『ふぇ? おひっこし?』
「そう、少なくとも年単位でガラルに居つくことになるし……まあ場合によってはそのままこっちに住むかもしれないから」
『ソラおねーちゃんいなくなっちゃうの!?』
「ご、ごめんって……言ったってアカリたちももう一年か二年でしょ、寧ろセイジのことが心配なんだけど」
『セーくんならとーさまがつれてきた子となかよくやってるよ』
「それは知ってるけど……でもあの子って、いや、まあ良いわ。とにかく父さんたちにはこっちから言っておくけど、そういうわけだから」
『やだ! おねーちゃんいっちゃやだ!』
「そうワガママ言わないでよ……どのみちそろそろ家出るつもりだったし」
『うぅ……』
「どこかで時間が空いたら帰るから、ね? ガラルのお土産いっぱい持ってお姉ちゃん帰るから」
『……やくそく?』
「約束するわ、だからいい子にしてなさいね」
『……うぅ。わかった』
* * *
「ソラちゃん相変わらず妹ちゃんには弱いよね」
「なんで弟には厳しいんだろう」
「うーん……まあ何となく理由は分かるけど、半分は愛じゃないかな」
「愛ねえ……」
視界の端でこちらの様子を見ながら楽しそうにお喋りしている二人をきっと睨みながら通話を切る。
最大の難関だった妹たちは何とか説得完了だ。
後は父さんと母さんたちに報告すればそれで家のことは片付く。
まあ父さんは色々聞いてくるかもしれないが反対はしないだろうし、母さんの場合そもそも好きにすれば、とでも言って来るだろう。
「まあこっちはこれで良いとして……」
問題はまだまだ山積みである。
そもそもトレーナーとしての私の本拠はホウエン地方だ。
当たり前だが身一つでトレーナー業なんてできるはずがない、手持ちのポケモンを置いておくための拠点、育成のための土地、施設、金など必要な物を挙げていけばキリが無い。
ガラルリーグに移籍するということはそれら全てが使えなくなる、ということであり、プロトレーナーとしてははっきり言って致命傷に等しい。
「そもそも手持ちの問題もあるわよね……」
ホウエンから連れてくるのに弾かれた手持ちが五体。
まだプロになって二年目であるが故に、私の手持ちで育成が終わっているポケモンは六体のみ。
となるとこのガラルで今使える育成済のポケモンは……。
「うーん」
視線の先、ユウリと何か話し込んでいる弟の姿を見やりながら、考え込む。
正直、一体でも大半の相手には勝てる自信がある。
五体も居なくなったことを不幸と嘆くか、それともアレが残ったことを幸運と喜ぶべきか。
何とも困った話である。
「こうして見るとホント無いない尽くしね」
とは言え、今更やっぱ無し、というのも格好悪い話だ。
何より約束した以上は反故にするのは矜持に反する。
それにどの地方だろうと『チャンピオンに挑む』というのは心躍るものだ。
その相手が幼馴染で親友であるという事実もまたそれを助長する。
「まあ……やれることをやるしか無いわね」
嘆息一つ。
約束の舞台はまだ遠そうだった。
* * *
それからユウリを交えて三人で話を続ける。
特にどこを拠点にするか、というのはこの地方に住んでいるユウリの協力が無ければ余計な時間がかかってしまう。
それ以外にもリーグ移籍の手続きなど、やるべきことは多く、その相談もあった。
「あ、そうだ」
そんな中でふと思い出したとでも言うようにユウリがぽん、と手を叩く。
「ソラちゃんたちは外から来たから知らないと思うんだけど、ガラルリーグって少し制度が変わっててね……他の地方と違って……えっと、これこれ」
呟きながらスマホロトムを操作しながら今しがた出したばかりの画面をこちらへ見せてくる。
画面に視線を落とせばそこに映っているのは広いバトルコートに集まるユニフォームを着たトレーナーたちの姿。
「これユウリ?」
「そうだよ~」
その中の一人を指してアオが呟くとユウリが頷く。
言われてみれば確かに、ユニフォームを着ていてトレードマークみたいなベレー帽が無かったので気づくのが遅れたが、確かにそこに映っていたのは目の前の親友だった。
「ガラル地方のポケモンリーグってちょっと独特でね、他の地方のポケモンリーグみたいにリーグ予選みたいなのが無いんだよね」
「は?」
「いや、正確には似たようなものはあるんだけど、他の地方の人が想像してるようなのじゃないというか、まあこれ見てもらったほうが早いかな」
