ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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ハマったら抜け出せない泥沼アドベンチャー

 

 

「なんだかご機嫌だね、ソラちゃん」

 

 夜。

 

 就寝前にスマホロトムを確認しているとユウリがじーっとこちらを見つめて呟いた。

 その表情はどことなく不機嫌のようで、さて何かやっただろうか、と考えてみるが心当たりも無い。

 

「ユウリは何だか機嫌悪そうね」

「別に、そんなことは無いよ」

 

 とは言っているが、いつもの笑みは消えてどことなくぶっきらぼうな言い方で返してくる。

 

「それで……ソラちゃんは今日何か良いことでもあったの?」

「今日? ああ、そうね。こっちで友達ができたわ」

 

 ホウエンでも友人が居なかったわけでは無いが、学校時代の同級生だとか近所の同年代の子供だったりと友人といってもそこまで深い付き合いがあったわけではなかった。

 それに私自身、結構人見知りな性質だったためこっちで新しく友人ができるというのは自分でも予想外な話だった。

 ただあの後、ジムでクコとしばらく話していたのだが、同じトレーナーということもあって思っていた以上にウマがあったのか最後のほうは人見知りすることも無く互いに遠慮も無く話せていたと思う。

 

「へー。友達……良かったね」

「そうね。思ってたより気が合いそうだし、今度一緒に出掛けることになったわ」

「むう……」

 

 ユウリの表情が先ほどよりもさらに悪くなった気がするのは何故?

 何か琴線に触れてしまったのだろうが、私は父さんや一番下の弟のように人の感情にそこまで(さと)くはなれない。だから妹たちにコミュ障なんて言われるのかもしれない。

 

 ああ、だから。

 

「ユウリは……凄いわね」

「へ?」

「初めて会った時のこと少し思い出したけど」

 

 ユウリは基本的に表裏の無い明るい性格で、誰からも好かれる少女だ。よく人に気難しいと言われ、人付き合いを疎むような私とは割と対象的で。

 だからこそホウエンにも、恐らくこのガラルにも、ユウリの友人はたくさんいて、ユウリを好いている人は多くいて。

 それは間違いなく、私には無理なことだ。

 たった一人、友達を作ることにすら四苦八苦している私では到底敵わない話で。

 

 昔。

 

 幼かったこともあって取り繕うことすらなく相当に態度が悪かっただろう私に、けれどユウリは平然と近づいて最終的に親友と呼べる仲になるまで共に居てくれた。

 もし私がユウリの立場だったら、もっと付き合いやすい友人を作ってそんな面倒なやつ放っておくだろう。

 それでも何年も、何年もずっと一緒にいてくれて。

 

 だから私は……。

 

「ユウリは……私と初めて会った時、面倒に思わなかった? 自分で言うのもなんだけど、相当に付き合い難い性格してたと思うけど」

 

 もう終わった話、なんて割り切ることは今でもできないけれど。

 それでも今となっては取り繕うくらいのことはできていて。

 だからこそ、過去の……幼少の頃の私を思い出すと、相当に酷かったと思う。

 

「ユウリならもっと別の友達作れたでしょ。私に拘らなくても良かったと思うし」

 

 実際、ユウリには私以外にも友人なら多くいた。

 それでもユウリが『親友』なんて呼んでくれるのは、私たった一人だけで。

 

「全然思わなかったよ」

 

 けれどきっぱりと、何の迷いも無くユウリがそう断言した。

 

 

 * * *

 

 

 昔から要領の良い人間だった。

 

 やろうと思えばだいたいなんでもある程度できた。

 勉強も、運動も、人付き合いも。

 でもだからこそ逆に何でも浅く広く、で済ませて深入りすることが無かった。

 勉強も、運動も……人付き合いも、だ。

 

 何事もほどほどに。

 

 それが昔からのユウリのモットーだったから。

 

 実のところ、ソラが初めて会ったと思っている時にはもう、ソラのことはある程度知っていた。

 ソラの両親……特に父親は有名な人だったし、親たちの間で話題になれば自然とそれは子供たちへと伝わっていく。

 そして浅く、広く付き合いを持っていたユウリは色々な場面でその話題を耳にしていたので、自然とソラのことは記憶に残っていた。

 

 周りの子供たちが友達たちと仲良く遊んでいる外で、ソラはその輪に混じることも無くいつだって弟のアオと共に居た。

 

