ポケモンセンターは基本ポケモンの回復が主な業務だが、それとは別にトレーナーの宿泊も承っている。
だがそれはあくまでついでの業務なので基本的に食堂とベッドとシャワーのある個室以外何も用意されていない。
まあそれで十分だろと言えば十分なのだが、要するに夜にちょっと小腹が空いたからだとか喉が渇いてとかいった時に売店のようなものが無いので近くのフレンドリーショップまで買いに行く必要があるのだ。
フレンドリーショップと言っても普段トレーナーがお世話になるような『きずぐすり』や『モンスタボール』などを売っている専用店ではない。あれは売る方も買う方も取り扱いに資格がいるのでそれなりに大きな店にしか売っていない。
そういうのではなく、それこそ食料品や雑貨などの日常的に必要とするちょっとしたものを販売するコンビニエンスを売りとするほうだ。
フレンドリーショップはだいたいどこに行っても24時間営業のありがたい店で、ターフタウンのような自他ともに認める田舎町にもある、というかだいたいポケモンセンターの近くにはフレンドリーショップが必ず建てられている。センターに泊まるトレーナーたちの需要を狙ってだろう。
以前にも言ったがポケモントレーナーとは体力勝負なところがあるので、センターの安かろうの食事では足りなくてつい足が伸びてしまう、なんてことも多いのだ。
私もまあ人のことを言える
出た瞬間の絶叫である。
人の顔を見て大声を上げる変な女にこちらも思わず驚いてしまう。
「何よ」
それからすぐにつっけんどんな対応をしてしまったが悪くないと思う。
眉根を寄るのを自覚しながらも鋭い視線で目の前の女を見つめる。
年の頃は十代半ばといったところ。恐らくリシウムと同年代くらいだろうな、という印象。
目を白黒させながらこちらを見つめながら、えーと、だの、あー、だのと意味の無い言葉を口から漏らすだけのその女をもう一度一瞥し、いつまでも待ってやる義理は無いとその横を通り過ぎようとして。
「ちょ、ちょーっと待ったぁぁぁぁ!!!」
がし、と腕を掴まれる。
「だから何よ、ていうかアンタ誰よ」
「いやいや、すみませんねぇ。こっちも気が動転してまして、あ、私ユウゼンって言います」
ユウゼンと名乗る女が先ほどまでと一転してニコニコと胡散臭い笑みを浮かべリーグカード*1を差し出してくる。
暗闇で見え辛かったがセンターから差し込む光にかざしてなんとか見えた部分の情報を読み取ると。
「ジムリーダー?」
「はい、このガラル地方の『でんき』タイプのジムリーダーとかやってます。よろしくですぅ」
変な女かと思ったらジムリーダーだったらしい。
いや、ジムリーダーだろうと人の顔見ていきなり絶叫する変な女には違いないのだが。
「それで、何の用よ」
「ソラ選手ですよね? ちょっとお話聞いてもらって良いですかぁ?」
「……アンタとは初対面だったと思うんだけど」
「マイナージム繋がりでリシウムさんから話は聞いてますから、ジムリーダーの後継になって欲しいって」
「ああ、そういう……それで?」
「あ、オッケーです? なら少しそこのポケモンセンターで話ましょうか?」
「それ長くなる?」
「そうですねぇ……まあ多少?」
「先にフレンドリーショップ行ってきていいかしら、喉が渇いたから何か買いたいのよ」
「それでしたら私が奢りますので、ささ、行きましょうかぁ」
「…………」
もう態度からしてユウゼンの話というのが面倒なことなのは確定しているようなものだ。
そんな私の内心が表情に出ていたのか、ユウゼンがニコリを笑みを浮かべ。
「大丈夫です、ソラさんにも損はさせない話ですからぁ」
私の手を引きながら速足に歩いていくユウゼンに、なんだかもうすで面倒になって嘆息した。
* * *
「あの、私の話ちゃんと聞いてくれてます?」
「ん~、きいへるはよ」
ポケモンセンターの食堂に並ぶテーブルの一つを借りて向かいあって座る。
机の上には先ほどフレンドリーショップ(ユウゼン的にはコンビニ)で買ってきたドリンクが5本にデザート系が山のように。
「くぅ……好きなだけ買ってくれていいですよ、なんて言うんじゃなかったですぅ」
迂闊な発言の結果が机の上の山である。
あらそう、悪いわね。なんて言葉だけで全く悪びれる様子も無く次から次へとレジの上に積み上がっては増していく値段表示にユウゼンの顔が蒼褪めたあたりでソラの暴虐は止まった。
―――あれ完全に狙って嫌がらせされてましたよねぇ。さすがにファーストコンタクトが最悪過ぎました。
後悔先に立たず。飲み物を買いに来たというソラの言葉を信じて、ご機嫌取りに迂闊な発言をしてしまったユウゼンの敗北だった。
