ナックルシティはガラルでもシュートシティに次ぐ大都市ではあるが、同じ大都市のエンジンシティと比べるとその景観は落ち着いた雰囲気を醸している。
民家の一つ一つすら統一された伝統の建築様式で建てられており、他の地方では見られないガラル独特の建築は観光都市として評価されるだけあってただ歩いているだけでも楽しめるものだった。
シュートシティでも同じように地方独特の建築様式の建物があったが、あちらは比較的近代のものらしく、ナックルシティはもっと古い時代のものらしい。
「こういうのレトロチックっていうのかしらね」
「素敵な雰囲気の街だよね~」
スタジアムで開かれていた大会も昼過ぎには終了しており、折角街に出てきたのならぶらりとショッピングでもしようとユウリと街を歩いているのだが、なんとも広い街である。
いや、正確に言えば広いというより街の中央に大きくスタジアムが建っているためどこにいくにもスタジアムの外周を大回りするように移動しなければならないせいで広く感じるのだろう。
実際のところガラルの街々というのは規模自体はそれほど大きくは無いのだ。
街の数自体が多いだけで一つ一つの都市はそれほど大きいわけではない。
ガラルの主要都市、と言われると『スタジアム』のある街がピックアップされるが実際にはそれ以外の街も多数存在している。『スタジアム』があるところと比べると小さいが、スタジアムのある街と同じくらいの数の『無い』街がガラルの各地には点在しているのだ。
なので土地や人口的には他地方と比べてそれほど差の無いのガラルだが、一つ一つの街の規模は他の地方と比較すると小規模になっている。
シュートシティだけ例外的にやたらと広いがあれはガラル地方の玄関口として他地方の人々を大勢迎え入れるためだったり各ジムが集中していたりと色々理由はある。次に大きいナックルシティやエンジンシティだってスタジアムがあるから大きく広く見えるだけでスタジアムを抜いた街の敷地というのはそれほど広いわけではない。
それでもこうして実際に歩いて見ると広く感じるのはやはり円状に広がった街の形のせいなのだろう。
「でもやっぱりこうして見ると、一部の建物だけ浮くわね」
「だね~。でもまあ、しょーがないよ」
大都市だけあってポケモンセンターやブティック、その他多くの商業施設が並んでいるのだが、建物の外観が明らかに街とあっておらず、浮いて見えた。
他の街と同じ系列の施設も多いため、ユウリの言うとおりこればかりは仕方ない話でもあるのだが。
「っと、あったあった、ここだよ~!」
『スタジアム』から歩いて30分ほど。
ユウリの案内でたどり着いたのがガラル地方一帯に展開している量販店『ブティック』だった。
* * *
『ブティック』はかなり大型の量販店であり、ガラルの主要な街ならだいたい店舗を構えている服飾店だ。
最大の特徴としてジムリーダー等の『レプリカユニフォーム』を販売している。
『ユニフォーム』というのは他地方のトレーナーでは余りピンと来ないのだが、ガラルのトレーナーというのは『ジムチャレンジ』等リーグ主催の公式試合の際に出場選手であることを判別するためのユニフォームを着用することを義務付けられている。
またプロリーグ参加時に選手ごとに好きな番号を登録することが義務づけられており、登録した番号はユニフォームの背中に刺繍される。
選手の背番号の入ったユニフォームのレプリカというのはその選手のグッズとして販売されており、その選手を応援していたり、憧れたりするファンが買ったりするらしい。
またユニフォームもジムチャレンジャーたちに最初に支給されるスタンダードなタイプとは別に、各タイプジムごとの意匠がされた類のユニフォームもあり、こちらもメジャージムの意匠のユニフォームなどは人気が高いらしい。
そしてそれら『ユニフォーム』を製造、販売をリーグ委員会から請け負っている唯一の会社が『ブティック』の大本となる。
レプリカ、と言っても実際に選手が使用するものとほとんど違いは無く、ガラルではかなりの人気商品らしい。
とは言え、かなりの値段がするのだが。
『ブティック』は実は余り一般向けの店ではない。
一般人向けの服飾店というのは各街にそれぞれ存在するのだが、『ブティック』はそれらの店舗とは少し趣きが異なる。
言ってしまえば、『ブティック』はどちらかというとトレーナー向けの店舗なのだ。
トレーナー業というのは一般人が思っているより過酷な職業だ。
野生の領域を歩くこともあれば、バトルでポケモン同士の激しい技のぶつかり合いの余波を受けることもある。