と言ってもう一度スマホロトムを操作して表示したのはガラルリーグ公式ホームページ。そこに表示されたリンクの一つ『ジムチャレンジ』をタップすれば、その詳細が表示される。
「ふーん……つまり、ジムリーダー以外はこのジムチャレンジに参加してセミファイナルを勝ち抜かないと、挑戦枠すら無いと」
「四天王いないの? って思ったけど、このファイナルトーナメントが実質的にふるい落としになるわけか」
確かにこれは他の地方には無いかなり独特なリーグ方式である。
そして同時にこの方式が『ジムリーダー優位』に作られていることも分かる。
「てことはユウリ……アンタ、初挑戦で他のチャレンジャーもジムリーダーも全部ぶち抜いてチャンピオン倒したのね」
「あはは……まあ正直ダンデさんに勝てるかどうかは微妙だったんだけど……色々あったんだよ、去年」
ダンデさん、というのがユウリの先代のチャンピオンの名前らしい。
スマホで検索すれば出るわ出るわ、無敵のチャンピオン、無敗のチャンピオン、などなどガラルにおけるトップスターとして十年間王座を守り抜いた人気のチャンピオンだったらしい。
「取り合えず私が挑戦するとするとこのジムチャレンジの枠になるのかしらね」
「そうだね……ジムリーダー枠も絶対に狙えないわけじゃないけど」
さすがに今からジムに入って全員ぶちのめしてジムリーダーになる、というのは難しいだろう。
そもそも私の得意とするタイプを考えると、片方は絶対に問題になるし、もう片方の場合制度的に無理があった。
「この出場資格として推薦がいるっていうのは?」
「それなら私が出すから大丈夫だよ……何だったらダンデさんだって出してくれるかも」
まあ私がこちらに呼び出された件にそのダンデという人物もがっつり関わっているのだから当然と言えば当然かもしれない。
「ただ……さ」
「何よ」
少し歯切れの悪い様子でこちらをちらちらと見やる親友に首を傾げる。
「疑ってるわけじゃないんだけど、ね? 一応推薦出すのに一度もバトルを見てないっていうのは不味いなーっていうのがあって」
「はーん」
ぴく、と眉根を潜めればユウリが、うっ、と声を詰まらせる。
「去年のホウエンリーグでそれなりの戦績は残したはずだけど?」
まあチャンピオンになってない時点で途中で負けているのは明白なのだが……まあいつか絶対にぶっ倒す予定なので、今は置いておいてやることにする。
一応ホウエンリーグではA級トレーナーに位置づけされている。
これはホウエンでもトップクラスのトレーナーの証でもある。
「ガラルリーグはリーグクラスもトレーナーランキングも無いから……実績としては数えられないんだよね。別に無くても問題があるわけじゃないけど、私が推薦したってなるとちょっとうるさいことになっちゃう可能性が……」
「要するに」
別にこの程度のことで怒るような仲でも無いのに、何をそんなにちらちらをこちらを伺うのか、と考えてその理由に気づくと同時に苦笑する。
「そういう名目で戦いましょうってことよね?」
「さっすが、よくわかってる!」
先ほどまでの様子から一変しての満面の笑みを浮かべるユウリに、嘆息する。
その提案に否やはない……無いのだが。
「言っておくけど、アンタが急に呼び出すから私が使えるのコレだけよ」
私の隣で呑気にコーヒーを啜る弟の頭を掴んで引き寄せる。
その私の言葉に意味を理解したユウリが、あっ、と表情を引きつらせたのはその直後で。
「えっと……あはは、ごめんね?」
「……まあ良いわよ。コレは使えるみたいだし」
「さっきからコレとか酷くない? 姉ちゃん」
「あーアオ君かあ」
幼馴染であるが故にアオのことを理解するユウリが納得したように頷く。
「よし、なら一対一でどうかな?」
「まあ良いけど……どこでやるの? 言っておくけど、マジにやるなら結構派手になるわよ」
「えー……あ、じゃあシュートスタジアム使えるかちょっと確認してみるね」
呟きながらユウリが席を立ってスマホを耳に当てる。
遠ざかっていく背中を見やりながら、隣の弟を小突いて……。
「アオ」
「なに、姉ちゃん」
「二つ目までは出す気は無いわよ」
「逆に言えば一つは出すと」
「場合によっては、ね」
まあどこまで本気でやるか、はユウリ次第だろう。
本番はまだ先な以上、そこまで本気で来るとは思わないが。
* * *
「なんて言ってたのに」
―――ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!
