ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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午後に紅茶飲んだら全部午後の紅茶

 

 

 トレーナーというのは何かと物入りな職業だ。

 

 元々ポケモンバトル自体がポケモン同士の激しいぶつかり合いであり、トレーナーはその余波を受けるため必然的に衣服はトレーナー自身を守るためのちょっとした防具みたいになっているのだがこれが結構良いお値段がする。

 さらに言うなら以前買った靴なども地方中あっちこっちと旅をするトレーナーだからこそ必然的に擦り切れてボロボロにもなるし、それ以外にも荷物を入れるバッグやボールホルスター。何よりモンスターボールそのものだって古くなれば故障することもあるため数年に一度くらいボールの『移し替え』もしなければならない。

 現代のプロトレーナーはもう基本的に地方を旅することも余り無くなってはいるが、それでも野生環境の中に足を踏み入れることにはなんら変わりは無い。

 

 ガラルでもワイルドエリアという自然環境をそのままに残した特区が存在するし、ヨロイ島やカンムリ雪原など敢えて自然のままの姿を残していたり、手つかずのまま放置されている土地もあり、そんな場所へ赴くならば装いもそれに合わせたものに必要がある。

 

 他にも道具などの消耗品や、その他器具の手入れに使う備品などもある。

 

 さすがにバトル中に持たせる持ち物系の道具はその辺で買えない専門店に行く必要があるが、逆に『きずぐすり』や『モンスターボール』などの一般的に流通したアイテムに関してはフレンドリィショップないしなんだったらその辺のマーケットでも売っている。

 

 ただし当然のことながら店ごとにラインナップに差異というものはある。

 

 別にトレーナーアイテムというのは一つの会社が全て作っているわけではないのだ。

 『きずぐすり』一つ取っても全国展開している有名どころだけで五社程度の製薬会社の名前が挙がるし、地方限定で販売してるものなども含めるとその数はさらに増える。

 一言に『きずぐすり』とまとめてみても、その効能は実のところ微妙に異なっている。

 勿論最低限の部分である『ポケモンの治療』という目的に変わりは無いとしてもだ、例えば『回復力は高いが効果が発揮されるまで時間がかかるもの』や『回復力は低いが即効性があるもの』、他にも『特定のタイプに対しては高い効果を発揮するポケモンのタイプに合わせて作られた特定のタイプ専門のもの』など多種多様な効能の薬がある。

 

 一般的にトレーナーが使うのは全部まとめて『きずぐすり』と総称されてはいるが効能だけでそれだけの違いがあり、さらに擦り傷切り傷に使う液状のスプレータイプから打撲や捻挫につける湿布など使用用途に合わせた使用方法の種類まで含めるとその数は非常に多くなってくる。

 

 『きずぐすり』一つとってもこれなのだ、それ以外にもトレーナーの使う道具というのは多岐に渡りその一つ一つに多くの種類がある。そうすると商品の総数というのは膨大なものとなる。

 

 故に街ごとにショップを訪れると店ごとに置いてある商品の種類は異なり、だからこそトレーナーは基本的に拠点を置いた場所の近くのショップを毎回利用する。例えば私の場合、ガラルに来てからもっぱら使っているのはブラッシータウンのフレンドリィショップだ。

 

 ただシュートシティはこのガラルという地方で最大規模の都市であり、最も活発な街だ。

 

 それ故にこの街に限って言えば、ガラル中に存在する商品の大半の在庫がある。正確に言えばそれぞれの商品を扱っている店舗が複数あるのだ。

 さらに言うならばシュートシティはガラル地方の玄関口……つまり他地方と繋がる数少ない街だ。

 それ故か、他地方からの輸入製品なども入ってきており、こっちでは見なかったホウエン産の商品なども時折見つかる。

 

 ―――シュートシティには物が溢れている。

 

 その結果は目の前の光景が物語っていた。

 

「ほへー」

 シュートスタジアムの前の広場に居並ぶ屋台の数々を見て、キューちゃんが隣で目を丸くしていた。

 シュートスタジアムで何かあれば多くの人が集まる場所ではあるので、その賑わいは大変なものだった。

 

「行くわよ、キューちゃん」

「あ、はい! 分かりました、トレーナーさま!」

 

 スタジアムを出て階段を降りれば、多くの人で賑わう屋台が私たちを迎える。

 すでに興味津々と言った様子で視線を彷徨わせるキューちゃんの姿に苦笑しながらその手を握る。

 

「トレーナーさま?」

「この人込みだし、はぐれないように、ね?」

「……はい!」

 

 一瞬きょとん、とした表情をするがすぐに満面の笑みを浮かべてキューちゃんが頷いた。

 

 

 * * *

 

 

