―――ソラはガラルのトレーナーではない。
その情報から導き出される情報が一つある。
それはガラルのトレーナーでは余り無いことであり、他地方のトレーナーならば普通にあり得ること。
それは『交代』という選択肢だ。
互いに『交代』を駆使するサイクル戦は現代におけるプロトレーナー同士のバトルにおける基本とされるが、ここガラルにおいてはサイクル戦というのは滅多に見られるものではない。
くるくると互いのポケモンが入れ替わり立ち代わり出ては引っ込むサイクル戦はトレーナーからすれば駆け引き満載の見ごたえのある戦いなのだが、試合を見る大半の人間はバトルに造詣の深くない素人であり、素人から見るとわざわざ相手の攻撃を受けてしまう交代という選択肢を互いが多用するサイクル戦は何をしているのかが分からない、というのが正直なところであり、互いにじわじわと消耗しながら決定打を狙うサイクル戦はどうしても長期戦になりやすく見ていてダレやすくなってしまうし、見映えも悪くなってしまう。
ガラルにおいてトレーナーとは、否、プロトレーナーとは客商売であり、人気商売である以上どうしても一般客受けしないバトルのスタイルは駆逐されてしまっていた。
リシウムのトレーナーとしてのスタイルは相手への『読み』を強要する類のものではあるが、相手が最初から交代という選択肢を排除してしまっている以上、その強みは半減してしまう。
本当ならば強制交代などを多用してかき乱せれば……とも思うのだが、『強制交代効果』と『おいうち系効果』の併用はハメ技に近いためリーグ委員会からレギュレーションで規制されている。
マイナーリーグのジムリーダーの中には『ランダム』を恣意的に捻じ曲げて強制交代で任意の相手を引き出して特性『はりこみ』からのエース狙い撃ちはアリなのに、
まあそれはさておき、ソラはガラルの外から来たトレーナーである。
ならばまだガラルのスタイルに馴染んでおらず、交代という選択肢は十分にあり得た。
故に先ほどのウッウに対してこちらの一撃が刺せたのだが、これで残りは一体。
「つって……なんつうか」
こうして対峙してみると改めて思う。
3対3シングルと6対6シングルは同じシングルバトルでも必要とされる能力が全く異なる。
特に3対3のバトルにおいて最も重要なのは選出だ。
見せ合いバトル*1ならばともかく、互いのポケモンが分からない以上それは運と言われるかもしれないが、リシウムはソラがここでどんなポケモンにどんな育成をしているのかある程度の情報は持った上でこちらのポケモンをほぼ知らないはずのソラに対して選出できたのだ。
選出されたメンバーの相性で半分以上は決まると言っても過言ではない3対3のバトルにおいてその情報の利がどれだけの差を生むか。
つまりこちらからバトルを申し込んでいる時点で最初からリシウムに大きく有利なバトルだったのは間違いない。
その上で、こうして実際戦って見て思うのはトレーナーとして一つ格が違う、ということだ。
極論ソラは適当な裏特性すら持たない『ひこう』タイプを6体並べても、後はこのフィールドに吹き荒ぶ嵐一つ呼び込むだけでリーグの中堅トレーナー程度なら勝てるだけの強さがある。
同じトレーナーの技能なのに、リシウムとは天と地ほどに差があって、リーグ委員会規制しろと言いたいところだがホウエンリーグに所属していた、ということは恐らく
間違いなく妹と同じ才を持ったトレーナーであり、その上でポケモン一体一体が強いということだ。
ガラルでも希少とかいうレベルじゃないほどに滅多に見ることの無いあの三鳥を全て捕獲し、そして従わせている。それだけでも並のポケモンよりよっぽど強いやつらが三体いて、その上であの三鳥が『エースポケモン』ではないという事実。
ジムリーダーなんてやってるが故にリシウムだってガラルのトップトレーナーたちと幾度となく戦ってきているが、そんな彼らと比較しても遜色がないほどの練度と完成度。
これでまだプロ二年目だというのだから、ふざけた話だ。
故に6対6のフルバトルで戦えば、一体一体の差で詰められて総合力で負けるだろう。それもほぼ確実に。
けれど。
だけれども、だ。
今だけは、このバトルだけはリシウムにも勝ち目がある。
奇襲によってサンダーとウッウを倒した。こちらにはまだ無傷のネギガナイトともう一体。
そして相手は残り一体。
その一体次第だが……。
「出番よ……アーくん!」
そうしてソラが投げたボールから飛び出してきたのは。
「へぇ」
赤い羽根を持つ『ほのお』タイプの鳥ポケモン。
「キィィィェェェ!」
―――ファイアローだった。
* * *
基本的にファイアローには直接攻撃しか無い。
正確には『オーバーヒート』等の攻撃も無くはないのだが、『おおあらし』の最中で発動できるものではないし、『ぼうふう』等の技も覚えられなくはないのだが、そもそもこのスピード狂いがそんな技いつまでも覚えておくはずも無い。
というわけでアーくんの技はどうにか覚えさせることできた『ブレイブバード』一つだけである。
