究極的に言えばポケモンバトルは『サイクル』と『居座り』の二種類に分けられる。
居座り型は基本的に場のポケモンで行けるところまで行く、というやり方であり場に出た時に自分の能力を上昇させたりHPを回復できたりと『単体』でスタイルが完結している。
それに対して交代を駆使するのがサイクル型であり、味方と交代した時を条件とした能力を持っていたり、特定条件化で味方と交代できたりと交代という手番の隙を埋める手や、交代そのものにリターンを持たせる
技術が多い。
基本的にどっちが強いかと言えば『サイクル』型のほうが強い。サイクル型の基本は『不利なポケモンを相手にしない』ことと『有利なポケモンに交代して相手を叩く』ことを基準としており、基本的に相手に勝てるポケモンを出すので相手が交代しないなら大概勝てる状況に落とし込める。ただし交代という一手番を無駄にする大きな隙があるためその隙をどうやってなくすかトレーナー自身の『読み』が必要とされる。
また『サイクル』型同士が交代を駆使して戦うことを『サイクル戦』と呼ぶ。
『サイクル』戦では同じポケモンが3ターン以上場に居座ることが珍しくなる、何故なら出されたポケモンに対して常に後出しで『勝てるポケモン』が出てくるから。勝てないポケモンは逃げるか、もしくは倒されるの覚悟で『死にだし』で対面をリセットしようとする。リセットされた対面が不利なら味方も交代することが多く、故に3ターン以上同じポケモンが居座っているということは交代できるポケモンが居ない、というサイクルが破壊されている状況である可能性が高く、自分が負けかけているか相手をほぼ詰ませかけているかのどっちかの時が多い。
また常に交代を多用するため相手の交代際には多くの選択肢が生まれる。
①『相手の交代先を読んでこちらも交代で出てくる相手に有利なポケモンへ交代する」
②『相手の交代先を読んで交代先に大きなダメージを期待できる技を出す』
③『相手の交代先を読んで変化技で相手の実力を発揮できないようにして、次のターン以降の有利を取る』
④『相手の交代の隙に補助技を使って次のターンに備える』
など多くの選択肢があり、当然ながら相手も『交代読み』の行動を『読んで』動くこともあるため互いに相手の行動を『読む』ことで実際の選択肢は膨大なものになる。
例えばの話。
レベル100の野生ポケモンがいたとして、それはプロトレーナーの操るレベル100のポケモンと同じ強さなのか。
答えは否、全く持って否である。
それが同じ強さを持っているのならば『ポケモントレーナー』などという存在は生まれなかった。
ポケモンは人と共にあるからこそより強くなれる。
その極致とも呼べるのが恐らくソラの両親だろう。
だからこそ、ソラは……。
* * *
「これでだいたい片付いたわね」
「戻って、ウーラオス」
ユウリが手持ちをボールに戻しながらこちらに合流する。
先ほどまで『ダイ木』の周辺にいたたくさんのポケモンもこれでだいたい追い払えただろう。
別に生態系を乱したいわけではないので、あくまで追い払う程度だ。多分私たちがこの場から去ったらまた追い払ったポケモンたちも戻って来るだろうし、それで良い。
ただ一時、この場から他のポケモンたちが居なくなれば、それで良いのだ。
「これで準備は良いわね」
『ダイ木』の前でボールを二つ取り出して。
「ダーくん、フーちゃん」
二匹をボールから出すとダーくんは『ダイ木』の周辺を歩かせ、フーちゃんは『ダイ木』の上空を旋回させる。
ユウリに寄ればサンダーとファイヤーとフリーザーの三匹はどうも顔を合わせると争い出す程度には仲が悪いらしい。
そんな相手が自分の餌場をうろちょろしている、となれば……野生のポケモンが果たして無視できるだろうか。
この広いカンムリ雪原を飛び回るフリーザーを探し出すというのは骨が折れる。
ならば向こうから来てもらおう、というのが今回の作戦。
そうして十分か十五分ほど経過して。
―――ォォォォォォ
遠くから声が聞こえた。
「来た……ユウリ」
「はーい、後ろで見てるから頑張ってね、ソラちゃん!」
視線を空へと向ければ遠くから飛んでくる紫がかった姿。
滑空している様子でも無いのに両の翼を羽ばたかせることも無くスイスイと宙を泳ぐかのように進むその姿は。
「来たわね、フリーザー」
恐らくだがタイプは『エスパー/ひこう』。
どう考えても飛び方がおかしい。翼が全く動いてないのに上下左右自由に動けるのは恐らく『サイコパワー』だ。父さんの手持ちに同じように『サイコパワー』で浮かび上がって飛ぶ種族がいるので、何となく分かる。
そうしてフリーザーがこちらへと近づき、互いを視認した……瞬間。
“フェイクアバター”*1
「は?!」
―――フォォォェェェェ!
