“ぼうふうけん”
荒れ狂う嵐が夜の闇に渦巻く。
強力なパワーを秘めた『おおあらし』だが、これ自体の意味は目的の半分だ。
今吹き荒れている風は私が起こした物であり、この『おおあらし』の空間は私が掌握しているといって過言ではない。
「ガーくん! 戻って!」
つまり闇の中へ消えたアーマーガアがどこにいるか、気流の乱れを知覚できる私には夜の闇は意味をなさない。
ここまでのアーマーガアの使う技を見る限り、直接的な攻撃しか無い。使わないのか、使えないのかは問題ではない。
実際使えたとしてもこの状況でそれをやられたら詰むし、あのアーマーガアがこちらを詰ませに来ているわけじゃないのはここまでのバトルの流れからして分かる。
つまりこの『おおあらし』の範囲内にいる限り、アーマーガアの位置は捕捉できる。
だが相手に『せいくうけん』を取られている状況は『おおあらし』ではどうにもならない。
『おおあらし』は『ひこう』タイプのポケモンならば無差別に恩恵を受けられる以上アーマーガアも強化してしまう。
とはいえ、見えない位置から一方的に攻撃され続けるという展開ではじり貧にしかならないならば選択としてはこれで正しいはずだ。
「キュゥォォ!」
こちらまで戻ってきたガーくんを確認しながら、上空に羽ばたいているアーマーガアを確認する。
夜の闇のせいでどうせ見えないならば嵐が巻き起こってさらに視認が難しくなっても別の方法で知覚できる現状がやはりベストであることを認識しながら、次の手を頭の中で組み立てる。
そうして上空からアーマーガアが急降下……こちらへと攻撃せんと迫ってくるのを見やりながら。
「今っ!」
ガーくんをボールへと戻しながら、心の内で二つ目の撃鉄を落とす。
“しんくういき”
手に持ったボールへと『おおあらし』の全てが収束していく。
当然ながら上から降下するアーマーガアが正常に動けるはずもない。『ひこう』タイプを喪失し、ほとんど自由落下のような有様でそれでも翼を何とか駆使しながら降下して。
「ぶち込みなさい……ガーくん!」
垂直に落ちてくるアーマーガアへと、ボールを横回転させながら投げる。
“スピントルネード”*1
『らせんきどう』を描きながら嵐の勢いに押されて垂直へ空へと駆けあがっていくガーくんがアーマーガアと接触し……。
“ダイブクロウ”
“ドリルくちばし”
互いの技が激突し……
単純な能力と技の威力を考えればアーマーガアが圧倒していたのだろうが、『おおあらし』の全てを費やしたエネルギーがガーくんを後押しした一撃だったのだ、当然ながらその瞬間の威力は凄まじいものになる。
放たれた一撃は螺旋となってタイプを貫通する。
本来はポケモンの側で覚える技術らしいが、私の力を使えば風を渦巻かせ竜巻を作るようなこともできる故に母さんから教えてもらった小技の一つだ。
風の力を使うが故に『ひこう』タイプにしか付与できないが、タイプ相性で半減されないというのは凄まじく使い勝手が良い小技の一つだ。
とにかくこれで一矢報いた。
先ほどの防戦一方だった時を思えばざまあみろ、と言いたいが残念ながらこれ以上は無理だろう。
さすがに根本的な能力が違い過ぎる。恐らくレベルですら二倍近く違うだろうし、何より進化段階一つ違えばトータルの能力はかなり変わる。
「二度目の『おおあらし』まで……さて、どれだけ引き延ばせるかしらね」
アーマーガアがこのままこちらを詰める事無く防戦一方でも続けてくれるなら後は『おおあらし』の再展開まで待って延々と同じことをしていれば良いのだろうが、さすがにアーマーガアもそれは許してくれないだろう。
やはり私にとって『ひこう』タイプが鬼門だ。
近い内に『せいくうけん』持ちでも探そうと心に決めながらもバトルを続行する。
だがやはり『おおあらし』が無いせいでアーマーガアが知覚しきれない。その姿を捉えようとすると闇へ消え、直前の攻撃でしか気づけない。
技を出している間に攻撃を受けて即終了の予感しかしないので、技の一つも出せないし右に左にとガーくんへ指示を出しながら紙一重で攻撃を躱していく。
『おいかぜ』を吹かせる程度には力が回復してくるが、そんなもの今の状況でどれだけ役に立つのか、という話。
「これなら『かげぶんしん』の一つでも覚えさせれば良かったわね」
この状況で必要になるのは防御力よりもどちらかというと回避だろう。
