ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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テンプレという言葉は悪い意味ばかりではないが、良い意味ばかりでも無い

 

 ―――かつてガラルに君臨した王がいた。

 

 ガラルにはかつて王国があった。

 ガラルの地に伝わる英雄の伝説。そして英雄は王となり、その子孫は、その系譜は今日にまで続いている。

 そして王家同様にかつての王国にいた貴族と呼ばれる身分の人間たちの子孫は、その系譜は名家と名を変えて今日まで続いていて。

 

 リシウムが生まれたのはそんな名家の一つだった。

 

『我々はかつての貴族として、下々の者たちを導く義務がある』

『故に下々の者たちは、我々貴族……名家に支配される義務がある』

『下々の者は、我々上に立つ者のために存在する』

 

 そんなことを今の時代に本気で口にするような男がリシウムの父親で、そんな父親が家柄と血筋だけが取り柄のようなキーキーとバチンキーよりも騒がしい女と結婚し、儲けたのがリシウムという少女だった。

 結婚とは家と家の繋がりである、とそんな時代錯誤な思考で結ばれ、互いに愛してもいないのに家の体裁のために一人くらいはと作られ、生まれたリシウムが当然のごとく愛されるはずもなく。

 互いに義務は終わったと言わんばかりの態度で家を空けがちになり遊興に耽るばかりの母親と、そんな屑のような女に愛想も尽きたと言わんばかりにまるで自分が女に裏切られた被害者であるかのような態度で外に女を作った男。

 

 結果的に生まれたのが妹のクコだった。

 

 父親が外の愛人との間に作った子供。

 体裁を重んじる父親がそんな汚点のような存在を自分の視界の届く場所に入れるはずも無く、当然ながらクコとその母親は金だけ握らされて無理矢理に元の街を追い出された。

 

 ―――下女ごときの血が流れた子など汚点以外の何者でもない。

 

 自分の行いの結果だというのに。

 後にその理由を問えば、返ってのはどこまでも見下げ果てた答えだった。

 元より男を家族だなんて思ってはいなかったが、それでもそこまで見下げ果てた男だとは思っていなかった。

 当時のリシウムはまだ妹の存在を知らなかったが故に、まだ男に期待していたのだ。

 

 望むような子になれば、愛してもらえるのだと。

 

 父に、母に、さすが私の子だと言ってもらえるような、そんな『良い子』になれれば……。

 

 そしてそんなリシウムの期待を裏切り、踏みにじるのはいつだって両親だった。

 

 

 * * *

 

 

「あー、見た? 見たというか、聞いた?」

「えっと……うん、まあ。アンタ普通に喋れたのね」

「あ~ハッず。めちゃハズいんだけど」

 

 羞恥心に顔を覆うリシウムの姿を見やりながら何やってんだか、と嘆息する。

 少しの間、うーうーと唸っていたリシウムだったが、少しは気も済んだのかようやくこちらへと向き直る。

 

「あー、さっきの秘密にしといてくんない?」

「喋り方?」

「それもだけど、父親と電話してたってのも」

「ふーん。まあ別に良いわよ」

「頼むわ。特に絶対にクーには内緒にしといて」

 

 先ほどまでと違って真剣な表情で告げるリシウムに様子を見るに、何か事情があるらしい。

 まあ家庭の事情なんて誰にでもあるものだし、一々人のプライバシーを詮索するような趣味も無い。

 

「分かったわ」

 

 再び頷く私に、ほっと安堵の息を漏らしたリシウムだった。

 

 

 

「あー、それであーしに何か用?」

「ちょっと聞きたいことがあって。無理にとは言わないんだけど」

 

 動揺を落ち着けるためにソファーに座ってスティックキャンディーを咥えたリシウムの対面に私も座る。

 それからちょっとしたハプニングで遅れてしまったが本来の要件を伝える。

 

「なるなる。そーいうことならちーとばっかし力になれるかね」

 

 頷くリシウムにさすが『ひこう』タイプジムのジムリーダーだと思う。

 トレーナーにとって『経験』というのは何物にも代えがたい貴重な財産だ。

 特に育成は『知識』と『施設』と『経験』の三つがものを言う。

 私もトレーナーとしての勉強はしてきたし、施設もリシウムの協力でジム施設という一等のものを使わせてもらっている。

 

 ただどうやっても『経験』が足りない。

 

 私がトレーナーになったのは一年前のこと。

 実際にポケモンを育成し始めたのもまた同じくらい。リーグを優先して6体に集中して育成を施していただけに私の中で育成の『パターン』が足りないのだ。

 ポケモンジムが何故必要とされるのか。それは同じタイプばかりを何百何千と育て続けてきた『知識』と『経験』の積み重ねがそこにあるからだ。

 

