ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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情熱、思想、理念(以下略)……速さが足りない!

 

「難しいわねえ」

 

 腕を組み、頭を傾げる。

 そうして何度となく頭の中でプランを構築しては破棄している。

 リシウムがジム施設を使う許可をくれたため環境は整っている。

 故に後はどう育成するか、トレーナー自らがプランを立てるだけなのだが、どうにも難しい。

 とは言えこの難しさはガラルのポケモンバトル独自の文化に基づいたものであるが故にすぐにどうこう、というのが難しいのもまた事実だ。

 

 ユウリ曰く。

 

 ポケモン自身の気分の高揚、これをガラルのトレーナーは『テンション』と呼んでいるらしい。

 テンションが最高潮まで達すれば体感でポケモンの能力が3割増し高くなるのだとか。

 逆にテンションが最底辺まで落ちれば3割減くらいまで落ち込むらしい。

 ポケモンの能力は割と精神性で変動することも多いので決してない話ではない。そこに『スタジアム』効果が加わるのだから余計にだ。

 

 故にガラルのポケモンバトルはこの『テンション』をいかに高揚させるか、が重要な要素の一つとなる。

 

 ここでポイントなのは『味方のテンションを上げる』ことは容易でも、『相手のテンションを下げる』ことは難しいということだ。

 勿論相手のテンションを下げる方法というのはあるのはあるのだが、狙ってやるには手間とリターンが釣り合わないというべきか。

 

 そもそも『テンション』自体はバトル中自然と上下する部分もある。

 例えば相手を倒した時など倒したポケモンだけでなく、味方全員のテンションを上げてくれる。

 逆に相手に倒された時、味方全体のテンションが下がる。

 他にもバトルの一番手を任されたり、逆に一番最後に出たりするとテンションが上がったりする。

 

 これら以外にもテンションが上がる要素というのは色々あるらしいが、それ以外にも育成の段階でテンションを上げる術を仕込める……らしい。

 これはガラルのポケモンバトルにおけるほぼ必須の能力だ。

 

 正確に言えばできるトレーナーとできないトレーナーではほぼ常時テンションの差をハンデとして戦わなければならない。

 先も言ったがテンションの上下はポケモンの能力に直結する。

 つまりテンションが高いほうが常に有利を取れる以上、これができないトレーナーは常にハンデを負うことになりかねないということだ。

 

「でも育成でテンションを上げるってどうやるのよ」

 

 ガラルのトッププロなら当然の技能らしいが、他地方のトレーナーだった私からすればどうやるんだそんなもの、と言った話。

 さすがにこればかりはユウリに聞くわけにもいかない。

 トレーナーからすれば『育成方法』とは生命線に等しい以上、例え友人だろうとそれは無理だ。というか同じ現役同士ならば家族ですら無理だ。

 シキ母さんだってさすがにそこまでは教えてくれなかった、私が教えてもらったのはあくまで基礎的な育成や高度な育成のコツ程度だ。残りはホウエンのトッププロたちのバトルなどで得た情報を元にした独学である。

 公認スクールならこの辺もある程度以上に教えてもらえるらしいのだが、私は公認スクールは出ていないのでトレーナーとしての知識の大半が父さんや母さんたちに教わった物で、残りは独学だ。

 

 当然ホウエン地方に焦点を当てたものがメインであり、ガラルのことなんて一つも習ってはいない。

 

 テンション要素一つだけでもこの有様なのに、それ以外にも独自要素が存在するらしいのだが最早お手上げに等しい。

 

「どうにもならないわね、これは」

 

 手持ち全員分の育成構想はすでにあるのだが、ここにガラル独自要素を追加していくとなると今のままではダメだ。だがダメだから、無理だからと諦めていてはプロとしては失格だ。

 無理なら可能にする、ダメなら大丈夫にする、そのための行動が必要だ。

 

「ロトム、直近一週間の大会、一覧で検索して」

 

 一言呟けば手の中のスマホが浮かび上がって検索結果の一覧を表示してくれる。

 ガラルは他地方よりもポケモンバトルの大会が多いためか直近で一週間内と指定しても二つ三つと大会がヒットする。

 これが他地方、例えばホウエンなどならばポケモンバトルの大会など月に一、二回くらいのものだが、ガラルだと月に十回以上にもなる。代わりにジムチャレンジ中は大会が開催されないためトータルで見ると他地方よりやや多いくらい済むらしい。

 

「うーん、一番近い大会で……ユウリの言ってたやつね」

 

 チャンピオン主催の公式大会なのでチャンピオンの名前を取って『ユウリ杯』になるらしい。

 一般的にチャンピオンカップというのはチャンピオン主催の大会全般を言うのだが、チャンピオンカップ、とだけ呼ぶ場合はジムチャレンジ後のファイナルトーナメントからチャンピオン戦までを指すらしい。

