「もう、ホント頼みますよ? 何をどうやったらそうなるのか。そもそもなんで勝手に動くんですか」
『いやあ、すまない。実は件の相手をまた見つけてな、追いかけていたはずなんだが』
「それでなんで実家にたどり着くんですか……」
『ははは、オレにも分からん!』
「それ威張って言う事じゃないですぅ……」
溜め息が止まらない。
「それで情報のほうは取れましたか?」
『ああ、
「マジですか……マジですかぁ。それってフリダシに戻ってるのでは」
『だが同じ『でんき』タイプなのは間違いない。というか実を言うと見当がついた』
「おお、さすが委員長。それで?」
『恐らく『アンノウン』だな』
「……それ正体不明ってことでつけられたバウンティーでしたよね」
『ああ、だが関連性を考えると一番それらしいと言える』
「結局何も分かってないってことじゃないですかぁ!」
『ははははは、すまん。とはいえこっちもジムチャレンジで手が離せん。ユウゼンに頼むぜ』
あまりにもお気楽に言われると肩を落としてしまうが、それはそれとしてこれが今のユウゼンの仕事なのだから仕方ない。
「取り合えずこの一件はこっちで引継ぎますんでぇ。委員長はさっさとジムチャレンジ行ったほうが良いんじゃないですかぁ?」
『はは、そうだな。ネズのやつはもう先に進んでるかもしれないからな、オレもその内挑戦するさ』
通話を終えて再度溜め息をつく。
何だかジムリーダーになってからこんなことばっかりだ。
「やや不本意ですがやるしか無いですねぇ……幸い戦力の宛てはできましたし」
ポケモンセンターの一室で、窓から差し込む朝の陽ざしに目を細めながらユウゼンはぐっと伸びをする。
「ま、その前に朝ごはんにしましょうか」
部屋を出る前にもう一度鏡で身だしなみをチェックして、扉を開けた。
* * *
ガラルにはワイルドエリアというポケモンが自然に生きるための環境があるが、それが原因でワイルドエリアは野生のポケモンに関する問題が集まりやすい。
逆に言えばワイルドエリアという地域を周囲から区切ることで問題をそこに集中させたとも言える。
故にワイルドエリア近辺の街では野生のポケモンによる被害が多い。
とはいえこれはガラルに限った話ではなく、どの地方にだって一定数野生のポケモンによる被害というのは存在する。
自然の開発が進み、人の領域が増えるということは『人類がポケモンの領域へと進む』ことなのだからこれはどうしても起こり得る事態だと言える。
故にそういう事態への対処として『ポケモンレンジャー』が存在するわけだが。
「ガラルだともっぱらやばいやつはマイナージムが駆り出されるんですよねぇ……」
「最初に会った時のリシウムもそうだけど、大変ね」
基本的に『ポケモンレンジャー』というのはその地方のポケモン協会が運営する組織だ。
いわゆる『公営』というやつであり、当然と言えば当然ながら組織運営にはどこまで行っても金の問題が付きまとう。
ガラルでは『マイナーリーグジム』の面々を駆り出すことでその辺りをやりくりしているらしい。
「それに『ワイルドエリア』という区切られた世界でナワバリ争いを繰り返しているガラルのポケモンって他地方のポケモンより一際脅威度が高い傾向にあるんですよねぇ」
ガラルでは特異なポケモンが生まれやすい。そういう土壌*1が存在する。
そしてそんな普通じゃないポケモンたちは時に一般トレーナーでは手に負えない怪物となって暴れ回るためプロトレーナークラスの実力が必要とされるわけだ。
そして何より。
「野生のポケモンも時々ですがダイマックスしますからねぇ」
ダイマックス状態のポケモンの危険性は通常のそれよりも跳ね上がる。
だがダイマックスを任意で発動するために必要なダイマックスバンドというのは残念ながらトレーナーなら誰しもが持っている、と言えるほど普及していない貴重品なのだ。
「だからこちらもダイマックスが使えるリーグトレーナーに要請がかかるってわけですねぇ」
「確かに……ダイマックス状態の相手にダイマックス無しで突っ込むのは中々難易度が高いわね」
これがトレーナー同士のバトルならば案外ダイマックスしたポケモンに対してダイマックス無しでも立ち向かうことは可能だ。
だが野生のポケモンとなると話が変わって来る。
ダイマックス技というのはとにかく攻撃の規模が大きい。言い換えれば射程や範囲が広く、威力も高い。
さらに技の発動の仕方が間接的な物も多く技に技をぶつけて迎撃する、ということが難しいのだ。
ダイマックスしていないポケモンを対象にダイマックス技が放たれると距離が無ければトレーナーまで一緒に巻き込まれることになりかねず、何よりトレーナー目掛けて放たれた場合ポケモンが『まもる』ことができない。