 こんな感じのポケモンをこんな風に育てるとこんな具合に仕上がる。

 

 そんな育成の例を何百、何千と積み重ねて組み合わせる。

 特に特異個体や変異種などの普通とは違う育成手腕が必要とされる場合など、一度でも同じような個体を育成したことがあるか否か、というのはかなり大きな差異が生まれる。

 今回のファイアローの例を見れば分かるように、ああいう特異な例を育成したことが無いが故に、どういう風に育ててやればいいのか理想像が持てないのだ。

 育成とはトレーナーの理想にポケモンを合わせることであるが故に理想像が持てないとどう育成するか方針すら決まらない。

 

「えーっと、確かこの辺に……ああ、あったあった」

 

 これとかどうよ、とリシウムが持ってきたのは一冊の本。

 

「これ育成記録じゃないの? 見て良いの?」

「えーよ。クーの友達になってくれた礼みたいなもんだと思って」

「別にそういうつもりでなったわけじゃないけど」

「それでも、あーしにとっては嬉しかったんよ」

 

 どうぞ、と言わんばかりに差し出された本を仕方ないと受け取って開く。

 それはこのジムにおける過去の育成記録だ。

 どんなポケモンをどんな風に育てたのか、その結果どんな風に育ったのか。

 ジムの財産と言われるだけのことはある。書かれていること一つ一つが私の知識と経験となってくれるようで。

 

「さすがに貸し出しは無理めだけど、あーしが居る時ならまた読んでも良いよ」

「凄いわね。でも本当に良いの?」

 

 これを読みこめば私の育成能力が一つ上がるだろうことは間違いない。

 だが同時にこれは歴代の『ひこう』ジムの面々が紡いできた『ひこう』ジムの歴史であり、財産そのものだ。

 それを部外者である私に見せても良いのか、そんな問いにけれどリシウムは首を振る。

 

「別に善意ヒャクパーってわけでも無いから、気にしないで良い」

 

 そんなリシウムの言に首を傾げる。

 果たしてこれを私に見せることに一体何のメリットがあるというのか。

 

「まあもしどうしても気になるってなら、今回の育成結果をレポートさせてくんね?」

「そうね、そのくらいなら……」

 

 育成結果はそのまま私のパーティ面子の情報に直結するのだが、まあこの本一冊の代償としては安いほうだろう。

 

「一応言っておくけど、他には見せちゃダメよ?」

「それはトーゼンっしょ」

 

 育成結果を見れば私のポケモンがどのくらいいて、どんな能力を持っているのかまで丸わかりになってしまう。当然ながらプロトレーナーとしてそれは余りにも大きいデメリットだ。

 だからリシウム……というか『ひこう』ジムの内々で留めること、これは絶対の条件だった。

 さすがにリシウムもプロトレーナーとしてそれは分かっているだろう。

 もし渡したデータが他に漏洩した、なんてことになれば『ひこう』ジムの信用にも深い傷がつくことになるのだから。

 

「ああ、あと一つ頼みがあるんだけど」

「何?」

「育成一通り終わったら3:3で良いんでバトルしてほしーんだけど」

「3:3ってことは普通にシングルか、良いわよ。というかそっちこそ良いの?」

「もーまんたい」

 

 何を言っているのか分からないが、どうやら良いらしい。

 4月から始まるというジムチャレンジの前にガラルのトッププロの一角とバトルできるならそれは願ってもないことだ。

 同じ『ひこう』使い同士というのもあって、難しいバトルになるだろうが、だからこそ練習試合で済む間にやっておきたいというのもある。

 

「えーっと、3日後には予定あるし……5日後か6日後で良い?」

「5日後はクーのとこ行く予定あるし、なら6日後で」

「了解」

 

 このガラルに来て初めてのまともなトレーナー同士のバトルだ。

 ユウリとの一戦は……まあなんというか例外だろう。

 

「コートはここので良いの?」

「ソラ、公式試合でも無いのにスタジアムなんて使えんし。ここで十分っしょ」

「え?」

「ん?」

 

 こっちに来ていきなりシュートスタジアムでユウリとバトルした気がするのだが、あれ本当に良かったのだろうか?

 いや、チャンピオンだしそのくらいの融通は効いたの……か?

