この世界には【擬人種】、と呼ばれる存在がいる。
それは十年ほど前までは『ヒトガタ』と呼ばれていた。
ヒトガタ、それはポケモンの遺伝子異常から発生した突然変異だと言われている。
ヒトガタ、その名の通りの人形(ひとがた)。文字通り人の形をしたポケモン。
それが公的に初めて確認されたのはもう二十年以上前の話だ。
当時はかなりセンセーショナルな話題だったらしいが、十年も経てばそれは当然の存在となった。
ヒトガタ……現在における擬人種の最大の特徴としては人の形をしている、という以上に『強い』という点が挙げられる。
ヒトガタの研究者……擬人種という言葉を初めて世界に対して提唱した私の父曰く。
ポケモンにも人と同じく『才能』というものがあり、極めて高い『才能』を持ったポケモンだけが擬人種つまり人の形に変異することを『受容』できる、らしい。
それ故当時は強いポケモンの分かりやすい特徴としてヒトガタポケモンは多くのトレーナーから求められたが、それだけ高い才能を持ったポケモンは滅多にいるものではなく、故にヒトガタポケモンとは極めて珍しい存在だった。
そんな珍しかったヒトガタが十年ほど前から突如として増えだした。
それがどういう理由からなのかは分からないが、当時地方のトップトレーナー……四天王やチャンピオンでも一匹二匹持ってれば多いほうと言えるほどだったヒトガタポケモンも、今ではリーグトレーナーなら誰でも一匹二匹持っていてもおかしくない、と言えるほどに数を増し、なまじ人と同じ姿をし互いの言葉も通じるだけにその存在はポケモン重視の今の社会に一気に浸透していった。
現に私もリーグトレーナーとして一体、擬人種を所有している。
いや、リーグトレーナーとして、という言い方も語弊があるだろう。
そいつは私が生まれた時から私の片割れだった。
私が生まれた直後に、私の隣にそいつはいた。
十二年。
私たちはずっと一緒にいた。
―――アオ。
私の弟の名前で。
種族ボーマンダの擬人種アオ。
それが私の弟だった。
それが、私のなれなかった私の片割れだった。
* * *
心の中で撃鉄を落とすようなイメージ。
直後にバトルコートを中心として吹き荒れる雨と風は『おおあらし』となって天候を支配する。
上空に佇むその巨体を見据えながら、その周囲に渦巻いていた黒雲を吹き飛ばしていくその光景を見やる。
「そっちも天候か……ま、でもこっちが上ね」
一般的にバトル中、ポケモンの技や特性で天候を変化させる場合、後出しが勝つと言われている。
それはある種正しい。
だが超越種とは世界の理を書き換える存在、理の支配下の存在に干渉能力で負けるはずがない。
天候にも優劣が存在するのだ。
例えば『大日照』や『大雨』『乱気流』と呼ばれる天候は普通のポケモンが可能な天候変化では決して勝てない。
とは言えだ。
例え伝説のポケモンだろうと、競技用に能力制限を受けている状態ならば負けはしない。
少なくとも……実家に住み着いているあの三体以外に『天候支配』で負けることはあり得ない。
私の【異能】*1は特別性なのだから。
嵐を操っているのは私だ。
故に吹き荒れる嵐は私の側にとっては常に『おいかぜ』になる。
逆に相手にとっては『むかいかぜ』になるだろう。
この激しい風の中でまともに動けるのなんて風を切ることのできる『ひこう』タイプくらいだろうし、『ひこう』タイプ以外ではその『すばやさ』は半減してしまうだろう。
渦巻く風は『らんきりゅう』となって『ひこう』タイプのポケモンを守るし、激しく降り注ぐ『つよいあめ』は『ほのお』タイプの技をかき消してしまい、逆に『ひこう』タイプの技や『みず』タイプの技はその威力を強めるだろう。
「アオ」
短く呟いた言葉は風にかき消されそうになりながらも、けれども確かに弟へと届き。
「ムゲンダイナ!」
コートの反対側でユウリが叫び、指示を出す。
動き出したのは同時。
けれどこの嵐はアオの背を押すし、相手の足を引き留める。
故に先に攻撃するのはアオだ。
“ぼうふう”
放たれたのは『ひこう』タイプ最強の技。
周囲の嵐すらも取り込んで放たれた荒れ狂う風がその巨体を打つ。
―――オオォォォ!
多少の痛打になったか、その巨体を揺らす……だがそれでも多少でしかない。
「いや、嘘でしょ」
この『おおあらし』は『ひこう』タイプの技の威力を高めてくれる。
体感1.5倍くらいか?
その中で放たれた『ぼうふう』がこの程度?
しかも『こんらん』した様子も無い。まあ超越種なんて大半理不尽な理由で『状態異常』を当たり前のように無効化するので驚きも無いが。
「ヘドロばくだん!」
―――ォォォォォォォォォォォォ!
