「というわけで反省会するわよ」
「おー」
バトルを終え手持ちのポケモンたちをジムに備え付けの回復装置に預けると、シャワーを借りて汗を流す。
6対6のフルバトルというのは非常に神経をすり減らし、トレーナーの体力を消耗する。他のスポーツと違ってトレーナー自身が余り動き回ったりするようなものではないが、けれど一度のフルバトルをこなすだけでトレーナーが消費するエネルギーは何十キロものマラソンを走ったのと同等であるというデータがあるだとか昔聞いたことがある、そのくらいポケモンバトルというのは激しい競技だ。
そのため現代ではバトル施設にはだいたいこうして更衣室などが備え付けられているのだが、さすがガラルのジムというべきかシャワー室にランドリールームまで併設されている。
これがメジャージムまで行くと、ジムトレーナー用の寮や食堂まであるというのだから、このガラルにおけるメジャージムというものの優遇ぶりが分かる。
バトル自体30分にも満たない短い間のものではあったが、結果はともあれ、自らの育成の結果のぶつけあったのだ。当然ながらそこには得るべきものが多くあった。
そこで得たものを経験値へと還元するのが育成というものだ。
トライ&エラー。
育成の基本はこれに尽きる。
どれだけ考え抜かれた育成内容だろうと、実際にバトルしてみれば何がしか予想との差異は生まれる。
訓練は訓練、実戦は実戦。それはどれだけ育成手腕を高めようと突きつけられるトレーナーの命題である。
すでにポケモンバトルという『競技』は才能だけで勝てる領域には存在しないのだ。
積み重ねた練習と、集めた情報、そしてそれを発揮するために磨き上げた戦術と、あとは一握りの運。
それが現代のポケモンバトルにおいて、トレーナーの勝敗を分かつ要因である。
* * *
「ぶっちゃけるが」
相変わらず眠たげな、半分閉じたような目をしながらクコが指を唇に当てながら、言葉を選ぶように少し溜めて。
「ソラのパーティ、サイクルせんにあってないきがする」
一言目から人のパーティの根本的な戦術を全否定した。
これが見知らぬ相手からの台詞ならば喧嘩売っているのか、と言いたくなること請け合いだろう。
「ガラルだとあまりみないせんじゅつだから、しらないだけかもしれないけど」
断言した、というよりはバトルをしていて肌でそう感じた、と言ったところだろうか。
何となく気まずそうな、クコにしては控えめな表現だった。
「うーん。と言っても居座りできるほどの強みがあるか、と言われると」
私の『おおあらし』は確かに強力ではあるが、基本的に速攻タイプのアタッカーの多い私のパーティにおいて交代を駆使しない居座りスタイルというのが果たして今より良いかと言われると、それはそれでまた首を傾げざるを得ない。
「とは言えやりづらさを感じたのも事実なのよね」
フルバトルでサイクルスタイルなのに一度も出番の無かったポケモンがいる、という時点で試合回し自体が上手くいっていないのも事実だ。
基本的に私のやり方は全体を回しながら能力を積み重ねていくこと。
そのためにどうしても中継役であるキューちゃんに負担がかかってしまうのが難題である。
とは言え今回バトルしてみて気づいたのは『おおあらし』があれば居座って単独で殴り合っても十分に通用する、ということ。
ダーくんを見れば分かる通り、無理に交代を絡めようとするより一直線に突っ込んでいったほうが余程強いのではないか、と思ってしまう。
「あーしが思うに、ソラのパーティってサイクルするのに必要なもんが足りてないんじゃね?」
今回のバトルの審判役をしていたリシウムが腕を組みながら呟く。
当然ながら今回のバトルは『ひこう』ジムで行われたことなので、彼女もいる。
私やクコとは違ったトレーナーの意見も聞きたいとクコの了承を得て呼んでいたのだ。
「サイクルするのに必要なもの?」
「ガラルだと珍しいスタイルだからまああーしもそこまで詳しいわけじゃないけど、それでもマイナーとは言えジムリーダーだし、別の地方のトレーナーと戦うこともあるから感覚的な話になるけど」
思考を纏めるようにリシウムが一旦間を置く。
クコはジムリーダー就任は今年の頭から、私はプロになったのが去年から、とこの中で一番プロトレーナーとして活躍の時期が長いのはリシウムである。当然ながらプロ同士のバトルの経験というのはリシウムが一番多い。そんなリシウムだからこそ分かることもあるということだろうか。