 元より人間の街というものにそれなりに興味はあった。

 今の姿になるよりも前から、特に人の街の傍で暮らしている比較的弱いポケモンたちはその傾向が強い。

 その中でも空を飛べるポケモンでもある私は人の街を上空から見下ろすことが多く、そこで営まれている人の生活を度々見ていた。

 

 忙しなく街を行く大人たちを見て、彼らは何をそんなに急いでいるのだろうと疑問を抱いた。

 街角のカフェではしゃぎ合う主婦たちを見て、彼女たちは何がそんなに楽しいのだろうと不思議に思った。

 道端でアイスを片手に満面の笑みを浮かべる子供を見て、美味しそうだなあ、なんて羨ましがった。

 家の中で楽しそうに団欒している家族を見て、仲が良いのだな、と……そんなことを思った。

 

 ポケモンと人とではその暮らしぶりには大きな差異がある。

 元より人とポケモンは別の生物なのだから、当然といえば当然なのかもしれないが。

 けれどポケモンは人と共に生きることができる生物だ。

 それはポケモンに備わっている本能にも似た感情であり、だからこそ初めて『彼女』に出会った時、不思議な縁を感じた。

 

 おいで、と言われた瞬間、ほとんど無意識的にその言葉に従った。

 

 そのことにどうしてだろう、酷く安心を覚えた。

 

 

 ―――お前、私と来る?

 

 

 その言葉に歓喜が弾けた。

 

 

 * * *

 

 

「賑やかですねー」

「そうね、ホントお祭り騒ぎだわ」

 

 ニコニコと笑みを浮かべて並ぶ屋台にあちらこちらと興味を惹かれるキューちゃんに手を引っ張られながら歩く。

 好奇心は旺盛なようで目線があっちこっちと飛んでいるが、いきなり走り出すようなことは無く、普通に私の一歩前を歩くくらいに留まっているのは性格的な問題だろうか。

 

 屋台というとお祭りのようなイメージがホウエン出身の私にはあるのだが、どちらかというとこれはバザーと言ったほうが正しい気がする。

 確かこっちのほうだとジャンブル、というのだったか。

 

 地元から離れ別の地方に行くと偶に言葉が通用しないことがある。

 基本ポケモン協会のある地方は統一言語が使われているのだが、地方ごとに方言のようなものがあり、同じ物を指しているのに表現する言葉が違ったりする。

 

「あ、トレーナーさま。スコーン屋台ですよ、とってもいい匂いがします!」

「ホントね、一つ買っていく?」

「ですです!」

 

 初日の影響か、ガラルと言えばカレーのイメージが強かったのだが他にもスコーンと紅茶が割と有名どころらしく、喫茶店に行くと珈琲より紅茶のラインナップのほうが圧倒的に多いし、駅の中などでよくスコーンが販売されている。

 一度買ったことがあるのだがこれが結構美味しい。

 以前ホウエンで売られていたのを食べたことはあったのだが、そっちはパサパサしてひたすら舌が乾くようなイメージだったのだがこちらで売られているのは焼き立てふんわりとしていて口の中でほんのりと広がる甘味がほどよく、いくらでも食べられそうだった。

 手持ちのポケモンたちにも上げてみたのだが割と好評だったので見つける度にちょこちょこ買ってはいたのだが、こんなところでもやっているあたり一般的にも人気がある商品らしい。

 

「おいひーですね、トレーナーはま」

「食べ終わってから喋りなさいよ、行儀が悪いわよ」

「はーひ」

 

 買ったばかりのスコーンを広場の隅にあるベンチに座って食する。

 ぱくり、と一口齧ってみれば焼きたてスコーンのふんわりとした食感、そしてチョコが入った生地らしく熱でほどよく溶けたチョコが絡み合って何とも言えない美味しさを醸し出している。

 美味しい、と素直に思いながら隣を見やればキューちゃんが両手にスコーンを持って変な食べ方をしていた。いや、食べ方自体は小動物チックというかちびちびと齧っているだけなのだが、一つ食べても二つ食べても飲みこまないのだ。

 ほおぶくろでもあるのかと言いたくなるくらいにぱんぱんに膨らませてようやく飲みこむその食べ方は変としか言い様が無い。

 

「よく食べるわね」

「あむ……食事は元気の元ですよ!」

「まあそうなんだろうけど。それで太らないのはどういう理屈なのかしらね」

「いっぱい動いてますから」

 

 意外と言えば意外な話、私のパーティの面子のうち一番食べるのがキューちゃんである。

 その胃袋は底無しなのではないかと言えるほどであり、一度食べ放題系の店に連れ行ったら自分の体積よりも大量に詰め込んでいたのはどう考えてもおかしいと思うのだが、恐ろしい話それだけ食べてもキューちゃんの体型的には一切の変化が無い。