「さー! いくよー!
ユウリの投げたポケモンが空に向かって咆哮した途端に、空が真っ黒な雲に覆われていく。
同時にソレが紫色の光に包まれて宙に昇っていき……。
…………。
……………………。
……………………………………。
「めちゃくちゃすごそうなの来たんだけど?!」
バトルコートの上で、アオが何か騒いでいるけど、こちらとしては相手の圧が凄すぎてそれどころではない。
というか、なんというか。
「ねえ、ユウリ」
「なに~? ソラちゃん」
「もしかしてだけど、そのポケモン」
やたらに血が騒ぐのもそうだが、それ以上に私はこの感覚を知っている。
「伝説のポケモンとかそんな感じなんじゃないの?」
「あ、すごいすごい、なんで分かったの?」
「って……やっぱ超越種*2じゃねえかふざけんなあああああああああああああああ!」
「……うっさい、アオ。というか、使っても大丈夫なんでしょうね、結構やばそうな感じしてるけど」
「んー? まあ大丈夫じゃない? ガラルリーグから認可は降りてるし、それにちゃんと躾けたし、今は良い子だよ、ね? ムゲンダイナ」
―――ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!
「ほら、ダイジョーブボクイイコダヨーって言ってる」
「いや、待って絶対嘘だよね、めっちゃ怖いんだけど?! めっちゃ今からお前らを皆殺しにしてやるぜって感じの咆哮なんだけど」
なんてアホの声を聞きながら思考だけは深く落ちていく。
こんなおふざけバトルで何やってるんだと言いたい気持ちはあるが、まだ
競技用としてポケモンバトルに出している以上、確実にキャップ*3を被っている。
これが野良バトルなら勝率はゼロかもしれないが、公式戦と同じルールならばまだやれる範囲だ。
「アオ」
一言、名を呼ぶ。
そんな私の声に、弟ががっくりと項垂れ。
「あーもう、分ったよ! やれば良いんだろ!」
叫びながら身を起こす。
そうして、その身に宿る力を解放する。
「ぐるぅぅ……ルゥゥォォォォオオオオオオオオ!」
絶叫しながら、地を蹴り
空に漆黒の渦を引き起こしながら佇む超巨大なポケモンを睨むように視線を向け。
「ユウリ」
「はーい」
そうして互いに準備は整ったとこちらも
正直こんな前哨戦でそこまで本気でやる気も無かったのだが……親友がここまでのものを見せてくれたのだ。
相応のものを見せてやるのがトレーナーなりの礼儀だろうし、何より。
「私やられっぱなしって好きじゃないのよね……だからまあ」
にぃ、と笑みを浮かべ。
「
撃鉄を落とした。
“ぼ う ふ う け ん”
直後、バトルコートを中心として突如として
初バトルで伝説のポケモンを出すチャンピオンがいるらしい。
初バトルだけど当小説におけるシステム説明というかチュートリアルみたいなものなので、お付き合いくださいな。
因みに超越種っていうのはドールズのほうで書いた造語。ルビは『オーバード』と振る。
簡単に言うと『種族の枠を超えてしまった存在』。
ポケモン世界は全て『アルセウスが作った』。つまりポケモン世界に生きる存在、つまりポケモンもまたアルセウスが『設計』した。でも奇跡的な確率で『種族の枠を大幅に超えてしまう存在』が出てくる。つまりそれは種としての枠を超える=アルセウスの設計を超越した存在になる。
そうするとこの世界の理もまたアルセウスの作ったもの、だからアルセウスの敷いた理を超越した存在は世界の法則すらも踏み倒していけることになる。
という独自設定。
要するに伝説のポケモンが実際にレベル45とか50程度で収まるわけないだろ、とかそんな理由付けのための設定の一つ。
具体的に言うとドールズはホウエン編だったけど、登場するグラードンとカイオーガは冗談抜きで『単体で世界が滅ぼせる』怪物です。
そういう普通のポケモンじゃあり得ないような『世界のルールすらも超越し、書き換えてしまうような存在』を総称して超越種と本作では呼んでいる。
超越種の無茶苦茶っぷりを分かりやすく知るためにはポケットモンスタードールズを読もう(ダイマ
いやだって実際、ドールズ読むのが一番手っ取り早いじゃん……あっちで生まれた言葉なんだし(