「パーティにおける役割? ってあるじゃん、サイクル戦術って」
「あるわね、
「そうそう、で、サイクルしてる相手を見てる限りだと、まあ役割ごとにおけるポケモンの価値? 順位? みたいなのって基本的に並列だと思うんよ。得意とする相手の違いはあっても」
確かにサイクル戦というのはそういう部分があると頷く。
「でもそれって互いにポケモンを交換するからこそ成立することだと思うわけ」
「……あ、そういうこと」
そこまで言われてリシウムの言いたいことに理解が及ぶ。
同時にクコとやり合っていた時に感じていたやりにくさのようなものの正体も。
例えば育成において100のリソースがあったとして、通常のサイクル戦術用の育成では3割ほどを交代のために割く。
サイクル戦というのはつまりお互いに70%の力をぶつけ合いながら読みとメタで徐々にリードを奪っていくようなやり方だ。
その試合展開はハイスピードかつテクニカルながらちまちまと『いまひとつ』なダメージを重ね続け、目に見えて優劣が付くまでは時間がかかる。
だがガラルの主流の居座り型育成では100全てを居座って戦うためだけに割く。
相性の不利などパワーで押し潰せと言わんばかりに真正面から100%の力で殴り合うようなその試合展開はスロースピードながらもパワフルであり、たった一発の命中の有無が試合を大きく動かすことすらある。
どちらが良い悪いの問題ではない。
一般的に居座り型とサイクル型ではサイクルのほうが強いと言われるが、けれどガラルのプロトレーナーたちは居座ることをスタイルとしながらも立派に世界に結果を出している。
この場合問題なのは、私の元居たホウエン地方はサイクル戦術が主体であり、居座り型というのは非常に少なかったということだ。
環境というものがある。
プロトレーナーの間で通じる用語で言えば『トッププロたちが良く使っているポケモン、戦術』などだろうか?
例えばあるプロトレーナーが使用するとても強力なポケモンと戦術があったとして。
それを使えばより強くなれる、と思うのならば周りもまた似たようなポケモンと戦術、或いは全く同じものを用意しようとする。
育成の基本は模倣だ。他人の育成を見て、その技術が自分のパーティを強くしてくれる、と思えばすぐにそれを真似し、真似されるのがプロトレーナーの当たり前で。
強い戦術があるのならばその強さを求めるのがプロとして当然のこと。
とは言えプロトレーナーならばパーティの芯とでもいうべき、中心となるポケモン、或いは戦術があるため、模倣する全てをあっさりと受け入れるなんてことはできないが、それでも取り入れることのできるものは取り入れようとする。
するとどうなるか?
プロトレーナーたちの手持ちや戦術に類似点が増えてくる。
つまりこれが『環境』である。
そして新しい環境が生まれればその対策……つまりメタもまたプロとして当然の思考、技能であり同じような戦術を使うトレーナーが多いならばそれだけその戦術に対するメタは多くのトレーナーに刺さるということであり、そうするとまたそのメタが多くのトレーナーの間で流行る。
メタ戦術が増えれば増えるほど『環境』において主流を振るったポケモン、戦術は封殺されることになりその使用率は下がっていく。そして使用率が下がって行けばそのメタもまた利用率は下がり、そうなれば次の『環境』が台頭することになり、またその『環境』に対するメタがのさばることになる。
プロトレーナーの世界とは常にこんなことの繰り返しである。
つまりプロトレーナーというのは周りに合わせてパーティを調整する。
『環境』がサイクル主体だとどうしてもサイクル戦をするパーティを相手にした育成と構築になる。
私……ソラが一年間戦ってきたのはつまりそういう場所であり、その経験は極めてサイクル戦に偏っている。
必然的に私が構築するパーティというのはどうしても互いがサイクル戦をすることが前提になっている部分がある。
つまりそれが今回浮彫となった私のパーティの問題点であり、クコが『居座ったほうが強いのでは?』と思わせた原因なのだろう。
簡単に言えば、私のパーティはガラルの『環境』に合っていないのだ。
* * *
「クコのパーティは思い切りガラルの主流って感じよね」
「そういうふうにくんだからな」
「つってクーの異能ありきな部分あるっしょ」
「そもそも……わたしよりきょうどのつよいいのうなんてソラがはじめてだ」
「まあそれは分かるわ、ソラの異能やべえし」