「んぐ、んぐ……やっぱ夜に食べるプリンは美味しいわねぇ。生クリームとフルーツたっぷりで犯罪的だわ」
「カロリー」
「トレーナーやってればいくらでも消費されるでしょ」
「体重計」
「さあ、私どれだけ食べても太らないのよね、そういう体質みたい」
「くぅ……くあぁぁぁぁぁぁ」
切ない悲鳴を上げながらユウゼンが机に突っ伏す。
完全なる敗北だった。日頃から体重計を恐れ、カロリーを恐れ、食事に気を遣い、間食を我慢してきた乙女のプライドが砕け散るようなソラの発言に反論する気力すら失っていた。
「もう、そこまで落ち込まなくても……悪かったわよ、これ食べる?」
なんて言いながらユウゼンの財布で買ったはずのシュークリームをさも施しの天使のような笑みを浮かべて差し出してくるソラにぐぬぬ、となりながらも手を伸ばし包装を剥がしもさもさと口に入れる。
「甘い……」
「まあ私が太らないからってアンタもそうかは知らないけど」
「ふぐぅ……良いんですぅ。これは明日からの私へのご褒美……」
口に広がるクリームの甘さにやる気が漲ってきた矢先にソラの鋭い一言に刺され、また崩れ落ちそうになるがどうにかモチベーションを持ち直す。
その間にもソラが机の上にあったスイーツの山を次から次へと食べて行き。
「ふう、ごちそうさま」
「嘘ですよね、あれ本気で全部食べたんですかぁ……」
残った包装を捨ててしまえば後には何も残らなかった。
少なくともユウゼンならあれだけ食べたら三日は何も食べなくてもいいや、と思う程度には量があったはずなのだが。
「食べるのも資質とは言え……これで太らないってじゃあ食べた物は一体どこに消えて……」
世界の謎を見つけてしまったような心地でユウゼンが目を白黒させているとソラがさて、と呟き深く椅子に座り直す。
「じゃ、真面目な話しましょうか。といってもだいたい話は聞いてたけど。要するにワイルドエリアの深域でまたポケモンが暴れているってことで良いのよね?」
「え、えぇ……そうですねぇ。ホントに聞いてたんだ」
あの暴食の最中でもしっかりと話は聞いていたらしい。
拍子を外されたようで眼鏡をかけ直しながら改めてソラへと向き直る。
「ただ正確に言うと『深域でポケモンが暴走している』ですね。もっと細かく言えば『深域』に強力なポケモンが現れたせいで周囲のポケモンが『中間域』まで逃げ出しているようなんですよぉ」
「『深域』なんて元から強力なポケモンの生息地でしょ? そんな場所で他のポケモンが逃げ出すほどに強力なやつって」
「実はちょうどそこに居合わせたリーグ委員長……先代チャンピオンのダンデさんがバトルしたらしいんですが、逃げられたらしいんですよねぇ」
「ダンデ選手ってジムチャレンジ参加中よね? あの人なんでそんなところにいるのよ?」
「いつもの迷子癖ってやつですかねぇ……」
首を傾げるソラだが、ユウゼンにだってあの迷子癖は本気で意味不明だ。
「シキ母さんみたいな人ね」
なんて独り言を呟いていたが、その意味は良く分からない。
もしかしたら似たような人を知っているのかもしれない……あんなのがこの世に二人以上いるとか冗談だと思いたいが。
「それで、現れたポケモンっていうのは分かってるの? バトルしたのよね?」
「あ、はい、なんでもキョダイマックスできるストリンダーらしいですよぉ?」
「ストリンダー……ああ、ガラル地方に多いポケモンなのね」
どうやら知らなかったらしいソラが図鑑アプリを起動し調べている。
ストリンダーはガラル固有のポケモンというわけではないが、他と比べてもガラル地方に多いポケモンではある。
「にしても野生のポケモンがキョダイマックスするのね」
「ワイルドエリアにもパワースポットってありますからねぇ……ダイマックスバンドが無いので意図的にというわけにはいきませんが、時折ガラル粒子の放出が激しくなった時に暴走気味にダイマックスすることはあるんですよねぇ」
そしてそうなると確実に暴れ回るのでそれを沈めるのもジムリーダーの役割というわけである。
「『でんき』『どく』タイプか。まあ『でんき』に関してはどうにでもなるから……多分大丈夫でしょ」
「それは頼りになりますねぇ」
そして見込んだ通りというべきか。『統一パ』なんて作っているんだから弱点タイプに多分何がしか対策くらいあるだろうと思っていたが、まるでなんて事の無いようにどうにでもなる、と言い切るあたり本当に才能の傲慢を感じる。
少なくともユウゼンは『じめん』タイプなんてどうにでもなる、なんて絶対に言えない。
―――ホント、理不尽な世界ですよねぇ。
この世界にユウゼンという存在が生まれて感じ続けてきたことだが、
