「つっかれたあ……」
朝早くからたっぷりと時間を取ってワイルドエリアで延々とレベリングしていたのだが、さすがに四時間も五時間もぶっ続けでバトルをしていれば疲労は隠せなくなってくる。
「ちょっと迂闊だったわね」
レベリングの途中に偶然『あまいミツ』を溜める花の群生地を見かけたのでちょっと『風』で煽って周辺のポケモンを集めただけなのだがまさか周辺から大量にポケモンが集まってきてそれを切っ掛けに周辺エリアで一斉に
「良い経験値にはなったけど、さすがに疲れたわ」
空を見上げ、だらんと体を投げだす。
さらさらと草原に吹く風は心地よく、けれど耳元で草葉を揺らすのはくすぐったいので止めて欲しいところ。
折りたたんだコートを頭の下に敷いて枕代わりにしながら目を閉じれば、陽気な日差しと程よい風の心地よさにあっという間に眠気がやってくる。
幸いにも周辺エリア全ての敵を叩きのめしたので半日くらいはこの周辺は安全だろうし、体力の回復も含めて少し眠ることにする。
「ふぁ……ふう」
じんわりと閉じた目の奥から疲れが湧いてくるような感覚に欠伸一つ、そのまま意識は落ちていって……。
「どれもこれも、というのはまあ無理だろうな」
目の前で腕を組んだ少女の姿をしたソレは私の問いをばっさりと切った。
金色の瞳、全体的にワンサイズ大きいようなダボついた緑の着物と黒の袴、緑の髪を一つ括って黄色の簪。
外見だけならどう見たって人のそれなのに、その身の内に秘めた力はただそこにいるだけで存在感を醸し出すほどに大きい。
ソレを言葉で表すならばシンプルな一言で良い。
―――世界最強。
『超越種』という伝説に語られるほどの規格外存在の中にあって、さらに最上位に座す例外中の例外のような存在。
空の龍神はけれども存外に人に友好的だった。
「お前の力は大まかに示せば『龍』……それは空と竜に通じる力であり、けれど星に至ることは無い」
椅子を傾けながら龍神が……デルタと名付けられた少女の姿をした『龍』が冷静に分析を語る。
「お前の内に眠る力は人からすれば大き過ぎる故な、人の身でそれを扱うならば方向性はどちらかに絞る必要はあるだろうよ」
まあ尤も、と苦笑しながらデルタが続ける。
「お前がそれを使いこなせるようになれば、また話は別かもしれんがな」
ぴん、と指を一本立ててくるりと回せば風が吹き荒ぶ。
恐ろしいのは部屋の中の私とデルタを囲むように風が吹いているのに、私とデルタを直径とした円の外では一切風の影響が出ていないところだ。
「我々の力とは根本的に言えば『上書き』だ。世界の理の上書き、空間に自分たちの領域を上書きする。故に
つまりこの風が吹いている空間とそこから一歩外側の空間では力が『遮断』されているのだ。
ただ単純に風を吹かせているのではない、『風の吹かない空間』の一部に『風の吹く空間』を『上書き』している。
この風は物理的に吹いているわけではない、気圧の差で空気が動いているのではない、デルタの力で『風が吹く空間』に概念的に書き換えられている。だから指一本外に離れれば一切風を感じられないなんてことが起こる。
「お前にはこれだけのことはできん……まだな。存在自体が余りにも例外過ぎて将来的にどうなるかすら予想もできん、ただ今のところで言うならばまだ無理だ」
だからこそ。
「可能性を絞るしかない」
『空』か『竜』か。
今はまだどちらも、なんて使いこなせるほど軟な力ではないから。
「『星』を継いだのはお前の弟。そして『空』を継いだのはお前。そして『龍』は私に最も近しい力と言えるな」
空の『龍神』。
確かに私の力を最も理解しているにのはデルタだけなのだろう。
「さて、どうする? ソラ」
その問いに、私は―――。
* * *
【半年くらい前の通話記録】
『ソラ、負けちゃったって?』
「アンタも見に来てあげなさい……ってのは無茶な話か」
『こっちも卒業生がリーグに参加したりして忙しかったんだよ』
「ジムのほういい加減どうにかしないといけないんじゃないの?」
『シキに引き継いでも良いんだけど……シキも別に擬人種専門ってわけじゃないしなあ』
「ならもう畳む?」
『いや、一応研究の一環でもあるし、残すのは残す……一番妥当なのはソラが就いてくれることなんだけど』
「無理でしょ。あの子もう次のリーグに向けての準備始めてるし」
『相手はユウキだっけ? あいつも大したもんだわ』
「ユウキはアンタの影響が強いからね……」
『代わりにソラはキミの影響が強いよね』
「私とソラは別の存在なんだから、真似たって仕方ないと思うんだけど」
『ソラはキミが大好きだからね……憧れたんだよ』