「っ! フーちゃん!」
“もえあがるいかり”
急降下するフリーザーのその姿が二つ、三つ、四つと別れる。
咄嗟にフーちゃんに攻撃を撃たせるが、フリーザーに命中した攻撃は……そのままフリーザーをすり抜けていく。
「『かげぶんしん』みたいなものね……となると」
厄介かとも思ったが、対処法はある。
「ダーくん! こっちに寄せて」
“らいめいげり”
“いてつくしせん”
下から迫るダーくんの飛び上がっての蹴りをフリーザーが躱しながら反撃とばかりにその両目から光を放つ。
咄嗟に風を吹かせ、ダーくんの体を光線の射線から逃すと、フリーザーが追撃せんとダーくんを追い……こちらの射程内に入って来る。
「近づいた……今!」
同時に心の中で撃鉄を落とす。
“ぼうふうけん”
発生した風と雨が『おおあらし』となって周囲一帯に吹き荒れる。
先ほどまでとは一転した突然の場の変化にフリーザーも一瞬戸惑う。
だがやはり『ひこう』タイプも入っているらしい、この『おおあらし』の中で平然と滞空している。
とは言え。
―――それなら、それでも良い。
「フーちゃん、吹っ飛ばせ!」
“ぼうふう”
放たれた荒れ狂う風は嵐の力を取り込みながらその威力を増し、必中の技となってフリーザーを吹き飛ばす。
―――フォォォォォェェ!
どうやら先の分身の中に『みがわり』が混じっていたらしい、この嵐の中で『ぼうふう』を受けてもピンピンとしている。
だが同時にさすがに野生のポケモンか、このままでは危険だと感じたらしいフリーザーが咄嗟に飛びあがる。
攻撃してくるか、と身構えたが即座に反転して元来た方向へと飛び立とうとして……。
「逃がさない、わよ!」
逃げ出そうとするフリーザーの進路上にはガーくんとキューちゃんが待ち構えている。
レベルはフリーザーより低いかもしれないが、けれど『はがね』タイプも持つガーくんは『エスパー』技も『ひこう』技も半減して受けれるため簡単には突破できない。
キューちゃんもガーくんの後ろから援護射撃して、ガーくんへ攻撃を集中させず、そうしてフリーザーが突破に手間取れば……。
「キィアァァァァ!!」
『わるだくみ』を積み上げたフーちゃんが後方から追いつき『ぼうふう』を飛ばす。
今度は『みがわり』も無かったらしくフリーザーが吹き飛ばされ、地に叩きつけられる。
それでもさすがにレベルの高さか、フリーザーがまだ動かんと体を起こして―――。
“らいとううんぽん”
“ドリルくちばし”
フリーザーの次の行動を待つより先に、地上で待機していたダーくんが待っていたとばかりにトドメの一撃で『急所』を抉りフリーザーが完全にダウンする。
「これで、お終いよ!」
フリーザーが余力を失くし『ひんし』になるより早く構えていたボールを投げれば赤い光がフリーザーを包み……。
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
* * *
「三匹揃えたわよー!」
ぐっと両の拳を突きあげてのガッツポーズ。
ここまでの苦労を考えれば最後はややあっさりしていた気もするが、それでも成し遂げたという事実に興奮していた。
「おめでとーソラちゃん!」
「ありがとうユウリ」
親友の祝いの言葉に嬉しさを感じながらも結局最終的に戦うことになる相手はその親友なのだという事実に少し複雑な気持ちにもなる。
とは言えやりきったのだ。
サンダー、ファイヤー、フリーザー。
このガラルで出会った三体の強大な鳥ポケモンたちを見事全員捕まえた。
誰でもない、私の力で掴み取った結果だ。
それだけは誰に対しても自慢できる、私の成果だ。
だから。
「準備はだいたい整った、かしらね」
アオガラス、ペリッパー、サンダー、ファイヤー、フリーザー、それにヤヤコマにウッウにプテラ。
これで八体。アオを入れて九体。
最低限は揃った、と見て良いだろう。
「あと一匹か二匹くらいなら捕まえても良いけど……」
まあそれは追々としておこう。
それよりまずは―――。
「帰りましょうか、ユウリ」
「そうだねー」
現在二月の半ば。
ジムチャレンジの開始が四月から、となるともうそれほど猶予は無い。
まあ実際ジムチャレンジが開催されてからも数か月の猶予はあるのだが。
