“し ん く う い き”*1
振り下ろされた二つ目の撃鉄が、嵐を
「わ、わわわわ……っととと?!」
―――オォォォォォオオオ?!
「ぐ……ぬぅ……」
吹き荒れていた全ての風が、雨がそこに蓄えられていた全ての『エネルギー』が一点に……『アオ』に向かって収束していく。
まるで超巨大な掃除機でもそこにあるかのように、何もかも吸い込まんとする勢いに抗って相手は動きを完全に止めている。
「ユウリィ……! しっかり守らせておきなさい……でないと」
吹き荒ぶ風の強さに片目を瞑りながらこちらを見やるユウリへと視線を合わせ。
「空の彼方までぶっ飛ばされるわよ!!!」
「―――ルウゥゥォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
『嵐』の力を全てその身に溜め込んだアオが絶叫と共に溜め込んだ全ての力を吐きだすかのようにその両手を突きだす。
“ストームブリンガー”*2
その両手に渦巻く風の力が吹き荒び、収束するエネルギーに纏わりつく。
“コスモスキン”*3
同時にアオの『特性』の効果によってそのエネルギーがまるで『宇宙空間』のような模様へと変じていく。
恐らくこの世界で唯一アオだけが持つだろう特性だ。
―――母さんの血を引くボーマンダであるアオだけが、至った可能性。
きゅっと、唇をきつく結ぶ。
零れそうになった言葉を飲み込むと同時にアオがその両手を真上へ……ムゲンダイナへと照準を合わせ。
“はかいこうせん”
“スピントルネード”*4
―――ォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!
爆発でも起こったかのような音と共にムゲンダイナのその巨体が一回り、二回りと縮んでいき、やがてボールから出された直後のサイズにまで戻る。
改めてみるが元のサイズがすでに十メートルを超えている……下手すると二十メートルはあるのではないだろうか。
完全に『ひんし』状態になってしまったのだろう、そのままさらに縮小されていくのを見てユウリがボールへと戻す。
「わあ……」
自らの手の中のボールを見やり、信じられないとばかりに数秒目を丸くして、やがてこちらへと視線を戻す。
「負けちゃった」
「ほとんど手札も切ってないのに、よく言うわよ」
こちらは私とアオに関しては大半手札を切り尽くしたというのに、ユウリはあの巨大化現象以外に何一つとして手札を切っていないのだ。
「いやいや、だって次回の大会に向けて調整する前だったからキャップも大分緩んでたのに……え? ホントに倒しちゃったの?」
「は?」
「あ……いや、あの状態のムゲンダイナに痛手負わせたんだよって言えばリーグの人たちも納得させれるかなって思ってたからぶっちゃけ、最初の一手目だけで十分だったし、何だったら二手目でもう完璧だったんだけど」
「は???」
「いやだってまだ本当に調整中でキャップかなり緩んでるからレベル150くらいはあったのに」
「は?????」
当然の話、アオはリーグ挑戦用にキャップをつけているのでレベル120にしてある。
リーグ規定でパーティ全体の保有レベル合計というものがあり、これが700を超えるとレギュレーション違反となる。
大半のポケモンがレベル100で上限に達するため実際にオーバーすることは稀ではあるのだが、一部天性の才覚を持つようなポケモンならば120くらいまで上昇するし、一部の幻とされるようなポケモンたちの場合さらに140~150辺りまでレベルが上がることもある。
因みに超越種……いわゆる伝説のポケモンと呼ばれる存在に関しては生物の枠から完全にはみ出してしまっているので
私が知る中で最もレベルが高いポケモンだと300を超えているが、そんなのが競技に出るとまず勝負にすらならない。
そういうわけでレベルを制限する『レベルリミッター』は競技において必須の装備となっている。
因みに競技に出せるポケモンの上限レベルは120である。
それ以上になるポケモンが珍しくはあるがいないわけじゃないのでちゃんとリーグ規約の中に明記されている。
レベル差30は大きい……非常に大きい。
特にレベルアップごとに上昇幅が大きい超越種は猶更である。
「ご、ごめんね、ソラちゃん……別に勝たないといけないってわけじゃなかったし良いかなって思ったんだけど」
