「聞いとりますよ、ソラさんでしたか。あのチャンピオンの推薦なんだとか」
バトルコートを挟んで向かいに立つ男がその屈強な肉体から受ける印象とは裏腹な柔らかな笑みで話かけてくる。
「まあこの場所に立っている時点で知っとるとは思いますが、改めましてぼくはヤローと言います。このターフタウンスタジアムで最初のジムチャレンジを請け負わせてもらっとります」
聞いた話によるとジムリーダーのヤローは性格的に初心者相手に手加減をしてしまうその性質のため最初のジムを任せられているのだとか。
まあ確かにその噂に違わぬ態度だとは思う、が。
「いやあ、去年のことを思い出すわ。あの時も先代チャンピオンの推薦で現チャンピオンがぼくの前に立っとった」
ただ優しいだけの男がこのガラルのトップトレーナーに名を連ねているはずが無いし。
「あの時のチャンピオン……ユウリさんはぼくを倒して進みましたが、さて、ソラさんはどうですか?」
メジャーリーグという魔境に身を置いているはずが無い。
故に。
「…………」
「ふふ、そうですか」
言葉を返すことも無く、ボールを構えた私にヤローが苦笑して。
「そうですね、トレーナーならバトルで語りゃあいい! それがぼくたちに共通するシンプルなルールなんじゃ!」
―――ジムリーダーの ヤローが 勝負を しかけてきた!
* * *
「うひゃー! ちょっと遅れちゃいましたか!? いや、セーフですね? セーフですよこれ」
駆け込むようにしてスタジアムの廊下を抜けていく。
すでにジムチャレンジャーたちが幾人かジムリーダーに挑戦し終わってしまっているような時間帯。
スタジアムの客席はすでに満員の観客たちで埋まっていた。
こんな時間帯に後からやってきて座れる席などあるはずがない。
それが一般客ならば。
「関係者席なら問題なっしんってわけですよ、ジムリの特権ですねぇ」
チケットが購入できずスタジアムの外で嘆く一般客たちを通りがけに見かけニシシ、と邪悪な笑みを浮かべてその横を通ってきたユウゼンは関係者以外立ち入り禁止の通路を抜けて関係者用見学部屋へと立ちいる。
そこにいたターフスタジアムのジムトレーナーたちに軽く挨拶をしながらちょうど今、まさにバトルが始まったばかりのフィールドを見下ろした。
「初陣よ! ムーくん!」
「頼んます! ローさん!」
「キシャアアァァォォ!」
「バッパッパー」
ジムリーダーヤローが投げたボールから放たれたのは黄と緑の色合いが特徴的なポケモン、ルンパッパ。
「ヤローさん、珍しく本気ですねぇ」
少し意外といった様子でユウゼンが呟いた。
もしこの場に他のジムリーダーたちがいればたしかに、と頷いたかもしれない。
ヤローが『くさ』タイプのジムリーダーとなってジムチャレンジを担当するようになってからそれなりの年月が経っているが、基本的に性格的な問題でヤローはジムチャレンジで本気を出すことが余り無い。
勿論手抜きをしているわけではない、ただ使用するポケモンはジムチャレンジ用に調整された個体であり、ある程度ポケモンを育成したチャレンジャーならば勝てるように、あくまで『ふるい落とし』を目的として立ちはだかる。
だがあのルンパッパは違う。調整されたポケモンではない、あれはヤローがメジャーリーグで使用する個体……つまりジムリーダーの本気のポケモンだ。
チャレンジャーが2年目の……いわゆるチャレンジ枠と同等だということを差し引いてもそれは珍しいことだった。
そして対抗するようにチャレンジャーの投げたボールから飛び出したポケモンに、会場の人々が大きくどよめいた。
─――銀色の体を光らせ、その5メートルを超す巨体が羽ばたくたびに全身から火花を舞い散らせる。
―――その巨体が一度地に舞い降りれば地響きが立つほどの重量。
―――その鳴き声には『いかく』のような効果はなくとも、萎縮せんばかりの圧があった。
「エアームド、ですか。しかもばっちばちの特異個体、ですかね?」
少し気になったので手持ちのスマホロトムをかざす。
“
===========【ステータス】=============
| 名 前 | ムーくん |
| 種 族 | エアームド/変異種/特異個体 |
| 性 別 | ♂ |
| レベル | 110 |
| タイプ | ほのお/ひこう |
| 性格 | いじっぱり |
| 特性 | はがねのよろい*1 |
| 持ち物 | とつげきチョッキ |
| 技 | ばくげき/くちばしキャノン/フレアドライブ/ボディプレス |
==============================
「うへぇ……ばっちばちの特異個体、しかも変異種ですねぇ。ていうかこれって先月までバウンティ指定されてた個体では?」
そんなことを呟いている間にもフィールドでは動きがある。
“
…………。
…………………………。
…………………………………………。
* * *
「さあ、ヤローファームの開園じゃあ!」
ばっと両手を広げるヤローの言葉に応えるかのように、フィールドが胎動する。
そうして直後、一面が芝生に覆われていたフィールド全体が緑色の光が放ち始める。
“ヤローファーム”*2
「バッパッパー!」
―――ルンパッパのおどりに くさきがこたえ ばのじょうたいが グラスフィールドになった!