調査のために人の手の届かない地に足を踏み入れることだってあるかもしれないし、時には海の底にだって潜ることもある。
そんなことばかりやっていれば当然ながら普通の服を着ているとあっという間にボロボロになる。
故にトレーナーの衣服というのは見た目普通でもかなり丈夫にできている。
作業着でも着れば話は別だが、とは言え年がら年中トレーナー全員が作業着着ているというのも華の無い話だ。
特にこのガラルではトレーナーの『見映え』というのはプロ生命に直結する話であるし、ガラル以外でも地方の上位トレーナーというのはテレビ等でも放映されることのある花形である、となればそれが華の無い無骨な服装というのも無粋な話だ。
トレーナーだってそれら衣服の利便性は分かっていても、お洒落だってしたいと普通に思うわけで、そんなトレーナーたちのためにトレーナー用の衣服というのは作られている。
『ブティック』で売られているのはそういうトレーナー等の普通より丈夫な衣服を必要とする人向けの商品なのだ。
「靴……靴。ああ、あったわね」
「ソラちゃんの靴もう大分ほつれちゃってるし買い替え時だね~」
シューズコーナーに並ぶ大量の靴を見やりながら一つ一つ手に取って確かめる。
『ブティック』に置いてあるシューズは基本的にどれもこれもトレーナー用、というか走ったり動き回ったりすることを前提としている。
一見すると全く向いてないように見えるようなシューズでも、それはデザインだけの話であり実際は作業靴と同じくらいに丈夫で動きやすかったりするのだ。
「こっちの底に鉄板の入ってるのも良いわね」
「重くないかな?」
「でもワイルドエリアみたいな場所を歩くなら……」
「あ、こっちの防水完備のラバー製のも……」
前提としてどのシューズも運動に適し、山や森などの歩きづらい場所でも快適に歩けるような設計になっている。
ただそれ以外の部分では割と性能に差異はあるため、用途を考えて性能でシューズの種類を決める。
それを決めたらその種類のシューズはだいたい全部同じような機能性を持つので後は値段やデザインと相談になる。
「ソラちゃんならこっちの赤とか良いいんじゃないかな?」
「赤……まあ嫌いじゃないけど、こっちの青は?」
「ソラちゃん髪もコートも青なんだから、赤のほうが良いって」
「ちょっと背伸びして黒……白はダメね、汚れが目立つし」
「あはは~、白はちょっとね。街中を歩くくらいなら良いんだけど」
「というかこの種類、私のサイズあるかしら」
「ソラちゃん足ちっちゃいもんね」
「うっさい」
ユウリと二人で雑談しながら良さそうな物を一つ購入する。
定期的にメンテナンスしてやれば十年は使える優れモノではあるが、さすがに十年も経てば背丈や足のサイズも変わっているだろうから使えて数年だろう……そのはずだ。
これで用事も終わったのでもう帰っても良いのだが。
「ねえねえ! ソラちゃんこれ着てみない?」
「却下……好みじゃないわよ、こんな派手派手しいの」
「えー、絶対似合うと思うんだけどな~」
「ユウリこそ、こんなのどう?」
「ん~、よし、着てみるね!」
『ブティック』には当然ながらシューズ類より衣類のほうが多い。
後は眼鏡やヘアバンド、ゴム、ピンなどアクセサリーの類もそれなりに揃っていて、他にも帽子や手袋なんてものまで置いてある。
いつも着ているコートやシャツ、スカートなどは似たようなのが複数あるのだが、それはそれとして別に他の服装に興味が無いわけではないのでこんな店に来てしまうとついついあちらこちらと目移りしてしまう。
「じゃじゃーん! どう? どう? ソラちゃん」
「あら、良いじゃない。思った通り似合ってるわよ」
「そっかそっか、じゃあ買っちゃおうかな~?」
「私は……どうしようかしらね。これとかちょっと欲しいんだけど」
「あー! ソラちゃんその帽子良いよ! すごく可愛い!」
「ありがとう。そうね、私もこれ買おうかしら」
「うーん、他にも欲しいのたくさんだよ~。お小遣いが……」
「お小遣い制なの? チャンピオンなのに」
「お母さんが厳しいんだよ~」
「世知辛いわね」
基本的にたいたいの地方で成人は10歳だ。
だが実際に10歳の子供がいきなり社会に出れるか、と言われると無理なのは明白であり現実的に独り立ちするのは15歳前後くらいになる。
まあうちの父親は12歳ですでに独り立ちしたらしいがそれはかなり例外的と言える。
12歳……つまり私やユウリと同じくらいの年齢は一般的にはまだ子供と見なされることが多い。