「でも半月で終わって良かったよ。ちょうどもうすぐだったからね」
「もうすぐ? 何かあったかしら?」
「チャンピオンカップだねー」*2
ガラルにおけるポケモンバトルとは『興行』だ。
故にリーグ所属のプロトレーナーはリーグ開催の公式試合とは別に『年間試合数』というのが決められていて、チャンピオンやジムリーダーが主催する大会に参加したりして一定回数以上のバトルをすることが義務付けられているらしい。
「なんというか、異文化よねー」
大多数の地方ではプロトレーナーは『強さ』を求められる。求めるのではなく、求められるのだ。
だがこのガラルで求められるのは『強さ』よりも『人気』だ。ポケモンバトルがより商業に密接しているが故なのかもしれない。
とはいえだからといってガラルのトレーナーのレベルが低いかと言われればそんなことはない。
ユウリなど三体の『超越種』を従えているし、クコなどを多少見ただけだが相当にレベルが高いのも分かる。
故に程度が低い、というのとはまた違っていて、文化が違う、としか言い様がない。
一番驚く話だがこのガラルにおいて『サイクル戦』というものがほとんど無いらしい。
ただ聞けば納得する話でもあるのだ。
ガラルのプロトレーナーは自分のパーティの『エース』*3を六体目に固定し、六体目をダイマックス、キョダイマックスして殴り合うのが主流らしい。
サイクル戦とは6体のポケモンを駆使して行うためその内の1体をラストに固定するだけで交代先の選択肢が5体から4体へと減ってしまうことになる。
また基本的にプロトレーナーの大半が『ジム』系のトレーナー、つまりジムリーダーかジムトレーナーのため、使用タイプが半ば固定され気味になってしまっている。
交代際相手の攻撃を受ける際に最も注意しなければならないのは『タイプ』だ。
弱点なら2倍か4倍、耐性があれば半減か1/4と最大と最小で16倍ものダメージの差異が生まれるのだ。
故にタイプが統一されているジムリーダーやジムトレーナーたちでは『
ならまあ居座り型が増えてしまうのも無理は無いのだろう。
そして居座り型が増えるため、ガラルの環境*4は『いまひとつ』だろうとなんだろうと能力を上げて相手を叩くことを主流としている。
タイプ相性でダメージが半減するなら威力を2倍にして対応すれば良い、とか頭の悪い戦術をしているパーティが多い。
つまりガラルとはポケモンの育成を得意とする『ブリーダー』タイプのトレーナーが多い環境なのだ。
ポケモンバトルが商業にダイレクトに絡む分、そこに発生する利益は他地方よりも跳ね上がることになる。つまりプロトレーナーの収益もその分跳ね上がるのだ。
金があれば強い、というわけではないが、育成する環境を整えるのにもポケモンバトルで使う道具を買うのにも金はいくらあっても困るものではない。
まだポケモンジムという最新の育成環境がリーグ委員会によって常に整えられているというのもその傾向に拍車をかけているのだろう。
どれだけ育成能力の高いトレーナーだろうと、育成環境が無ければその能力が十全に発揮されることは無い。
逆に言えば育成環境に多額の資金をかければ多少育成が苦手だろうと、それを補って余りあるということだ。
こうしてみると本当にガラルという地方は異色だ。
だからこそこんな環境が生まれたのかもしれないが。
「ホント、異文化だわ」
嘆息一つ、もう一度呟いた。
* * *
「ちるる?」
ポケモンを育成するということは簡単なことではない。
例えジムという育成施設の存在があるとしても、だ。
私も育成の手ほどきをしてもらったとは言え、まだ二年目のトレーナー。
一年目よりは慣れているかもしれないが、それでも二十も三十も育てられるわけではない。
故に十体……アオはこれ以上の育成が必要無いのでつまり後二体までを限度して育成しようと思っていたのだが。
「ゲットォ!」
互いの視線が合った瞬間、私が咄嗟に投げたモンスターボールが『きのみ』を啄んでいた
かたり、とボールが揺れる。
…………。
かたり、とボールが揺れる。
……………………。
かたり、とボールが揺れて。
……………………………………。
“かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
「はっ?! 咄嗟にやってしまったわ」
「ホントいきなり投げたね、ソラちゃん」
隣でユウリが少し呆れているような声音で呟くが、そんなことは気にせず転がったモンスターボールを拾う。
早速ボールからチルタリスを出すと、ぶるり、と一度体を震わせてこちらを見つめ。
「ちる?」
「可愛いわねこの子」
それにもふもふだ。
それにもっふもふだ。
何も考えずに無意識にボールを投げてしまったが仕方ないのだ……このもふもふが私を狂わせたのだ。
「やばいわこの子……通常の三倍のもふもふよ」
「何それ? いやでもこのもふもふは凄い」
いやそれにしてもスゴイ羽毛の量だ。三倍は言い過ぎにしても普通のチルタリスより遥かに羽毛が多い。
ふと気になって図鑑で解析を行う。
【名前】―――
【種族】チルタリス/原種/特異個体
【レベル】67
【タイプ】ドラゴン/ひこう
【おや】ソラ
【特性】もふもふ
【持ち物】―――
【技】ムーンフォース/ドラゴンダイブ/フェザーダンス/コットンガード
「もふもふだわ」
「もふもふだね」
特性にもなるくらいに『もふもふ』であることがここに証明された。
というか特異個体。
「いるところにはいるものね」
「あーガラルって何か特異個体と変異種が多いんだよね、土地柄っていうか……ダイマックスと同じく土地の下から湧いてくるパワー? みたいなの影響されて変異しちゃうケースがあるんだって」
「そうなのね」
噂に聞く『ホロン地方』などの例を見るに、ガラルのそれもまた土地柄なのだろう。
しかし『もふもふ』とは良い特性である……いや、単純な手触り最高なのだが、それ以上に『直接攻撃のダメージを半減してくれる』という凄まじい性能を持つ。
「思わず捕まえちゃったけど、思ってた以上に優秀だわ」
上手くやれば……もっと強くなるかもしれない。
そう思えば今からもうすでにワクワクとした気持ちが止まらなくなった。
作者的に言えば一番重要なのは『相手の読みの深さ』を知ること。深く読める相手と浅く読む相手だと案外浅いほうが素直に行動する分、深読みし過ぎて一手ミスった、とか良くある。この場合、相手がどのくらい読んでくるのか、という相手の読みの深さを知るために『まもる』や『みがわり』をしたり、比較的安牌に交代したりして相手の読みの『一歩上』を探る必要がある。
ただし実機のように3:3の見せ合いシングルの場合、選出で6割、一番手で3割以上勝負が決まってしまうこともあって、読み以前の問題な場合も多い。
正確には3:3シングルだと選出が一番『読み』を必要とする。
というわけでさっくりフリーザーも終了。
いやだってフリーザーの場合、サンダーとファイヤーに囲まれて、『おおあらし』で必中ぼうふう撃てる時点で詰みだし(
いや、強いのは強いんだよ? フリーザーも。
【種族】フリーザー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】87
【タイプ】エスパー/ひこう
【性格】ずぶとい
【特性】シックスセンス(場に出た時、命中と回避ランクを上げる。HPが満タンの時、優先度0の『エスパー』技の優先度を+1する。)
【持ち物】―――
【技】いてつくしせん/ぼうふう/サイコカッター/サイコシフト
【裏特性】―――
【技能】『????」
????
【能力】『フェイクアバター』
場に出た時、自分の『回避』ランクを+2にし、自分のHPを最大HPの1/4だけ減らして『みがわり』状態になる。最大HPが1/4未満の時この効果は発動しない。
相手の攻撃を『回避』するか『みがわり』状態が解除された時、味方と交代できる。
場に出ただけで『回避』+3と『みがわり』状態という嫌なな組み合わせ持ってる上に『みがわり』剥がれたら逃げ出す結構面倒な相手なんだけど必中『ぼうふう』ぶち当てられて数の差で囲まれて逃げ出せなされて、『みがわり』剥がれて『ぼうふう』で叩き落とされたところにダーくんに『急所』抉られたら誰だって降参だよ(
あとチルタリスは前回捕まえるの忘れてたからこっそり追加しときました(