ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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今日の天気は晴れのち爆撃③

 どうもこのエアームド、基本的に爆発系の技しか覚えていないらしい。

 

 クコが特性『しめりけ』だろうヌオーを出した途端に、何もしなくなったのは、多分何もできなくなってしまったからだ。

 何とか技を出さんと羽を動かして『わるあがき』しようとしているが、ヌオーが周囲一帯の空間を湿気させてしまっているため燻ってしまった『ほのお』は煙すら出ずに消えてしまう。

 

 そして降りかかる『じゅうりょく』の檻に捕らわれ身動き一つ取れない状態となった今のエアームドに最早何の手立ても無く。

 

「大人しく捕まりなさい」

 

 モンスターボール片手にエアームドへと近づいていく。

 何がしかの反応があるかと思ったが、エアームドは動かない……身じろぎ一つせず、じっとうずくまっている。

 

「クコ……? これ大丈夫なの?」

「ん……もんだいない……はず

「今小さく、はず、って言わなかった?」

「きのせい……はやくボールなげろ、けっこうきつい」

 

 ふいっと視線を逸らすクコをジト目で見つめるが、よく見れば確かに額に汗が流れている。

 私やクコ自身を巻き込まないように自らの異能を制限しながら使っているので普段以上に気を使っているらしい。その辺の感覚は良く分かるので、クコの言に従って手早くエアームドへと近づき、ボールを振りかぶった。

 

 ―――瞬間。

 

 “ばくげきき”

 

 ぼん、とエアームドの口から炎が弾けた。

 

「ちょっ!?」

「ん?!」

 

 目の前に聳え立つ巨躯が震え、直後羽が弾け飛んで炎が噴き出す。

 苦しみ、のたうち回るエアームドを前に、驚愕にボールを振りかぶったままの姿勢で立ち止まってしまう。

 先ほどからおかしいと思っていたが、やはりこれはどう考えても異常だ。

 

「まず、い……一先ず、ボールの中に入ってなさい!」

 

 ボールを投げる。これ以上エアームドを放置していれば或いは命にかかるのではないか、そんな予感がした。

 投げられたボールがエアームドにぶつかり、飛び出した赤い光がその全身を包んでボールの中へと吸い込んでいく。

 

 

 かたり、とボールが揺れる。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 かたり、とボールが揺れる。

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 かたり、とボールが揺れて。

 

 

 

 ……………………………………。

 

 

 

 “かちん”とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。

 

 

 

 * * *

 

 

 図鑑の解析機能を使ってエアームドの状態を調べていく。

 ボールの中に入っている間、ポケモンは強制的に縮小状態となっている。

 この状態はポケモンとしての能力の大半が制限されている状態であり、どうやらこの状態でならば自分の力で傷つくというのは無いようだった。

 

「まずはエンジンシティまで帰りましょうか」

「ん……」

 

 こくり、と頷くクコと共に急ぎ足でエンジンシティへと歩き出す。

 その間にも着々とポケモン図鑑がエアームドを解析し、その詳細なデータを表示するのだが。

 

「なに、これ……この」

「ん?」

 

 次々とスマホに表示されてゆく情報に目を通すたびに表情が引き攣っていくのが自覚できる。

 なまじ知識があるだけに、ボールの中のエアームドの状態が理解できてしまう。

 

「良く生きてたわねコイツ」

「……うわ」

 

 ひょい、とスマホの画面をのぞき込んだクコがそこに表示された内容に顔をしかめた。

 

 

 ポケモンの育成と一言で簡単には言っても実際にはそこに必要なものは多い。

 一番重要なものは育成環境、施設ではあるがそもそもの前提として育成とはつまり育てること、故に自分が育てようとするポケモンのことについて詳しく知っていなければ育てることなどできるはずも無い。

 

 故に育成に際して知識とは『前提条件』だ。

 

 覚える技やタイプなんて浅い知識ではなく、種としての特徴、生態、食性、その他諸々、知ることのできる範囲の知識は大半必要であると言っても良い。

 『エアームド』というポケモンは『ひこう』タイプ……その中でも『鳥系』を主としている私にとっては専門分野のポケモンといって過言ではないが故にその知識については十全にあるつもりだ。

