「それで、どうした、あね」
「ん、ソラからいーもんもらったから、クーにやろーかってね」
「ん?」
どこかぼうっと呆けたような顔をしながらリシウムから差し出されたボールをその小さな両手で受け取ると、つんつん、と指先で手の中のボールを突いて転がしながら、首を傾げる。
「あね、なかみは?」
「今データ送るからちーと待ちなって」
スマホロトムを片手で操作しながらリシウムがクコのスマホロトムへとデータを送信する。
そうして。
「
クコが満面の笑みを浮かべた。
先ほどまでの気怠そうだったのが嘘のように。
リシウムから渡されたギャラドスのボールを両手で持ち、送られた図鑑データを見た瞬間のことだった。
「アハ……アハハ……イイ、スゴク、イイヨ、キミ」
愛おしそうにボールを撫で、浮かべた笑みが一瞬で元の気怠そうな無表情へと戻るとリシウムを見やり。
「あね、きょーよーコートかして」
「いーよー。どっか空いてるとこテキトーに使って」
「うん」
とことこと軽い足取りで去っていくその小さな背中を見やりながら、リシウムに視線を向ける。
「あーわりーね。好きなことにはムチューな妹でね」
「別に良いわよ。あの『お土産』でそれだけ喜んでもらえるなら」
「取り合えずあーしらもコートのほう行こーか。施設の説明もあーし」
そのままリシウムに案内されてジムからコートへと向かう。
途中で何人かのジムトレーナーらしき人物たちから挨拶される。
「そう言えばジムトレーナーに説明はしてあるの?」
「そりゃーね。あーしの知り合いのトレーナーが使うって説明してるよ。まあそーいうの結構良くある話だし」
「そう言えばユウリも『ノーマルタイプジム』を借りてるとか言ってたわね」
「あ? は? ユウリ……ってチャンピオンじゃん?!」
「そうよ」
「知り合いなん?」
「幼馴染よ。あの子元々はホウエンのほうの出身だもの」
「はあ~?」
そんな話をしているとトレーニング用のコートへとたどり着く。
基本的にポケモンバトル用のトレーニングコートは半分くらいはどこのタイプのジムでも共通している。
例えば『ほのお』ポケモンなら、例えば『みず』ポケモンならと専用のトレーニングコートを作っても結局のところ実際のバトルは芝生の敷かれた『スタジアム』のコートなのだ。
タイプごとに必要な施設の用意も重要だが、実際に戦う場所を想定するというのもまた重要なこと。
だからこそトレーニングコートの半分は『スタジアム』のバトルコートを模した芝生、残りの半分はそれぞれのタイプごとに専門的なものになる。
「芝生のほーは『共用』コート。あっちの木とか並べまくってんのが『専用』コートね」
「実際のバトルはあっちの『共用』のほうと同じコートでやるのね」
「そそ、ま、ホントのところは各街の『スタジアム』ごとにそこにいるジムのタイプに合わせて多少変わったりもするけどね。あーしらみたいなマイナーは『シュートスタジアム』でのバトル基本だし、そっちに合わせて作ってるよ」
「ふーん、結構考えられてるのね」
こうして見ているとやはり施設も器具も『質』が良い。
ホウエンにいた頃に使っていたものよりも質が高いのは話に聞く『マクロコスモス社』の技術の賜物なのかもしれない。
ホウエンにもデボンコーポレーションという大企業があったが、さすがにこのガラルにおけるマクロコスモス社のように産業の大半に関連しているような手広さは無かった。
その辺に理由をつけるなら恐らくそれは、ガラルが少しばかり『狭い』地方だからだろう。
地方の北半分に主要な都市などが集中し、南に行くほど過疎化していく。
全体的に人も物も回ってはいるのだが、その流通はやはり圧倒的に北半分が多い。
だからこそ、というべきなのか。
技術の普及が早い。
例えばホウエンでデボンが新しい技術を開発、そこから商品化した時、ホウエン全土に広まるには二カ月、三ヵ月と時間をかけるだろうし、隅々まで浸透させようとすれば半年は見ないとならないだろう。
だがガラルの場合、流通も交通もマクロコスモスという巨大企業が絡んでおり、さらに主要都市と都市の間が狭いため一つ新商品を開発すれば一、二週間あればガラルの大半に広まっていく。
人も物も地方の北側へと集約されていくため、発展が非常に早いのだ。
この辺はガラルの大きな特徴と言えるかもしれない。
さらに言うならばホウエンで主要都市を結んだ流通網を新たに作るならば海運などが主要になる。
地方の東と西が海で分断されている以上これは仕方ないし、何よりホウエンは横に広がっている地方なのだ。
故に流通や交通を一企業で整備しようとするとその負担はとんでも無いものになる。
それでもデボンコーポレーションならばできなくはないだろうが、それが果たして『やらなければならないことか』という問題もある。
逆にガラルは主要都市間の距離が非常に短い。特に一番首都とも言えるシュートシティと二番目に大きな街であるナックルシティの間が山一つ挟んですぐと非常に近い。
さらにナックルシティとエンジンシティの距離も比較的近く、それらを全て『列車』で繋いでいくとあっという間に大きな流通網が出来上がる。
