基本的にトレーナー戦における駆け引きとは『互いの情報を引き出す』ためのものだ。
例えば相手のポケモンに対して有利なポケモンに交代することで相手が次の一手でどういう対応をするかを見る。
そのまま突っ張る*1のか、それとも交代するのか。
突っ張るということは不利なはずの対面を打開する方法が相手にあるということで、逆に言えば交代するということは相手側に対処する手段が無いということになる。
勿論それがブラフで、後になって同じ対面で相手が交代する、と思ったら交代せず思わぬ痛手を受けて……なんてことも
そういう意味でユウゼンの力ははっきり言って現代の情報重視の風潮の高まるプロトレーナー業界において衝撃的といって過言ではない。
全くの無条件というわけではないのだろうが、手持ちにいるわけでも無いポケモンのデータを外部からほぼ全て抜いてしまうというのはトレーナー戦の駆け引きの大半を吹き飛ばす圧倒的アドバンテージだ。
実際バトルの前からこれだけのデータがあればトレーナー戦ならば一方的な展開にすらなり得る。
そう、トレーナー戦ならば。
当然の話だがトレーナー戦において相手トレーナーを狙うなんて真似をすれば普通に一発アウトだ。
流れ弾が皆無とは言わないし、それによる事故が全く無いとも言わないが意図的に狙うなんてこと公式バトルでやったら問答無用でルール違反で敗北、どころかトレーナー資格の剥奪だろう。
だが野生のポケモン相手のバトルにルールなど存在しない。
野生のポケモンは当たり前のように区別なくトレーナーを狙う。
野生のポケモンにとって、トレーナーもトレーナーのポケモンも、等しく敵でしかないのだから。
* * *
ストリンダーを収めたボールを即座に転送システムでボックスへと転送する。
これでストリンダーのほうは一先ず安心だろう、と一つ息を零しながら即座に次の相手へと視線を向けた。
ここからでもユウゼンとジバコイルの攻防が確認できるので急がねばならない。
問題はすでにジバコイルとの戦闘で大きく消耗していたストリンダーと異なり、ジバコイル自身にはほとんど消耗が見られないことだ。
そのタネもまたユウゼンから送られてきているのだが。
ユウゼンから送られてきたデータを見ながら改めて狂っているとしか言いようのないそのデータに嘆息する。
ポケモンのレベルというものが発見され、個体ごとの能力の差異の範囲が解析され、種族ごとの能力の平均が計算された現代において、ポケモンのそれぞれの
だが実際にはその日その日でポケモンにも
そもそも基準を誰に置くか、というのすら決まらない上に種族ごとの能力値すら地方ごとに微細な差があるのだから数値化しようがないと言える。
だがユウゼンの送ってきたデータにはその数字が載っている。
どういう基準なのかは分からないが、そのデータにはジバコイルが今どれくらいの『
「これが本当だとすると……足場をどうにかしないといけないわね」
元々ジバコイル自体が耐久力の高いポケモンなのだ。その上で最大の弱点の『じめん』タイプを受けず、『こうかはばつぐん』となるダメージを軽減し、元の体力も多い……となるとその耐久力を削ることは容易なことではない。
さらにそこに『エレキフィールド』が展開されている限り、いくら攻撃しようが足元から電気を吸い上げて体力を回復してしまう、となればこの効果を防がねばジリ貧となることは目に見えていた。
「まあ幸い……どうにでもなるけれど」
* * *
まあ散々脅すように言っておいてなんだが。
実際のところ、野生のポケモン相手のバトルというのはなんでもありだ、それは敵もそうだがこちらだってそうなのだ。
“ぼうふうけん”
心の中で撃鉄を落とす。
同時にジバコイルを巻き込むようにして巻き起こる大嵐が浮かぶジバコイルを大きく揺らす。
磁場操作によって空中に浮かぶジバコイルは特性『ふゆう』のポケモンと同じく浮いてはいても『ひこう』タイプではないが故にこの大嵐に適応することができない。
ダイマックスによって巨大化していようが、全てを薙ぎ払うかのような大嵐がジバコイルを縦へ横へと揺らし続ける。
そして大地の上を駆け巡る電流が形作った『エレキフィールド』を嵐がそのフィールドごと引きはがし吹き飛ばし、消し飛ばしていく。
そうして地面を覆っていた『エレキフィールド』の力……『でんき』のエネルギーを嵐がかき消していくとやがて上空に浮かんでいたはずのジバコイルが磁場操作によって浮遊を保つことが困難になったのかその巨体をどんどん降下させてくる。
ジバコイルの大幅な耐久力の要因は『エレキフィールド』から絶えず供給させる『でんき』エネルギーを体表に流すことで作られる『バリアー』のようなものである。故にその供給源である『エレキフィールド』をかき消してしまえばその耐久力も大きく落ちる。
これで相手は地の利を失った。
ならば今度はこちらが地の利を取る。
