ばさり、ばさりと翼をはためかせてファイヤーが空中を飛び回る。
やりづらい、と思ってしまうのはやはり上を取られているせいか。
特性が『せいくうけん』*1でもいれば叩き落として数で囲めるのだが、格上に空を掌握されていると、こちらとしては数の利が生かし辛い。
『おおあらし』も明らかに『ひこう』タイプを持っていてしかも飛ぶこともできるあのファイヤー相手には逆に追い風になってしまうだろうし、ファイヤーに的を絞って妨害に使うには相応に集中がいる。
咄嗟の状況では使えないだろうし、何よりも神経を削る作業になるだろうから長期戦ができない……あの格上を相手にだ。
ダーくんも強さ自体は同じくらいなのだろうが、相性を考えるとやや不利か?
と、なれば。
「キューちゃん、戻って! ガーくん、こっち」
キューちゃんをボールへと戻しながらガーくんへ呼びかける。
そのまま足元のデデンネとホシガリスを拾って広場から再び森のほうへと入っていく。
それからホルスターからひっそりとボールを一つ取り出し、いつでも出せるように準備しておく。
「これで……どう?」
広場から一歩森へと足を踏み入れればそこに再び広がるのは鬱蒼と覆い茂った草木。
木々が寄り集まって空を隠してしまうほどに茂った葉が上からこちらを追うファイヤーの視界を隠す。
―――ギァァゥアア!
苛立つような声をあげながらファイヤーが木々の隙間を縫って森の中へと追って来る。
だが障害物の無かった空とは違い、鬱蒼と茂った草木が邪魔となって飛びにくそうにしている。
「今!」
“ぼうふうけん”
心の内で撃鉄を振り降ろすと同時にボールを投げる。
直後に『おおあらし』が森を中心として発生し、森の樹々を揺らしながら草葉を舞い散らせる。
突如の風と雨、そして視界を覆い隠すほどの草葉にファイヤーが動揺すると同時に一旦逃げようとして、けれど木々が邪魔でその行動が鈍った……瞬間。
「ダーくん!」
「ギィアォォオス!」
“らいめいげり”
三角飛びの要領で木の幹を蹴って空中に飛びあがり、そのままの勢いで動きの鈍ったファイヤーの『急所』を蹴り抜く。
予想外の奇襲にファイヤーがもろに吹き飛ばされ、木に激突する。
同時にこれ以上は抑えきれなくなりそうな『おおあらし』を解除する。ダーくんとファイヤーでは『おおあらし』の展開は寧ろファイヤーの利にしかならない。
だが今ので分かった。
ダメージよりも寧ろ衝撃で飛べなくなることを期待した『らいめいげり』だったが、『ひこう』で半減しておいてあのダメージ、ということはもう一つ『かくとう』タイプが弱点になるタイプを持っている。
ダーくんが『かくとう/ひこう』と原種と全くタイプが違うことを考えると寧ろ『ほのお/ひこう』のほうが違和感があるが。
どう見ても特殊型のアタッカーなのに『ふいうち』を打ってくるあたり……。
「『あく/ひこう』ってところかしら?」
少なくとも『ノーマル』や『こおり』『いわ』『はがね』タイプと言われるよりは納得できる。
というか『こおり』タイプや『いわ』『はがね』タイプは外見だけである程度体質的な部分にタイプの影響が見えるはずなので、それが見えないファイヤーは『ノーマル』か『あく』の二択で考えても良いはずだ。
そして使ってきた技や外見の色などから考えると推定『あく』が最有力だろう。
予想外ではあったが、結果オーライと言ったところか。
予想外の大ダメージ、急所に入ったのを込みで
―――ギィ……ガァ
のらり、とゆったりとファイヤーが体を起こす。
その動きは明らかに重い。ダメージがかなり入っているのが目に見えた。
ダーくんの存在を隠していたが故の一発限りの奇襲だったが、これは思ったよりすんなりと行けるか?
なんて……甘い考えでしかないと直後に思い知らされる。
“ぎゃくじょう”
―――ギィィアアアアアアアァァアアアアアアアアアア!
翼の赤い部分が強く発光する……まるで炎が燃え上がるかのように。
そうして。
―――ギァァァァォォォオオオオォォオオオオオ!!!