レベルがダブルスコアという時点で攻撃の全てが脅威だ。
今の手持ちがガーくん一体という時点でダメージをちまちまと回復している暇も無い。
と、その時。
“エアロブースト”
どん、と空気の爆ぜる音と共にアーマーガアが突っ込んできて……。
「躱して、ガーくん!」
私の指示と共にアーマーガアの攻撃を避け……る以前。
「しまった?!」
ズラされた。それに気づいた時にはすでに溶けた闇の中から無音での奇襲が始まっていて。
“よろいのつばさ”
放たれた翼の一撃がガーくんへと直撃しようとして。
「まに……あえっ!」
咄嗟に回復していたはずの力の全てを駆使して、極小規模の『嵐』をガーくんを中心に一瞬だけ展開する。
突如発生した『嵐』にアーマーガアの狙いが僅かに逸れて……直撃こそしなかったものの、それでも躱しきれなかった一撃でガーくんが吹き飛ばされて―――。
その全身を覆っていた嵐がガーくんへと吸い込まれていく。
それと同時に。
* * *
ガーくんの全身が光に包まれ、どんどんその姿を変えていく。
眩い光が徐々に収まり、そうして残ったのは―――。
「ガーくん?」
「クラァァァ!」
応と、答えるように黒い烏……アーマーガアへと進化したガーくんが吼えて。
“ゴッドバード”
ガーくんが大きく翼を広げる。
それに対してアーマーガアがまるで待ち構えるように上空に留まる。
全身を白いエネルギー光に包まれたガーくんが加速をつけて突撃し……。
空中でアーマーガア同士が激突する。
“ストームライダー”*2
放たれた一撃がアーマーガアの『せいくうけん』を突き破り、その巨体を吹き飛ばす。
10メートルはあろう巨体が吹き飛ばされていくその光景に、ガーくんが放ったであろう技の威力に目を見開く。
同時にガーくんが身に纏っていた『嵐』が霧散していく。
残念ながら常時展開できるほどの力は戻っていなかったためほんの僅かな時間しか持たなかったらしい。
そうして吹き飛ばされたアーマーガアが空中でその体勢を整えると。
―――クラァァァ
どことなく楽しそうに吼えると少しの間、ガーくんへと視線を送る。
そうして十分にガーくんを見つめた後、その両翼を羽ばたかせて夜の闇の中へと消えていく。
「終わった……ということで良いのかしら、ね」
「
私の元へと戻ってきたガーくんを見上げる。
すっかり大きくなってしまった……3メートル弱ほどはあるだろうか、通常の個体よりはかなり大きいがそれでも先ほどの10メートルサイズと比べると大分小さく見える。
140に届かない私の背丈ではその顔に手を伸ばしても届かないためその翼に手を置いて撫でるとガーくんが嬉しそうに身を寄せてくる。
「立派になったのに、甘えん坊ね、アンタは」
ココガラの時からすっかりと変わってしまったが、それでもまだ生まれて二週間と少々。
急激なレベルアップにも変容することも無く、幼子のような性格のままのガーくんに少し安心しながら、周囲を見渡す。
「それで、ここどこかしら」
『まどろみの森』のどこか、ということしか分からない。
あのアーマーガアも連れてきたのなら連れて帰ればと言いたい。
「ガーくん、飛べる?」
「
「……不安ね」
とはいえ人を乗せて飛ぶのは意外と技術がいる。
もしうっかりで落とされると割と真面目に死にかねないので、力が回復するまで待ってからにする。
それまでの時間潰しがてらに周囲を見渡せばアーマーガアの巣が放置されていて。
「そういえばさっきなんか色々あったわよね」
そうして巣の中を見てみれば、どこから持ってきたと言いたくなるようなバトルに使うような『道具』の数々。というかこの『レコード』のようなものは何だろうか。
「これもらっても良いのかしらね」
道具の大半は持っているので要らないが、どこから持ってきたのか『わざマシン』などもある。
基本的に『わざマシン』は結構な機密情報の塊なので地方外に持ち出し禁止だ。
『わざマシン』は各地方のリーグが製造し、番号を割り振っているのだが地方ごとの特色や環境に合わせたラインナップとなっており、その地方のリーグに出るならその地方の『わざマシン』を使って育成をしろ、という規定のようなものがある。
規定とは言っているが実際は強制だ。何せ『わざマシン』を使用するための機械が地方ごとの『わざマシン』に合わせてチューンされているため、他地方の『わざマシン』は起動すらできないのだ。
