳥系の種なのだろう、それ自体は良いのだ、別にそこは問題じゃない。
じゃあ何が問題なのかと問われれば。
大きく開かれたクチバシにピカチュウらしき下半身が見え隠れしていることだろうか。
「え? え……え?」
じたばたとクチバシの間に挟まった下半身がもがいているのを見ながらそれを吐き出すでもなく、飲みこむでもなくぼけーと泳いでいるポケモンを見て、動揺が口から洩れた。
いや、だがこれに動揺するなと言われても無理だろう、それほどまでに衝撃的な光景だった。
気を取り直してスマホロトムから図鑑アプリを起動させ、スマホのカメラで
>>『ウッウ』
>>うのみポケモン
>>『ひこう』『みず』タイプ
>>『あいてを いちげきで うちまかすほど パワフルだが わすれっぽいので たたかっている あいてを わすれる』
>>『くいしんぼうで エサの サシカマスを まるのみするが たまに まちがえて ほかの ポケモンに くらいつく』
図鑑に表記された『ウッウ』なるポケモンの説明を見やりながら、改めて目の前の光景へと視線を戻す。
青い鳥が大きく開いた口から突きだしたピカチュウの下半身がじたばたともがいているのが見えた。
やっぱり凄まじい光景だと思わずぱしゃり、と写真を一枚。
「ふむ」
何の気なしに右手にボールを握って。
ひょい、と投げてみる。
ぽん、と軽く投げたボールが放物線を描いてウッウに当たり、その全身が赤い光に包まれてボールの中へ。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
「捕まったわね、あっさりと」
弱らせても無ければそもそもバトルすらしていないのに、一切抵抗も無くあっさりと捕まってしまったことに目を丸くする。
いやまあボールを投げたのは私だが、まさかこんなにあっさり手に入るとは思わなかった。
そもそも捕まえる予定の無かったはずのポケモンではあるが、何となく愛嬌のある顔をしているし結構気に入った……というか気に入ってしまった。
ウッウがボールに入ったので、後に残されたのは先ほどまでウッウに呑まれていたピカチュウ。
海の上からダイブしてしまったがすぐに泳いで浜に戻るとそのまま森のほうへ向けて走って帰って行ってしまった。
すぐ近くに川があるところを見ると、あの森から川に流されて海へ、そこでウッウに呑まれた……と言ったところだろうか。
まあそれはさておき。
これで手持ちが『ガーくん』『キューちゃん』『ダーくん』に新しく『ヤヤコマ』と『ウッウ』。
二匹のニックネームは後で考えるとして、これで五匹。
パーティの最大数が六匹なのでまだ足りない。
それにプロリーグに挑戦するなら使えるポケモンには幅が欲しいところだ。
少なくとも毎試合同じ面子で固定していれば対策されてあっさりと詰む可能性もある。
とはいえ私一人で育て切れるか、という問題もあるので……八体、ないし九体。或いは十体が限界と言ったところか。
図鑑で『ウッウ』の詳細なデータを確認しどんなポケモンなのか把握すると共にその育成方針を考える。
「キューちゃんと方向性被らない? 大丈夫これ?」
ただ育てるだけならともかく、『将来』の私のパーティを見据えた育成となると中々に手間がかかりそうだった。
* * *
道中全く関係の無い、予定も無かった鳥ポケモンを捕まえたりはしたがそれはそれとしてファイヤ-である。
可能性としては二通り。
島にいる/いない。
そんなシンプルな二択。
ただそこを論じたところで決着がつかないので仮にまだ島にいるとして。
何故出てこないのか、というのを考えてみるが答え出ない。
ならば発想を逆にしてみよう。
「以前は飛び回っていた……島中を、どうして?」
今居ない理由はともかく、以前島中を飛び回っていた理由を考えてみる。
基本的に鳥ポケモンというのは常時飛んでいるようなものではないのだ。
いくら『ひこう』タイプとは言え、普段は普通に地面を歩いたり木々の枝で休んだり、常に飛び続ける鳥なんてのは基本的にいない。
じゃあファイヤーが飛び回っていた理由は一体何か。
この場合あり得そうな答えとしては何があるだろうか?
「島を見ていた、地形を見ていた……何のために? 止り木を見つける? いや、それにしては長い間飛び続けていた、つまりもっと重要な……巣?」
一番あり得そうな答えを言うならば『巣作り』の下見、ではないだろうか?
もしそうだとするならすでに巣を見つけて、その周囲でしか活動していない、とか?
そう考えると当時飛び回っていたはずのファイヤーが見かけなくなった、というのも頷けるのだが。
もしそうだとするなら、一体どこに巣を作ったのか。
さすがに巣の周囲に足を向ければ反応して襲ってきそうだろうし、だとするならば昨日今日と歩いたヨロイ島地図の左半分くらいはファイヤーは居ない……だろうと推定する。
「向かうべきは島の東? それとも……」
ちらり、と視線を向ければそこに広がるのは大海原。
視界の奥にちらりとだが島のようなものが見えた。
もしあの辺りに住み着かれていたりするとこの海を渡っていくしかないのだが。
「いや、それは無いわね」
ダーくんを見るに、ファイヤーもまた食性は『魚』よりも『きのみ』の類が主食となるだろうことは予測に難くない。とするならば向かうべきは……海ではなく。
「森、かあ」
『集中の森』……ないしそこに隣接するエリアということになるのではないだろうか?