一瞬にして塗り替えられていくフィールドに目を細め。
「こっちも行くわよ!」
“つむぎかぜ”*3
轟と唸りをあげて風が荒ぶ。
ムーくんの背を押すようにして吹き荒ぶ風は『おいかぜ』となる。
「ローさん! まずは農業の基礎、畑を耕すんじゃあ!」
そうしてこちらの準備を待たずしてルンパッパが動き出す。
“ヤローファーム”*4
どんどんと飛び跳ね、フィールドを荒らすように土が飛び跳ねる。
直後に圧を増すルンパッパだが、今の行動すらまだ事前準備に過ぎないようで、すでに次の行動に移る用意が完了していた。
「ローさん! 踊れぇ!」
「ムーくん! ぶっ飛ばせ!」
そうして互いの指示に場のポケモンたちが動き出す。
「バッパ!」
先に技を完了させたのはルンパッパだった。
『おいかぜ』があるので或いは、とも思ったがその巨体と比例した耐久力を得る代償としてムーくんは巨体と反比例して『すばやさ』が低下している。
正確に測ったわけでは無いが、恐らく通常個体の半分以下といったところか。
故に『おいかぜ』込みでようやく原種と同等、ルンパッパの速度を考えれば大よそ同じくらいだろうという結論にはなるが……。
「「「ワアアアアアアアアァァァァ!!!」」」
「「「がんばれーヤローさああああん!!!」」」
「「「オーオー♪ オォ~♪」」」
“のうぎょうおうえんか”*5
この応援に背を押されていつも以上に力を発揮しているルンパッパには少しばかり分が悪かった、ということだろうか。
このガラルにおいて観客からの『応援』はそのまま力になる。だかこそ単純な強さだけでなく、人気もまた重要になってくるのだ。
正確にはこの『スタジアム』におけるバトルというもの自体が通常のポケモンバトルとはとにかく勝手が違ってくる。
その辺りのことはリシウムやクコに聞いて知識としては知ってはいるのだが……。
“つるぎのまい”
“あまごいルンバ”*6
フィールドでルンパッパが踊り出し、さらに圧が増す。
その踊りに誘われるようにして、空が曇って来て……やがてぽつり、ぽつりと雨が降り出す。
やがてざあざあと降り出した雨がフィールドを濡らしていく。
「バッパッパー!」
“おどルンバ”*7
“さわぐ”
同時に踊るルンパッパから衝撃が飛び出し、ムーくんへと叩きつけられる。
「キシャアアァァォォ!」
だがそんなことを知ったことがとばかりにムーくんが羽ばたきルンパッパへと接近して。
“ばくげきき”*8
“ ば く げ き ”
体内で集められたエネルギーが鈍色に光る球形となって口から零れ落ちるようにしてルンパッパへと落下し……大爆発を起こす。
一撃で凄まじいHPを削り取られたルンパッパだったがさすがにジムリーダーの手持ちというべきか、良く育てられているお陰で一撃で『ひんし』とはいかなかった。
それでもかなりの大ダメージなのは間違いない。
その攻撃に手応えを感じ。
直後に気づく。
「キシュアァァ!?」
悲鳴を上げながら戻ってきたムーくんの全身にツタが生えていることに。
“ヤローファーム”*9
ムーくんに芽吹いた『やどりぎのたね』がムーくんのHPを吸い取り、それをルンパッパへと還元していく。
同時に空から降り注ぐ『あめ』を受けてルンパッパが踊る。
“あまごいルンバ”*10
“あめうけざら”
先ほどまでボロボロだったはずのルンパッパがその耐久力を大きく回復していくのを見やり、舌打ちしそうになる。
かなりHPを回復されてしまったがこれで次の攻撃で落とせるだろうか、と内心で呟きながら。
仕掛けられた“じげんばくだん”が起動する。
“フェザーボムギフト”*11
“じげんばくだん”*12
―――じげんばくだんが ばくはつし ルンパッパの たべのこしが もえつきた!
先ほどのムーくんの攻撃に紛れて落ちていたムーくんの羽が爆発し、ダメージを与えながらルンパッパが持っていただろう『たべのこし』ごと消滅する。
「危ないわね」
『グラスフィールド』+『あめうけざら』+『やどりぎのたね』+『たべのこし』で完全に耐久型のポケモンだ。
見た限り異常なくらいに回復していることから回復量を上げる系統の裏特性も持っているだろう。
下手すれば残り
体感的なダメージではHPの半分以上のダメージは与えたと思うのだが、その程度のダメージはすでに回復されていると考えたほうが良いだろう。
問題は先ほどの『つるぎのまい』だ。
あれで『こうげき』を大幅に上げられた、それでもムーくんの耐久力を考えれば一撃、ということはないだろうが、こちらの攻撃で削り切れなかった場合かなり厄介なことになる。
相手の回復量は異常の一言だ、互いの一手ごとにHPが半分以上回復するなど悪夢でしかない。
ムーくんもどちらかというと耐久型のポケモンなのだが、耐久レースをしていてはあの回復量には絶対に勝てない、必殺の一撃が必要だ……。
だがムーくんの独力では恐らくあのルンパッパを一撃で倒せるだけの火力が出せない。
…………。
ちらり、と空を見上げる。
その『あめ』は一体何のためにあるのか、ただ『あめうけざら』を発動させるためだけなのだろうか?
