ガラル地方における『ポケモンジム』というのは他と比べ一風変わっている。
まず最大の違いとして経営者が違う。
勘違いされることが多いのだがジムリーダーに勝利することでジムバッジがもらえる『公認ジム』というのは
まずジムリーダーとなるべき人物がジムを作る。
これ自体はただの『非公認ジム』でありいわゆる私塾のようなものに近い。
次にジムリーダーがジムトレーナーたち門下生を集める。
そこで一定以上の功績などをあげ、公認ジム認定試験をジムリーダーが受け、合格することによって初めて『公認ジム』として認められる。
そうしてジムリーダーが『公認ジム』としての認定をリーグから得ることによってジムバッジの製造を許可されるようになると同時に、ポケモンリーグ傘下のジムとなる。
ただし先も言ったように『公営』ではないのだ。
正しく言うと『ポケモンリーグ』側から補助金などが出る代わりに、有事の際の協力やそれ以外にもポケモンリーグ公認の公式試合への従事など一定の助力を求められる。
ただし経営自体は『ジムリーダー』が行うし、あくまでジム自体はジムリーダーの所有だ。
ただこれもまた『基本的には』という前置きがつく。
例えばホウエンのトウカシティジムの例を挙げると、ジムリーダーのセンリはジムリーダーとしてトウカシティジムを運営する権限はあっても経営、所有する権利は持っていない。
これは最初にトウカシティジムを作り上げたジムリーダーがすでに引退して経営側に回っているからであり、要するにセンリは雇われジムリーダーなのだ。
この例のように『公認ジム』も二代目以降は所有と運営が別れるようになり、その際に新しいジムリーダーをポケモンリーグを通して融通してもらうことが多い。というか現在における『公認ジム』の大半はもうすでに三代目、四代目であり、その間に半ば『公営』のようになりつつあるのも事実なのだが。
この際にも当然ながら新しくジムリーダーとなる人物は今度は『ジムリーダー認定』のための試験を受けてもらう必要がありこの試験を通ると『ジムリーダー』としての資格を得ることができる。
というのが他地方におけるジムとジムリーダーの制度であり。
ガラルにおけるポケモンジムとはその全てが完全なる『公営』なのだ。
理由としてはガラルリーグのその形式にこそある。
まあ単純な話、ポケモンジムを新設することそのものがそのままイコールでリーグ挑戦への優先権に等しいからだ。
故にガラルリーグの実務であるリーグ委員会にジム申請を申し出ることでジムを新設するのだが、基本的に現状のガラルで18タイプ全てのジムが存在しており、これ以上のジムを増やすことはほぼ不可能に近い。
だったら個人で作ることは可能か、と言われると可能ではあるが……それは結局のところポケモンスクールと大して違いなど無く、私塾の域を出ないものでしかない。
最も重要なリーグ挑戦権が無いのだ。
故にガラルのポケモンジムは基本的に各タイプに一つずつ。
そしてそのジムリーダーの座は往々にして先代ジムリーダーから認められた者が継承する。
選定基準はジムリーダーごとに様々だ。
単純な強さを理由に選ばれた者。
人気が出そうだからこそ選ばれた者。
自らの感性に響く何かを持つが故に選ばれた者。
まあ本当に様々なのだ。
まあそれはさておいて。
先も言った通り、ガラル地方におけるポケモンジムは全てリーグ委員会へ申請することで新設される。
つまりジム施設なども全てリーグ委員会が用意してくれるのだ。
じゃあそれらをどこに用意するのか、と言われると……。
基本的に主要な街は『ジムチャレンジ』の際に使われるので、却下。
かと言って過疎地では交通の便が悪い。
結果的にシュートシティに18タイプ全てのジムが集結している。
と言ってもその内の8タイプのジムは他の街に散っているので実質10タイプ分のジムしかないのだが。
ガラル地方におけるポケモンジムの大きな特徴として、メジャーとマイナー、という概念がある。
いわゆるジムチャレンジの際にチャレンジャーの相手をするジムのことなのだが、もっと簡単に言えば全18タイプのジムの中で公式試合における戦績や人気などを加味した上位8タイプをメジャーと呼び、それ以外の10タイプをマイナーと言うのだ。