ガラル地方は他の地方と比べてもそこまで大きな地方というわけではないが、それでもこれだけ大きく発展しているのはそういうところに理由もあるのではないのだろうか。
まあそれはさておき。
企業の技術力が高い時、最も恩恵を受けるのが『トレーナーアイテム』だろう。
トレーナーがバトルの際に使う所謂『道具』や『持ち物』のことだ。
例えば以前にワイルドエリアでサンダーとのバトルで使った『きあいのタスキ』。
ホウエンで以前に購入したものを持ってきたものだが、ホウエンのほうではあれ一つでだいたい七桁ほどの値段になる。
持たせるだけでポケモンが大半の攻撃を受けても絶対に『ひんし』にならない、対野生バトルにおいて非常に大きな効果を発揮できる道具である、値段も当然ながら相応なものになる。
他にも『こだわりハチマキ』などの火力を上げる道具、『とつげきチョッキ』などの耐久力を上げる道具などなどトレーナーにとって必須とも言える道具の数々だが、まあだいたい7桁を下回ることは滅多にない。
つまり開発にはそれだけの金と技術が必要になるアイテムなのだあれらは。
それがこのガラルではホウエンより三割は安い。原価と技術料がそれだけ安いのだ。*1
それだけの技術があるからこそ、近年ガラルで新しく開発された道具なども存在する。
ユウリに聞いた話ではあるが、その中でも特に『とくせいパッチ』は革命的な新商品と言っても過言ではないだろう。
私だと余り関係無いが、従来の『とくせいカプセル』では変化させることができなかった特性にすら変化可能である『とくせいパッチ』は育成能力が十分ではないトレーナーたちへの大きな助けとなった。
「俗な話だけど、ジムって実際どのくらい援助されるの?」
「あ? メジャーはともかく、マイナーはなー。まあそれでも道具類に施設、器具なんかは大概申請すれば買ってくれるかな」
「すごい優遇ね」
「まあプロトレーナーはそれなりにねー。つってガラルで『トレーナーとして』生きるなら最低でもジムに所属するしか無いしね。そこは仕方ない部分」
「メジャーだと?」
「ガラルのトップオブトップ、それで察しなって」
シキ母さんに聞いた話、ホウエンの四天王が年俸八桁らしい。
ただしガラルのポケモンバトルにおける『興行』としての側面を考えるに給与だけならもっと高そうはある。
「ぶっちゃけあーしらマイナーとメジャーで十倍くらい違うかんね」
「そらみんなメジャー昇格狙うわね」
「そーゆーこと。それ差し引いてもやっぱジムチャレの最後、ファイナルトーナメントの枠狙えるのが美味しすぎるっしょ」
「あーそういえばそうらしいわね。私まだガラルに来たばかりでその辺があやふやなんだけど」
「そーいやそんなこと言ってたね」
ガラルのリーグ制度は結構独特だ。
ポケモンバトルを『興行』としているが故の制度って感じだが、他地方の人間からすれば『四天王』が無いというのが中々に理解しづらい。
と言っても最近のカントー・ジョウトリーグでは『四天王』が半ば有名無実になりつつあるらしいが。
「なんというか、カントーリーグをさらに商業に寄せた感じよね、ガラルって」
「あーまーそういう感じよね」
カントー・ジョウトリーグは四期に渡る総当たり戦形式だ。
それぞれAリーグ、Bリーグ、Cリーグが存在し、二期ごとにCリーグの上位数名がBに昇格、Bの下位数名が入れ替わりで降格、Bの上位数名がAリーグに昇格、Aリーグの下位数名が降格。
そして四期に行われる最終リーグでAリーグの最高戦績、つまりAリーグ1位のトレーナーがチャンピオンへの挑戦権を持つ。
上位リーグと下位リーグの概念、昇格や降格などガラルと似通った部分があるが、総当たり戦でなく勝ち抜きのトーナメントなのがガラルリーグの特徴と言えるかもしれない。
まあ他にも下位ランカーに指名されたら上位が断れず、下が勝てば上のランクを奪う『ランキングバトル』形式のイッシュなどもあるが、大半の地方は年に一回のリーグ戦で予選、本選を行いその優勝者が『四天王』に挑戦、四天王を勝ち抜けばチャンピオンに挑戦、という形式だ。
カントー・ジョウトリーグにおける『四天王』とはAリーグの戦績上位四名までを指し、イッシュでも同じランキング一位から四位までの四人を指す。
四天王が挑戦者を試す門番でなく、挑戦者となってチャンピオンへ挑むチャレンジャーの側に回るという意味でカントー・ジョウトリーグ及びイッシュリーグの四天王は本来の意味とはかけ離れているといってよい。
「あ、クコだ」
「ホント、クーいるじゃん」
雑談をしながらコートを見て回っていると、『共用』コートのほうに立つクコを見つける。
何やらボールを振りかぶっては戻し、ポーズを変えて振りかぶっては戻し、を繰り返している。
「あれ何やってんの?」
「あー多分、一番アガる投げ方の研究、みたいな?」
そんなことを言っている内に、何か得心が言ったのか何度か頷き。
「―――まわれ」
ボールを投げた。
“グラビティチェンバー”*2
体を大きく一回転させながらの投擲。
同時にどん、と派手な音がして……。
―――“ちょうじゅうりょくのおり”に ばの すべてのポケモンが とらわれる
投げられたボールから私が捕まえたギャラドスが解放され、怒りに咆哮を放つより先にその巨体が
―――グォオォォガアァァァ……ッ!