“オーラバーン”*2
炎が燃え盛るかのように激しくその全身から『オーラ』が噴き出す。
明らかに先ほどとは別格のように強化されたファイヤーがジロリ、とこちらを見つめ。
「ま、ずいっ!」
“もえあがるいかり”
放たれた黒い炎は先ほどの比ではない威力で森を破壊する。
咄嗟にその場を退避していなければ重傷を負っていたかもしれないほどの威力に冷や汗が流れる。
ダーくんもまたファイヤーの気迫に頭を低くして強く警戒する。
「―――戻って、ダーくん。来て、キューちゃん」
その直後に私がやったのは
代わりに出したのはキューちゃん。
あの全身に力が漲っている状態のファイヤーを相手に『急所』を抜けるダーくんは必須だ。
逆にダーくんがやられたら手詰まり……ギャラドスを置いてきたのが痛かった。趣味でなかろうと使えるなら使うべきだったか、と今更に思う。いや、あの気性では言う事を聞かない可能性もあるが。
幸いにしてあのギャラドスほどに体力は多くないらしい。
ダーくんの蹴り一発でかなりの大ダメージを負っていた……つまりあと一発、ファイヤーに守らせること無くあと一発ダーくんの一撃を見舞えれば、『ひんし』まで追い込めるはずだ。
問題はあのオーラである。
なんというか圧が凄まじい。
近くにいるだけで精神に来るものがある……私の場合、異能者であるが故にこういうのには割と強いほうではあるが、ガーくんとキューちゃんはまだ未熟故この精神の圧に押し負ければ身動きすら取れなくなるかもしれない。
さて……どうすべきか。
想像以上の強敵に、思考をフル回転させる。
幸いにしてファイヤーは先ほど受けたダメージを忘れておらず、ダーくんがいつ出て来てもいいように警戒を強め、身を固めているため考える時間はある。
思っていた以上にファイヤーが強い。
いや、単純に強さだけで言うならダーくんもそうなのだが、ダーくんを捕まえた時はまだ私の能力が使えた。『おおあらし』で足場を崩してダーくんの全力を発揮させず、こちらの数の利を生かして自滅に追い込んだ、というべきだ。
それでも危うい場面はあったが、今回の場合私の能力が使えない……使うと寧ろファイヤーにとって有利になってしまう。
となると実力的には互角でも上を取られている分相性の悪いダーくんとまだレベル的にはファイヤーにダブルスコアをつけられているだろうガーくんとキューちゃん。
付け入る隙があるとすればそこだろう。
ガーくんとキューちゃんはファイヤーから見て『敵』だとすら思われていない。
蹴散らせる雑魚、くらいに思っているのかもしれないが……トレーナーが使えば弱いポケモンだっていくらでも活用できるのはダーくんの時に証明されている。
この森という狭苦しい閉塞した環境下は地上を走るダーくんにとっては寧ろプラスになるし、移動手段が飛行のファイヤーにとってはマイナスになる。
ただそれだけではまだ弱い。
あの警戒心の強いファイヤーからいかにしてダーくんを隠し通し、必殺の一撃を通すか。
あと一手。
一手欲しい、と考えて。
「……あったわね」
「テチチ?」
「ちゃん?」
ぴくり、と足元で震える小さなポケモンたちを見て、笑みを浮かべた。
* * *
心の内側で再び撃鉄を落とす。
“ぼうふうけん”
発生した『おおあらし』が再度、ファイヤーの視界を覆い隠す。
先ほどと同じパターンは食らわないとファイヤーが飛びあがって周囲を警戒する。
その隙に私はダーくんの入ったボールを―――。
「
近くの茂みへと放り投げた。
当たり前のことだが、スイッチの押されていないボールが勝手にポケモンを解放することなどあるはずもなく、ボールだけがコロコロと茂みの中へと落ちていく。
同時に『おおあらし』を解除して……森の中、ファイヤーを背に走って逃げる。
―――ギィアォォォォ!
今の『おおあらし』を逃げ出す隙を作るためのと解釈したのか、少なくとも
「ガーくん! キューちゃん!」
投げた二つのボールから飛び出したガーくんが上空へと飛び上がり、キューちゃんが森の下を走って抜けていく。
二手に分かれた相手に一瞬迷ったファイヤーだったが、近いほうにいるガーくんへと飛び掛かり……。
“ぼうふう”
その翼を羽ばたかせながら荒れ狂う風を生む。
上へ下へと必死に翼を動かしながら逃げるガーくんだったが、やがて追い詰められて……。
“まもる”
咄嗟に展開した壁でファイヤーの攻撃を防ぐ。
だが連続して使うには難のある技であり、次のファイヤーの攻撃は防げない。
それを知ってか知らずかファイヤーが追撃せんと、力を溜めて……。
“ちょうおんぱ”
下から放ったキューちゃんの音波がファイヤーへと迫る。
だが直撃しなければ意味は無いとファイヤーが飛行して躱す。
けれどそれでもガーくんへの追撃の手は止み、その隙にガーくんが逃げる。
―――ギィアォォォ
逃げられたことに一瞬ファイヤーが目を細め……やがて眼を閉じる。
“わるだくみ”
ファイヤーに宿っていた力が跳ね上がる。
「キューちゃん!」
何をするつもりかは分からないが、厄介なことをするのは確実だろうと妨害のためキューちゃんに『ちょうおんぱ』を撃たせるが上手く躱される。
“わるだくみ”
二度目の『わるだくみ』でファイヤーの力が最大限にまで高まる。
そうして。
―――ギィ……ァオオオオ!