「アンタって……ホントに」
嘆息一つ。
お陰で無駄に手札大量に吐かされてしまった。
まあ、アオに関してはもう一つだけ『奥の手』が無くは無いのだが、さすがにこんなところで出すわけにはいかない手ではある。
とにもかくにもこれでバトルは終了だった。
後のことはガラルリーグのスタッフが片づけておいてくれるらしいので、ユウリと二人バトルコートを出ていく。
「そうだ! お詫びに今度開くチャンピオンカップに招待しちゃうから、ね? ね?」
「チャンピオンカップ?」
「チャンピオン主催のバトルトーナメントだよ! こっちのバトルって結構独特だからソラちゃんも一度見てみたほうが良いと思うんだ」
独特、の意味が良く分からないが、けれどユウリがそう言うならばそれは必要なことなのだろう。
それにトーナメントに参加するのはジムリーダーを含めガラルのトップ層が中心となるらしい。
こちらの地方のプロトレーナーの実力を見るというのも得難い経験になるのは間違いない。
「それっていつ?」
「来週開催予定だよ! それまでは……うーん、うち来る?」
「うーん……そうね、まだきちんとした拠点も決まってないし、お願いしようかしら」
「やった! お母さんも久々にソラちゃんに会えて喜ぶと思うよ! あ、あとこっちで出来た友達も紹介するよ、今は研究職のほうに行っちゃったんだけど、去年の私のライバルだった相手でね!」
「分かった分かった……分かったから少し落ち着きなさい」
やや興奮気味なユウリをなだめながらもう一度、誰も居なくなったバトルコートを見渡す。
入った時も思ったがやたらに広い。一時期ガラルでポケモンの巨大化現象が有名になったことがあったが、先ほどユウリの見せた『アレ』がそうなのだとするならば……。
―――このバトルコートの広さは巨大化したポケモン同士が戦うことが前提の広さ、ということになるのだろうか?
だとするならば、あの巨大化現象はユウリ以外のトレーナーでも当たり前のように使える類のものである、ということになる。
さすがにユウリ一人のためにバトルコートを作り直すようなことはしないだろうから、多分そういうことなのだろう。
あの信じがたいほどのタフネスぶりが単純に超越種ならではの能力でなくあの巨大化現象にも理由があるというのならば。
「思ったより厄介かもしれないわね」
その最悪を想像し、顔をしかめた。
* * *
「調整が難しいんだよね、ムゲンダイナって」
極めて短時間……ほんと三十秒にも満たない間のバトルではあったが、異能を使うと酷く消耗してしまう。というわけでポケモンセンターにアオとムゲンダイナを預けて回復してもらっている間にユウリと二人フードコートへとやって来る。
さすがに先ほど食べたばかりのユウリはドリンクだけだったが、すっかりエネルギーを消耗してしまった私としては何か軽く摘まみたかったのでサンドイッチとドリンクを注文する。
そうして注文の品が届くまでの時間にユウリと二人、先ほどまでのバトルについてあれこれと話しているとふとユウリがそう零した。
「本当はね、最初はもうちょっと攻撃的に育成しようと思ってたんだよね」
先ほどまでのバトルを思い出し、あのタフネスぶりを考えるに今は耐久寄りに育てられていることに納得する。
超越種の才能のリソースのようなものはほとんど底無しに近いが、それでも競技用に制限するならばなんでもかんでも詰め込むことは許されていない。
あのタフネスぶりで火力も異常とか絶対許されないわね、と内心で頷いているとユウリが嘆息する。
「ムゲンダイナの本質的な能力はガラルの大地から吸収、転用できる『無限のエネルギー』だから攻撃に回したらあっという間にレギュレーション違反レベルの火力になっちゃうんだよね……必中の一撃必殺常時振り回してるような火力になっちゃったせいで、四回か五回育成し直した結果が今の耐久に寄せた育成なんだけど、あれもちょっとリーグから色々言われちゃってて……頼りになるから使いたいんだけど、頼りになり過ぎて困っちゃうんだよね」
「超越種なんて普通に競技に持ち込むほうがどうかしてるわよ」
超越種が超越種たる由縁は二つある。
一つは圧倒的なレベル。
既存のポケモンの枠など遥かに超えたダブルスコアほどのレベル差はレベル100のポケモンを無数に集めたところで鎧袖一触に蹴散らさせれるほどのシンプルな能力差を生みだしている。
