ガラル地方においてジムチャレンジとは地方最大の興行イベントといって過言ではない。
ジムチャレンジに合わせるように人も物も大きく動き、そこには大きな経済活動が生まれる。
であればこそ、リーグ委員会としてはその動きを制御しておかねばジムチャレンジャーたちに好き勝手に動かれるとそれを追いきれず、興行としてはいまいちなことになる。
なのでジムチャレンジにおけるチャレンジャーが挑戦するジムの順番というのは固定されている。
エンジンシティで開会式を行いそこからガラルの中央地域をぐるりと一周しエンジンシティへと戻って来るような順番が組まれており、それが俗に前半戦と呼ばれている。
そこからエンジンシティを抜けて北へ向かい、ナックルシティから同じようにガラルの北側地域をぐるりと一周する、そうしてナックルシティへと戻り最後にナックルシティから北へと向かえばガラルの最北にして最大の都市シュートシティへとたどり着く。
ガラルの3分2ほどの広大な地域を巡る大規模なイベントであり、期間も4月の頭から7月末までとおよそ4カ月と長く取られている。
ただ広大な地域と言ってもガラル自体が全国的に見るとそれほど大きな地方ではないため、実際に歩いても二カ月ほどあれば回りきれる程度の距離でしかない。
さらに最新式のロトム自転車などの移動手段があれば一カ月すらかからず回ることができるような距離なので実際に移動に関して問題になることは余り無い。
因みにだがアーマーガアタクシーはこの期間中に限って『制限』がつく。
簡単に言えばまだバッジを取得していない場所には運航してもらうことはできない、ということだ。
まあそれをアリにしてしまうと最長四カ月のイベントが最短三日くらいで終わってしまうのでリーグ委員会だってそれは勘弁してくれ、という話だ。
その代わりと言っては何だが、期間中ジムチャレンジャーは無料でレンタルバイクを借りることができる。
このレンタルバイクはリーグ委員会側で用意されたものであり、ジムチャレンジ中に野生のポケモンなどに襲われるなどで万一破損した場合でも無料で修理してくれる。正確には故意に破壊した場合を除いて新しいものと交換してくれる。
さらにジムチャレンジ初参加……正しくは統一リーグ所属初年度の新人トレーナーに限定して『モンスターボール』や『きずぐすり』などの良く使う道具のセットを配布している。
さらにダイマックスバンドを持っていない新人チャレンジャーにはダイマックスバンドの貸与もあるらしい。さすがにこれはジムチャレンジ終了後返さないといけないらしいが、金銭を払うことで購入もできるらしい……ただしお値段は八桁ほどするので、さすがにスポンサーがつかなければ厳しいにもほどがあるが、ダイマックスバンドの入手機会は他に中々無いので無理してでも購入するトレーナーもそれなりにいるのだとか。
とまあ新人と言えどジムチャレンジに参加している以上、有望なトレーナーであるためか、リーグ委員会の介護が手厚い。他のリーグだとちょっと考えられないような手厚さである。
さてそんなジムチャレンジだが、四カ月の長い旅路をただ無為に過ごすのは余りにも無駄だ。
プロトレーナーとしての意識の有無がこの辺りに大きく関わって来るのだが、多少なりとも育成をかじっているプロトレーナーならば四カ月あればパーティ一つ作ることができる、それくらいの時間が与えられている。
なにせ育成環境の整っていない新人トレーナーのために攻略済みのジムで育成を受ける、或いは手ほどきをしてもらうこともできるらしい。
いくらジムチャレンジの果てのセミファイナルトーナメントにおける勝者がたった1人だとは言え、そこまでたどり着けるトレーナーが2,3人しかいないなどということになると余りにも盛り上がらないトーナメントになりかねない。
何よりセミファイナルまでたどり着ける新人トレーナーが0人とかいうことになると興行としては失敗傾向なんだとかで新人トレーナーはとにかく手厚く助成されている。
と言ってもこのシステムは新人トレーナーが一番恩恵を受けるというだけで、それ以外のチャレンジャーに無意味というわけではない。
ジムの機材や土地を借りることができるだけでも施せる育成もあるし、ジムチャレンジ中にバトルをこなしながら調整するくらいならばそれで十分過ぎる。
故にこの四カ月という時間をどう使うか、それがこのジムチャレンジにおける一つのトレーナーとしての資質を問われる部分である。