このジムで育成しているのだからリシウムだって当然それは知っているだろうが……。
「突っ込め! アーくん!」
「返り討ちにしてやんよ、ネギガナイト!」
“はやてのつばさ”
“ブレイブバード”
『おおあらし』の追い風を受けて猛スピードでアーくんがネギガナイトへと迫る。
当然ながらそれしかできないと知っているリシウムはネギガナイトへ迎撃の態勢を取らせる……が。
“スピードスター”*2
その速度を甘く見過ぎである。
最高速に乗ったアーくんは最早視界に捉え続けることすら困難なほどに速い。
迎撃、という後手を取った時点で結果は決まっているのだ。
“せんてひっしょう”*3
元より防御能力はあっても素のタフネスは高くないポケモンであり、アーくんの一撃に吹き飛ばされ、二転、三転と転がって……。
「ネギガナイト!」
それでもリシウムの声に応え、気合で持ちこたえ。
“ソニックブーム”*4
一瞬遅れ、轟、と響き渡る
「よし、完璧ね」
アーくんはもうどうやったって
だからもう
まだ完全に完成したわけではない。できるならば『おおあらし』に対して適応した技術が欲しいところだし、もっと全体的な完成度も上げれると思う。
だが今はこれで良い、と拳を握った。
* * *
「はえーよ、いや、何だしあの速度」
突撃馬鹿だからカモかと思ったらカモにされたのはこっちだった。
そういや元はカモネギだった、なんてくだらないことを考えながらも最後の一体の入ったボールに手をかける。
「やっぱソラ、強いわ」
ネギガナイトは物理型相手ならば滅法強く出れるはずのポケモンなのだが、それを真っ向から叩き伏せられるとは思わなかった。
裏特性とはつまるところどうやったって技術なのだ。
異能にはなり得ない。
つまり種も仕掛けもある。原理があって、その原理を利用するからこそ結果を導き出せる。
だからこそ『裏特性を妨害する方法』というのは意外とある。
一番単純な方法として行動不能にすれば良い。
例えば『ギガインパクト』や『はかいこうせん』などの反動の隙を突いたり、相手を『ひるみ』状態にしたり、或いは特性を『なまけ』にしてしまったり。
相手が『動けない状態』を作ればどんな技術だろうと発揮できるはずがない。
ネギガナイトの種は単純な迎撃だ。
相手の攻撃を盾で受け流し、受け流しによって相手の態勢を崩したところに必殺の一撃を直撃させる。
最大の難点として相手の『直接攻撃』を受け流すために相手を待ち構える必要があるので当然相手のほうが先に攻撃してくることになる。
それが『直接攻撃』ならば盾で流せるのだが、そうでない場合もろにもらってしまう。
連続で使うことはできるが、使いどころを見極めなければ何もできないままに叩き潰されてしまう『読み』が必要とされる技能なのだ。
当然ながらその天敵は『遠距離』から攻撃してくるポケモンたちだ。
逆に言えば『直接攻撃』しかできない類のポケモンには無類の強さを発揮できる。
『かくとう』タイプのポケモンならタイプ相性を合わせてまず負けることは無いと言えるほどにリシウムはネギガナイトの完成度に自信を持っていた。
故にネギガナイトがファイアローに真っ向から打ち破られた衝撃は想像を絶するものがある。
ファイアローのやってることは単純であり、けれどだからこそどうしようもない。
簡単に言えばネギガナイトが構えるよりも先に攻撃されているせいで、迎撃が間に合っていないのだ。
どれだけスピードを上げればそこまでできるのか、と言いたいところだが最早人の目では攻撃の瞬間が影しか映らないレベルのその速度を見ればネギガナイトが間に合わなかったことを責める気にはなれない。
これは単純にファイアローの天性の飛行スピードもあるのだろうが、それを後押しするソラの異能が大きいのだろう。あの凄まじいスピードを完全に御したファイアロー自身の才覚もある、だがやはりソラの後押しが無ければネギガナイトならば反応していたと思う。
こんな真っ向から、想像の上から叩き潰されるとは思わなかったが故に、あのファイアローに一矢報いることすらできずにむざむざネギガナイトを失ってしまった。
思考の回転と展開の読みを重視する『トレーナータイプ』にとって想像の範囲外の存在というのは最悪の天敵と言っても良い。
そう、想像の範囲外……だったならば、リシウムは危うく詰んでいた。
確かに追い詰められた、それは事実だ、認めよう。
だからこそ、敬意を持ってこのボールを手に取った。
「ソラ」
勝負の途中に声をかける、その行為はトレーナーとして余り褒められたものではないが、それでもリシウムは声を出さずにはいられなかった。
「何よ」
じっと、こちらを見据えて一瞬たりとも気を抜かないと言った様子でこちらを見つめるソラの返答に苦笑しながら、じっとボールを見つめて。
「こいつは……あーしのとっておき。あーしの本気の証」
振りかぶり。
「ソラが強いからこそ、ソラの強さを認めたからこそ、あーしは全力で勝ちに行く。ま、つまり」