「フーちゃん! リーちゃん!」
手持ちが投げた二つのボールからガラルファイヤーとガラルフリーザーの二体が飛び出し、そのまま上空へと陣取る。
公式バトルにおいては『ひこう』ポケモンの高度制限*2があるが、野生のポケモン相手にバトルにそんなものはない。
故に『ひこう』タイプでない相手ならばアタッカー二体を上空に位置取らせるだけで大きく優位になる。
尤も先ほどのストリンダーのように立ち上がるだけで優に上空に手が届きそうなほどに巨大な相手となるとさすがにそれも意味はないのだが……ストリンダーの巨体からさらに攻撃が届かないほどに上空となると今度はこちらの指示が届かない、うちの父親のように見えないほど遠くにいる相手に絆一つあれば指示が届くなんて意味の分からない真似はさすがにできないのだ。というかあれは父さんが完全におかしい。
だがいかにダイマックス状態とは言え、体格的に横に長いジバコイルの上を飛行する程度の高さならばこちらの指示も届く。
そしてその体型的な問題でジバコイルは上を見上げると必然的に下が見えなくなる。つまりこちらの安全性が増すのだ。
「フーちゃん! リーちゃん!」
「「ッッッ!!!」」
こちらの指示に対して両者が応える。尤も距離が遠くその声まではほとんど聞こえないが、けれどポケモンであるあの二体にはこちらの声が聞こえているのだろう、即座に動き出す。
二体が互い違いにジバコイルの上空を旋回し攪乱する。単眼のジバコイルはその動きに目を右に左に回しているが、無機物的生態をしているポケモンなのでまあ普通の生物的なポケモンと違って目を回すということは無いだろう。
そうして上空を飛び回る二体がジバコイルの隙を見つけると同時にそれぞれに技を放つ。
“もえあがるいかり”
“いてつくしせん”
それぞれの技がダイマックスジバコイルに殺到する、がダイマックス状態のタフぶりに阻まれさして効いた様子も無い。
『でんき』『はがね』タイプという極めて優秀なタイプ相性に加えて耐久力の高い種族的能力。さらに巨大個体という特異性によってタフさに磨きをかけ、そこにダイマックスまで加えてしまえば並大抵の攻撃では
本来ならばここに常時体力を回復する力まで持つというのだから、まさに空に浮かぶ要塞……『浮遊要塞』といったところか。
だがすでに足元の『エレキフィールド』は取り払った。
これ以上ジバコイルが回復することはない、ならばいくらタフだろうと攻撃を重ねれば必ず限界は来る。
けれどその前に、当然ながらジバコイルもまた反撃する。
“しょうじゅんあわせ”*3
ジバコイルの
完全に照準を合わせられた、すでに何度と続く攻防の中でそれを察知し、即座に指示を出す。
「リーちゃん!」
指示を受けて
“ダイサンダー”
ジバコイルが放った電撃が空へと吸い込まれて行き……雲間から降り注いだのはほとんど同時だった。
本来ならば回避させようと動くのだが、ユウゼンからもらったデータを見て知っている……あの単眼に睨まれれば『ロックオン』されてしまう。
『ロックオン』は簡単に言えば『相手に向かって技が飛ぶ』ようになる状態だ。
技が相手に向かって飛ぶのは当たり前だろう、と思うかもしれないが通常の場合技は使っているポケモンが『相手の方向に向けて飛ばしている』のだ。
そうではなく『ロックオン』状態というのは『相手に向かって技が飛ぶ』、つまり相手が動いて位置をずらしたとしても技が吸い寄せられるように軌道を曲げて相手へ当たる。つまり自分と相手との間に見えない『導線』を作り出す効果なのだ。
これをされてしまえばどうやっても避けることができなくなる。
例え高速の移動で技を一旦回避したとしてもまるでブーメランのように技が戻って来るのだ。
分かりやすく言えば『ロックオン対象』が技を引き付けるようになってしまう。
つまり一度対象にされてしまえば避ける術はない。
あの強力なダイサンダーをどうやっても回避できない。
ならば当ててしまえばいいのだ。
フーちゃんに当たれば一撃で『ひんし』ラインまで持っていかれたかもしれない攻撃だが。
“フェイクアバター”*4
リーちゃんは場に出た時に分身を『みがわり』として出現させる。
どれだけ強力な攻撃だろうと音技以外の全ての攻撃は『みがわり』ならば一度だけは確実に防げる。
フーちゃんをリーちゃんの『みがわり』を盾にして守る。これで『ロックオン』状態は途切れる。
同時に『ダイサンダー』の効果によって『エレキフィールド』を再度展開することを狙ったのかもしれなかったが、『おおあらし』によってそれは防がれる。
そのことに動揺したのかジバコイルが一瞬動きを止める。
―――そうしてその隙を突くようにさらにボールを投げる。
「ラーちゃん!」
「ギャァォォォ!」
視線が完全に上を向いたジバコイルの隙を突いてプテラ……ラーちゃんが低空飛行で飛び出し素早く近づく。
そしてジバコイルが自らに接近する影に気づき、下を向く時にはすでに技を発動していた。