 

 だからこそ分かる。

 

 このエアームドがどうしてこうなったのかはともかくとして、今生きていることがほとんど奇跡のような状態であることが。

 同時にこのエアームドが自然の中で生きられない存在であり、トレーナーに保護されなければどうやっても数年と経たずに死んでしまうだろうことが。

 

「これは……私だけじゃ無理かもしれないわね」

「ん、ちょうどいい」

「どういうこと?」

「エンジンシティをたんとーしてるの『ほのお』タイプジムだ」

「あーうん、それは確かにちょうどいいかもしれないわね」

 

 このエアームドに関しては半分くらいは私の専門分野ではあるが、もう半分が割と私ではどうにも手が出し辛い分野だ。

 最大の問題点はエアームドという『ほのお』タイプに適性が一切ないポケモンに何故か炎熱の生成器官が存在すること。

 つまりこれをどうにかするなら一番手っ取り早いのは『ほのお』タイプの専門家を頼ることだろう。

 

「まあ、それしか無いわよね」

 

 基本的にジムリーダーたちタイプごとの専門家というのはそういう相談も受け付けていることが多い。

 このエアームドのように人が手を貸してやらねば死んでしまうようなポケモンの場合は特にだ。

 なにせこんな環境破壊生物、放置できるはずも無い、自然に返すこともできない以上人の手でどうにかするしかない。そうなるとポケモン協会としても捕獲したトレーナーが無責任に手放すことが無いようにサポートする必要が出てくる。そしてそんな時真っ先に動くように使い走りにされるのがジムリーダーだ。

 

 これはだいたいどの地方でも同じことだが、ワイルドエリアという自然環境保全を優先するガラル地方においては猶更のことだろう。

 

 自分のポケモンなのに、という思いが無いわけでも無いが、無駄に意地を張ってもエアームドを無駄に苦しめるだけだ。そんな無駄なプライドを捨てられないなら最初から捕まえるべきではないのだ。

 

「けど……どうなることやら」

 

 トレーナーとしての思考で言うなら、私の『おおあらし』の中で『ほのお』タイプの技が使えるこのエアームドはとんでもない逸材だ。

 相手の警戒していないところからの奇襲性を考えれば是非とも『ばくげき』という長所は残したい。

 だがその長所こそがエアームドを苦しめている原因でもあり、下手をすればエアームドの命にすら関わる問題となり得る以上、そんなものは封じてしまったほうが良いのではないか、とも思う。

 

「『ほのお』タイプジムのジムリーダーに聞いてみるしかないわね」

 

 嘆息一つ。

 

 自分にはどうにもならないことばかりで、どうにももどかしかった。

 

 

 * * *

 

 

「じゃ、ちょっと行ってくるわ」

「ん、わかった」

「先帰ってもらっていいから」

「ああ」

 

 去っていく友人の背を見送り、その姿がエンジンシティスタジアムへと消えていくのを見届け。

 

「ふう……」

 

 大きく息を吐く。

 そのままその場にしゃがんで二度、三度を呼吸を整える。

 そっと手を伸ばし、足に触れれば未だに震えが止まらないのが自分でも分かった。

 

「なさけない」

 

 呟きながらとん、とん、と拳を握って二度、三度と震えの止まらない叱咤(しった)するかのように足を叩く。

 

 トレーナー以外の人間に言うと意外そうにされるが、トレーナーは体が資本である。

 足腰が弱るどころか、体力の衰え一つで引退を考えるほどにトレーナーというのは肉体的な強さが求められる。

 それは旅をしたり、自然環境へと赴くためだけではなく、もっと単純な話、ポケモンバトルとはそれだけ体力を消耗するからだ。

 

 トレーナーはただトレーナーゾーンに突っ立って指示を出すだけなのに、と思われるかもしれないが10秒にも満たない間に目まぐるしく変化するフィールドの状況を把握し、ほんの2、3秒しか与えられない僅かな時間の中で次の指示を考える。