 同年代の子供たちが夢中で走り回っている時には、ソラは黙々と体力作りに走って。

 同年代の子供たちが小学校の勉強に頭を悩ましている時には、ソラはトレーナーとして規範の勉強を進めて。

 同年代の子供たちがポケモントレーナーになりたいと楽観的に話題にしている時には、ソラはポケモンの育成論を必死に読み進めて。

 同年代の子供たちがポケモンのタイプ相性について学んでいる時、ソラはパーティ構築と裏特性について頭を悩ませていた。

 

 昔からソラは……親友はポケモントレーナーになるために必死だった。

 それはきっと共に成長するライバルがいたからなのだろう、と後に理解するのだが、その時のユウリにはそんなこと分かるはずもなく。

 

 その気になれば『ある程度』何でもできるユウリにとって、自分と同い年の子供が生き急ぐかのように必死になって知識を詰め込み、体を鍛え、頭を悩ませている姿はまるで……。

 

 ああ、そうだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんなことを思ったのだ。

 

 それが何よりも―――。

 

 

 

「羨ましかったんだよねえ」

 

「今何か言った?」

「ああ、いや、何でも無いよ」

 

 別にソラと交友関係を築いたのは当時孤立気味だったソラを慮ってとかそんな理由ではなく、ユウリはユウリでちゃんと意味と意義があった。

 結局のところ、ユウリにとってソラが一番の友達で、たった一人『親友』とそう呼ぶのはソラだけがユウリに深く関わってくれたからだ。

 

 ―――友達だからといって何だって許せるわけではない。

 

 これでもユウリはそれなりに社交的だ……正確には『程ほどに』人付き合いが得意なのだ。

 だからこそホウエンでも、ガラルでも友人と呼べる人間はそれなりにいる。

 それでも結局のところ『仲が良い』だけなのだ、それだけでしかない。

 もしユウリが本当に困った時に助けてくれる人はどれだけいるだろう。

 もしユウリが本当に辛い時に慰めてくれる人がどれだけいるだろう。

 もしユウリが苦しい時に支えてくれる人はどれだけいるだろう。

 

 そういう意味でソラはコミュ障だろう。

 

 ただ『良くも悪くも』と頭につく。

 

 『良くも悪くも』ソラは距離感が極端なのだ。

 基本的に排他的なのに、一度懐に入れた相手にはどこまでも寛容になってしまう。

 

 もしユウリが本当に困っているなら、ユウリが本当に辛いなら、ユウリが本当に苦しいなら、ソラは持てる全てを投げうってでもユウリを助けてくれるし、慰めてくれるし、支えてくれるだろう。

 例えそれがこれまでの人生の全てを費やしてきたものだろうと、それが必要ならソラは躊躇なく一切合切投げ捨てることができる。

 

「ズルいよ、ソラちゃんは」

「いきなり何よ」

 

 ソラの全てが好きだと胸を張って言えるユウリだが、それでも一番好きな部分を挙げるなら多分そこなのだろう。

 何においても広く浅く、深入りしないユウリと狭く狭く、けれどどこまでも深く、極端なほどに深く分け入ってくるソラ。

 自分と何もかもが違うからこそ、ユウリはソラが好きだ、大好きだ。

 

 でもだからこそ心配もしてしまう。

 

「新しい友達にソラちゃん取られちゃわないか、私は心配だよ」

 

 茶化すように笑みを浮かべて告げるが、内心では本当に心配しているし、嫉妬している。

 多分初めてなのだ、ユウリの知るかぎり初めてのことで、そしてユウリの知る以前のソラを考えればやはりこれが正真正銘初めてなのだ。

 

 ソラが自分から友達を作るというのは。

 

 先もいったがソラは極端なほどに狭く深い交友関係を築く。

 つまりその新しい友達に対してもどこまでも深入りしてしまうんじゃないか、そう思ってしまうのだ。

 

 ユウリにとってソラはたった一人の親友だ。

 

 ソラは排他的だったから、ソラにとってもユウリは唯一の親友だった。

 

 でももしかすると……いやもしかしなくても、唯一が唯一で無くなってしまうのではないか。

 

 ユウリがソラにとって二人の親友の一人、になってしまうのではないか。

 

 そう考えしまう。

 

 ―――ああ、やだなあ。

 

 そう思ってしまう。

 

 唯一で無くなってしまうことが、嫌だ。

 

 

「言えないなあ……」

 

 

 聞こえないようにぽつり、と呟く。

 

 言えない、言えない、こんな本心言えない。

 

 こんな『ユウリ(わたし)』は親友には見せられなかった。

 

 

 * * *

 

 

 ハロンタウンから一度ブラッシータウンへ行き、ブラッシータウン駅から列車に乗って南へ。

 ハロンタウン南の森を迂回するように西回りで下っていき、遠くに見えるは白く染まったな山々。

 列車の中で暖房が効いているはずなのに徐々に下がっていく気温に体を震わせながら列車に揺られてたどり着いたのは『カンムリ雪原駅』だ。

 