『まもる』などの防護技を破壊して飛んでくる余波だけで人間は大怪我を負うし、最悪死傷することもある。
故にこちらもダイマックス状態のポケモンを向かわせることでカバーできる範囲を広げる必要が出てくる。
最悪トレーナーを狙われても『ダイウォール』*2で防ぐことができる。
「まあ最悪トレーナーくらいならこっちで守るから大丈夫よ」
トレーナー同士のバトルでやったら基本反則待ったなしなのでやらないが、私の『嵐』を防護に回せばダイマックス技の余波くらいなら防げるだろう。
余談だが異能者の技能はポケモンのように取得可能な技ならばいくらでも覚えるだけなら覚えれる、みたいな便利な体質はしていない。
ポケモンの場合、その中でバトルに使用できるくらい咄嗟に出てくる数が四つが限界とされているが、異能者の場合、作り上げた技のその質と数によって左右される。
人間に対して妙な表現になるかもしれないが、異能でどれだけのことができるかは主に『スペック』と『リソース』と『コスト』で決定する。
『スペック』は性能、つまり異能者本人の異能に対する熟練度や異能そのものの強度。
『リソース』は異能者の持つ力の総量……異能という不可思議な力を使用するために消耗するエネルギーのようなものだと思えば良い。
『コスト』はその異能を発動するためにどれだけの『リソース』を消耗するか。
そこに異能自体の『性質』を合わせて異能者の技能は作られる。
私の場合ならば『空』や『嵐』、『星』のような性質があるが故にそれに関連する能力が使えるし、作れる。
要するにポケモンのタイプのようなものだ。私の場合それが『ひこう』と『ドラゴン』を得意としている。
だからポケモンの使う『ひこう』タイプや『ドラゴン』タイプの技に似たようなことができる。
『ぼうふうけん』の場合、私の持つ『リソース』の大半を使った大技だったと言っていい。*3
その『ぼうふうけん』を使うことを止めたためリソースはかなり浮いている。だから今は他の技能を試行錯誤中なのだ。
ダイマックス技を防ぐことは中々に難易度は高いが、リソースの半分も使うことは無いだろうから問題無い。
そんなことを語ればユウゼンが顔を引きつらせる。
「えぇ……そこまで直接的な干渉って滅茶苦茶容量食うはずなのにそれで半分も使わないって……やっぱ最大値が高すぎですよねぇ」
ぼそぼそと喋るユウゼンの隣を歩いているとようやく目的地が見えてくる。
「ユウゼン、あそこが目的の『深域』で良いのよね?」
「え……あ、はい。あそこですねぇ。ほら、リーグ委員会のスタッフが立ってませんし」
『中間域』と『深域』の境目というのは明確ではない。
その地域ごとのポケモンの強さで大よその目安として『浅域』『中間域』『深域』という区切りを人間側で勝手に作っているだけで実際のところここからが『深域』だという目印のようなものは無いのだ。
だからその目印を作るためにリーグスタッフが常駐するようにしているのだが現在『深域』でポケモンが暴走して『中間域』にまで大量のポケモンが抜け出しているためこの周囲のリーグスタッフは避難しているらしい。
とはいえそうなると『中間域』と『深域』の境界が分からなくなるためあちらこちらにそれを示すための目印が置いてあった。
「杭突き立てたり、旗を立てたり、ビーコン埋めたり、単純にロープを巻いたり色々やってるわね」
「まあどれか一つにしてうっかりポケモンに踏み倒されて分からなくなりました、とかなったらやばいですからねぇ」
もっともワイルドエリアで一部ポケモンの暴走が起こっているという情報は素早く周囲に拡散されているのでこんな危険地帯にやってくる人間が他にいるとは思えないが。
そんなことを告げればユウゼンが曖昧な笑みを浮かべながら嘆息した。
「いるんですよねぇ……今ならリーグスタッフがいないって思って密猟に来る馬鹿が」
本来『中間域』くらいまでならともかく『深域』ともなると相当に高レベルのトレーナーでないと生きて戻ることすら難しくなる危険地帯のため、踏み入るにはポケモン協会、或いはリーグ委員会からの許可が必要になる。
ジムリーダー等はリーグ委員会直下の組織として代理でそれを許可できる権限などもあるのだが、まあ逆に言えば『最低でも』ジムリーダーに認められるだけの実力が無いと足を踏み入れることはできない魔境なのだ。
一部のポケモンハンターによる密猟問題は割とどの地方でも存在するが、ガラルの場合
逆にいえばより希少価値の高いポケモンが捕獲しやすいとも言える。そのせいで他の地方より密猟者が多いらしい。
