「あれ、は……」
ホウエンでは見覚えの無いそのポケモンに、思わず図鑑をかざす。
そこに書かれた情報を鵜呑みにするならば、あれはサダイジャという名前のポケモンであり、タイプ的には『じめん』タイプのみ。
「いや、無いわよ」
だって浮いているし。
ふわふわとまるで宙を泳ぐように、舞うように浮き上がりこちらを睥睨するサダイジャ。
基本的に羽を持たないポケモンが浮かぶには相応の原理がある。
例えば特性『ふゆう』と一言にいったって、どうやって『ふゆう』しているか、その原理はポケモンごとに結構違う。
例えばマタドガスならば常に体内のガスを噴射することで浮力を保っているし、シビルドンやロトムなど『でんき』タイプならば全身から発せられる電気を利用して電磁浮遊している。
ネンドールなど『エスパー』タイプは自らの体を念力によって浮かび上がらせ移動することも可能にしている。後は『ゴースト』タイプならばそもそもその姿を消して物理的な干渉を一時的に受け付けなくなることで浮かびあがったりもする。
他にも単純に羽はあっても『ひこう』タイプではないフライゴンやサザンドラなどもいるが……。
「どう見ても羽は無い、わよね?」
ついでに言えばこの『おおあらし』に適応している様子も無いので『ひこう』タイプでも無い。
ならば『でんき』タイプか『エスパー』タイプ、どちらかのタイプを複合している『特異個体』という可能性が高いと見た。
「それに何より」
クコの表情とその目の前に立ちはだかるポケモンからひしひしと感じる強さの片鱗。
「多分あれがクコの切り札、かしら」
残りの手持ちは以前見たあのバンバドロも入っていると思われる。
あれも相当に育成された個体だったが、どうやらエースポケモンでは無かったらしい。
それからクコに渡したギャラドスも可能性としてはあり得る。
この短期間でどれだけの育成を施せたかは知らないが、ポテンシャルは相当に高かったしクコも気に入った様子だったので入っている可能性は十分ある。
それから残りの一体は分からないが、恐らく重量があって大型のタフなポケモンだろうと予測できる。
ニドキングにニドクインにサダイジャ、それに先ほど予想した残りのポケモンたちから察するに、どうもクコは見た目に反してそういうゴツイ系のポケモンが好きらしい。
『かいじゅうマニア』を自称するトレーナーも偶にいるし、まあ珍しいわけでは無いが。
そこまでは行かなくても、例えば『ガラガラ』などの小さなポケモンは入っていない気がする。
実際あのサダイジャだって5mか6mはありそうな巨体だ。
図鑑説明に寄れば通常サイズのサダイジャが3.8mということを考えるとサイズ的な特異個体と言う程ではないにしても相当に大きい個体なのは間違いない。
だがそんな巨体にも関わらずふわふわと重量なんて感じさせないような動きで宙を舞うその姿はまるでパンパンに空気が入って膨らんだ風船か何かのようにも見える。
思考を纏める。
次の一手を考える。
「ま、一つしかないわよね」
前にも言ったが、私の交代戦術としての強度は父さんには及ばない。
あくまで『キューちゃん』を経由しなければ引き継げない、強制交代等に対応していない、『ひんし』になったら積み上げたものが消える等、対処法がいくらでもあるから。
特に厄介なのが『ひんし』だ。
当然ながら一体も倒されずに勝つなんて相当な実力差が無ければできないことだし、たった一体倒されただけで積み上げたものが全て崩れるのでは交代先の選択肢が大きく狭まってしまう。
交代にリソースを割いている分、場で対面して殴り合えば不利になるのは分かっているのだ、なのに交代先の選択肢が狭まっては交代戦術の意義が半減する。
故にそれに対策を打つ必要があるのは当然のことで。
「さあ、初陣よ……リーちゃん!」
「―――フォォォォォェェ!」
羽ばたくことも無く、両の翼を広げたまま場に舞い降りたのはフリーザー。
対するサダイジャを見下ろし、威嚇するかのように、挑発するかのように、鳴き声をあげると同時にその目が怪しく光る。
“シックスセンス”*1
“フェイクアバター”*2
ぼん、と煙を吹かせながら二つ、三つとフリーザーの姿が分裂する、直後グルグルと高速で回転してその位置をシャッフルする。
そんな私たちの姿を見やり、クコが一瞬目を細めて。
それより早く、リーちゃんが大きく開いた羽を光らせる。
“さいこうちく”*3
リーちゃんの羽が光ると同時に、場に残っていた『ガーくん』が積み上げた力が残滓となってリーちゃんへと引き継がれていく。
キューちゃんがこのパーティを回すためのキーならば、リーちゃんは文字通りいざという時に状況を再構築するための命綱と言って良い。
エスパータイプとしても相当に特異な発展を遂げたガラルフリーザーであるリーちゃんだからこそ可能な所業であり、もし同じような技能を仕込もうとするならば『ゴースト』タイプあたりを上手く育てる必要があるだろう。
故にリーちゃんに最も必要となるのは『生存能力』だ。
構築時点での予想ではあるが、恐らく私のパーティの最後の一体だ。
前半で積み上げ、積み上げたものをキューちゃんで中継し、アタッカーたちが倒れたらリーちゃんが引継ぎ、再びキューちゃんに回す。
故に最初に倒れるのはアタッカーの4体。
そしてキューちゃん、最後にリーちゃんとなるだろう。
