「何しに来たの?」
「おーえん」
隣に座るクコが手元の雑誌を覗き込んでくるので見せやすいように大きく広げてやる。
「さんきゅー。こんきのさんせんよそうか」
「そ、私はこっち来たばっかりであんまりガラル地方の有力トレーナーとか知らないしね」
「それはじゅうようだな」
言いながらポケットからスティックキャンディーを取り出しながら咥える。
あの姉にしてこの妹ありというか、多分リシウムが持っていたものをもらったんだろうと予想する。
「ソラもくうか?」
「そうね、一つちょうだい」
もらったキャンディーを口に入れれば広がる甘味に脳が活性化していくような気がする。
まあプラシーボ効果だろうが、まだ少し眠気の残っていた脳に活を入れる程度の効果はあるだろう。
「ああ、眠気覚ましならコーヒーでも買って来ればよかったわね」
「ん、ちょっとまってろ」
思わず口をついて出た独り言に反応したクコが立ち上がって歩いていく。
待っていろと言われたので雑誌を眺めながら待っていると数分ほどでクコが戻って来る。
「ばいてんでかってきたぞ」
「買ってきてくれたのね、いくらだった?」
「いい、さしいれだ」
「……そう、まあ、ありがたくもらうわ」
もらった珈琲で眠気覚ましをしているとスタジアムの入口が開いて涼し気な顔の十代半ばほどの青年がやってくる。
そうして遠目に見ているとそのまま受付に向かうので雑誌を開いて確認する。
「えっと、あれは……」
「サガラ……こいつ」
こちらが確認するより早くクコがページの一か所を指さしてくる。
そこに載っている写真の人物と受付をしている人物の顔を一致していることを確認するとそこに書かれた紹介記事を読んでいく。
【注目ジムチャレンジ予想選手! 七番手:サガラ】
≪エスパータイプの使い手のサガラ選手、チャレンジリーグ本選10月大会でもエスパー統一のパーティで見事準優勝を果たした。その最たる特徴と言えばやはり『占い師』と称される理由ともなった『みらいよち』を駆使した戦術だ。相手の未来の行動を予測してしまうなど相手トレーナーからすれば悪夢のような出来事だろう。≫
「相手の次の手を未来予知するとかズルすぎない?」
「ん、ただしさんじゅっぱーだ」
「30%?」
「よちがあたるかくりつ」
的中率30%の未来予知……ああ、だから預言者とかじゃなくて占い師なのか。
当たるも八卦、当たらぬも八卦。
「3割って微妙な数字ね」
「おなじさんわりなら、いちげきひっさつふりまわしたほうがマシっていわれてるぞ」
というか『いちげきひっさつ』技は出し方によっては割と当たるので占いと一緒にされたくないだろう。
「そんなの良く勝てたわね」
「べつのとこがつよい。とくに『あく』と『ゴースト』タイプにしょうりつがたかい」
「弱点タイプじゃない、確かに統一パにとって弱点対策は必須だけど」
「『あく』あいてはエルレイドがたこなぐりにする。『ゴースト』はイエッサンがむるいにつよい」
「しっかり対策はしてるのね」
「でもたいぷめたにとっかしすぎてそれいがいによわい」
「ああ、そういう」
とは言え、特化とは言え弱点タイプにメタを張れるというのはトレーナーの育成能力の高さあってのことだろう。異能……というか超能力の精度に関してはともかくその点には注意が必要かもしれない。
「っと、また来たわね」
視線の先、受付へと彫りの深い顔をした三十代くらいの男がやってくる。
「受付してるけどあれ本当にトレーナー? 格闘家か何かじゃないの?」
腕周りが筋肉ではちきれんばかりに膨れ上がっている。
肩は広く、身長も180を超えて190に届くのではないか、と言わんばかり。
腰のホルスターにモンスターボールが取り付けられているのでトレーナーなのは間違い無いのだろうが、外見だけで『かくとう』タイプが専門です、とでも言いたげな姿をしている。
「あれは、トウセン。こいつ」
クコの指さすページを見やる。
【注目ジムチャレンジ予想選手! 十番手:トウセン】
≪燃え盛る炎がごとき暑き血潮の男トウセン選手。激戦となったチャレンジリーグ本選十二月大会にて並み居る強豪トレーナーたちをなぎ倒し、見事優勝を果たした。彼の最大の特徴と言えばなんといってもその暑い闘志だろう。彼の暑い心に感化されたかのように不屈がごとき闘志で戦う彼のポケモンたちに多くのトレーナーが敗れ去り、相手の全力に正面かたぶつかっていくようなその戦い方は多くのファンの心を掴んだ。≫
「暑苦しそうなやつね、顔だけじゃなく性格まで暑苦しいわ」
「ちなみにげんざいじゅうよんさいでわたしとおなじ」
「嘘でしょ?!」
あの筋肉ダルマとクコが同い年???