勿論、トレーナー資格を得て社会に出ている以上、法律的には大人になるし、大人としての権利も義務もあるのだが感情的には子供扱いされやすい。
故にユウリのように一つの地方の頂点に立つようなトレーナーだろうと、親からすればまだまだ子供といった扱いになるのも無理はない。
無いのだがそれを子供が素直に受けるかと言えばまた別の話。
「私が自分で稼いだお金なのにな~、って思うわけ」
「まあ一理あるわね」
「でもまあお母さんの言いたいことも分かるんだけどね」
「確かに」
『ブティック』でいくつか買い物を終えれば場所を移して近場の喫茶店に入る。
端のほうの席に座って注文を済ませると先ほどの続きとばかりにユウリが喋り出す。
「でもさでもさ! やっぱりトレーナーって何かと物入りだよね? 多分一般的に見たらお小遣いが全然お小遣いじゃないくらいの額もらってるよ? でもトレーナーとしての活動費まで入れると自分で使える分ってあんまり無いんだよ」
「分かる分かる」
「企業案件で仕事入ることもあるけど、報酬とか全部お母さんが貯金しちゃうし。私のお小遣いって月に一回お母さんからもらう分除いたらバトルの賞金くらいだよ!」
「それでアンタ前に通り魔みたいにトレーナーにバトル吹っ掛けてたのね」
「でもでもそれやったらリーグ委員会がやりすぎって怒られたし!」
「うちの父親も同じようなこと言ってたわね」
何だろう。チャンピオンっていうのはトレーナー相手に通り魔する習性でも持っているのだろうか。
「さすがに子供や新人相手にそんなことやったら不味いからちゃんと大人の人に吹っ掛けたのに!」
「そういう問題じゃないでしょ」
地方チャンピオンが一般トレーナー……それも多分正規トレーナーでも無い相手にバトル吹っ掛けているのが問題なのだ。
「違うんだよ! 私は自分から行ったわけじゃないんだよ、相手から吹っ掛けてきたんだから」
「でも吹っ掛けられやすいようにボール見せつけながら歩いていたんでしょ?」
「それはまあそうだけど」
「わざわざ帽子深く被って顔隠したり、服装変えたりでチャンピオンってバレないようにしてる辺り結構確信犯よね」
「そ、そんなことはないヨ?」
顔に正解と書いてある。
「というかソラちゃんって今プロ活動してないはずなのにどっからお小遣い出てるの?」
「私はまあ去年溜めた分あるし。必要なら家から借りてるかしらね」
私にスポンサーはついていないが、まあ強いて言うなら父さんが私のスポンサーということになるのだろうか。
「ず~る~い~」
「その代わり貸し借りはきっちりしてるけどね」
家族だからと言ってなあなあにはしてくれないし、私自身そこはなあなあにするつもりはない。
まあだからこそ貸してくれるのだろうが。
「あの家は甘えようとすると泥沼になるから」
多分全部投げ捨てて実家でニートしようとすれば普通に許容してくれるくらいには甘い。
母さんも本気で私が嫌だと言えば仕方ないわね、と言って受け入れてくれるだろうし。
まあ私自身、自分がそんな素直に甘えることのできる性格ではないと分かっているし、それをしてはならないという理性くらいあるが。
「あ~ソラちゃん家はねー。家族仲良いよね」
「良すぎるくらいにね」
血の繋がった家族が3人。半分血の繋がった弟妹が9人。血の繋がらない母親が6人。
どう考えても異常過ぎるくらいに異常な家なのに、全く気にならないくらいに仲が良い。
というよりこうして社会に出るまで自分の家の異常性に全く気付かなかったのだが。
「ちょうだい、って言ったら借りてる分が全部チャラになっちゃいそうだけど、そんなのプロトレーナーとして余りにも情けないしね。だから借りた物は返す予定よ」
「ならガラルはいいかもね~。他の地方と比べてもトッププロの平均収入は凄く高いよ」
「トッププロの収入は高いけれど、それ以下となると……って話よね。まあどこもそんなものだけど」
「ん-。ソラちゃん次第だけど、ジムチャレンジまでにまだ何回か大会あるし、出てみる? 入賞すれば賞金もそれなりに出るよ」
「そう、ね……」
悪くない話だ。
単純に賞金の話もそうだが、それ以上に実戦に勝る訓練は無い。
ジムの育成施設を借りれるとは言え、実際に大会でバトルをして得た経験は私の手持ちたちを飛躍的に強くしてくれるだろう。
「取り合えず考えておくわ」
「そっか~。まあ来週、私が主催の大会がシュートスタジアムであるから絶対に見に来てね!」
「それは勿論」
告げる言葉にユウリが笑みを深くし、私もまた苦笑した。
仕事とか用事が忙しくて更新遅れました。というより一章で一か月近く毎日更新やってたツケがソシャゲのイベントという形で帰ってきた(