「アオ!」
「わか……ってる!」
“ヘドロばくだん”
“ワイルドハント”*2
上空から放たれた『どく』の塊が降り注ぐ。
地上に落ちると同時に炸裂して『どく』を振りまく凶悪なソレをアオは咄嗟に周囲の風を集めて防御に回す。そうして余波こそ受けれども、直撃は避ける……それでも結構なダメージにはなっている。
「ホント超越種ってのは……」
これで競技用に制限つけているのか、何を考えているのだガラルリーグ、と言いたくなる。
苦々しい思いでバトルコートを見つめていると。
「あれ~? 逸らされちゃった。さてはソラちゃん、仕込んだでしょ?」
「ったく……目が良いわね」
一度の攻防で即座にユウリがその正体を看破してくる。
舌打ちしたくなるような気持ちをけれど表には出さずに不敵に笑って見せた。
* * *
ポケモンの特性とは単純な体質、と思われがちだが実をいうとそれだけではなく技術も入っていることをトレーナー以外は余り知らない。
単純な体質ならばポケモンは複数の特性を持っていてもおかしくは無いが、実際にバトルで使用できる特性は基本的には一つなのは知っての通り。
例えば『ドータクン』というポケモンに確認されている特性は『ふゆう』『たいねつ』『ヘヴィメタル』だ。
『エスパー』タイプのポケモンで『ふゆう』持ちならば大概『サイコパワーで自らを浮かせて浮遊する』という『技術』を持っている。浮いているから『じめん』技が効かない、当然の道理だ。
ところが特性『たいねつ』だと『じめん』技が通じるようになる。
簡単に言えば『たいねつ』の特性を持っている場合、自分の体の表面を『サイコパワーでコーティング』することで『ほのお』技のダメージを半減している。
要するに自らの能力の使い方で『特性』をオンオフしているのだ。
野生のポケモンに『技を磨く』という概念は無い。
故に『たいねつ』を持ったドータクンはそれしかできないし、『ふゆう』を持ったドータクンはそれしかできない。
ところがトレーナーが育成を施すことで、これは両立できるようになる。
まあ無条件に、とはいかないが。
例えば1ターン毎に特性が切り替わる、とか。
例えば『エスパー』タイプの技を使うごとに特性が変化する、だとか。
例えば『じめん』技を『ふゆう』で無効化したら『たいねつ』になる、だとか『ほのお』技を受けたら今度は『ふゆう』に切り替わる、だとか。
ポケモンバトルという一種の緊張状態の中で正常な判断をポケモンに求めるのは難しい。
一々考えていては、えーとあれして、えーとこれして、と戸惑っている間にやられてしまうのがオチだ。
だからトレーナーが育成を施す時に『スイッチ』を作る。
それを条件反射的に切り替えるようになったならそれは『ポケモンの技術』になる。
総称して【裏特性】と呼ばれている。
表の……通常の特性とは別にポケモン側に仕込まれた技術。
ポケモンがトレーナーと協力することで初めて生まれる図鑑には表示されない『裏の特性』。
この世界でトップトレーナーとなるためには必須の技術である。
これが無いなら野生のポケモンでも変わらないと言えるほどの、トレーナーがトレーナーである理由。
私のポケモンたちならば『おおあらし』という天候を条件にした『裏特性』を多く持っている。
異能トレーナーはそうした異能を条件にした技術を仕込んでいることが多い。
故に異能トレーナーは自らの『異能』が発動できない状態に非常に弱いのだが……まあそれはさておき。
アオは私と私の能力に極めて親和性が高い。
それは血を分けた家族である、という理由もあるし、長年共にいた姉弟であるという理由もあるだろう。
だが何よりも、同じ母親の血を引いている、というのが何よりも大きいと私は思っている。
私が展開した『おおあらし』の中で、風を掴んで防護に回すというのはアオにしかできない技術だ。
大本の発想は我が家に住み着いている龍神様なのだが……まあそれはさておき。
ムゲンダイナ……だったか。
ユウリの出したあの巨体の呆れるほどのタフさに張り合うならばこの程度の技術は小細工にしかならないだろう。
根本的な耐久力が違い過ぎる。
恐らく相手はアオの『ぼうふう』を4発5発と受けて初めてまともに揺らぐだろうほどのタフネスを誇るのに、こちらは直撃一発でも受ければ一気にがたつく。
あの風の防護だって完璧ではないのだ。技術である以上、失敗することもある。散々仕込みまくったのでほぼ失敗は無いと思っているが、というか失敗したら血反吐くくらいまで再特訓させるがそれはそれとしてバトルに絶対は無い。
不意を捉えた一撃が急所にでも入れば……立っていられるかどうかは微妙なところ。
となれば次は……。
「仕方ないわね……アオ、上げるわよ」
ぱちん、と指を鳴らす。
同時に風がアオの元へと集っていく。
そうして集約された風をアオが一息に吸い込み……。
“ワイルドハント”*3
「ルゥゥォォオオオオオオオオオオ!」
咆哮する。
同時にその全身からエネルギーが満ち溢れる。
「ぶち抜きなさい!」
“りゅうせいぐん”
放たれたのは『ドラゴン』タイプ最強の技。
本当は真上に打ち上げたエネルギー塊が流星のように降り注ぐので名付けられた技だが、相手が真上にいるのでほとんどただのビームのようにムゲンダイナへと撃ち込まれる。
―――ォォォォォオオオオオオオオオオ!?