そこまでリーちゃんは生き残らなければならない。
都合四度、アタッカーが倒れる度に登場しては生きてキューちゃんに繋げるためにはリーちゃんはその過程で倒れてはならない。
故に。
「リーちゃん」
「ダイちゃん」
“じこさいせい”
体内の自然回復能力を急速に活性化させ、減ったHPを回復する。
直後にクコの指示が飛び―――。
“てんぴん”*4
“ロックブラスト”
生成される石の弾丸がリーちゃんを貫く。
分身を含め三体に分かたれてはいるが、内一体は本体、一体は『みがわり』であり、残り一体は影分身、つまり実態が無い。
多少の『回避』効果は期待できるものの、目の前で分裂しているのだから惑わされずに本体だけ一直線に見ていれば見分けることは不可能ではない。
まあ目の前であれだけ高速でシャッフルしているのにしっかり見えているのも大概だとは思うが。
だがクコとサダイジャは狙いすましたかのように的確にリーちゃんの本体へ向けて技を放つ。
本体に向けて一直線に飛んでくる石の弾丸に、咄嗟に『みがわり』が庇って受け止める。
一発、二発と弾丸を受け止めるが、けれど二発目を受け止めると同時に『みがわり』が限界を迎える。
そして三発目、四発目、五発目の弾丸がリーちゃんへと迫り―――。
すう、と羽ばたくことも無くリーちゃんが空中を移動し二発躱すが、一発がその体にぶつかる。
「――ォォ!」
痛みに僅かに表情を歪めたリーちゃんだが、さすがにその程度で倒れるような軟な体ではない。
そして。
“フェイクアバター”*5
限界を迎えた『みがわり』が直後に小さく爆発し、一瞬煙で視界が遮られた瞬間にはリーちゃんがボールの中へと戻ってくる。
「よし、一発貰ったけどほぼ完璧よ、リーちゃん! 後は繋いでちょうだい、キューちゃん!」
入れ替わるようにしてボールを投げる。
「はーい! お任せですよー!」
まだまだ元気一杯と言わんばかりの掛け声と共に、キューちゃんがフィールドに出てくる。
リーちゃんが上げた能力も引き継いでいるので、これで積みはさらに増えたと言って良い。
それから次の一手を考え、指示しようとして―――。
「なるほど」
ぽつり、とクコが呟いた。
「おまえが、かぎか」
呟きながら拳を握りしめて。
「戻れ! キューちゃん!」
「ふみつぶせ! ダイちゃん!」
咄嗟にボールに戻したキューちゃんと入れ替わりに一つのボールを投げた。
―――直後、フィールド中に鳴り響くような地響きが起こった。
* * *
“グラビティチェンバー”
解き放たれた超重力が僅かの時間だけフィールドを支配する。
それは相手のポケモンも……同時にクコのポケモンもまた大地へと貼り付けんとする降り注ぐ重石。
そんな時にこそ、蛇はその全力を発揮する。
サダイジャという種の中にあって最高位の才、天稟に恵まれたその蛇は自らのトレーナーの育成によって自らのトレーナーの『異能』に適応してその姿を変えた。
“うきあがるすなつぶ”*6
それが『エスパー』タイプの獲得。
それがクコが己のエースに見出した才能であり、故にその蛇は優雅に宙を舞い泳ぐ。
“砂塵に舞う”サダイジャ、それがクコが頼りにする絶対のエースだった。
―――“むじゅうりょくのせかいに ばのすべてのポケモンがうかびあがる”*7
『むじゅうりょく』状態の中で全てのポケモンは重さを失くし、宙に浮きあがる。
地に足を付けない『ひこう』タイプすら例外なく上も下も無い、安定の欠如した状況に本来のような狙い澄ました動きは発揮されなくなる。
そのために訓練したポケモンを除けば。
“むじゅうりょくのおり”*8
“じしん”
放たれた衝撃が
この無重力状態において、放たれる『振動』は全て空間を伝わって相手へと届く。
大地を伝うことなく直接放たれる激震は本来の大地を伝うことで起こる減衰も無いが故に、本来よりも威力を増して放たれる。
“小さな大激震”
ガラルのファンの間で昨年鮮烈なデビューを飾ったクコはそんなキャッチコピーで呼ばれているが、大激震とはつまりサダイジャ以外が放つ『じゅうりょくかたのだいげきしん』のことであり、同時にサダイジャだけが放つことのできるこの『大激震』のことでもあるのだ。
この『むじゅうりょく』という限定的な状況においてのみ『だいげきしん』をも超える威力の『じしん』は放たれる。
だがそれを放てるのは―――空間を対象として『じしん』を放つなどという器用な真似ができるのは『じめん』タイプと『エスパー』タイプの両方を持ったクコのサダイジャだけだ。
その圧倒的な破壊力は下手をすればダイマックスしたエースですら一撃で倒れかねないほどのものであり、ダイマックスすらしていないポケモンが耐えられずはずが無い。
「これで、ふたつ」
―――とった。
そんな手応えすら感じていたはずの一撃はけれど。
「―――ゥ?」
大激震によって巻き起こった土煙がけれど『おおあらし』によってかき消されていく。
その向こう側に見えてきたその姿は青かった。
全体的に青みがかった羽、丸い緑色の目、そして黄色のクチバシ。
一瞬目が閉じられていたが、直後にはまるで自分が受けたはずのダメージを忘れたかのようにとぼけた表情をしたウッウがそこにいて、何事も無かったかのように動き出して……よろめく。
「なっ……」
何で耐えられる?