「おもいのは、とくいだよ」
腰のホルスターからさらに一つ、ボールを取り出し。
「バンちゃん、やって」
「ばしゃーん!」
次いで出てきたのは『ばんばポケモン』のバンバドロ。
ホウエンのほうでは見かけないポケモンだけに思わず注目してしまう。
見た目にはギャラドスが何かに『圧し潰されている』ようにしか見えないが、恐らく『じゅうりょく』状態なのだろうと気づく。
『ひこう』使いの私としては厄介な能力だ。
「クコは……異能者?」
「そだよ、あーしと違ってかなーり強度高いよ」
『じゅうりょく』の影響でギャラドスの動きが鈍っている間にバンバドロがギャラドスに向かって走り寄り。
「おもくをもっとおもく」
“じゅうりょくのよろい”*3
「おもくをかるく」
“はんじゅうりょくのつばさ”*4
呟きと同時に先ほどまで圧し潰されていたギャラドスの体が突然自由を取り戻し……動いた衝撃でその巨体が浮き上がる。
「重量干渉? 重くする能力と軽くする能力って感じかしらね」
「クーのやばいのはこっからだよ」
重量干渉は恐らく慣れていなければかなり戸惑う能力だろう。
だが同時にポケモン自身の能力値に直接干渉するような能力ではない。
ならばここから。
『おもさ』の差を利用した何かがあるのだろう。
「たたいて、つぶせ」
“ヘビーボンバー”
半身を持ちあげたバンバドロがギャラドスへを押しつぶさんとのしかかる。
“じゅうりょくのよろい”*5
“ヘビーウェイトプレス”*6
轟音。
耳が痛くなるほどの音と『じしん』で出したのかと錯覚するほどの大地を揺らすその衝撃にたたらを踏む。
「っと、だいじょーぶ?」
「っとと、ええ、ありがとう。助かったわ」
未だに揺れる視界。
けれどその先で。
たった一撃で押しつぶされ、目を回して『ひんし』になったギャラドスがいた。
名前:クコ
【技能】
『グラビティチェンバー』
全体の場の状態を『じゅうりょく』にする。場にいるポケモン全ての『おもさ』を2倍にし、技の優先度を-1する。
『はんじゅうりょくのつばさ』
全体の場の状態が『じゅうりょく』の時、相手のポケモンの『おもさ』を1/4にし、相手の技の優先度を-1する。
【名前】バンちゃん
【種族】バンバドロ/原種
【レベル】120
【タイプ】じめん
【性格】いじっぱり
【特性】????
【技】ヘビーボンバー/????/????/????
【裏特性】『じゅうりょくのよろい』
全体の場の状態が『じゅうりょく』の時、自分の『おもさ』を2倍にする。
『おもさ』で威力が変わる技を出す時、相手の『おもさ』が1/10以下の時、技の威力を最大威力の2倍にする。
相手を直接攻撃する技を出す時、自分の『おもさ』の1/10を威力に合計してダメージ計算する。
【技能】『ヘビーウェイトプレス』
相手を直接攻撃する技を出す時、相手の『おもさ』が自分の1/10以下の時、相手の『ダメージを軽減する』効果を受けずに攻撃できる。
というデータを今書きながら即興で作ってみたんだがどうだろう。
テーマは『重力系』幼女。
因みに今回出したヘビーボンバーの威力は最大威力120の2倍で240。
さらにそこにバンバドロの体重920kgの1/10の92をさらに『グラビティチェンバー』の2倍と『じゅうりょくのよろい』の2倍で368、これに240足して608の『通常攻撃』だ!
キチガイでは???
なによりこれバンバドロで計算すると「おもさ736kg」未満は全員もれなく威力608になるという事実だ(