やや賭けになるが、考慮する価値はあると見た。
となると、次の一手は……。
「ムーくん!」
「ローさん!」
互いの指示が飛ぶ。
そうして。
“ハイドロポンプ”
放たれた必殺の威力を秘めた一撃がムーくんを捉える。
タイプ変更によって『ほのお』タイプとなってしまったムーくんにとって致命的となる一撃。
ルンパッパから放たれた激しい水流に打ち付けられ、ムーくんの耐久力が見る見るうちに削られていく、が。
“メルトダウン”*13
『はがねのよろい』が融解するほどの強烈な熱が水流を蒸発させ、その威力を大きく削っていく。
お陰で辛うじてではあるがムーくんがその一撃を耐えきり。
「吹っ飛ばせ!!!」
水流によってさらに硬化した『はがね』の肉体が物理的な『こうげき』を上昇させ、反撃とばかりに飛びながら突っ込んでいくムーくんのそのクチバシに猛烈なエネルギーが集中し。
“ばくげきき”
“くちばしキャノン”
―――放たれる。
猛烈な勢いで突き出されたクチバシの一撃はルンパッパを貫き、吹き飛ばす。
それでもなんとか立とうとするルンパッパだったが、やがて力尽き、倒れ伏した。
【種族】“ボマー”エアームド/変異種/特異個体
【レベル】110
【タイプ】ほのお/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】はがねのよろい(『ほのお』『かくとう』『じめん』タイプの技で受けるダメージが2倍になるが、『ノーマル』『くさ』『こおり』『ひこう』『エスパー』『むし』『いわ』『ドラゴン』『はがね』『フェアリー』タイプの技で受けるダメージが半分になり、『どく』タイプの技のダメージや効果を受けなくなる。自分の『はがね』タイプの技の威力を1.5倍にする)
【持ち物】とつげきチョッキ
【技】ばくげき/くちばしキャノン/フレアドライブ/ボディプレス
【裏特性】『ばくげきき』
自分の出す『たま・爆弾系』の技の威力と命中を1.5倍にする。
相手の物理攻撃でダメージを受けた時、相手の場の状態を『ばくだん』にする。
『たま・爆弾系』の攻撃技を出す時、相手の『ぼうぎょ』と『とくぼう』の低いほうでダメージ計算する。
【技能】『フェザーボムギフト』
『たま・爆弾系』の技が命中した時、相手の持ち物を『じげんばくだん』に変更する。
【能力】『メルトダウン』
『みず』タイプの相手や天候が『あめ』『つよいあめ』の時、自分の『ほのお』技の威力が下がらず、無効化されない。
『みず』タイプの技の攻撃技を受けた時、技のダメージを半減し、自分の『こうげき』を上げる。
【備考】
ばくげき 『はがね』『非接触単体物理技』
効果:威力110 命中80 『ほのお』タイプと相性の良いほうのタイプでダメージ計算する。相手の特性が『しめりけ』の時、技が失敗する。
場の状態:ばくだん
次のターンの終了時、場にいるポケモンに最大HPの1/4分のダメージを与える。相手の特性が『しめりけ』の時、ダメージが無くなる。
持ち物:じげんばくだん 『消費タイプ』
ターン終了時に自分のHPを最大HPの1/8減らす。
『ヤローファーム』
味方の『くさ』タイプのポケモンが場に出た時、3ターンの間全体の場を『グラスフィールド』にする。
味方の『くさ』タイプのポケモンが場に出た時、『たがやす』を出す。
味方の『くさ』タイプのポケモンが場に出て最初に技を出した時、相手を『やどりぎのたね』状態にする。
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【名前】ロンド/ローさん
【種族】ルンパッパ/原種
【レベル】110
【タイプ】みず/くさ
【特性】あめうけざら
【持ち物】たべのこし
【技】ギガドレイン/ハイドロポンプ/かみなりパンチ/つるぎのまい
【裏特性】『あまごいルンバ』
自分が『踊り技』を出す時、5ターンの間天候を『あめ』にし、自分のテンション値を+1する。
自分が『踊り技』を出す時、自分の『とくこう』を2段階上げる。
天候が『あめ』の時、自分が受けるHPが回復する効果が2倍になり、ターン終了時に自分のテンション値を+1する。
【技能】『おどルンバ』
自分が『踊り技』を出した時、追加で『さわぐ』を出せる。この効果は場に出た時に一度だけ使用でき、味方全体のテンション値を+1する。
Q.テンション値 is 何?
A.多分次回あたりユウゼンさんが解説してくれると思うガラル編における新システム。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い