メジャージムにはジムチャレンジの際にチャレンジャーたちが巡る街ごとに存在する『スタジアム』の利用が許可されており、また『スタジアム』に併設されるようにしてポケモンジムが存在するので、普段はそちらを利用している。
逆にマイナージムにはそんな優遇措置は無いので、シュートシティで日々鍛錬しメジャー昇格を狙って牙を研いでいるのだ。
また先のワイルドエリアでの一件のように、各街に散ってしまったメジャージムの代わりにポケモン協会の要請を受けて動くこともある。まあ代わりにメジャージムは拠点とする街からの要請を受けて動くこともあるので、この辺は大した違いでも無いのだが。
マイナージムにとってメジャーへの昇格は重要だ。
当たり前だがポケモンジムのジムリーダーとは紛うこと無きプロトレーナーだ。
このガラルにおいてプロトレーナーであるというのは中々にハードルが高い。
まず第一に強くなければならない。
ジムリーダーという一つの『タイプ』のエキスパートとして強さは絶対だ。
そして第二に人気者でなければならない。
ガラルのポケモンバトルの最大の特徴は『興行』だ。
人気の出ないトレーナーに金は稼げないし、金の稼げないトレーナーに先は無い。
何よりも人気の出ないトレーナーはメジャーになれない。
メジャージムリーダー全8タイプの内7タイプのジムリーダーはファイナルトーナメントへの参戦権を持つ。
これがこそガラルにおけるジムリーダーの最大の権利である。
即ちチャンピオンへ挑戦するための近道だ。
ジムリーダー以外の場合、ジムチャレンジをこなし、セミファイナルトーナメントを勝ち抜き、ファイナルトーナメントで優勝しようやくチャンピオンへの挑戦権を手に入れることができる。セミファイナルトーナメントの人数にもよるが、だいたい6~8戦ほど勝ち続けなければチャレンジャーはチャンピオンに挑戦できない。
逆にファイナルトーナメントから参戦するジムリーダーはたった3度バトルに勝利すればチャンピオンに挑戦できる。
誰も彼もが自分と同格以上のトレーナーたちが集うトーナメントにおいてこの差は非常に大きい。
何せ一敗でもすればそこで挑戦終了なのだ。
たった一度の『偶然』が勝敗を分けることすらあるポケモンバトルにおいて一敗すら許されないというのは中々に厳しい。
ジムリーダーになるトレーナーというのは大概の場合『チャンピオンになるため』の過程としてジムリーダーになっている。
つまりメジャー昇格できないとチャンピオンへの挑戦など夢のまた夢なのだ。
故にジムリーダーは強くなることに非常に貪欲だ。
いつの日か、このガラルのトレーナーの頂点に立つことを夢見て、そして目指し続け日々鍛錬を積み重ねているのだからそれは当然のことだ。
ポケモントレーナーとして強くなるためにはいくつもの方法があるが。
一番手っ取り早いのは『強いポケモン』を手に入れることだろう。
* * *
「というわけでこれ」
「は? いきなし何よ?」
アーマーガ―タクシーに揺られること数時間。シュートシティに到着してリシウムに事前に教えられていた住所を訪ねれば街外れの一角に広がるコートにたどり着く。
併設された建物のほうがどうやら『ひこうタイプジム』らしく端から端まで2000平方はありそうなこの広々としたコートが訓練場だろう。よく見れば訓練用の施設や器具があちらこちらに見える。
リーグ委員会が用意しただけあって、器具も施設も真新しく、マイナージムと言っても随分と金がかかっているように思えた。
まあ今はこちらに用は無いとジムのほうを訪ねて受付でリシウムを呼び出す。
気怠そうにロリポップを咥えながらやってきたリシウムに前置きも無く差し出したのはモンスターボール。
怪訝そうなリシウムに図鑑データを送信し、それを見た瞬間にリシウムの顔色が変わる。
「アンタこれ……え、何これ。どこでこんなん」
「この前サンダー譲ってもらったし、お礼ってほどでも無いかもしれないけど」
「いや、あれに関しては……いや、ナニコレ、ホントナニコレ」
ボールに入っているのは件のヨロイ島のギャラドスだ。
何度か考えてみたが、好み以前の問題としてどうもこのギャラドスは『すなあらし』以外の天候に適応しそうになかった。
やはり翼が無いポケモンは『おおあらし』は強力過ぎるのか、基本戦術が『おおあらし』の私のパーティでは扱えないという結論が出たためリシウムに譲ることにしたのだ。