転生、なんて本当にあるとも思っていなかったがそれでもこの世界がポケモンの世界だと気づいた時、ユウゼンだって高揚を隠しきれなかった。
自分にはこの世界に対する知識があって、自分には未来に起こり得る出来事に対する知識がある。
だからユウゼンは自分はきっと特別になれると思っていた。
いや、実際二十にもならない内からこのガラルのマイナーとはいえジムリーダーであるのだから特別なのは間違い無いだろう。
けれどここはあくまで現実であってゲームの中じゃない。
年を重ねるにつれて理解していく世界の不条理や理不尽。
伝説という化け物に、天才という怪物たち。
ユウゼンが完全に色々諦めてしまったのは間違いなく去年のあのチャンピオン戦前日の出来事があったからだろう。
ムゲンダイナという
ザシアンという
ザマゼンタという
そしてザシアンを従え、ザマゼンタを従え、ムゲンダイナという超越存在を討った英雄という名の怪物。
ユウゼンの描いていたゲームの世界という色眼鏡を破壊し尽くすには衝撃的過ぎるほどの出来事だった。
自分は主人公ではない、そんなことは分かっていた。原作に描かれることすら無かったモブ、或いは存在しなかったはずのモブ以下でしかないと思ってはいた。
だからどうした、と思っていた。寧ろそこから成りあがるからこそ物語は面白くなるのだと、そう思っていた。
そうして。
ここは現実なのだと、叩きつけられた。
* * *
「まあそれも別に悪くないんですけどねぇ」
この世界は現実だ。
どうしようもなく不条理で。
仕方無いくらいに理不尽で。
笑えるくらいに残酷で。
―――だからこそ、楽しいのだ。
「私は『プレイヤー』じゃないですけどぉ」
ゲームにおける敵とは全てプレイヤーが勝てるように作られている。
けれどユウゼンはプレイヤーではない。
『必勝』の運命なんてものは持たないし、これまでだって何度も負けて、負けて、負け続けた。
だからこそマイナーリーグに甘んじている。
だが、それならそれで良いのだ。
「それならそれで、私は『ポケモン』のファンとして楽しむだけですよぉ」
実機だって大会が開かれれば世界中から数えきれないほどの『プレイヤー』がネットという繋がりを辿って同じ戦いの場に集まってきていた。
『プレイヤー』同士の戦いなのだからそこに贔屓は無い。勝つことも負けることもどちらも十分にあり得て。その中で少しでも多く勝ちを得ようと多くの人が戦った。
この世界は理不尽だ。
この世界は不条理だ。
この世界は残酷だ。
それでもポケモンバトルという競技の中では、その理不尽は、不条理は、残酷は全てレギュレーションというルールの下に正される。
伝説という名の化け物たちも。
天才という名の怪物たちも。
全てやり方次第で倒すことのできる相手となり果てるのだ。
だからどれだけ理不尽だろうと、どれだけ不条理だろうと、どれだけ残酷だろうとユウゼンはポケモンバトルが好きだ。ポケモンが好きで、バトルが好きで。
「なので私は野生バトルはちょっとノーサンキューですねぇ」
ルール無用なのがちょっと無理。
「ま、その辺はソラさんにお願いしましょうかねぇ」
ユウゼンは野生バトルとかそういう野蛮なのはちょっと遠慮したいので。
「というわけでまずはダンデさんでも探しに行きましょうか」
ソラに明日からの協力を約束してもらったところでポケモンセンターを出てそのまま街の外を目指して歩く。
迷子癖のあるリーグ委員長対策に常にGPSで位置情報はこちらに送られてきているので見失うことはまあ無いだろうが。
「あの……あの人さっきワイルドエリアから電話かけてきてましたよね?」
あれからソラとの会話があったとは言え一時間も経っていないはずなのだが。
「なんでハロンタウンから位置情報が発信されてるんですか???」
ワイルドエリアからハロンタウンに行くまでには、一度ワイルドエリア駅に行き、そこから列車でブラッシータウンへ、ブラッシータウンからハロンタウンへと行く必要ある。
ガラルでは基本的にはポケモンで『そらをとぶ』ことは禁止されているのだがまあ低空飛行でリザードンで移動したとしても最短二時間くらいはかかるはずなのだが……。
一体どこで一時間の差を埋めてきたのだろう。
「というか私回収しに行くって話でしたよね? なんで動いてるんですか」
嘆息しながらダンデのスマホへと電話をかける。
尚当人曰く、いつの間にかハロンタウンの自宅に戻っており今ひと
実はユウゼンさんはポケモンのゲーム知識を持った地球からの転生者だったんだよ!!!
ナ、ナンダッテー()
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い