一瞬私を見て……
「なに、を」
“もえあがるいかり”
「っ! ガーくん、キューちゃん!」
直後に黒い炎がまるで雨のように降り注ぐ。
避ける場所などすでに無いと言わんばかりの範囲で、風で守れるなら守ってみろと言わんばかりの威力で放たれた攻撃に咄嗟にガーくんとキューちゃんの両方を呼び寄せて。
“まもる”
“まもる”
二匹に展開させた壁がファイヤーの攻撃を凌ぐ。
だがそれを待っていたとばかりにファイヤーが二度目の攻撃の準備をして。
「さ、せない!」
“ぼうふうけん”
咄嗟に心の内で撃鉄を落とし、『おおあらし』を展開する。
視界を覆う木の葉にファイヤーが……嗤った。
“ぼうふう”
嵐の力すらもその身にため込んで放たれた荒れ狂う風は『あめ』の性質を持つこの嵐のせいで必中の技となってガーくんとキューちゃんを吹き飛ばす。
私もまた咄嗟に風で防御したが、それでも威力を減じきれずに吹き飛ばされる。
「っつ……!」
木にぶつけた体の痛みに一瞬呻き、そうして目を開いたその目の前にファイヤーがいて。
―――ギィアァァァォ
どうだ、と言わんばかりに嘲った様子で人を見下すその姿に。
「馬鹿……なのはアンタよ、このマヌケ!」
呟きと同時にその背後から
―――ギィァォ?!
「ギャォォォォス!」
“らいめいげり”
勝ち誇った様子から一転して驚愕に目を見開いたファイヤーだがすでに遅い……わざわざ地上、私の目の前まで来てくれたお陰でダーくんの全力の蹴りが『急所』へと突き刺さる。
―――!!!
声にもならない悲鳴を上げながらファイヤーが森をごろごろと転がっていき……動かなくなる。
「とっとと……私に頭を垂れろ、この負け犬!」
痛む体を抑えながらボールを投げる。
投げられたボールがファイヤーの体にぶつかり、その全身を赤い光で包んでボールへと吸い込む。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
「お、終わった……あ」
それを見届けると同時に、全身から力が抜ける。
「ギャォ?」
「ありがとう、大丈夫。ダーくんも……良いタイミングだったわ」
こちらを心配する様子のダーくんに、強がりな台詞を言いながらもその頭を撫でる。
ギャラドス戦にファイヤー戦と激戦を潜り抜けたことでダーくんとも大分打ち解けてきた気がする。
こうしてこちらを心配して頭を擦り寄せてくることなんて捕まえた直後なら無かっただろう。
「テチチ!」
「ちゃん、ちゃん!」
そうしてダーくんの頭を撫でていると、草木の影からデデンネとホシガリスが出てくる。
その手には『オボンのみ』が運ばれていて、私の目の前に置くとどうぞ、とばかりに差し出してくる。
「くれるの? ありがとう」
少しずつ息を整えながら、差し出された『オボンのみ』を齧る。
口の中に広がる甘味に未だにバクバクと煩かった心臓が少しずつ少しずつ平常を取り戻していく。
「美味しい……ああ、アナタたちも、ありがとう。アナタたちがいなかったら負けてたわ」
ファイヤーから逃げる直前に茂みに投げたダーくんのボール。
何を隠そうそのボールのスイッチを押してダーくんをファイヤーの視界の外から解放してくれたのがこの二匹だ。
咄嗟の状況だったが、よくやってくれたと二匹を撫でると嬉しそうに身をよじる。
お陰でこちらがダーくんを出す素ぶりをファイヤーに見せないままダーくんが居ないことをファイヤーに気取らせずに済んだ。
それが無ければファイヤーの警戒心の外からダーくんが二度目の急襲を決めることはできなかっただろう。
『ひんし』状態になったガーくんとキューちゃんに『げんきのかけら』を与えて少しずつ回復させながら、ファイヤーの入ったボールを拾う。
「これで二匹目ね……自分で決めたこととは言え、しんどいわ」
手の中のボールを見やりながら、嘆息した。
【種族】ファイヤー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】78
【タイプ】あく/ひこう
【性格】ひかえめ
【特性】ぎゃくじょう
【持ち物】――――
【技】もえあがるいかり/ぼうふう/ふいうち/わるだくみ
【裏特性】『――――』
【技能】『――――』
【能力】『オーラバーン』
特性『ぎゃくじょう』が発動した時、自分の全能力を上げ、相手の全能力を下げる。
特性『ぎゃくじょう』が発動した時、場にいる間、相手の技の優先度を-1する。
ファイヤーがサンダーよりレベル低い理由?
サンダーのほうが殺る気満々で、ファイヤーは餌場見つけて慢心してたから(
ギャラドスよりさっくり終わったのは、基本的に耐久力の違いですね。あのギャラドス一応耐久力の向上と回復能力あったし。ギャラのほうが苦戦したように見えるのは『じしん』に『いわ』タイプ付与できるとかいうピンポイントにソラちゃんの弱点突いてたから。『らんきりゅう』レベルまで強く嵐巻き起こしてなかったから弱点食らってダー君が死にかけてた。
なのでファイヤーがギャラドスより弱いのか、と言われるとまともにバトルするとファイヤーが空に飛びあがって上から攻撃連打で終わる。ギャラドスは基本的に上空に対する当たり判定のある攻撃方法が無い。
逆に言えば今回みたいに森に引き込んで飛行能力に制限かけた上で、木々を足場にダーくんが空中戦できるようにしないとくっそ強いのは確か。