 太るとかそれ以前の話、胃に大量の食べ物が詰め込まれている状態でぱっと見でお腹が凹んでいないのだから明らかにおかしい。

 物理的にあり得ない、一体詰め込まれた大量の食べ物はどこに行ったのだと言いたくなる。

 

 因みにキューちゃんの体重は一般的なペリッパーの平均体重より重い。

 

 とは言えこれに関しては『擬人種』になった影響もあるのだろうから一概に太っているとは言えない、というか外見からすると逆にそれは軽くないかと言いたくなるのだから理不尽な話だ。

 

「美味しそうに食べるわね」

「実際美味しいですよ! トレーナーさまもおひとつ食べますか?」

「……まあもらっておくわ」

「じゃあ」

 

 と呟きながら差し出されたスコーン。

 

「あーん、です」

「…………」

「ほら、トレーナーさま、あーん」

「……あーん」

 

 一瞬躊躇してしまったが、そんな嬉しそうな表情をされてしまってはダメとも言えなかった。

 

 

 * * *

 

 

「はふー! 大満足です!」

「そう、良かったわね」

 

 結局一人でスコーンを二十個以上食べていたが、この後そのまま別の店に連れて行っても普通にまた食べるんだろうな、と思いながらもその外見にやはり変化が無いことに首を傾げる。

 人体の神秘ではあるが人間に見えるがやはりポケモンなのでその辺が秘訣なのだろうか、と益体の無いことを考えながらスコーンと一緒に買った紙コップに入ったミルクティーを飲みながらほっと息を吐く。

 屋台の紅茶……何だろうか。こう、凄く違和感があるのだが、ガラルだとそれほど珍しいわけでもないらしい。

 

 昼食代わりのおやつも食べ終えて、キューちゃんと二人しばらくぶらりと屋台を見て回る。

 あっちこっちと行きたがるキューちゃんに従って歩き回ったので少しばかり疲れた。

 時間的に夕方に差し掛かって来る頃合い、広場の隅のベンチにまた座って歩き回って疲れた足を休める。

 

「少しは息抜きできた?」

「はい! 明日からもばっちりですよ!」

「そう、それは良かった」

 

 最近育成ばかりだったので気分転換でもと提案したのだがキューちゃんが『街に行きたい』と言ってきたのだ。

 どこか希望があるかと言われたら人の賑やかなところ、と言うのでこうして屋台を巡っていたのだがどうやら満足してくれたらしい。

 因みに他の手持ちに関しては余り参考になるような意見は無かった。

 

 ガーくんは基本的に私がいれば良いと言うし、ダーくんは暴れ足りないからもっとバトルしたいと言う、これに関してはリシウムとのバトルが近いのでその時に出せばいいだろう。

 フーちゃんとリーちゃん(ガラルフリーザー)に関してはマイペースというかやることやったら後は勝手に休んでるので多分放っておいても良いし、アーくんは相変わらずのスピード馬鹿なので自由に飛んで良いと許可するだけでストレスフリーな便利な体質をしている。

 ウーちゃん(ウッウ)に関しては何といえば良いのか、訓練したことは覚えているし技術も身についているのにその時の疲れや辛さみたいなものは忘れるという便利極まりない頭をしているのでこっちも放置で良い気がする。

 ラーちゃん(プテラ)は野生時には無かったグルメに目覚めたせいで美味しい物食べてればだいたい満足できるし、チーちゃん(チルタリス)は寝る前に外で歌うのが趣味らしくユウリと二人で聞いてやると嬉しそうにする。

 

 というわけで現状で明確に何かしてやれるのがキューちゃんだけだったのだ。

 

 当たり前の話だがポケモンは感情のある生物だ。

 人間と同じで楽しいことも無く訓練漬けにしたところでモチベーションが下がってしまうし、モチベーションが下がれば訓練の効率も下がる。

 故に適度に息抜きしてやるのもトレーナーのやるべきことの一つだ。

 

 尤もポケモンはそうでもトレーナーは休んでいられない。

 

「帰ったら今日のデータも参考に育成プラン追加しないとね」

 

 それとジムチャレンジまでに可能ならば『アレ』を手に入れなければならないだろう。

 

「と言ってもアテが無いのよね」

 

 はてさて、どうしたものだろうか?

 

 考えれば考えるほどにやることは多く。

 

 けれど、だからこそ……。

 

 

「……。ユウリを迎えに行きましょうか」

 

 

 呟きかけた言葉を飲みこみ、主催者としてすっかり帰るのが遅くなった親友を迎えにスタジアムへと足を向けた。

 




個人的にキューちゃんとウーちゃん(ウッウ)は作者のお気に入り。
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