翼無き者たち①
「…………。どうしたの?」
ずーん、と肩を落としたリシウムを見て、一瞬回れ右して帰ってしまおうかと思ったがその気持ちをぐっと押し込めて尋ねる。
そんな私の声に反応してか、リシウムの視線がこちらへと向き。
「怖いから止めなさいよ、その死んだ目」
ハイライトが消えたその瞳に思わず後退る。
一体何だってこんな死んだ目をしているのか、引き気味に尋ねてみれば。
「あーしね、昨日妹ちゃんと会う約束してたのよ」
「うん……昨日?」
「なのにジムまで迎えに行ったら……」
―――5日後はクーのとこ行く予定あるし、なら6日後で。
そう言えばバトルの約束した時にそんなこと言ってなかっただろうか?
あれから6日後が今日なので必然的に5日後というと昨日。
そう、昨日。
―――クコと二人でワイルドエリアに行ってきた日だ。
「妹ちゃんどこにもいねーし、どこ行ったって聞いたら友達と出かけたって言うし」
ジロリ、とリシウムの視線を私を射抜き、思わず一歩後退る。
「友達……友達ね、あーし、妹ちゃんの友達ってソラ以外に聞いたこと無いんよ」
「そ、そう」
「そんな妹ちゃんが友達と出かけるって言ったらしーけど」
知ってるよね?
そんな無言の圧に押されて頬が引き攣った。
* * *
「ぬわああああああ! クーに約束すっぽかされた恨みも全部まとめてぶつけてやんし!」
「完全に逆恨みっていうか、私クコに誘われた側なんだから悪くないと思うんだけど」
「八つ当たりだし!」
「胸張って言う事か!」
なんて口々に言い合いながらも互いにバトルコートに立ち。
「ま……それはそれとして、練習試合みたいなもんとは言え、勝ちに行くぞ、オラ!」
「こっちの台詞よ! さあ、暴れるわよ!」
ボールを構えて……投げる。
「ロトム!」
「ダーくん!」
“らいとううんぽん”*1
こちらの一番手はダーくん。
相手は……どうやらスピンロトム。
ロトムというのは電化製品に憑依するポケモンだが、憑依先に応じてタイプが変化するという珍しい性質を持つ。
その中でも扇風機に憑依したのがスピンロトムというフォルムであり、そのタイプは『でんき/ひこう』。
まあ『ひこう』タイプジムのジムリーダーだからと言って必ずしも『ひこう』タイプで統一する必要は無いのだが、大抵のジムリーダーはタイプ統一をしている。
その最大の理由としては私の『ぼうふうけん』のように特定タイプに対する強力なアドバンテージがあったり、もしくは特定のタイプの育成を得意しているため下手に弱点の被りを気にするより持ちうる強みで押し切ったほうが強い場合が多いからだ。
といっても大抵の、と先ほど言ったように必ずしも全員が全員統一タイプなわけでもないので絶対とは言えないのだが。
「んじゃまー」
はたしてリシウムがどんなタイプのジムリーダーかは分からないが。
「タイマン、はらしてもらおーか!」
それでもジムリーダーなのだ。
ただその一点の事実のみで、リシウムの実力は保証されていた。
“タイマンしょうぶ”
どん、と大地に叩きつけるかのように勢いよく振り下ろした脚。
それに応えるかのようにロトムがテンションを上げる。
「構わないわ、正面から叩き潰してあげる」
ぐっと拳を握り。
「吹き荒れろ!」
心の中で撃鉄を落とした。
“ぼ う ふ う け ん”
轟、と凄まじい音で風が吹き荒び、豪雨が降り注ぐ。
気流が渦巻き、乱れ、荒れ狂う『おおあらし』がフィールド上に顕現する。
―――タイプ相性、技幅、展開の組み立て、それらを一瞬頭の内で考慮し。
「ダーくん!」
「ロトム!」
ほぼ同時、互いに指示を飛ばす。
指示を受け、ノータイムで互いのポケモンが動き出して。
“らいめいげり”
大地を蹴って反動をつけて放たれた強烈な蹴脚がロトムを捉える。
“らいとううんぽん”*2
“とうそうほんのう”*3
駆け抜け様に急所を捉えた強烈な一撃はロトムを吹き飛ばし、その強烈な蹴り脚はロトムが持っていたのであろう『オボンのみ』を蹴り飛ばす。