あの身長2メートル弱のぴちぴちシャツのゴリマッチョとこの身長140無さそうなエセ幼女が同い年???
いや、だってどう見たってあれは三十半ばの顔だろう。あんな彫の深い十四歳の少年がいるはずがない。
だって髭とか生えてるし、腕とか丸太かと間違えんばかりに太い。
驚愕のあまりクコと男を三度見している内に次が来る。
【注目ジムチャレンジ予想選手! 三番手:ガク】
≪共鳴する狂気の音楽(レゾナンス・クレイジーギタリスト)の二つ名を持つガク選手。チャレンジリーグ本選十二月度にて準優勝という結果を残した。『音』に関する多くの技術を持つ音楽家であり、仲間のポケモンにその技術を伝授する育成家でもある彼とポケモンたちの『レゾナンス』に聞き入ってしまえば最早逃れることは不可能だ。≫
【注目ジムチャレンジ予想選手! 十二番手:レイン】
≪シャイニーレインことレイン選手。名前とは裏腹な見事な『晴れパ』で夏のチャレンジリーグ本選九月大会にて準優勝。惜しくも決勝は逃したレイン選手だがその実力は本物だ。何といってもパーティ最大の特徴は『ほのお』タイプが過半数を占めること。残りの半数も『はれ』を生かすことができるポケモンたち揃っている。じめじめした『あめパ』なんてこの太陽の輝きで蒸発させてやる、と言わんばかりの圧倒的火力で対戦相手を粉砕した。≫
【注目ジムチャレンジ予想選手! 六番手:シラユキ】
≪キルスクタウンの雪女の異名を持つシラユキ選手。寒さ厳しいキルスクタウンで培われた『こおり』ポケモンたちを繰り、見事チャレンジリーグ本選一月大会にて優勝を果たした。その最大の特徴は何といってもバトルの開始と共に『あられ』を巻き起こす強力な異能だろう。『こおり』ポケモンと『あられ』、そして『あられ』を起点とした業の数々。その冷たさに一度触れればれれば凍傷してしまうことは間違いない。≫
「ん?」
脳裏に抱いた違和感にページを止める。
もう一度今読んだばかりの記事を読み直し、さらに確認するように受付でエントリーを済ませる真っ白な髪の少女の後ろ姿を見やる。
「どうした?」
「いや、この記事だとあのシラユキって選手異能者だって書かれてるんだけど」
「ん……ああ、なるほど」
私の言いたいことを察したのかクコが納得したように頷く。
「いのうのけはい、しないな」
「そうなのよね」
だがただの人間が願っただけで『あられ』が巻き起こるのならそもそも異能など存在しなくなってしまう。
どうなっているのかよく分からない、というのはどう対処すれば良いのか分からないということでもある、厄介な話だ。
「取り合えずこいつもチェックね」
さすがにチャレンジリーグというプロの舞台で戦い、勝ち抜いた連中だけあって誰も彼も強そうなトレーナーばかりだ。
「ソラのほう、ちょうしはどうだ?」
「まあまあね。クコのお陰で大分勝手は分かってきたけど」
とは言っても、まだまだ分からないことも多い。
故にこのジムチャレンジ中にその辺を理解できればと思っている。
「そうか……まあがんばれ、おうえんしてる」
「ええ、ありがとう」
相変わらず半分閉じたような眠そうな目でぴくりとも変わらない表情で告げるクコだが、その言葉に偽りはないだろう、ありがたく受け取っておくことにする。
「ん、つぎ、きた」
「そう、次は誰かしら……ってまた派手ね」
入口からやってきたのは白と黒のツートンカラーなボリューミーな長髪の青年だった。
なんというかパンクな恰好をしていて、一際目立っている気がする。
いや、気がするではなく完全に目立っている。
「……ネズ?」
そんな青年を見て、隣でクコが目を丸くした。
ネズ、というのが名前らしいが、はて、この雑誌の中にそんなトレーナーいただろうか?