* * *
エンジンシティを出て西を目指して進んでいく。
途中に見える『ガラル鉱山』を抜けて直進していくとターフタウンへとたどり着く。
何で道程に鉱山を抜けることが入っているのか、この鉱山って確か『マクロコスモス』系列会社所有の私有地なのではないか、などなど疑問は多いが一応鉱山を迂回して進む道も存在するのだが直線と迂回だとやはり迂回のほうが遠くなるため鉱山内を突っ切っていく人間も多いらしい。
ターフタウンはハロンタウンに似た田舎然とした街並みで、農地や牧場があちこちで見受けられる。
採れたて新鮮な野菜類や絞りたてのミルク、それに羊毛など一次産業品が名物として有名なんだとか。
エンジンシティを出たのが昼過ぎだったためか、到着する頃にはすでに日が暮れかかっており、急いでポケモンセンターに向かい宿を確保する。
ジムチャレンジの最初の町ということもあってか、ポケモンセンターもかなり大きいようで、少なくとも自分の知るホウエンのポケモンセンターと比べると数倍という規模で広い。宿のほうもジムチャレンジャーを想定してか100人規模で宿泊できる程度に部屋があるらしく、特に問題も無くその一室を借り受ける。
それにしても初日なのに、というべきか、初日だから、というべきか。
すでに半数は部屋が埋まっているらしい。
その全員がジムチャレンジャーかどうかは分からないが、まあ時期が時期だけにジムチャレンジャーなのだろう。
「明日受付しようかと思ったけど……」
この様子では明日の朝からチャレンジャーが列を成しているのではないだろうか。
まだ始まったばかりのジムチャレンジ、制限時間はまだまだ多いとは言え、本気で勝ち抜くつもりなら無駄な時間など一秒たりとて無いのが現状。
「すぐに動くべきね」
或いは、チャレンジャーたちが落ち着くまで他のことを優先する、という手もあるが。
「いや、無いわね」
一瞬考えたがけれどすぐに首を振って否定する。
クコとバトルをしてから約一か月。
その間にも開かれる公式試合を見に行ったり、リシウムとクコというガラルのトッププロの両者と間近で特訓していて気づいたが、このガラルにおけるポケモンバトルというのはかなり異質だ。
地方ごとにポケモンバトルというのはある程度の特色がある。
それは地方ごとに育成の手法が違っていたり、生息するポケモンが異なっていたり、それに合わせて環境が違っていたりするからではあるのだが、ガラルのポケモンバトルはその中でも一際と言える。
ダイマックスという他の地方には無い大きな特色。
というよりは鍵となるのは『パワースポット』なのだろう。
ワイルドエリア各地でも見かけた『赤い光』……地脈の奔流が交差し、噴き上げる地点。
ガラルの人たちはその場所に『スタジアム』を建てた。
それこそが今のガラルのポケモンバトルを形作る、原点と言える。
ガラルのプロトレーナーたちは基本的に『スタジアム』で戦うことを前提にした育成を施している。
つまりリシウムやクコと戦った時も『育成が十全には生かされいなかった』ということだ。
大まかな概要に関してはリシウムやクコ、それにユウリにも聞いてはいるが、実際に私はそれを体験したことが無い。
故になるべく早く、一度で良いので『スタジアム』でのバトルを体験しておきたかった。
* * *
「あーうん、やっぱ同じこと考えるわよね、みんな」
宿を取ってすぐにジムのほうへと向かったのだが、そこにはすでに十人近いトレーナーたちがスタジアムの入口に並んでいた。
ジムチャレンジャーたちの中に『推薦枠』と呼ばれる新人トレーナーと、『チャレンジ枠』と呼ばれるベテラントレーナーがいるのはすでに説明された通りだが、基本的に本気でチャンピオンと狙うのは『チャレンジ枠』のほうになる。
何せ『推薦枠』は全員リーグ所属一年目の新人トレーナーだ。
準トレーナー規制令*1の救済措置として現在では公認スクール*2が設立されたとは言え、ノンプロとして過ごした一年とプロとして過ごした一年というのは密度がまるで違う。
才能の多寡というのはどうしても付き纏う問題とは言え、経験というものがもたらす力は決して馬鹿にできないもので、公認スクールの首席卒業者だろうとプロ二年目のトレーナーと戦えばあっさりと負ける、なんてことも良くある。