 単純にチャンピオンカップとだけ言うと公的にはどっちなのかややこしく、区分のためにチャンピオン位の交代の無いノンタイトル戦は『チャンピオン名+杯』で呼ぶようになったのだとか。

 

 開催は3日後。

 

 それまでにできることをいくつか頭の中で挙げていって。

 

「……今のうちにやっておきましょうか」

 

 一つ決めた。

 

 

 * * *

 

 

 手持ちの育成は比較的順調に進んでいる。

 先ほどまでガラル独自の要素にてこずってはいたが、それ以外に関してはほとんど順調すぎるほどに順調である。

 特に『専用個体』のガーくんは非常にユニークであり、ガーくんを育てること自体が私の育成経験に非常に大きなプラスになっているのか、ガーくんを育てる過程で得た経験が他のポケモンたちにも応用できたりして最初のプランよりも一回り強くなれそうではあった。

 

 ただ全く問題が無いわけでもないのだ。

 

 『ほとんど』順調、とは言ったが万事順調と言えないのはそれがあるからだ。

 

「どうしようかしら、ホントにこいつは」

 

 私の足元で地面に激突して目を回すファイアローを見やりながら嘆息する。

 そう、ファイアローである。

 『ヨロイ島』で捕獲したヤヤコマが見事に進化してファイアローになったのだ。

 特性も『はやてのつばさ』という『ひこう』タイプの技が素早く出せるようになる私のパーティにピッタリな強力な特性を持ち、ここからさらに強くしていこう、と考えていたのだが……。

 

 私のパーティは基本的に天候『おおあらし』を基準にして育成される。

 

 実際のバトルではほぼ常時『おおあらし』なのだから当然と言えば当然だ。

 ただその暴風と洪水のような雨の中で飛び続けることはある程度の習熟が必要になる。

 そのためヤヤコマの頃から少しずつ『おいかぜ』などで慣らしていたのだ。

 そのお陰か『ほのお』タイプを持つファイアローになっても暴風雨の中でも平然と飛行できるようになってくれた……までは良かった。

 

 問題はその後だ。

 

 ファイアローというのは『ひこう』タイプと『ほのお』タイプの二つのタイプを持つポケモンであり、当然ながら両方のタイプの技を得意とする……はずなのだが。

 

【名前】アーくん

【種族】ファイアロー/原種/特異個体

【レベル】76

【タイプ】ほのお/ひこう

【特性】はやてのつばさ

【持ち物】こだわりスカーフ

【技】ニトロチャージ

 

 これがファイアローのアーくんの現在のデータだ。

 技を見てもらえば分かると思うのだが、このポンコツ鳥『ニトロチャージ』以外の技を一つも覚えていない。

 いや、ヤヤコマの時やヒノヤコマの時には確かに技が4つくらいあったはずなのだが、ファイアローに進化してから気づいた時には『ニトロチャージ』以外の全ての技が無くなっているし、技マシンや技レコードなどで覚え直させてもだいたい次の日には覚えさせた技全て勝手に忘れてしまっている。

 図鑑解析にかけたら特異個体になっているのが確認できたのだが、特異性がまさかそういうデメリット部分で出てくるとは予想外だった。

 

 そしてそれ以上に問題なのは。

 

 この阿呆鳥とんでも無い『スピード狂』なのである。

 

 ファイアローにわざわざ『こだわりスカーフ』なんて持たしているのなんでだ、と思われるだろうが別に私が持たせたわけじゃないのだ。勝手に持ちだしてこれ以外の持ち物を拒否するのだ。

 本人曰く『もっとだ! もっと!! もっと!!! もっと速くなれ(かがやけ)えええ!』とのことらしい。意味が分からない。

 さすがにアーくんの言葉が直接分かるわけではないので、アーくんの言葉をガーくんが聞き、ガーくんがそれを翻訳した結果の又聞きなので何か間違っている可能性がある……というか可能性が高い、いや寧ろ間違っていて欲しい。自分の手持ちがこんなポンコツだとは思いたくない。

 

 一番厄介なのはコンセプトとしては間違っていないことだ。

 私がファイアローをパーティに入れようとした目的がそのスピードだ。

 故にとにかくスピードを追い求めるというその思考は決して間違いではない、のだが。

 自分のスピードに振り回されて姿勢制御を僅かでもミスすればその勢いのまま地面に激突して目を回すのはさすがに馬鹿過ぎる。

 しかも折角の強い特性なのに、技が『ほのお』タイプのニトロチャージしかないせいで活用できる場面が無い。

 