「うげっ」
明らかに深刻なダメージを負った様子のロトムを見てリシウムが顔を引きつらせ。
“せんぷうき”*4
“かみなり”
お返しとばかりに放たれた電撃は『あめ』を伝ってダーくんへと必中する。
「―――ッ!」
“おおあらし”*5
だが嵐の中渦巻く乱気流がダーくんを守り、弱点タイプの一撃のダメージを大幅に軽減する。
激しい電撃を身に受けたダーくんだったがこの程度なんてことないと咆哮して無事をアピールする。
「は?」
そんなダーくんを見て目を丸くしたのはリシウムだ。
確かにロトムはアタッカーというよりは耐久寄りに育ててはいるが、素の能力で十分に火力はあるし、技の威力と特性を考えれば弱点タイプをつければ相手もまた耐久寄りに育てているわけでも無いのならば一撃でアタッカーを落とす程度の火力はあるはずだ。
基本的に相手の数を減らすアタッカーは火力と耐久力を持ち合わせたタイプか火力と速度を持ち合わせたタイプの2択になる。
ダーくんがまさか耐久寄りだなんてそんなはずは無いだろうし、にも関わらず推定のダメージ量を見れば体力の半分を超えたかどうか……。
「この天候……え、マジで。そこまで? アリなん?」
目を見開き独りごちるリシウムの様子に、こちらの種が気づかれたことを察する。
元より『上位天候』に関しては十年以上前にとっくに公開された情報だ。そこに手をかけたトレーナーは余りにも少ないが、けれど全くいないわけではない、ならば地方トッププロの一人であるリシウムが知らないと思うのは余りにも油断が過ぎるだろう。
だが気づいたところでもう遅い、最早止まらない。ダーくんはすでに走りだしているのだ。
“らいとううんぽん”*6
走り続けて少し疲れを見せたか、ダーくんの速度が落ちる。
と、同時に。
“とうそうほんのう”*7
自らの『危機』に反応して、ダーくんの戦意はより高まっていく。
マッチポンプだが、自発的に条件を満たすことのできるこの技術はダーくんが自らの特性の一つ『まけんき』を流用して元々身に着けていたものであり、非常に使い勝手は良い。
“らいめいげり”
先ほどより明らかに威力を増した一撃がロトムを軽々とフィールドの端まで吹き飛ばし、ロトムが『ひんし』となって目を回す。
一瞬リシウムが目を瞑り。
「お疲れ」
呟いてロトムをボールに戻す。
「オッケー。ロトム、よくやったし。
目を見開き、次のボールを投げる。
「ネギガナイト!」
投げられたボールから出てきたのは、ガラル特有の進化を遂げたカモネギの進化系ネギガナイト。
右手に持った長ネギを槍のように、左手に持ったネギは盾のように。
攻防のバランスに優れた強い『かくとう』タイプのポケモン、だと図鑑で見た。
そう、『かくとう』タイプ。
だがリシウムが使っているということは……。
「ま、関係無いわね」
“らいとううんぽん”
“とうそうほんのう”
疲労と反比例するかのように加速度的に増すダーくんの戦意はすでに相当なものだ。
ここまで強化されたダーくんを止めることは簡単なことではない。
「さて、どうするの? リシウム」
“らいめいげり”
走り出したダーくんが大地を蹴り、ネギガナイトへと向かって強烈な蹴りを見舞う。
『おいかぜ』に背を押された高速のキックがネギガナイトへと迫り。
“インターセプトリーク”*8
ぱしん、と左に持ったネギの盾でダーくんの攻撃を受け流し。
“しんがん”*9
“アサルトリーク”*10
“リーフブレード”
体勢を崩したダーくんへと振るわれた右のネギの槍がダーくんを一瞬にして切り落とした。
* * *
状況2-2。
「次、行くわよ、ウーちゃん!」
私の投げたボールから飛び出したのは―――。
「ウ?」
青い羽をしたどことなく間の抜けた表情をした鳥ポケモン……ウッウのウーちゃんだ。
ウッウは非常に面白い特性をしたオンリーワンな個性を持つポケモンだ。
故にその育成の方向は特性を絡めたものであり……。
「ウーちゃん!」
こちらの指示に従って、ウーちゃんが動き出そうとした……瞬間。
