「交代!」
「オーくん!」
“どくづき”
交代際を叩くオーくんの一撃に、けれどソラのボールから解き放たれた黒鉄の烏は何てことのない様子で自らの一撃を見舞ったオーくんを見やる。
「アーマーガア……タイプでうけられた」
『どく』タイプの一撃は『はがね』タイプのアーマーガアには通用しない。
そんなのは当たり前のことではあるが、こうもあっさりと決められてしまうと中々困るものがある。
そもそもガラルにおいて、交代を多用するトレーナーというのがほとんどいないのだ。
ガラルにおいてポケモンを交代する場面、というのは例えば強制交代等でダイマックス予定の『エース』が出てきてしまった、だとか、まだ序盤の内に『ムードメーカー』なポケモンが出てしまっただとか、そういう思惑の外で起きた不慮の事故などにしか使われない。
基本的に居座って、能力を上げて後続に繋げる。
それがガラル式のバトルである以上、ガラルのプロトレーナーとしてクコもまた居座りスタイルのトレーナーだ。故に交代を多用するソラのスタイルは非常に慣れない。
先ほどから交代されるたびにアドバンテージを取られている。
「そだてかたが、ちがいすぎる」
ソラの育成方法は最初から『交代』を多用することを前提として、交代の隙を極力小さくしているように見受けられる。
確かにそのやり方ならば交代を多用しても有利に立ち回れるかもしれないが。『交代』にリソースを割り振っている分、居座った時の強さが足りなくなるのは自明の理だ。
「そのためのいのう、か」
この強力過ぎる『嵐』の異能が不足を補って余りある強さをソラのポケモンたちに与えている。
一先ず思考を変える必要があることは分かった。
ガラルのトレーナー相手と同じ要領で相手していては、ひたすらに有利を取られ続ける。
さらに言うならばこちらの『じゅうりょく』を跳ねのけられたのも痛手である。
クコのパーティの根幹は『じゅうりょく』だ。
無ければ何もできなくなる、とは言わないが、基本的にあることを前提に作られたパーティなのだ。
故に『じゅうりょく』が使えないだけで大きなハンデを背負っているに等しく、さらに不慣れなサイクル使いが重なってさらに苦戦している。
たった数手の攻防でこちらが不利なのを悟ることができるのもまたクコの才覚に寄るものではあるが、だからこそ今の状況が苦しい。
「オーくん!」
「ガーくん!」
互いの指示がほぼ同時に飛んで、風に押されてアーマーガアが先に動く。
“カラスのわるぢえ”*1
“クロガネのつばさ”*2
振り抜かれるようにしてオーくんを打ち付けた黒鉄の翼に、オーくんが大きなダメージを受け悲鳴を上げる。
タフに育てたつもりではあるが、あの通常のアーマーガアと比べても一回りも二回りも大きな巨体とその巨体に見合う大きな翼で打ち付けられたのだ、ダメージは相当なものだろうと予想できる。
“いわなだれ”
反撃とばかりに放たれた岩石は、けれどその硬い鎧に阻まれてさしたる痛打も無いように見えた。
オーくんが使える技の中で、あのアーマーガアに一番有効な技が『いわなだれ』である以上、オーくんにあのアーマーガアの突破は不可能と言える。
本来ならば攻撃を受けた際に『どく』をまき散らして、相手を『どく』状態にしてしまうように仕込んでいたのだが、『はがね』タイプのアーマーガアにはそれも通じない。
勝てない以上、後続に繋ぐの正しい判断なのだろうが、迂闊に交代すればそれはそれで隙を晒してしまうことになる。
だが問題はアーマーガアの今の一撃、攻撃と同時に自身を強化していたのが見て取れた。
黒光りする羽の輝きが増したので恐らく上昇したのは『
あの硬さは翼で撃たれた時にそのまま威力となってしまう以上、ただ積まれるのも厄介な話。
だがここまで詰まされると思っていなかったので、クコには対策が無かった。
「けいけん、か」
クコはまともにトレーナーを始めてから日が浅い。
今ジムリーダーの地位にあるのは、才能と将来性を買われた部分が大きく、つまるところ絶対的に経験が足りていない。
育成の幅とは即ち才能と環境、そして何よりも経験であり、実際にバトルした回数が少ないクコはその幅が絶対的に狭かった。
「たりないからこそ……やってる」
歯がみする思いではある、だがそもそも対等にやり合えるならばこんなバトル始めていない。
あの日、ソラと共にあのエアームドと戦ってソラにあって自分に足りないものがある、それに気づいたからこそ、それを確かめるためにこうして戦っているのだ。