揺らぐ。
先ほどとは一転して、ぐらり、とその巨体が揺らぐ。
「あー……『ドラゴン』タイプの技はきつかったかなあ」
なんてユウリが呟いているが、まあ感覚的に推定『ドラゴン』タイプだろうとは思っていた。
正直これで効いた様子が無かったらさすがにリーグ委員会に審査し直せとクレーム入れるレベルだ。
「アオ」
「大丈夫……問題無いよ」
“ワイルドハント”*4
放出した分のエネルギーを周囲の嵐の中から取り込み、補填することで本来ならば過負荷で『とくこう』が大きく下がってしまうリスキーな技の『りゅうせいぐん』を無反動で放てる。これも一つの技術……裏特性だ。
「だいじょ~ぶ? ムゲンダイナ」
―――ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!
ユウリが声をかけた途端、咆哮を挙げて無事のアピール……こいつ、懐いているなあ、なんて遠い目をしてしまう。
超越種ってそんな簡単に懐くような存在だったっけ、と思うが実家のことを思い出すと何も言えなくなる。
それはさておいても、今のはさすがにダメージにはなっていたようだ……それでも『ひんし』にはまだ遠いようだが。
「じゃ、いっくよー!」
“ダ イ ド ラ グ ー ン”
突き出した手のようなムゲンダイナから放出されたエネルギーがアオを包み込み、まるで竜巻のように渦巻く。
「アオ?!」
今までに見たことも無い攻撃に思わず声をあげてしまう。
かなり威力が高い技のようだったが……。
「だ、大丈夫……ぐっ」
咄嗟に全身を覆った風で威力を軽減はしていたようだったが、それでもかなりのダメージを受けているのは理解できた。
「次、耐えれる?」
「ちょっと、厳しい、かも?」
さすがに今のを何度も受けるのは無理だと私だって理解できる。
アオは普段は『ひかえめ』な性格だが、ことバトル中においては気が強くなる。まあ『ドラゴン』タイプの性みたいなものかもしれない。
そのアオが弱音を吐いている……つまり気力でどうにかなるレベルじゃないほどにダメージが深い、ということか。
「……ふう」
一つ嘆息。
吸って。
吐いて。
「仕方ないわね」
覚悟を決める。
「次で終わらせるわよ」
今できる全力で。
「ぶち抜け、アオ」
“しんくういき”
二つ目の撃鉄を振り下ろす。
あ、あれ……? 一話で終わらなかった? ま、まあ次で終わるし。
初っ端からインフレバトルやってるけど、アオ君はぶっちゃけここ終わるとファイナルリーグあたりまで出番無くなります……ジムチャレンジでこんなの出したら一方的過ぎるし。
というわけで部分データ公開。
名前:ソラ
【技能】『ぼうふうけん』
バトル開始時に味方の場の状態を『おいかぜ』に変更し、天候を『おおあらし』にする。この効果は『エアロック』『デルタストリーム』『はじまりのうみ』『おわりのだいち』以外で変更できず、無効化されない。
┗天候:おおあらし
┗『ひこう』タイプのポケモンの弱点タイプのダメージを半減する。『ひこう』タイプ以外のポケモンのすばやさを半減する。『みず』『ひこう』タイプの技の威力を1.5倍にし、『ほのお』タイプの技を無効化する。全ての『場の状態』の効果を無効化する。天候が『あめ』の時に発動する特性や効果が発動する。
【名前】アオ
【種族】■■ボーマンダ/擬人種
【レベル】????
【タイプ】ドラゴン/ひこう
【性格】ひかえめ
【特性】????
【持ち物】(今回はなし)
【技】ぼうふう/りゅうせいぐん/ハイドロポンプ/はかいこうせん
【裏特性】『ワイルドハント』
天候が『おおあらし』の時、状態異常を受けず、ダメージを半減する。
天候が『おおあらし』の時、全能力値が上昇する。
天候が『おおあらし』の時、技の反動を受けず、能力値が下がらなくなる。
【名前】ムゲンダイナ
【種族】ムゲンダイナ/原種
【レベル】????
【タイプ】どく/ドラゴン
【性格】ちょうじょう(超常)
【特性】ブラックナイト(天候を『ブラックナイト』へ変更する)
【持ち物】パワフルハーブ
【技】ダイマックスほう/ヘドロばくだん/かえんほうしゃ/メテオビーム
【裏特性】????