ぱらぱらとページをめくる私に、クコが困惑したように首を傾げて、やがて何かに気づいたように頷いた。
「ことしのリーグにでてない、はず。だからのってないとおもうぞ」
「引退してるってこと? でも受付してるわよ?」
視線の先、受付でエントリーをしている青年……ネズを見やる。
そんなネズに周囲の人間も大きくざわめいており、ネズがジムチャレンジにエントリーするというのがそれほどまでに衝撃的なことなのだろうと推測できた。
「いんたいまではしてない、リーグにせきはのこしてある」
「そんなに有名なトレーナー?」
「……。せんだいあくタイプジムのジムリーダーだ」
「……は?」
そんなクコの言葉に、私まで目を丸くしてしまうのだった。
* * *
雑誌ではなく、スマホで検索すればその名前はすぐに出てきた。
『哀愁のネズ』
あくタイプジムのジムリーダーであり、ジムリーダーへの就任から引退の昨年までの長期間に渡ってメジャーリーグで活躍したガラルのトップトレーナーの一人。
何より特徴的なのは『ダイマックスを使わない』トレーナーだということ。
自身がダイマックスが嫌いと公言しており、ダイマックスが使えるスタジアムでのバトルだろうと、相手がダイマックスを使用してこようと自分では使わない、そういうポリシーがあるらしい。
何よりこのガラルにおいてダイマックスを使用せずに勝ち続けトップ層に居座っていたという事実がその実力を保証している。
また兼業でシンガーソングライターをやっており、昨年リーグを期にジムリーダーを引退し、最近ではそちらに専念している。
「あ、こっちはなんか覚えあるわね」
二カ月近くガラルに住んでいるので多少ではあるがテレビなどでネズが歌っている姿を見た覚えがあるのを今思い出した。
「そんな凄腕のトレーナーだったのね」
「じっさい、つよい」
去年までホウエンリーグに在籍していた私は知らないが、実際にバトルを見たことがあるらしいクコから見てもそういう感想らしい。
そんな凄腕トレーナーがジムチャレンジに参戦する、という事実に周囲の人間は驚いているようだったし、他のチャレンジャーたちは予想もしない強敵の参戦に苦々しい表情をしていた。
そう、ここまでで終わっていれば予想外の強敵、で終わっていたのだろう。
「おいおい、ネズ、置いて行くなんてひどいじゃないか」
そう、この男さえ来なければ。
スタジアム入口に立つその男にその場にいた全員が視線を向けた。
そんな数多くの視線に刺されながら、男はそれを毛ほども感じさせない足取りでネズの元へと歩いていく。
「キミが勝手にどこかに行ったんでしょう。よく間に合いましたね」
「ハハ、
「良かったじゃねえですか。おれは最悪キミは参戦できねえと思ってましたからね」
「全くだ! 何故かカンムリ雪原にたどり着いた時は首を傾げたけれど、無事たどり着けて何よりだ!」
「どうやったらおれと一緒に出てそんなことになるのか、本当に謎な野郎ですねえ」
「終わりよければ全て良し! 早速受付だ!」
そんな会話をかわしながらずんずんと受付へと進む男の姿に、誰しもが『嘘だろ?』という表情を隠せなかった。
「そ、ら」
「分かってるわよ、さすがに知ってるわ」
そう、知っている、さすがに私だって知っている。
何度もユウリから話を聞いた、テレビでも良く見かけた、雑誌などでも、このガラルでトレーナーというものを調べようとすると何度となく登場する名前と、顔。
ダンデ。
元ガラル地方リーグチャンピオン。
十歳でリーグチャンピオンとなってからは、ユウリに敗北するまでただの一度も負けなかったという、通称無敵のチャンピオン。
チャンピオン失陥からリーグ委員会の委員長へと就任し、リーグに籍を残しながらもトレーナー業からは一線退いたと思われていたトレーナー。
そんな男が、受付の前へと立ち。
「今回のジムチャレンジに、オレもエントリーさせてもらおう!」
威風堂々と、満面の笑みを浮かべてそう告げた。
悲報:先代チャンピオン参戦
今季のジムチャレンジ選手たちは絶望の表情を浮かべた。
報告:以前に募集したトレーナーデータから数人使わせていただきました。取り合えず現在2人ほどはデータ作ってますのでソラちゃんと戦う予定。残りもできれば使いたいとは思うけど、人数多すぎて全員は無理。できてあと二人か三人か……?
あと容姿とかのその他の設定まで作ってくれてた人の分はできるだけ参考にはしてます。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い