「アンタは最近避けられてるけどね」
『うぐっ、ち、違うんじゃないかな、き、きっと偶然だよ』
「アンタだんだんセンリさんに似てきたわね」
『それはそうだ……親子なんだから』
「じゃあソラもアンタと親子だからきっと昔のアンタみたいに……なるのも嫌ね」
『キミ、自分の旦那に向かってそれは無いんじゃないかな』
「じゃあ自分の過去振り返って見なさいよ」
『…………』
「…………」
『…………」
「何か言いなさいよ」
『愛してるよ、エア』
「っ、そ、そんなんで誤魔化してんじゃないわよ」
『いやー、相変わらず初々しいエアは可愛いなあ』
「アンタ今度会った時覚えてなさいよ」
『ははは、次……いつ会えるんだろうなあ』
「自分で言ってて遠い目してんじゃないわよ、見えないけど」
『数年でセイジもこっち来るっていうし、ますます帰れないなあ……エアたちこっちに来ない?』
「ジムのほうどうするのよ……」
『うーん、スクール講師ってのも悪くないんだけど、単身赴任は辛いなあ』
「ハルがこっちに帰って来る頃には子供たちみんな顔忘れてそうね」
『ぐえぇ……家に帰った時に、おじさん誰? とか言われたら俺ちょっと立ち直れないかも』
「だったらもうちょっと帰って来れるようにすることね」
『そうだねえ。最悪辞めるっていう選択肢も無くは無いけど……今の仕事も楽しいからなあ』
「贅沢ね。まあ頑張りなさいな、お父さん?」
『ふふ……そう言われたら張り切っちゃうよ、母さん』
「…………」
『…………』
「…………」
『あー、ところでさ』
「何?」
『ソラはまあ……良いんだけど、アオは?』
「ソラは良いのね、アオもアオでいつも通りよ」
『うん、ソラは結局あの子の心の問題だ。あの子が何を悩んでいるのか分かってても、でもやっぱり俺たちにはどうしようも無い。いや、もう決まってしまっていることなんだ、今更変えられるはずも無いこと。だからソラが割り切るか、受け入れるか、どっちかしかないんだ』
「それは……そうね。もう一度最初から、なんてそんな都合の良いことはできない以上、それしかないのは分かるけど、もう少し娘に優しくしてやりなさいよ」
『でもソラは自分でトレーナーであることを選んだんだ。あれは俺たちが強要したわけじゃない。ソラが自分で憧れて自分で選んだ道なんだ。助けて、ってソラが言ったならともかく、そうじゃないなら俺は何もしない。それはトレーナーとしては絶対だ』
「間違っては無いけど」
『お前だって分かってるだろ? トレーナーとポケモンは究極的には対等なんだ。弱いトレーナーはポケモンに舐められる。ポケモンに舐められたトレーナーはどうやったって勝てない。勝てないトレーナーは弱い。悪循環を断ち切るならトレーナーとして強くなるしかないんだ』
「…………」
『俺たちの子供だ、ってのは分かるよ。でもだからって何でもかんでも与えるだけが愛じゃない。だから親として子を信じてやるのも大事だと思わないか?』
「……ふう、分かったわよ」
『まあそれはそれとしてアオはどうにかしないといけないけど』
「いや寧ろそっちのほうが無理じゃないかしらね」
『そう?』
「言っちゃなんだけど、ソラはなんかんだ言ってもアンタに似てるわよ、ハル。でもアオは酷いくらい私に似ちゃったわね」
『そうかなあ? ソラって結構エアに似てると思うけど』
「違うわよ、あれはただ真似てるだけ。根本的な部分はあの子はアンタにそっくりよ。逆にアオは私にそっくり。だからこそあんな風になっちゃってる」
『あー、それはさすがに俺には分からない領分かなあ』
「そうね、トレーナーで……何より人だったハルには分からない領分だと思うわ。アオのほうは私のほうでも見ておくわ」
『分かった。年末には一度帰れると思うから、その時ソラと少し話してみるよ』
「うん、お願いね」
* * *
ホウエンの朝は早い。
一年を通して温暖な気候で、冬が短いため基本的に住人の朝は早い。
都心部ならまだ眠気に微睡んでいる時間でも容赦なく『目覚まし』がやってくる。
「にーちゃん、おきてー!」
「お、おきてぇ、おにーちゃん」
「わ、分かったから、ちょっと、揺らすの、やめて」
ベッドの上にどん、と飛び乗って布団を剥ぎ取らん勢いで揺さぶって来る妹に寝起きの頭をぐらぐらと揺らされながらも目を覚ます。
半身を起こすと目の前にいた妹たちの脇を抱えてベッドから降ろす。
「おはよう、アカリ、メイリ」
「おはよー、にーちゃん! ごはんたべよー!」
「お、おはよう、おにーちゃん。ごはん、もうできてるよ?」
「分かった分かった……すぐに行くから先に降りてて」