 『カンムリ雪原』は先の通り、ガラルの南の広がる雪原地帯だ。

 

 『雪原』地帯、だ。

 

 つまり―――。

 

「ささささ、さむ、寒い?!」

「列車の中で着ておけばよかったのに」

「こここ、こんな寒いなんて聞いてなな、なないわよよ」

 

 防寒着なら駅に着いてからでも良いかと思っていたのだが、確かに暖房が効いているはずの駅の中でこれだけ寒いのなら列車の中で着ておくべきだったと後悔する。

 一緒にやってきたユウリによるとどうやら駅の中に更衣室があるらしいので駅員に聞いて更衣室を借りて防寒着に着替える。

 なんで駅にそんなものが、と思ったが今自分の状況を考えれば答えは明白だった。

 

「少しはマシになったわね」

「ふふ、お揃いだね、ソラちゃん」

「いや、大分違う気がするけど」

 

 オレンジ色の防寒着を着た私の隣で、デザインこそ同じだが色合いがゴールドの派手派手しい防寒着を着たユウリが笑みを浮かべた。

 というか何故同じデザインの防寒着を二着も持っているのだろうか、そんな疑問を抱くがまあ今は横に置いておく。

 

 問題は。

 

「防寒着着てても寒いわね」

「凄いよね、ここ」

「この雪原の中、どこにいるかも分からないフリーザーを探して歩き回る……?」

「そうなるね」

「やっぱりフリーザーは諦めましょう。私には縁が無かったのよ」

「いやいやいや」

 

 ダー君とフーちゃん(ファイヤー)がいる時点でもう十分だろう。

 と背を向ける私をユウリが引き留める。

 

「折角ソラちゃんと一緒に遊べるのにもう帰るとかやだー!」

「子供か……ていうかユウリ何で来たの?」

「来ちゃダメだった?」

「別に良いけど前は来ないみたいな話だったのに」

 

 それで防寒着だけ借りて来ようと思っていたはずなのに、気づけば列車で隣の席にいて、あれ? となってしまっただけだ。

 

「新しいお友達にソラちゃん取られないように、好感度上げに来ました!」

「何言ってんのアンタ?」

 

 偶に良く分からないことを言う時はだいたい無視しても良いやつだ、付き合いも長いからその辺は弁えている。

 というわけで話を進めることにする。

 

「それで、ユウリがフリーザーを見たのってここで良いのよね」

「そうだよ、正確にはこの先のフリーズ村の先の奥だけど」

 

 列車の中でマップデータをユウリに送ってもらったのでスマホロトムで地図アプリを起動して確認する。

 今居る場所が『滑り出し雪原』、ここから少し進むと『フリーズ村』。

 その奥が『巨人の寝床』や『いにしえの墓地』となっている。

 ここからでも見えやしないだろうかと目を凝らしてみるが、白化粧された大地がひたすらに広がるだけで何も見えない。

 聞くところに寄れば、ここからさらに雪が降って来ることもあるらしく、酷い時は吹雪で前が見えなくなるんだとか。

 

「うん? ユウリ、この『マックスダイ巣穴』って?」

 

 ここからフリーズ村よりさらに近くに表示されたアイコンをタップすれば『マックスダイ巣穴』についての簡易説明が表示される。

 どうやらダイマックスポケモンが出現するらしい、というのは良く分かったのだが、この偶に『伝説のポケモン』が顕れるというのは一体……。

 

「えっと……」

 

 ユウリに視線を送ると珍しく少し困ったような表情で親友が言葉を濁した。

 

「何か問題ある場所?」

「いや、そういうわけないんだよ? ただ今は行かないほうが良いかなって」

「ん?」

「珍しいポケモンとか凄く強いポケモンとかいっぱいいるし、偶に色違いとかも出てくるし、噂だと『伝説のポケモン』なんかも確認されてるらしいんだけど」

 

 何だその凄まじい場所は。というか本当に『伝説のポケモン』いるのか……?

 なんて戦慄していると、ユウリが少し言葉を溜めて。

 

「私もね、一回挑戦したことあるんだけど」

「だけど?」

 

 えっと、とユウリが言葉を躊躇うように口を開いて。

 

「面白すぎてほんのちょっとだけ、って思いながら気づいたら二週間くらい時間が経ってました、はい。正直やることがある時に行っちゃダメなやつだよ」

「は?」

 

 出てきたのは予想外の台詞だった。

 

 

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