「―――ここじゃね?」
リシウムがぽつり、と呟き。
「うし、ステゴロ、といこーか!」
どん、と自らの拳と拳をぶつけ合う、直後ネギガナイトがその手に持った『ながねぎ』を放り投げた。
「は?!」
“ステゴロ”*11
まるでそれに呼応するかのように、ウーちゃんに持たせた『きあいのタスキ』をひょい、と放り投げて。
「ちょ、ウーちゃん?!」
“なみのり”
放たれた大波はネギガナイトを飲み込み。
“なみにのまれる”*12
こちらの仕込んだ通りにウーちゃんが大波が引くに合わせてこちらのボールへと戻って―――。
「
“タイマンしょうぶ”*13
“インファイト”
その背を追いかけたネギガナイトの突き出した翼の一撃がウーちゃんを殴り飛ばし、吹き飛ばされたウーちゃんが『ひんし』となって目を回した。
* * *
「っし、読みどーりっしょ」
リシウムは典型的な『トレーナータイプ』だ。
正直言ってガラルのトッププロの中でもリシウムの実力は一段低い。
統率能力はあっても極めて高いと言えるほどでも無く、育成能力はプロとしては並を越えない。
特異な異能も持たず、『タイマンしょうぶ』や『ステゴロ』なども昔グレていた頃に培った喧嘩殺法のようなやり方をバトルに流用しているに過ぎない。
だからひたすらに考える。
『トレーナータイプ』とはつまり育成能力が低く、カリスマ性に乏しく、特異な才能も持たないトレーナーがそれでもと戦うためにただひたすらに考え続けることを止めなかった結果の戦法なのだから。
だからこそ、『トレーナータイプ』は恐ろしいのだ。
『ブリーダー』のように育成が得意なわけでもなく、『リーダー』のように強いポケモンを率いているわけでもない。異能トレーナーのように状況を動かす強烈な異能があるわけでもない。
ただひたすらに考え続け、展開を構築し、導き、そして勝利する。
何せ導き出した答えを狂わせるだけの『何か』が無ければ敗北への結果を変えられないのだから。
強みをぶつけあう他のタイプのトレーナーとは異なる、究極的に言えば『トレーナータイプ』とは『勝ち筋を見つけるまでに耐えられるか否か』が勝負の分水嶺となるのだ。
そして、この勝負において。
例えば『ブリーダータイプ』のトレーナーにとってバトルとはただフィールドで戦うだけではない、事前にどれだけ育成できたか、の事前準備こそが要となる。実際のバトルでは育成してきたことがどれだけ発揮できたか、が勝負の分かれ目だ。
例えば『リーダータイプ』のトレーナーならば事前にどんなポケモンを集めて、絆を深めてきたかが肝心だ。後は実際のバトルで仲間との絆を発揮できるかどうか、それが勝負の分かれ目だ。
例えば異能トレーナーならば自らの異能をコンセプトにどれだけの戦術を組めるか、またその異能への『
そして『トレーナータイプ』にとって『勝ち筋を見つけること』が勝負の分かれ目ならば、事前準備とは『相手の情報』であり、『選出』こそが要となる。
今回で言えばリシウムはソラが最初にガラルサンダーを持ってくるだろうことは予想できていた。
ソラはこの『ひこう』タイプジムの施設を使って育成している以上、外から見ただけでも抜き取れる情報はそれなりに多く。
だからこそソラの手持ちの中で最も気性の荒いサンダーが最初に来るだろうと予想していた。
だから最初にネギガナイトを出していればサンダーを完封することは可能だっただろう。
では何故それをしなかったか。
ソラを警戒させない内に情報を吐き出させたかったからだ。
トレーナーもポケモンも劣勢な時より優勢な時のほうが気が緩みやすい。
そして『勢いづいている時こそ情報が露出する』のだ。
そう、リシウムが一番欲しかったのはソラの―――。
仕事忙しくて遅くなりました(震え声
【名前】ダーくん
【種族】サンダー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】120