そしてもう一つが『世界の理を書き換える』ほどの理不尽な特殊能力。
例えば『生命を根絶させるほどの強い日差しで周囲一帯を終わりの大地に変えたり』。
例えば『日差しの一片すら差さぬほどの分厚い雨雲で天を覆い永劫止まず地上を飲みこむ大雨を振らせ続けたり』。
そういう理不尽で抗うことすらできない不条理を突きつけてくるのが伝説のポケモン……超越種たちだ。
確かにキャップを被せることで片手落ちにすることはできる……が、それでもまだ片手は残っているのだ。その残った片手ですら大半のポケモンを押し付け、上に立つことができるのだから理不尽極まりない。
「えーでも他にもザシアンとか王様とかもいるのに」
「……は?」
何気無く呟いたユウリの一言に思考が止まる。
「ん?」
「一応聞いておくけど……それも全部超越種とか言わないわよね」
「そうだよ? ザシアンも王様も、ガラルの伝説のポケモンだよ」
「…………」
「まあでもさすがに三体全部パーティに入れるのはダメってリーグに言われてるんだけどね」
たはは、と苦笑いしながら頬を掻くユウリに、きゅっと唇を一度噛んで。
「当たり前でしょおおおおおおおおおおおおお!!!」
絶叫した私は悪くないはずだった。
* * *
「うちもデルタとか呼んじゃダメかしらね」
「いや、無理でしょ……確かにソラはデルタに可愛がられてるけど、さすがに父さんが許してくれないと思うよ」
回復を終えてすっかり元気になったアオに先ほどまでのユウリとの会話を教えながらそんな提案を呟いてみるがにべもなく否定されてしまう。
がっくり、と肩を落としながらもアオの様子を見るがすっかり元気そうだった。先ほどまでの激戦の疲労や怪我も無さそうだったのでさすがはポケモンの回復能力と言ったところか。
「それでソラちゃん、どうする? もううちに来る?」
「あー、うん。そうね、荷物もあるし……でも本当に良いの? 邪魔じゃない?」
「大丈夫だよ! ソラちゃんとアオ君ならお母さんも私も大歓迎だから!」
「ああ、アオならボールに入れて外に転がしておけばいいわよ」
「ちょ、全然良く無いよ姉ちゃん?!」
「あはは、さすがにそれは可哀そうだからちゃんとアオ君の寝床も作っとくよ」
ポケモンセンターから出る。
それから『そらをとぶ』で移動しよう、とアオに声をかけるとユウリが、あっ、と声をあげる。
「ごめん、ソラちゃん。ガラル地方は『そらをとぶ』禁止なんだよ」
「そうなの? 不便じゃない?」
「だから代わりに『アーマーガアタクシー』ってのがあるんだよ」
正確に言えばガラルの交通網として『アーマーガアタクシー』があるからこそ、航路上の安全確保のため『そらをとぶ』を使用禁止されている、というのが事情らしい。
この『アーマーガアタクシー』はポケモン協会のほうで運営されていて基本的に誰でも安価で乗れる上にどこまで行っても値段は一律なので手軽に乗れるんだとか。
それ以外にも都市部ならば自動車で移動できるし、本来のタクシーも存在する。
都市間道ならばロトム自転車による通行が可能で、これが非常に便利なので旅をする時などはだいたいロトム自転車があれば移動はどうにでもなるらしい。
「えっと……あ、あそこ、ほら、あそこに停まってるのが『アーマーガアタクシー』だよ」
走り出すユウリに手を引かれながら向かう先には全長2mを超える巨大な黒い鳥ポケモンが佇んでいた。
あれが『アーマーガア』というポケモンらしい。
その隣では乗り手らしい男性が座り込むようにして何かしている。
「すみませーん。三人乗れますかー?」
「お、おお……お客さんかい、すまんね、今ちょっと手が離せなくて……すぐに支度するから待ってくれな」
男性に近寄ったユウリが声をかけると、男性が顔を上げる。
困ったような表情の男性がその手に抱えていた物へと視線を向けて。
「タマゴ?」
思わず呟くと、かたり、とタマゴが揺れた。
「おお、移動中に休憩してたら道端で見つけちまってなあ……近くに親の姿もねえし、ほっといたら死んじまいそうだしで連れてきちまったもののどうしたもんかと困ってたんだ」
「それ何のタマゴ?」
「さてなあ? 取り合えず出発の準備するから……すまんが、少し持っててもらえんか?」
「別に良いわよ」
差し出されたタマゴを受け取り、アーマーガアに器用に昇ってその背に鞍を装着していくのを見ながら視線を腕の中へと落とす。