いや、正確には耐えてはいない。自分が受けたダメージすら忘れた様子ではあるが、けれど体が追いついていない、ほとんど『ひんし』状態なのは間違いないが、それでも『ひんし』にはなっていない。
何故、という台詞がけれどその口から出ることは無く、ただ絶句するクコの視線の先で、はらり、とウッウの元から布切れが一つ零れ落ちた。
“きあいのタスキ”
「危ない危ない……おっかない隠し玉だわ」
やられた、そんなクコの苦々しい内心を読み取ったかのように、ソラが大きく息を吐きながら、ボールを片手に持ち。
「で、残りは何回かしら?」
不敵に笑みを浮かべた。
【名前】ダイちゃん
【種族】“さじんにまう”サダイジャ/変異種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】じめん/エスパー
【特性】てんぴん(場に出た時、『こうげき』『ぼうぎょ』『とくこう』『とくぼう』『すばやさ』を1.1倍にする。相手の技の命中率を0,9倍し、自分の技の命中率を1.2倍にする。)
【持ち物】たべのこし
【技】じしん/スケイルショット/ロックブラスト/すなあつめ
【裏特性】『むじゅうりょくのおり』
場の状態が『むじゅうりょく』の時、直接攻撃でない攻撃技の威力1.2倍にし、『エスパー』タイプを追加し相性の良いほうでダメージ計算する。
場の状態が『むじゅうりょく』の時、相手を倒したならもう一度行動できる。
場の状態が『むじゅうりょく』の時、『おもさ』が0の相手に『じしん』がタイプ相性で半減、無効にされず、必中する。
【技能】『キョダイサイクロン』←(『おおあらし』によって天候書き換え不可により不発)
天候が『すなあらし』の時、自分の技に『ひこう』タイプを追加し相性の良いほうでダメージ計算する。1ターンに複数回連続で攻撃する技が命中した時、必ず最大回数当たる。
【能力】『うきあがるすなつぶ』
場の状態が『じゅうりょく』の時、場の状態を『むじゅうりょく』に変更し、天候を『すなあらし』にする。
場の状態が『むじゅうりょく』の時、自分の技の優先度を+2する。
『エースポケモン』
相手のポケモンを倒した時、エキサイトグラフを+1(個別)する。
相手の『エースポケモン』が場に出てきた時、テンション値を最大まで上昇させ、エキサイトグラフを+2(個別、全体)する。』
『キョダイマックス』
3ターンの間、『キョダイマックス』状態になる。
『キョダイマックス』状態の時、自分のHPを2倍にする。
『キョダイマックス』状態の時、『じめん』タイプの技が全て『キョダイサジン』になる。
全体の場の状態:むじゅうりょく
場にいるポケモンが宙に浮き上がり、『おもさ』が0になる。技の命中が半分になる。
【名前】リーちゃん
【種族】フリーザー(ガラルのすがた)/原種
【レベル】120
【タイプ】エスパー/ひこう
【性格】ずぶとい
【特性】シックスセンス(場に出た時、命中と回避ランクを上げる。優先度0の『エスパー』技の優先度を+1する。)
【持ち物】たべのこし
【技】いてつくしせん/ぼうふう/こらえる/じこさいせい
【裏特性】『さいこうちく』
前のターンに味方が『ひんし』になっていた時、『ひんし』の味方の能力ランクを引き継いで場に出る。
????
????
【技能】『????』
HPが減少した時にだけ発動できる『必殺技』。
【能力】『フェイクアバター』
場に出た時、自分のHPを最大HPの1/4だけ減らして『みがわり』状態になる。最大HPが1/4未満の時この効果は発動しない。
相手の攻撃を『回避』するか『みがわり』状態が解除された時、味方と交代できる。