【タイプ】かくとう/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】しっぷうどとう(自分が『ひこう』技を出した時、味方と交代する。行動前の味方と交代して場に出た時、『ひこう』タイプの技を出す。)
【持ち物】こだわりハチマキ
【技】インファイト/らいめいげり/ダブルウィング/ブレイズキック
【裏特性】『とうそうほんのう』
自分の能力が下がった時、『こうげき』が2段階上がる。
自分の技で相手の『ぼうぎょ』が下がった時、相手を道具を持っていない状態にする。
自分の攻撃が急所に当たった時、タイプ相性の不利に関係無くダメージ計算する。
【技能】『らいごうでんてん』
特性の効果で味方と交代した時に出す技の威力を1.3倍にし、『相手を直接攻撃する技』を選択できるようになる。
【能力】『らいとううんぽん』
最初に場に出た時に『すばやさ』が最大まで上がるが、場にいる間毎ターン『すばやさ』が下がる。
相手より先に行動した時、攻撃技が必ず相手の急所に当たる。
【名前】ウーちゃん
【種族】ウッウ/原種
【レベル】110
【タイプ】ひこう/みず
【性格】のんき
【特性】うのミサイル
【持ち物】きあいのタスキ
【技】なみのり/ぼうふう/なまける/こらえる
【裏特性】『とんちんかん』
フォルムチェンジした時、『たくわえる』を出す。
相手が場を離れた時(交代、瀕死どちらでも)、『ドわすれ』を出す。
連続して出すと失敗しやすくなる技を連続で出した時、失敗する確率を半減する。
【技能】『なみにのまれる』
『なみのり』を出す時、技に『攻撃後、味方と交代する』効果を付与できる。
名前:リシウム
トレーナー評価????
【技能】
『タイマンしょうぶ』
場に出た味方のポケモンが交代できなくなるが、互いの技が必ず命中し、味方の攻撃技に『相手が交代する時、交代前の相手を攻撃し、技の威力を2倍にする』効果を追加する。この効果が発動した時、相手の交代は失敗する。
『■■■■■』
――――――――。
『ステゴロ』
使用ターン中、互いのポケモンが持っている道具の効果が発動しなくなる。この効果は味方が場に出るたびに1度だけ使用できる。
【名前】――――
【種族】ロトム(スピンフォルム)/原種
【レベル】105
【タイプ】でんき/ひこう
【特性】せんぷうき(『でんき』『ひこう』タイプの特殊攻撃技の威力を1.5倍にする。宙に浮き上がり『じめん』技や『まきびし』等の効果を受けない。)
【持ち物】オボンのみ
【技】かみなり/エアスラッシュ/でんじは/トリック
【裏特性】『プロペラーズファン』
自分と同じタイプの技を出した時、HPを最大HPの1/8回復し、自分の『とくこう』を上げる。
相手が『マヒ』状態の時、自分の技の追加効果の発動率が2倍になる。
相手が『マヒ』状態の時、技が急所に当たりやすくなる(C+2)。
【技能】『パワースイッチ』
自分と同じタイプの技の威力を2倍にする。この効果は戦闘中1度だけ使用できる。
【名前】――――
【種族】ネギガナイト/原種/特異個体
【レベル】110
【タイプ】かくとう/ひこう
【特性】しんがん(『相手を直接攻撃する』技を出す時、相手のタイプ相性に関係無くダメージ計算する。命中100以上の技が必ず相手に命中し、急所に当たりやすくなる(C+1)。)
【持ち物】ながねぎ
【技】インファイト/ブレイブバード/リーフブレード/であいがしら
【裏特性】『アサルトリーク』
持ち物が『ながねぎ』の時、直接攻撃する技の威力を1.2倍にし、攻撃を受ける時、20%の確率で回避する。
攻撃技が相手の急所に命中した時、ダメージを1.5倍にし、次のターン相手が出す技の優先度を-3する。
互いに攻撃技を出している時、受けるダメージを3/4にする。
【技能】『インターセプトリーク』
自分の技の優先度を-7する。相手の『直接攻撃』のダメージと技の効果を受けなくなる。この効果で相手の技を無効にした時、自分の技の威力を2倍にする。