“ じ し ん ”
『いのちのたま』の効果で自らの『
―――『こうかは ばつぐんだ!』
「―――ッッッッッ!!!」
『でんき』と『はがね』、どちらのタイプにも弱点となる致命的な弱点タイプの一撃にさしものジバコイルも怯む。
いくら耐久力があろうと、弱点タイプの一撃というのはダメージの多寡に限らずポケモンに動揺を与える。
そして何より。
“おおぞらのぬし”*5
―――『きゅうしょに あたった!』
ジバコイルが上に気を取られた隙をついたが故にその攻撃は無防備だったジバコイルの急所を捉え、大ダメージを与える。
いくらダイマックス状態であろうと、4倍弱点を急所にもらっては痛手は隠せない。
無機物染みた悲鳴を上げながらジバコイルがぐらり、と体を揺らす。
「もう一発!」
“もえあがるいかり”
“いてつくしせん”
上空から放たれる攻撃に先ほどまでは小動もしなかったはずのジバコイルが嫌がる素振りを見せる。
それは先ほどまでは気にも留めなかったはずの些細なダメージすらも厭うほどにラーちゃんの一撃が効いてしまっていることを如実に示していて。
どれほどジバコイルが暴れようとも、『おおあらし』によって身動きを制限された今の状態で逆に背を押されたラーちゃんより早く動くことなどできるはずも無く。
「ギャァォォォォォォォォォォ!」
“ じ し ん ”
二度目。放たれた致命の一撃がジバコイルを揺らして……。
「―――ッッッッッッッ!!!」
声にもならない金属音染みた絶叫を上げながらジバコイルが堪える。
それでもまだ倒れない、と言わんばかりにこちらを睨み。
「ピカ様!!!」
“ぎんのらいこう”*6
“せんこうばんらい”*7
“タイプチューナー”*8
“ボルテッカー”
「ピィカァチュウウウゥゥゥ!!!」
背後から弾丸のように飛来したピカチュウの突進が崩れ落ちかけていたジバコイルへとトドメを刺した。
最早気力だけで食いしばっていたような状況で放たれたトドメの一撃にジバコイルが崩れ落ち。
「いまっ!!!」
構えたボールをダイマックスバンドの力によって巨大化させ……投げる。
ボールがジバコイルへと迫り……赤い光がその巨体を包むとそのままボールの中へと吸い込んでいく。
がたん、とボールが一回転。
がたん、とボールがさらに一回転。
がたん、とボールがさらに一回転して。
かちん、とロックのかかる音と共に捕獲が完了した。
誰か大嵐をナーフしろ!!! という話。
いや、『エレキフィールド』さえあればもっと苦戦してたんだけどな。ぶっちゃけ『じゅうでん』+『ほうでん』してるだけで大半の敵は溶けていくし。
ほうでん威力80×タイプ一致1.5倍×じゅうでん2倍×エレキフィールド1.3倍=312
これを毎ターンHP回復しながら撃ってればソラちゃんだってさすがに撤退しなきゃいけないレベルだったかもしれない……だが(そんな展開は)もう無い。
次回、二年近く前にデータ作ったはずのソラちゃんの手持ち最後の一匹が(今更になってようやく)出る予定。
【名前】ラーちゃん
【種族】プテラ/原種
【レベル】120
【タイプ】いわ/ひこう
【性格】いじっぱり
【特性】せいくうけん(『ひこう』タイプの技のダメージや効果を受けず、相手に最大HPの1/8ダメージを与える。相手の特性が『せいくうけん』の時、効果が無くなる。)
【持ち物】いのちのたま
【技】ストーンエッジ/ダブルウィング/じしん/りゅうのまい
【裏特性】『おおぞらのぬし』
相手より『すばやさ』が高い時、技の命中が1.3倍になり、攻撃が急所に当たりやすくなる(C+1)。
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【技能】『きょうらん』
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フリーザーとファイヤーのデータは野生時とそんな変更ないので今回は無し。
あとはユウゼンさんのデータ。
名前:ユウゼン
キャッチコピー:【シルバーライトニング】
【技能】
『ぎんのらいこう』
味方のポケモンが出す『でんき』技の優先度を+1する。相手の回避率(回避ランク、持ち物、特性等)に関係無く攻撃できる。
『せんこうばんらい』
相手より先に技を出した時、味方の『でんき』タイプの技の威力が1.5倍になる。
『タイプチューナー』
味方のポケモンが技を出す時、『こうかはばつぐん』のダメージ倍率を2.5倍にし、『こうかはいまひとつ』の倍率を0.75倍にする。
味方のポケモンを技を受ける時、『こうかはばつぐん』のダメージ倍率を1.5倍にし、『こうかはいまひとつ』の倍率を0.25倍にする。
『システムチート』
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い