基本的に異能者というのは世界的に見ても数が少ない。ただまあ少ないだけでいないわけでも無い。
けれど一口に異能者、と言ってもその内容は様々であり、特に異能の『強度』というものは本当にピンからキリまであり、ポケモンバトルにまで活用できるレベルで高い強度を持つ異能となるとその数は大きく減じることになる。
強度……もしくはレベル、とでも言えば分かりやすいだろうか。
あくまでこれは異能者たちにとって感覚的なものではあるが……異能は異能者たちにとって酷く自然なものであり、走ったり、物を持ったりするくらいの感覚で異能者は自らの異能を振るうことができる。
異能者の異能は様々だが大抵何かに対して『干渉』し、その何かに対して自らの意思で働きかけ理を捻じ曲げ現象を引き起こす。
異能研究の分野ではこの時の干渉能力の大小を『干渉強度』と呼び表しており、特に同じ対象に干渉する異能がぶつかりあった時にその違いは大きく発揮される。
同じ類の異能、或いは同じ対象へ働きかける異能が干渉しあった時、基本的にこの干渉強度が強いほうが優先されることになる。
故に異能者にとって最大の天敵というのは自分と同じ範囲に干渉してくる自分より上位の異能者である、というのは今時新人トレーナーだって知っているような話だ。
今回で言うならば私とクコの異能は同じフィールドに干渉する類の能力ではあったが、私の嵐の能力のほうが強度が高いため、クコの異能を抑えて『おおあらし』が展開していた。
「いのうがつかえなくなる、とかきいてない」
「まあ異能者は基本自分の異能を基準にパーティ構築すっからね。それもクーのレベルで強い異能持ってりゃそうなるわな」
「けどしゅーかくがなかったわけでもないぞ」
「そうなん?」
「ちからのつかいかた、すこしわかった」
「異能はどんどん使って使い勝手を馴染ませていくしかないしね」
「あーしはそんな便利な力持ってないから何とも言えん話だわ」
実際、通常の人間と異能者とでは感性や感覚が異なる、というのは本当の話らしい。
正確には異能者というのは幼少の頃から普通の人間に感じ取れないものが感じ取れるが故に、普通の人間と同じように育てても違う育ち方をする、というべきか。
故に異能者の感覚というのは同じ異能者のほうが良く分かる。
「バトルしてて思ったけど、クコって異能の使い方が大雑把よね。もしかして最近まであんまり使ったこと無かったの?」
「あー、クーはまあ色々あってそもそも最近までトレーナーですら無かったんよ」
クコへの問いに、けれど返したのはリシウム。
まあどうもその辺、家庭の事情とでもいうべきものがあるらしいのは薄々気づいているが、一々他人の家の事情に詮索を入れる趣味も無いので、そう、とだけ答えて流す。
「それに、つかいかた、よくしらないからな」
「ああ……まあそうよね」
異能者の家族だからと言って必ずしも異能者であるわけではない。
リシウムを見れば多分、家族の中でクコだけが異能を持っているのだろう。
そして最近までトレーナーでは無かったという言葉を考えれば、異能の使い方を教えてくれる相手もいなかったのは想像に難くない。
先も言ったが異能者にとって異能は走ったり、物を持ったりするくらい自然に使うことができる。
だが走るにしたって走り方というものがあるように、物を持つにしたって持ち方があるように、異能もまたただ使える、というだけではなく使い込めばより上手く使いこなすことができるようになる。
けれどそのやり方というのがまた独学でやっても中々上手くいかないもので。
例えば私ならば実家にいる自分と極めて似たような力を持った、自分よりも遥かに上位の存在に教えてもらった。
そんな風に、教え導いてくれる存在がいれば習熟度は独学より遥かに高くなる。
「ジムチャレンジの開催まであと一月くらいあるし、こっちの練習に付き合ってくれるなら、こっちも異能の訓練、付き合ってもいいわよ」
「……ほんとうか?」
「ええ、パーティの見直しもしないといけないし、根本的に組み直すならガラルの環境をもっと知っておかないと」
「たすかる」
その言葉を了承として受け取って。
「なら一か月、よろしくね、クコ」
そんな私の言葉に、クコがふっと笑みを浮かべ。
「ああ、よろしく、ソラ」
そう返した。
アルセウスくっそたのしいな!
そして何より。
カイちゃんめっちゃえろかわいいな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!