それだけでも問題なのだが、密猟者がより希少なポケモンを求めて『深域』に入り込むせいで『深域』の環境が乱されることもあるし、入り込んだは良いが生きて帰って来れなかったなんてことも良くあるらしい。
何より問題なのは下手をすると『深域』のポケモンが『人の味』を覚えることだ。
人の世界は人を害す存在を許容しないし、人を殺す存在を確実に抹消する。
それは人であろうがポケモンであろうが例外は無い。
人を食うことを覚えたポケモンはどんなことがあろうと確実に殺害される。
どうあってもそれは人と共存できないからこそ。
例えそれが人の業によって生まれた存在だとしても、だ。
故に密猟者というのは厄介なのだ。
ただでさえ無駄に問題を引き起こす癖に下手をすれば『災厄』を生み出す。
「特に『深域』に来る密猟者って実力もあるやつが多いのが厄介なんですよね」
『深域』という魔境に来るだけあってそれなりに実力が伴う存在もいるらしい。
だからこそ生半可なトレーナーやポケモン保護がメインのポケモンレンジャーでは任せられない。
それこそ、バトルを専門とするジムリーダーのような実力者が必要とされる。
「この状況でいると思う?」
「経験則で言うと四割くらいの確率でいそうですねぇ」
「それはまた命知らずというべきかなんというか」
因みに誤解されがちだがポケモンハンター自体はポケモン協会直下……つまり公営だ。
正確にはハンター協会という公営組織があって、ハンターライセンス……つまり狩猟許可証を持った人、つまりハンターを統括している。
密猟者が目立つせいでポケモンハンターという職自体が悪と見られがちだが事実は全く異なり、ポケモンハンターというには環境保全にかなり重要な役割を持っている。
例えば異常発生したポケモンを捕獲し別の生息地にふるい分けるようにして分散、移動させたり、環境を乱すような異常なポケモンを捕獲、最悪の場合『駆除』によって環境を保ったり、『観測』と『保管』を目的とするポケモンレンジャーに対して、『捕獲』『狩猟』『駆除』を手段として『保全』を目的とするポケモンハンターは実はかなり近しい関係にある。
或いは一部のポケモンから得られる『素材』の入手も彼らの役割だ。
本来は決められたポケモンだけを『狩猟』し、生態系のバランスを保ちながら人の世界に自然の利をもたらすのが役割なのだが、一部の行き過ぎたポケモンハンターたちが本来必要でない『狩猟』を行い、違法に売買を行う密猟者となるのだ。
当然バレたらライセンスはく奪からの逮捕待ったなしなのだが、ハンター協会自体は公営でもそこに所属するポケモンハンターたちは民間人なのでその全員を管理しきれているわけでも無いし、何より本来協会を通さない素材等の売買は違法のはずなのだが、裏での取引というものが後を絶たず密猟者というのはどれだけ取り締まっても居なくならない。
「正直死んでるんじゃない?」
「まあそれならそれで自業自得とも言えなくはないんですが、それならそれで死体は持ち帰らないといけないのが辛いところですねぇ」
「まあ……食べられたらやばいものね」
大半の人間は知らないだろうが『ポケモンは人を食べることができる』のだ。
大半の人間どころか大半のポケモンすら知らないだろう。
基本的にポケモンは人類の隣人だ。
心を持ち、心を通わせ、言葉は躱せずとも意思を通じ合うことができる。
けれど同時にポケモンは環境に適応する生物だ。
『きのみ』などをポケモンに与えるとだいたいどんなポケモンでも好き嫌いはあれど食べることができるように、ポケモンは本来の食性に加えて本来食べることができないようなものでも食べて、それに合わせて自身を変質させることができる。
つまり人間だって食べようと思えば食べれるのだ。
そして人間を食べてその味を覚えたポケモンは
人食いの怪物は人の世界の最大の禁忌である。
何より普段街を歩けばあちこちで見かける人類の隣人が。
自分の最愛の家族が、ペットが、仲間が、友人が。
本当は自分を『食べる』ことができる怪物などという事実は、決して知られてはならないのだ。
正直ここまで書く必要あったかなあ、って思ったけどまあでも言っちゃなんだけど『この世界を現実』として見るなら獣が人を食うことだってあるんだよね。
つかアニポケとかでも食うような描写こそないけど、普通に殺しにはかかってるし。
つか図鑑とかちょいちょいポケモン世界の闇が書かれてたりするし、まあこういうシビアなのもあり得るよね、ということで。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い