「お前は何のポケモンなのかしらね」
呟き……直後。
ぴきっ
「えっ」
ぴきぴき
「あ、ちょ」
ぴきぴきぴきぴきぴき
「まっ」
「ぴきゅぅぁあ!」
私の腕の中で殻を突き破ってポケモンがその顔を覗かせる。
両の羽は青く、顔の周囲だけは仮面でもつけているかのように黒く染まっている。
腹の部分は黄色く、目だけは赤く、その足とクチバシは灰色だった。
「あ、ココガラだ」
「ぴぎゅあ! きゅぅぅぁ!」
隣でユウリが呟いた声に同意するかのようにココガラが
名前:ソラ
【技能】
『ぼうふうけん』
バトル開始時に味方の場の状態を『おいかぜ』に変更し、天候を『おおあらし』にする。この効果は『エアロック』『デルタストリーム』『はじまりのうみ』『おわりのだいち』以外で変更できず、無効化されない。
┗天候:おおあらし
┗『ひこう』タイプのポケモンの弱点タイプのダメージを半減する。『ひこう』タイプ以外のポケモンのすばやさを半減する。『みず』『ひこう』タイプの技の威力を1.5倍にし、『ほのお』タイプの技を無効化する。全ての『場の状態』の効果を無効化する。天候が『あめ』の時に発動する特性や効果が発動する。
『しんくういき』
発動ターン中、互いの場の『ひこう』タイプを持つポケモンは『ひこう』タイプでなくなる。『ひこう』タイプを持たないポケモンは行動不能になる。この効果が発動した時、天候『おおあらし』を解除し、次に繰り出す『ひこう』タイプの技の威力を3倍にする。
『スピントルネード』
味方のポケモンが繰り出す『ひこう』タイプのわざが相手のタイプや技、道具で半減されず、威力が1.2倍になる。
【名前】アオ
【種族】■■ボーマンダ/擬人種
【レベル】120
【タイプ】ドラゴン/ひこう
【性格】ひかえめ
【特性】コスモスキン(ノーマルタイプの技を繰り出す時、技の威力を1.2倍にし、自分と同じタイプの技として『ほのお』『みず』『でんき』『こおり』『ひこう』『ドラゴン』の中から最もタイプ相性の良いタイプでダメージ計算する。自分の受ける『ほのお』『みず』『でんき』『こおり』『ひこう』『ドラゴン』タイプの技のダメージを半減する)
【持ち物】(今回はなし)
【技】ぼうふう/りゅうせいぐん/ハイドロポンプ/はかいこうせん
【裏特性】『ワイルドハント』
天候が『おおあらし』の時、状態異常を受けず、ダメージを半減する。
天候が『おおあらし』の時、全能力値が上昇する。
天候が『おおあらし』の時、技の反動を受けず、能力値が下がらなくなる。
【技能】『ストームブリンガー』
戦闘中一度だけ、技のタイプ一致補正を2倍に変更し、技のタイプに関係無く『ひこう』タイプの技として扱う。
【技能】に関して作中で説明してなかったけど、簡単に言うなら『技に関する技能』なんだけど、その中でも『トレーナーに指示されて初めて使う』タイプのものが多い。
イメージ的には実機における『ダイマックス』とか『Zわざ』とか『メガシンカ』みたいな技選択の時に一緒に選択する感じのやつ。
というわけでソラちゃんとアオ君データ。
ぶっちゃけソラちゃんのデータマジでこれ全部出しちゃったので、ジムチャレンジ終わるまでになんか新しいの考えとくわ(インフレの始まり
アオ君に関してはもう一つデータがあるんだけど、それが出るのは多分ファイナルトーナメント以降……というかもうチャンピオン戦くらいしかないかも。
ソラちゃんチートでは?
という意見があるかもしれないが、よく考えてくれ。
ユウリちゃんパーティ当初の予定では『ムゲンダイナ』『ザシアン』『ザマゼンタ』『バドレックス』の伝説4体の予定だった。けどさすがにやばすぎだろこれってことで『ムゲンダイナ』『ザシアン』『バドレックス』の3体に制限した上で実際に選出できるのは2体までってことにした。
それでも2体出せるんだよ。
ソラちゃんパーティのデータは『ユウリちゃんパーティを基準』にして作ってあります。
つまりソラちゃんがチートということは……?
全くもってどうでも良いけど今回使ったソラ君の最大火力。
威力150×1.2倍(スキン補正)×2倍(タイプ一致)×1.2倍(トルネード補正)×3倍(しんくういき補正)=1296でアバウト威力1300とかいう糞火力が発覚したけど、ドールズ時代に雑計算で威力4000やったことあるので多分セーフ(