勝てないかもしれない。そんな思いは一先ず捨てよう。
後のことなんて考えず、全力でバトルする。
それでこそ、意味があるのだから。
「いく、か」
対面、こちらを見やるソラの姿を見つめ。
―――どうするの? クコ。
僅かに動いた口元、声は聴き取れないがけれど何よりも視線が雄弁に語る。
舐められている、というわけでは無いだろう。その視線に侮りは無い。
だが見られている。さあ、どうする? と伺われている。
対等と見られていない、否、この状況までの無様を見ればそう見られるはずがない。
待たれている、さあどうするんだ、とこのまま終わってしまうのか、と、何より。
このまま終わりじゃ詰まらない、と何よりもその視線は語っている。
きゅ、と唇を噛み締め、その小さな拳を握り。
「つぶれろ、せかい」
振り落とした。
* * *
上手くやった、と内心で喝采していた。
どうもあのニドキングにガーくんに対する有効打は無いらしい。
後一回は『クロガネのつばさ』で積み上げることができる。
そうなればガーくん単体であと5体抜くことも可能になるかもしれない。
やってて思うが、どうもクコは交代という選択肢が無いらしい。
ガラルの主流は居座り型のパーティというのを聞いてはいたが、本当に全く交代する様子が無い相手を見てこちらとしてはやりやすいとしか言いようがない。
相手の異能は封じた、それによって実力の半分も発揮できていない状態でさらに交代を駆使して利も取った。
ここまでかなり一方的な展開であると言える。
例え後半戦でクコにまだ切る札があったとして、序盤でここまで有利を積み上げればそれを覆すのは並大抵のことではない。
「可能なら、使ってみたかったけど……」
右腕に巻いた親友から受け取ったソレを見やりながら、けれどこれが使える場所というのは限られているため今回は使用できないと嘆息する。
いきなり本番で、というのは少々困るので時間を取って試す必要はある。それも可能ならばトレーナー戦での使い勝手を見たかった。
―――今回のように有利な状況で試運転できれば上々だったのだが、そう上手くはいかないか。
「まあ良いわ。機会はどこかで作れば良い」
今はただ目の前のバトルに全力を尽くせば良い。
幸いにしてリシウムに『ひこう』ジムのバトルコートを借りているのでここでのバトルに寄る情報の露出は余り考えなくても良い。
クコもリシウムも今はマイナーリーグの所属故に少なくとも今年のジムチャレンジで戦う可能性も皆無だ。
つまりこのバトル中において情報の面でのデメリットをほぼ考える必要が無い。普段使えない手まで全て試すくらいの気持ちで、その上で
とは言えこのままならば一方的が過ぎるのも事実だ。
だからと言って手を抜くのもまた違う。
「どうするの? クコ」
問うように呟いた言葉はけれど相手に届くはずもなく。
けれどその言葉に反応するかのように、クコの纏う雰囲気が明確に変わる。
その小さな拳を握り。
振り上げて。
―――つぶれろ、せかい。
聞こえるはずの無い言葉が響いた。
“グラビティチェンバー”*3
全てを吹き飛ばす嵐の中、形の無い重みが降り注ぐ。
「なっ?!」
一度吹き飛ばしたはずの『じゅうりょく』が場を満たしたのを見て驚愕に目を見開く。
あり得るはずの無い思考の隙間に、けれど相手はそれを待ってはくれない。
「ぶ ち か ま せ」
いつも気だるげな表情から一変し、目を見開いて歯を軋ませるように激情を露わにしたクコが叫び、それに応えるようにニドキングがその両腕を振り上げて。
“じゅうりょくかたのだいげきしん”*4
“だいげきしん”*5
両腕が叩きつけられた大地が鼓動するかのように大きく揺れ動き、『じゅうりょく』によって大地へと縫い留められたガーくんを吹き飛ばす。
「ガーくん!」
不味い。
『おおあらし』は『ひこう』タイプの弱点はフォローできても、それ以外には対応していない。
つまりあの『じしん』よりも強烈な威力の技が倍のダメージで直撃している。
「戻って!」
咄嗟の指示にガーくんが吹き飛ばされながらも羽ばたきながら態勢を立て直し。
“とんぼがえり”
大技を放ったニドキングの隙をついて一当てしながらボールの中へと戻っていく。
だがその散々ダメージを積み重ね続けていたニドキングもその一撃がトドメとなって『ひんし』となる。
同時に再び嵐が場の『じゅうりょく』を吹き飛ばし、元のフィールドが戻って来る。
「そういうこと、ね」