投げた。
「
* * *
「リィィィォォ」
リシウムの投げたボールから飛び出してきたのは白い四枚羽をゆったりと羽ばたかせて宙を舞うように飛ぶ『ちょうちょ』ポケモン、バタフリーだった。
タイプは『むし』と『ひこう』。
単純なタイプ相性で言えば『ほのお』『ひこう』のファイアローとは最悪に近いはずなのだが。
―――これで詰みだわ。
さてはて、あのリシウムの発言はブラフかはたまた。
なんて考えてみて嘆息する。
何かあったとしてもそもそも
「アーくん……真っすぐに、全速で、行きなさい!」
その言葉に応えるかのように、アーくんが雄たけびをあげて。
“ニトロブースト”*5
その全身から炎が一瞬吹き出し、凄まじい加速を生み出す。
先ほどまでよりもさらに加速した勢いのままに最早視認することすら難しいほどの速度でアーくんがバタフリーへと激突する。
音を置き去りにするほどの速度の一撃にどうなったと目を凝らして。
“さかさま”*6
その一撃に揺るぎすらしないバタフリーがアーくんの一撃を受け止めていた。
「いや、おかしいでしょ」
速度と威力を比例させる技術をアーくんには仕込んである。
スピードだけはあっても火力の足りないファイアローの技の威力を補うための最適な裏特性を持たせたアーくんは
だがその一撃を受けて、バタフリーは何ら痛手ではないと平然して。
“むしのさざめき”
“パラレルドレイン”*7
そのゆったりとした羽ばたきから放たれた一撃がアーくんを吹き飛ばし、同時にその体から流れ出すようにして溢れてきた薄緑色に光るエネルギーがバタフリーへと回収されていき、アーくんが僅かにつけた傷すらも一瞬にして治癒してしまう。
吹き飛ばされたアーくんは気合で耐えたようだったが……最早瀕死寸前なのは見ていれば分かるくらいで。
「まだやんの?」
最早決着はついたと問うてきたリシウムの問いに一瞬思考して。
「いや、降参だわ」
両手を上げた。
というわけで今回はソラちゃんの負け。
敗因? 練習試合だからって育成の成果と調整くらいでやってたソラちゃんと、その油断を突かないと絶対勝てないだろうなって分かってたリシウムさんとの本気度の違い。
まあそれが一番の敗因なんだろうけど、細かいところ言うとソラちゃんはまだ『ガラルのトレーナー』のやり方に慣れていないから。
【名前】アーくん
【種族】ファイアロー/原種/特異個体
【レベル】95
【タイプ】ほのお/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】はやてのつばさ→ニトロブースト(毎ターン『すばやさ』が上がる。優先度0の『ひこう』タイプの技の優先度を+1する)
【持ち物】こだわりスカーフ
【技】ブレイブバード
【裏特性】『せんてひっしょう』
相手より先に攻撃した時、攻撃後に反動を受ける技の威力を1.5倍し、技の反動を受けなくなる。
相手より先に攻撃した時、自分の『こうげき』と『すばやさ』の合計値の半分でダメージ計算する。
????
【技能】『ソニックブーム』
『ひこう』タイプの攻撃技で相手にダメージを与えた時、攻撃後に相手の最大HPの1/8の『ひこう』タイプのダメージを与える。
【能力】『スピードスター』
相手より『すばやさ』が高い時、技の優先度に関係無く相手より先に技が出せ、相手の特性、裏特性、技能に関係なく攻撃できる。
【名前】――――
【種族】バタフリー/原種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】むし/ひこう
【特性】さかさま(互いの『こうかはばつぐん』と『こうかはいまひとつ』のタイプ相性を逆にする。)
【持ち物】たべのこし
【技】むしのさざめき/ぼうふう/サイコキネシス/ちょうのまい
【裏特性】『????』
????
【技能】『パラレルドレイン』
攻撃技を出す時、『相手に与えたダメージの1/3分自分のHPを回復する』効果を付与する。
【能力】
『????』
????
『エースポケモン』
相手のポケモンを倒した時、エキサイトグラフを+1(個別)する。
相手の『エースポケモン』が場に出てきた時、テンション値を最大まで上昇させ、エキサイトグラフを+2(個別、全体)する。』
『キョダイマックス』
3ターンの間、『キョダイマックス』状態になる。
『キョダイマックス』状態の時、自分のHPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、『むし』タイプの技が全て『キョダイコワク』になる。
ここから言い訳タイム。
すみません、エウゲーの新作ラビリンスマイスター出たからやろうと思ったら前作のキャッスルマイスターの内容完全に忘れてたのでやり直してて、その途中でグラセスタ買ったまま積んでたの思い出してキャッスルマイスターやった後にやって、グラセスタ終わったからようやくラビリンスマイスターやるかってなって終わる頃には執筆のやり方忘れてました(