 

 6:6のシングルバトルにおける平均的な決着までの時間は約10分。

 

 たった10分と思うかもしれないが、その600秒の間にトレーナーがどれだけの情報量を処理しているのか。

 何より目の前で弾ける互いの技を見て、平常でいられるはずがないのだ。

 ポケモンの技は容易く人を傷つけ、時には死に至らしめることすらある。

 そんな技の応酬を誰よりも近い場所で見せつけられ続ける恐怖心に心が折れればトレーナーなどやっていられない、だが例え折れることが無くとも本能的な恐怖が全身を強張らせる。

 恐怖が平常心を奪い、体力の消耗を加速させてしまうのだ。

 

 それら考えればバトルにおいてトレーナーが消耗するエネルギーは全力疾走するスポーツマンと何ら変わりない。

 

 クコとてプロトレーナーだ。

 

 当然ながら並の人間よりはよっぽど体力があるし、バトルの一戦や二戦でバテるほどヤワではない。

 それでも、だ。トレーナー同士のポケモンバトルですらその技の応酬に人は恐怖心を感じるというのに。

 

 まして野生のポケモン相手に文字通り『生死を賭けて』の戦いともなれば……。

 

「このざま、か」

 

 実のところクコが『じめん』タイプジムのジムリーダーに就任したのは今年に入ってからの話。

 つまりほんの二カ月ほど前まではクコはジムトレーナー……ですらないただのトレーナーだった。

 色々あってジムリーダーとなったクコだったが、ジムリーダーになったばかりということもあって姉のようにリーグ委員会からの要請で動いたことはまだ無かった。

 実戦を積んだ経験が無いとは言わないが、あくまで普通のポケモン相手でありあんな怪物染みた『特異個体』を相手にしたのはこれが初めてと言える。

 

 割とショックだった。

 

 実のところもう少し自分はやれると思っていたのだ。

 

 クコは間違いなく天賦の才を持ったトレーナーだった。

 

 14という若さでジムリーダーに就任したのもその確かな才能と強さあってのことである。

 このガラルのトップトレーナーとして相応しいだけの……姉のような強さがあると思っていた。

 バウンティモンスターを舐めていたわけじゃない、だがそれでもやれる、と信じていた。

 

 結果は……このザマだが。

 

 背後から聞こえる爆音一つ一つに背筋が凍り、近づく死の足音に怯えた。

 『ボマー』という呼び名からわざわざ自分で『しめりけ』の特性を持ったヌオーを手持ちに入れていたのに突然の奇襲に頭がいっぱいでヌオーを出すことすら忘れていた。

 友達(ソラ)に引っ張って走ってもらわなければ……はて、どうなっていただろう。

 クコが疲労と緊張でうずくまっている間、戦っていたのは自分より2歳も年下の友達だ。

 街に帰って来るまで精一杯虚勢を張っていたが、ソラが居なくなった途端に限界が来てこうして一歩も歩けなくなってしまった。

 

「もっとつよくなりたい、な」

 

 嘆息一つ。

 

 漏れ出た本音はけれど雑踏に掻き消える。

 

 強くなった。

 

 強くなれた。

 

 そう思っていたが、どうやらまだ足りなかったらしい。

 

「もっと……もっとつよく」

 

 なりたい。

 

 なれるかな?

 

 なれるよ。

 

 だって私は―――。

 

 

 * * *

 

 

「……ふう」

 

 エンジンスタジアムを出るとすでに夕日が差し込む時間帯へと差し掛かっていた。

 すっかり遅くなってしまったが、まあそれだけの成果はあったと見るべきか。

 『ほのお』タイプジムのジムリーダーはカブさんという中年の男性だった。

 生真面目そうな人だったがこちらの相談にも親身になって色々と教えてくれた。

 お陰でどうにかこうにかエアームドの件にも目途が付いた。

 それだけならもう少し早く終わっていたのだが、どうもカブさんもまたホウエン出身だったらしく、お互いに故郷の話で盛り上がってしまった結果すっかり遅くなってしまった。

 