私の『おおあらし』もクコの『じゅうりょく』も基本的に互いに使おうと思えばバトル終了時までは継続することができる。
だがクコはそれをあえて1手動く間、ほんの10秒にも満たない時間に絞って使うことで異能の密度とでも呼ぶべきそれを上げてきたのだ。
故にたった1手のみとは言え、こちらの嵐と拮抗して『じゅうりょく』が発動した。
「随分手間のかかる使い方したわね」
「けど、やらないと、まける」
こちらの視線に負けじと見つめ返してくるクコに口元が弧を描く。
私の『おおあらし』を例に見ても、基本的にこの手の能力は維持するのが容易いが発動する際に大きく消耗する。
だから私の『おおあらし』は一度途切れてしまうと再度展開するのに時間がかかるのだ。
クコとて例外ではないはずだ。
最初から維持の手間を放棄しているが故に、普通に発動するよりは多少楽になっているかもしれないがそれでも普通に発動してバトル中維持するよりずっと消耗するのは間違いない。
それでもまだ使い続けるのだろう。
何せこちらが対抗しようと思えば同じように能力を単発型に切り替えて出力で上回るしかないのだ。
だがそれをすればメリットよりデメリットのほうが圧倒的に多くなる。
故にそれを封じる手は私には無い。
だが後何度使えるということも無いだろう。
先も言ったが単発とは言えその消耗は半端なものではない。
現に今一度の発動で、クコの表情は歪んでいる。それだけ消耗したのだ。
連続で使って来ることはないだろうし、一体のポケモンに2度も3度も使えるほどのリソースも無いだろう。
となれば、後は最多でも五回。
それが限界と見た。
となれば後は読み合いだ。
この状況において『じゅうりょく』の最大の強みはクコのポケモンたちの技術を引き出すことでも、全体を重くして互いの動きをスロウにしてしまうことでも無い。
『じゅうりょく』状態においてクコの最大威力の『じめん』技が私の『ひこう』ポケモンたちに当たってしまうということだ。
恐らくクコの基本戦術は相手を『じゅうりょく』状態にして強力な『じめん』技で上から叩くことだろう。
そう考えれば『じめん』技が当たらないというタイプ相性こそがクコにとって問題点だろう。
つまりクコが『じゅうりょく』を再度展開してくるのは強力な一撃を叩き込んでくる瞬間。
すでに一度使ってしまった以上、最大であと5回でこちらの有利を覆し、勝利を決定づける必要がある。
だが先の一撃を見るに、『ぼうぎょ』を積み上げたガーくんだったからこそ耐えられたが、今回のバトルに連れてきた他のポケモンたちでは耐えれるかどうかは微妙なところだ。
こちらからしてもあの一撃を食らわないように立ち回る必要がある。
つまり。
「私とクコの読み合い、ね」
読み勝てば一気に勝利を呼び寄せるだろう。
だが読み負ければ一転、窮地を招くことにもなりかねない。
「良いじゃない、それでこそよ」
次に出すポケモンのボールを握りしめ、笑みを浮かべる。
胸の奥が熱くなってくる。
このギリギリの攻防こそがポケモンバトルであり、一瞬の読み合いこそがトレーナーの醍醐味とも言える。
「楽しくなってきたわね、クコ」
告げながらボールを投げるその視線の先。
同じようにボールを振りかぶりながら、クコもまた笑みを浮かべていた。
1万字かけてまだ一体目とかマ???
あと5体はいるんだけど???
『グラビティチェンバー』
―――“ちょうじゅうりょくのおり”に ばの すべてのポケモンが とらわれる
全体の場の状態を『じゅうりょく』にする。場にいるポケモン全ての『おもさ』を2倍にし、技の優先度を-1する。(本来はバトル中永続だが今回に限り1ターンのみ)
『はんじゅうりょくのつばさ』
全体の場の状態が『じゅうりょく』の時、相手のポケモンの『おもさ』を1/4にし、相手の技の優先度を-1する。(任意発動)
『じゅうりょくかたのだいげきしん』
味方のポケモンが『じめん』タイプの攻撃技を出す時、技を『だいげきしん』に変更できる。(任意発動)
だいげきしん 『じめん』『非接触全体技』
効果:威力150 命中60 場の状態が『じゅうりょく』でない時、この技は失敗する。急所に当たりやすい(C+1)。
┗物理攻撃技から変更した時は物理攻撃技となり『こうげき』で、特殊攻撃技から変更した時は特殊攻撃技となり『とくこう』でダメージ計算する。
上から重力で圧し潰す、下から振動でカチあげる。この二重の圧で威力を漏らさず相手に伝えるのが『だいげきしん』。だから重力無いと普通に失敗する。