「はーい」
元気の良い返事をしながらドタドタと階段を降りていく妹とその後をついていくようにとん、とん、と静かに降りていく妹に、朝から元気だなあと嘆息しながらベッドから降りて軽く体を伸ばす。
カーテンを開けば部屋の中に朝日が刺し込み、窓を開ければ心地よい風が吹く。
シダケタウンは『えんとつやま』が近いためかミシロよりもさらに温暖な地域だ。
別に暑いのも寒いのもそれほど苦手というわけではない性質なのでそれほど気にならないが、ここの風は心地よいので結構気に入っている。
まあ姉のほうは母に似て寒いのが苦手なようだが。
「おはよう」
家の中で一番広く作られたリビングの中央にどんと置かれた大きなテーブルに、けれど席は半分くらいしか埋まっていない。まあ俺以上に良く寝る家族が結構いるので妥当だろう。
「良く寝るわね、アオ。寝癖ついてるわよ?」
「ん、ああ。直しとくよ」
「今やりなさいよ、全く」
キッチンのほうからやってきた母さんに挨拶をしながら頭を指さされたので手を当てれば確かに寝癖になっている。
軽く引っ張ってみるが中々しつこく直る様子も無いのを見かねて母さんが手を伸ばし……。
「っと、っとに! もう、アンタちょっと屈みなさい」
背が低くて届かなかったらしい母さんがぴょんぴょんと跳ねるがけれどやっぱり届かないので仕方なく屈むとようやく手が届いたらしい母さんがちょいちょいと手櫛で髪を梳く。
「アンタも頑固な髪してるわね、ハルによく似てるわ」
逆に姉さんはかなり手間いらずのさらさらヘアーだ。まあ母さんに憧れて毎日丁寧に手入れしているらしいのもあるのだろうが。
そうしてリビングの中央で母さんと戯れていると。
「あら、兄さん。おはよう」
「レイ、おはよう」
後ろから水色の髪をした少女がキッチンのほうからやってくる。
妹のレイ。シア母さんの娘で俺たちより半年くらい遅く生まれたので妹。
シア母さんはこの家の家事の大半を一手に担っているのだが、さすがに人数が多すぎるというのもあったし、俺たちは皆両親から影響を受けている部分が大きいのでレイは自然とシア母さんの手伝いをするようになっていた。
なのでこの家で一番女子らしいと言えばレイになる。
実際他所では結構男性人気が高いらしい。
「レイが作ったの? 一つもらうね」
「そうですけど……ああ、もうダメですよ兄さん。行儀悪い」
お皿に盛りつけられていた卵焼きはシア母さんが作ったものに似ているが少し形が悪い。
いや、シア母さんの腕前がプロ級なだけでこの卵焼きだって家庭料理としてはかなりクオリティが高いとは思うが。
多分レイが練習に作ったんだろうな、と思いつつ一つ摘まんで食べてみれば口の中に広がるのは食べ慣れた家庭の味だ。
「味付けは?」
「それも私ですけど……」
「そっか。すごく美味しいよ。シア母さんと同じ味がする」
「そ、そうですか? よ、良かった」
少しほっとしたように微笑むレイから皿を受け取ると、代わりに持って行くよ、と言ってその場を去る。
レイも一言礼をいってまたキッチンへと戻っていくのでまだまだ作るものがあるんだろうなと思いつつ適当な席に着く。
ふと席についている面子を見やれば先ほど人を起こしに来た双子の姿が無い。
となると多分また起こしに行ったんだろうな、と思っていると上からまたドタドタと足音が聞こえてきて。
「おかーさん、ほらしっかり歩いて」
「ま、待って、目が、目が回るから~」
「おかーさん、しっかり」
「あわわわわ、アカリちゃん、階段で引っ張らないで~」
「あわわ、お、おかーさん?!」
ドタドタドタ、と聞こえてくる派手な音に苦笑する。
全く持って賑やかないつもの我が家だった。
次章行く前にちょっとした番外編。
ドールズ読んでれば分かるネタだが、特に電話のやつはドールズ読んでないと分からないかもしれない。
まああらすじにドールズ読んでたほうが楽しめるよーって書いてあるし良いよな。
どうでもいいけどソラちゃん一家の家系図
父親:ハルト
母親:エア
長女:ソラ(人間)
長男:アオ(擬人種)
母親:シア
次女:レイ(人間)
母親:シャル
三女:アカリ(人間)
四女:メイリ(人間)
母親:チーク
次男:メメ(人間)
五女:ネネ(擬人種)
母親:イナズマ
六女:レキ(人間)
母親:リップル
七女:ベル(人間)
八女:メルト(擬人種)
母親:シキ
三男:セイジ(人間)
なんか母親のイメージ踏襲しながらキャラ作ってたら三男八女の女の子多めの家系になってた。
全員集めると両親含めて男4人の女15人の家族だからとんでもない大家族だわ。