 考えると面倒になりそうだし、深く追求はしないでおこう。

 

「何でも無いわ。それじゃ、当日はよろしく」

「こっちこそ」

 

 

 * * *

 

 

「ソラちゃん、何読んでるの?」

「んー。ポケモン育成のやつ」

 

 問われたので本の表紙が見えるようにユウリに掲げる。

 タイトルは『ポケモン育成大全』。

 三、四年ほど前に出版されてトレーナー業界で大ヒットを飛ばしたベストセラーだ。

 尤も需要がトレーナー業界に限定されていたので一般的には『トレーナー関連の難しい専門書』くらいにしか思われていないのだが。

 

 ポケモンの育成、ということに関しての基礎的な知識からある程度の応用まで数多くのことがここに書かれており、恐らく現代のプロトレーナーでこの書の影響を受けていないトレーナーはほぼ居ないと言っても過言ではない、プロトレーナーの『教科書』である。

 

「あー、それか~。去年私も読んだなぁ」

「プロトレーナーなら一度は目を通すでしょうね」

 

 尤も、それを自分の物としているかどうかはまた別だろうが。

 この書がベストセラーとなった最大の理由は『育成のテンプレート化』にある。

 

 例えば『天候が○○の時』『場に出て最初のターン』『○○状態の時』などの『条件付け』のテンプレート育成。

 例えば『○○の時、技の威力を上げる』『○○の時、能力ランクが上がる』『〇〇の時、味方と交代する』などの汎用性の高い『効果』のテンプレート育成。

 

 これらをずらりと並べて、後は可能な条件と欲しい効果を好きに組み合わせた育成を行えば手っ取り早い『裏特性』が完成する。

 そういうお手軽さが初心者トレーナーに受けたし、育成プランの参考になるとベテラントレーナーにも受けたし、癖の無い効果だけがピーキーな効果の隙間を埋めるのに便利だと上位トレーナーにも受けた。

 

 これを参考にして育成をし、育成を得て積み上げた経験でやがて自分だけの育成プランを作り上げていく。それが今のプロトレーナーの流れだ。

 故に現在のプロトレーナーの大半は大本を辿るとこの書を原点にしていることが多い。

 まあ一時期この書が余りにもトレーナー間で売れすぎて問題になったこともあったのだが。

 

「でもあんまり参考にしちゃダメなやつだよね?」

「まあ、そうね」

 

 ユウリの言う通り、参考にはなるが参考にし過ぎてはそれはそれで駄目になる。

 先も言ったがこの書に乗っているテンプレートは『癖が無い』『使いやすい』『汎用性の高い』ものが多い。

 それ故、初心者トレーナーが好んで使いたがるのだが、相手もプロならまた同じ書を読んでいる可能性が高い。

 結果、この書を丸コピしたような育成をすると、ちょっとしたポケモンの動き一つからどんな技術が仕込まれているのか、というのが見ただけで分かるようになってしまうのだ。

 

 テンプレートとはつまり典型的ということであり、典型的というのはつまり誰にでも理解されやすいということだ。

 自分のポケモンのデータが割れやすいというのは普通にデメリットが大きすぎて、この書が『参考にはなるが参考以上にはならない』と言われる由縁がそこにある。

 

 初心者トレーナーが育成経験を積むために使うくらいには良いが、ベテラントレーナー以上になると『自分だけの育成』を行うようになるため、参考くらいにしか使われない。

 

 とは言え、私だってまだベテランと呼ばれるほどには経験を積んでいるわけではない。

 

 特にガラルに来てから普通ではお目にかからないようなポケモンばかりに出会っている気がする。

 まだそれらを十全に育成できるほどの経験(引き出し)が私の中に無い以上は、こういう参考書を使って一度育ててみるのもまた必要な手だった。

 

 とは言えやはりリシウムがジムの育成記録を見せてくれたことが非常に大きかった。

 お陰で薄っすらとだが理想像が見えてきた。

 後はその理想像を固め、それに必要な育成方法を模索するだけだ。

 ジムチャレンジまであと一月ちょっと。

 切羽詰まるほどの時間ではないが、十分と言えるほど時間があるわけでもない。

 

 とは言え、まあ。

 

「ユウリ」

「なに~?」

「明後日、楽しみにしてるから」

 

 チャンピオンカップ。

 このガラルで最強な幼馴染が開催する恐らくこのガラルで最もレベルが高くなるだろう大会。

 ただ見るだけでも得られるものは大きいだろうし、ユウリの本気というのも見てみたい。

 故に期待を込めて告げた言葉にユウリが一瞬目を瞬かせ。

 

「うん、まかせて!」

 

 直後に満面の笑みを浮かべ、ぐっと拳を握った。

 

 




モンハン楽しすぎた(
そして来週からPSO2NGS始まるから、今週中にモンハン終わらせないと……し、執筆時間、どこ?

二章はトレーナーメインの話なので、トレーナーの過去話とか偶に出てくるよ。
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