故に『推薦枠』が一年目でいきなりジムチャレンジを制覇してチャンピオンリーグを勝ち抜き、チャンピオンになる、なんてことあり得ない、のだ……本来なら。
そこに颯爽と現れたのがユウリという例外なのだが、まあそれはさておいて。
つまり『推薦枠』……プロ一年目のトレーナーというのはやや学生気分が残る、というのか。ありていに言えば考え方がまだプロに馴染んでいないのだ。
そんな『推薦枠』のトレーナーと異なりプロで一年以上活動する『チャンレンジ枠』のトレーナーたちはその全員かどうかは知らないがチャンピオンを狙っている。
つまりジムチャレンジ期間4カ月を
『推薦枠』が明日ジムで受付を済ませて、なんて考えてる間に今日中にさっさと受付して次に進んでしまう。
そう考える人間が多かった結果が目の前の光景だ。
とは言え受付だけならそう長い時間がとられるわけでも無い。
さすがに五十人近くの人間が集まるとかかる時間も膨大になろうが、十人に満たない程度の数なら三十分もかからず自分の番になる。
エンジンシティでもらったバッジケースがジムチャレンジャーとしての証となるのでそれとリーグ所属を示すトレーナーカードを見せる。
向こうも当然リーグ委員会を通してジムチャレンジャーの名簿を持っているのでそちらと照合して本人確認が取れればそれで受付は完了となる。
「ジムミッションの準備もありますので最速でも三日後になります」
「そう、ならそれで」
ところでガラルのジム巡りにはちょっとした余興がある。
それがジムミッションと呼ばれるものだ。
他地方のポケモンジムなら受付を済ませるとジムリーダーの予定の空いた日にバトルをしてそこで勝利ないし条件を満たせばバッジを獲得できる。
中にはジムリーダーと戦う前にジムトレーナーと勝負してふるい落としをするジムもあるのだが、大抵のジムは直接ジムリーダーと戦うことができる。
だがガラルのジムチャレンジは地方全体を巻き込んだ一つの『興行』だ。
バトルがメインなのは勿論だが、前哨戦や余興などでそれ以外の部分でもエンターテイメントを求められる。
それがジムミッションと呼ばれるもので、ジムリーダーとのバトルの前にこれをこなさなければジムリーダーに挑戦できないシステムになっている。
とは言え、基本的にそう無理難題なものではなく、各ジムらしい仕掛けを凝らしアトラクション要素を加味した余興程度のものが多い。
まあテレビでいう『撮れ高』というやつを作るためのものなのだろう。
「ジムミッションの様子やジムリーダーとのバトルはテレビ中継されますので予めご了承ください」
「大丈夫よ、分かってるから」
というかすでに開会式の時からテレビは入っていたし、何だったらジムチャレンジャーの一人、それもチャンピオン推薦で他地方からきたトレーナーとして朝からインタビューも受けた。
まあその程度の受け答えならプロトレーナーとしての嗜みなので問題は無い。
というか意外と知られていないが、ガラルが特に力を入れているだけで他地方のポケモンリーグだって基本的にバトルを『興行』化している。
プロトレーナー同士の公式試合の会場チケットやグッズ販売などで稼いでいるのだ。
まあそれだけで回せるわけも無いので根本的にはポケモン協会という財源あってのものだが。
つまりプロトレーナーというのは一種の人気商売なのだ。
当然ながらマスコミ相手の受け答えというのはリーグに入った時に一通り習ったりする。トレーナーが下手なことを言ったりしたりして人気が下がればリーグの収益にも関わって来るのだから当然と言えば当然だが。
なのでプロトレーナーとしてメディアに顔を売るというのは厭う事ではないのだ。
この辺り、プロ一年目の新人だと中々難しい領分ではあるのだが。
ただし以前にも言った通り、情報の露出は戦術面での不利を生む。故に顔が売れることと腕前が知れ渡ることはには大きな違いがある。
まあそれはさておき、ここガラルでは特にトレーナー人気は大きな意味を持つ。
他地方では『強さ』こそが『人気』だったりするのだが、この地方では『強さ』は『人気』に簡単には結び付かない。
だが逆に『人気』が『強さ』に結びついたりする。
それこそがこのガラルのポケモンバトルの本質なのだから。
ガラル編書くって決めた時から設定だけ作ってた新システムがようやく登場するよ(作者も半分忘れてた
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い