 ただひたすら致命的なのは『おおあらし』展開中は『ほのお』技が使えないということだ。

 

 因みに一度そのことを本人に言ったら次の日技が『こうそくいどう』オンリーになっていたが、『こうそくいどう』オンリーでどうやってバトルする気だとさすがにそれは止めた。

 

「何か良い方法無いかしらね」

 

 このままだとバトルで使えない。

 ただ才能はあると思うのだ、『おおあらし』へ順応する能力も高いし、私のパーティに入れるだけの資質は十分にあると思っている。

 けれどバトルに実際出せるか、と言われれば否としか言えない。

 

「逃がす……とかは無責任すぎるしね」

 

 使えないから逃がす、というのはトレーナーとしては最低の発想である。

 ポケモン自身がそれを望んでいるのならばともかく、トレーナー側の都合だけでポケモンを野生の帰せばポケモン側からすれば捨てられたとしか思わないし、それは後々遺恨を残すことになる。

 故に手に余るポケモンはそれを使える相手を探すなど、選択肢を増やしてポケモンと相談して去就を決めるのが一般的だ。

 言葉は通じなくとも意思疎通はできるのがポケモンという不思議な生き物なのだから。

 

 何よりあれだけ苦労して捕まえて、ヤヤコマの時からここまで育てて、ニックネームまでつけた仲間を手放すような真似はしたくない。

 

「何か手は無いかしらね」

 

 考えて、リシウムに聞いてみるというのはどうだろうか、と思いつく。

 リシウムは『ひこう』タイプのジムリーダー、つまり『ひこう』タイプの専門家だ。

 実際の育成方法はともかくとしてアイデアや方向性に関してアドバイスをもらうくらいならばトレーナー同士でも仲が良ければやるし、聞いてみるくらいは良いのではないだろうか。

 教えてくれるほどの仲か、と言われれば首を傾げるがまあジムリーダーなんて面倒見が良く無いとなれない立場ではあるし、聞いてみれば案外教えてくれるかもしれない。

 

 そう考えて近くにいたジムトレーナーの一人にリシウムの居場所を聞けば今は事務室のほうにいるとのことなのでそちへ移動する。

 

 しかしまあ、リシウムも忙しい人だと思う。

 

 正確に言えばジムリーダー自体が忙しい地位だ。

 ジムトレーナーの指導などに三時間、四時間と時間を取り、事務作業に二、三時間。そしてリーグ委員会などへの用事で出かけることも。それに加えてジムリーダー自身の特訓などもある。

 一日の大半はジムで過ごしているし、それがほぼ毎日……かなり忙しいのに初めて会った時のように緊急の要件で駆り出されることもあれば、マイナーリーグのほうの試合に出ることもあれば、それ以外の大会に参加することも時々。

 

 リシウム曰く、マイナージムなのでこれでもまだ楽なほうらしく、メジャージムとなるともっと忙しいらしい。とは言えメジャーのほうが事務員などを多く雇って事務作業の時間を減らしているらしいのだが、それでもジムトレーナーの人数はマイナーより多い傾向にあるので結局忙しさ的にはメジャーのほうが上になるのだとか。

 

 聞けば聞くほどに大変な立場だとは思うのだが、それはみんな思うらしく、現役ジムリーダーが後任ジムリーダーを指名するのはそういう大変な立場を考慮して相応しい後継を選ぶ意味あいもあるのだとか。

 

 強くなければならない立場だが、強いだけではやっていけない立場でもある。

 

 そういう意味で、リシウムもこのガラルにおいて紛うこと無く『プロフェッショナル』であるのだろう。

 

 そんなことを考えながら事務室の扉を開いて……。

 

 

「はい、ご無沙汰しております」

 

 

 中から聞こえた()()()()()()に硬直する。

 

 

「はい……勿論のこと、重々承知しております。はい、はい、明後日ですね。分かりました」

 

 

 え、誰? と言いたくなるようないつもと全く違う喋り方。

 いやでもジムリーダーだし、まさか誰にでもあんな喋り方してるわけじゃないのかもしれない、と改めて考え直して。

 

 

「はい、それでは、失礼いたします、()()()

 

 

 それが身内への電話だったと気づく。

 同時に電話が切れたのか受話器を戻して。

 

 

「あ~くっそ、あの糞親父、マジ死ねし!」

 

 

 苛ついた様子で電話が置かれた机を蹴とばす。

 どん、と大きな音に思わずびくりとしてしまうと同時に開けかけていたドアがぎぎ、と音を立てて開いて。

 

 

「「…………」」

 

 

 ばっちりと、こちらへと視線を向けたリシウムと目があった。

 

 




スクライドは名作だぞぉ……。



ごほーこく。
水代、本日よりふんたーになります(後は分かるな?
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