「早く帰らないとね」

 

 何せ明日はリシウムとバトルの約束をしているのだ。

 全身が気怠い。今日一日で何度死にかけたことか。ホウエンに居た頃に『チャンピオンロード』を通っているので対野生戦は慣れているつもりだったが、エアームドほど滅茶苦茶なポケモンもそうはいなかったので自分でも思っていた以上に疲労していた。

 

 明日のバトルにまで疲労を引きずらないようにさっさと帰ってゆっくりしよう。

 

 そんなことを考えながら列車に乗るため駅へと向かおうとして。

 

「……あれ? クコ?」

 

 道端に座り込む友人の姿を見つけた。

 私の声に反応するかのようにクコが視線をこちらへと向けて。

 

「ソラ、おそかったな」

「え、何で? 先に帰ったんじゃ」

「ん……ひとつ、たのみが、できた」

「頼み……? まあ内容にも寄るけど、この子のこともあるし、なるべくは受けるわよ」

 

 腰に吊るしたホルスターの一つに収まったボールを叩く。

 そこには今日捕まえたばかりのエアームドが入っている。

 そんな私の言にクコがそうか、と一言呟いて。

 

 少しだけ言葉を溜める。

 

 そうして。

 

「こんど、わたしとしょうぶしてくれ」

 

 そう告げた。

 

 

 




前回データ乗せ忘れてた。


【種族】“ボマー”エアームド/変異種/特異個体
【レベル】97
【タイプ】はがね/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】てっけつ(たま・爆弾系の技の命中と威力を1.5倍にする。)
【持ち物】メタルコート
【技】ばくげき/くちばしキャノン/だいばくはつ/はねやすめ

【裏特性】『ばくげきき』
自分のHPが半分以下になった時、『いかり』状態になり、自分の全能力を上げる。
相手の場の『ばくだん』状態が発動、または解除された時、自分のHPを1/8回復する。
『たま・爆弾系』の攻撃技の威力を1.5倍にするが、『たま・爆弾系』の技を出さなかったターン、自分の最大HPの1/6のダメージを受ける。

【技能】『れんさばくはつ』
『たま・爆弾系』の攻撃技を出す時、相手の場が『ばくだん』状態なら『ばくだん』状態を解除し、威力を2倍にする。

【能力】『はぜるつばさ』
相手からの攻撃でダメージを受けた時、相手の場の状態を『ばくだん』状態にする。
『たま・爆弾系』の攻撃技を出す時、相手の『ぼうぎょ』と『とくぼう』の低いほうでダメージ計算する。
『はがね』タイプの技の威力を1.5倍にするが、『ほのお』技で受けるダメージが2倍になる。


【備考】
ばくげき 『はがね』『非接触単体物理技』
効果:威力110 命中70 『ほのお』タイプと相性の良いほうのタイプでダメージ計算する。相手の特性が『しめりけ』の時、技が失敗する。

ばくだん 『はがね』『変化技』
効果:相手の場の状態を『ばくだん』にする。

場の状態:ばくだん
次のターンの終了時、場にいるポケモンに最大HPの1/4分のダメージを与える。相手の特性が『しめりけ』の時、ダメージが無くなる。


ばくげきの威力110×てっけつ1.5倍×ばくげきき1.5倍×はぜるつばさ1.5倍×タイプ一致1.5倍=556.8≒557にメタルコート1.2倍で668。

さらにここに本来なら相手から攻撃受ける→『はぜるつばさ』で『ばくだん』状態に→『れんさばくは』で倍率ドンで2倍で威力1336。
そしてダメージ計算時には『ほのお』『はがね』の有利タイプ相性判定+相手のBDの低いほうでダメージ計算。

だいたいのやつはこれで死ぬ。
恐ろしいことにこれが『通常攻撃』レベルだ(

尚特性『しめりけ』出されたら一瞬で詰む。



というわけでソラちゃんPTにとんでもない大物が加入だ(予定にないメンバー
そして二章のラスボス多分クコちゃんだな。データだけなら震えるレベルでヤバイぞ(
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