つまり私がホウエンで集めた『わざマシン』はホウエン地方でしか使えないため、ガラルで『わざマシン』を使いたいならガラルリーグ印の『わざマシン』が必要になる、ということだ。
「巣だけ置いてどっか行ったってことは良いってことよね」
まあ勘ではあるがあのアーマーガアは怒りはしないだろう。
使うのもガーくんへの育成などに使うわけだし、そのためのものなら許してくれる気がする。
というわけで物色しながら力の回復を待つのだが、こうして見ると色々あるものである。
「これ全部落とし物なのかしらね」
トレーナーの使用する道具が道端に落ちていることは時々あることではあるがそれにしたって多い。
そもそも何のために集めているのだろうか。
「もしかして、使えるの? これ」
ポケモン図鑑の種族説明に寄ればアーマーガアという種族はかなり知能が高いらしい。
ガーくんも今はまだ幼いが現状ですでに意思疎通が可能であるし、上手く仕込めばその辺の技術を習得できるかもしれない。
「道具を使いこなすポケモンね……中々面白そうじゃない」
そういう方向性もありかな、と考えながら力の回復までの時間を潰し、力が回復すると共にユウリの家へと戻る。
「すっかり遅くなっちゃったわね」
もうしばらくすれば日が出てくる時間帯だ。
別に今日何か用事があるわけでも無いが……。
「ほわ……」
思わず欠伸を一つ。
神経をすり減らしたせいで疲れと眠気が出てきた。
目をこすりながら、ガーくんをボールに戻そうとして……。
「ああ、今日はお疲れ様、ガーくん」
そっと撫でてやれば身を寄せるガーくんを抱き寄せて、二度、三度を撫でつけてやる。
それからボールに戻すと目の前にいた巨体が手の中のボールへと消えていく。
「さすがにもうこのサイズじゃ家の中には呼べないわね」
あくまで普通の民家であるユウリの家なので耐ポケモンバトル用の加工をした実家とは違うのだ。
もうココガラだった時のように一緒に卓を囲むことはできないことを少しばかり寂しがりながらもふっと苦笑する。
「おやすみ、ガーくん。ゆっくり休んでね」
手の中でボールを撫でながらそう呟いた。
* * *
朝。
「おっはよー! ソラちゃん!」
毎朝のことだが、ユウリは朝から元気が良い。
まあ私も朝は早いほうだが今日ばかりは目が覚めなかったらしく、目を開くとユウリが人の顔を覗き込んでいた。
「おはよう……」
「眠そうだね、昨日は寝れなかったの?」
「ふぁあ……色々あったのよ、色々ね」
戻ってきたのが深夜四時過ぎ。
そこから再び着替えて眠ったのだが、現在六時半……全く眠り足りなかった。
「朝ご飯作ってるけど食べれる?」
「食べるから……それまで寝かして」
「うん、分かったよー」
そう言ってユウリがベッドから離れる気配を感じながら布団を被って微睡む。
そのまま意識が暗転していこう……として。
「あ、そうだ、ソラちゃん」
ユウリの声に引き戻される。
「なあに……」
「うわ、眠そう……ってそうじゃなくて、今日空いてる?」
「昼からなら」
「うん、じゃあ一緒にナックルシティに行かない?」
「何かあるの?」
「うん、ナックルシティのスタジアムでジムリーダーのキバナさんが大会開くらしいから、一緒に見に行こうよ」
「……はーい」
「あらら、ソラちゃん意識無いね。仕方ないなあ。朝ご飯の時にもう一回誘おっか」
じゃ、おやすみ、と告げて部屋を出ていくユウリの声を聴きながら布団の中で微睡み。
―――最後のほうに何か大事なこと言っていたような気がする。
そんなことを思いながら。
今度こそ、意識が暗転していった。
【名前】ガーくん
【種族】“あらしの”アーマーガア/原種/専用個体
【レベル】62
【タイプ】ひこう/はがね
【性格】わんぱく
【特性】????
【持ち物】
【技】ゴッドバード/よろいのつばさ/????/????
【裏特性】『????』
【技能】『????』
【能力】
『ストームライダー』
天候が『おおあらし』の時、自分と同じタイプの技が相手の特性に関係無く攻撃できる。
????
というわけで一章はこれで終了(予定
間に番外編とか挟まないなら次回から二章になります。
またトレーナーデータの作成につき、更新間隔が隔日か三日に一回くらいになるかも?
まあ多分一日一話はもう無理。