賭けの結果とは言え、ワイルドエリアではダーくんをゲットするチャンスを譲ってもらったし、その上育成施設も使わせてもらえるとなれば『手土産』くらいはあっても良いだろう。
図鑑の解析機能で得られたギャラドスのデータを見て目を丸くするリシウムの反応を見るかぎりは好感触のように思える。
「なんかもらい過ぎな気ーするけど」
「良いのよ、私じゃ使えないけど、野生に帰すとそれはそれで問題になりそうだし」
「はー。まーそーいうことならありがたくもらっとくけど」
元々ポケモンジムなどはそういう『野生に帰すには問題がある』ようなポケモンの引き取り先としての側面がある。
ポケモンレンジャーが環境保全のために環境を無暗に乱すポケモンを捕獲した時などに専門タイプのポケモンジムに引き渡してトレーナーを見つける、なんてのは良くある話なのだ。
「あーもらっといて悪いんだけど、これあーしの妹にあげてもいい感じ?」
「妹?」
「そ、あーしの妹『じめんタイプジム』のジムリやってっから、あーしより妹のほうがこの子と相性良さげみたいな?」
「別に私がアンタにあげたんだし、アンタはどうするかは自由よ」
「あ……っそ。あんがと」
礼を言いながら、どこか照れたように視線を逸らしながらリシウムが頭が掻く。
前から思っていたが、見た目と言葉遣いはあれだがそれ以外は割とまともな人物らしい。
見た目だけならどこぞの不良娘かと思うのだが、さすがにジムリーダーというだけあって人柄のほうも考慮された人選なのだろう。
その割に言葉遣いがあれだが……*1。
「時間あんならジム上がってく? ちょうど妹来てるし」
「良いの?」
「元々施設貸すっつー約束だし、好きにすりゃいーし」
少し考える。
特に時間も無いし、一度くらいどんな施設があるのか、借りられるのか見ておきたいのもある。
そんなこんなで、ここで断る理由も特に無かったのでお邪魔することにする。
「クー、ちょっといい?」
事務所らしき場所に通されると、ソファーに座っていた小柄な少女……いや幼女? にリシウムが声をかける。
上はタンクトップ一枚、しかもサイズが合っていないのか肩の部分がずり落ちそうで危うい。下はハーフパンツだが靴下も何も履いていないので足の大部分がさらけ出されている。
振り返るその気怠そうな表情は私の隣にいる人物にそっくりであり、即座に少女……幼女? が件の妹なのだろうと察せられた。
いや、ジムリーダーと言っていたので年齢的には十二歳以上、となれば少女で良いのだろうか?
「どうした、あね」
リシウムよりも少しばかり色の濃い茶髪を揺らしながらリシウムの声に振り向いた少女。
舌足らずな言葉遣いで、リシウムを見ていた少女がすぐにこちらに気づいて、首を傾げる。
「あね、そっちは?」
「あーしの知り合いのトレーナーで」
「ソラよ」
「そーそー、そんな感じ。んで、こっちのちっこいのがあーしの妹でクコっつーの」
「ん」
互いに視線を交わす。何とも気怠そうな表情である。
いや正確には無表情っぽいのだが、何となく全体的に気怠さが漂っているというか、くたびれた熟年のオッサンみたいな雰囲気をこんな小さな少女が醸し出しているのは正直かなり違和感があった。
しかしまあ本当に十二歳以上なのか、と思いたくなるほどに小さい。正直まだ八歳か九歳と言われたほうが納得できるくらいに。
まあ私もあまり人のこと言えないわけだが……。
…………。
………………。
……………………。
何となく妹のほうとは気が合いそうな予感がした。
どうでもいい話。
クコの英語読みが『Lycium chinense』だから姉の名前が『リシウム』で妹の名前が『クコ』。
ギャラドス君は裏特性とか特性で『すなあらし』使ってるんじゃなくて『能力』枠で使ってる。つまり体質とか性質とかの部分で『すなあらし』特化なのでソラちゃんとは基本的に合いませんでした。
という話。
メタな裏話すると初期案のソラちゃんのパーティに普通のギャラドスいたんだけどウッウとかいう面白すぎるやつ見つけたせいでギャラドスはクビになった。
気付いたら鳥ポケばっかになったので、まあじゃあこのまま鳥ポケ統一で行こうかなって。
アオ君? まあ彼は弟だから(