ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

73 / 111
番外編③七つの海を越えた者たち

 

 

 

 ガラルというのは実は世界的に見るとやや小さな地方になる。

 

 お隣にあたるカロスが三分割してもまだそれぞれが一つの地方ほどと言われるほどに広大な面積を誇るのに対して、ガラルは一つの地方としては小さな島国だ。

 故にガラル人というのは何百年と前、人が飛行機に乗って世界中を旅するより以前より大海原へと船を出し、七つの海を巡った開拓者たちだった。

 

 大航海時代なんて名前が付けられた当時の記録は今でもガラルのあちこちに残っており、その名残はワイルドエリアにおいても例外ではない。

 

 ワイルドエリア。

 

 ガラル地方の特別自然保護地区であり、『自然そのままの姿』を人工的に残した多くのポケモンたちが生息する場所。

 そう、ワイルドエリアには実に多くのポケモンが生息している。

 

 何せ『地方面積あたりのポケモンの種族数比率』という何の役に立つのか分からないような統計ではガラルは世界一を誇るのだから。

 

 ガラルという小さな島国のさらにワイルドエリアという狭い地域には混沌の坩堝のように数多くのポケモンたちが生息している。

 

 実を言えばその半数以上は『ガラルの在来種』ではない。

 

 いや、最早在来種と呼んで差し支えないほどの時が経ってしまっているが、大本は大航海時代に他地方から連れ帰ってきた個体が繁殖した結果と言える。

 

 そしてだからこそ、と言えるのがガラル地方における『変異種』と『特異個体』の多さである。

 

 

 * * *

 

 

 通常『変異種』や『特異個体』というのはそう簡単に生まれるものではない。

 さらに生まれたとして人の目に触れるまで生き残ることも稀だ。

 

 ある学者の説によれば、現存し人の手によって保護、或いは発見されている『特異個体』の十倍以上の数が自然界に生まれ、そして淘汰されているそうだ。

 

 『特異個体』というのは基本的に種としての異常を抱えているからこそ『特異個体』であり、その歪さから群れに混じることもできず弾かれることも多い。

 『変異種』に至っては種としての根本から変質しているせいで『同族』とすら認識されないことも多々あるのだ。

 そしてまだ幼い生まれたばかりのたった一匹のポケモンが自力で生き残れるほど自然界というのは甘くなく、結果的に生き残り成長し人の目に触れるまでになる個体というのは『運が良かった』か或いは『それだけの才能があった』か、どちらにしても大半の個体は自然の中に消えていくのだそうだ。

 

 だがそもそもの話、どうして『変異種』『特異個体』というのは生まれてくるのだろうか。

 

 一番シンプルな理由が『個体差』だ。

 人の中にも先天性の異常を抱える者がいるように、ポケモンもまた『生まれつき』で異常を抱えるケースが存在する。

 だが結局それも人の中の遺伝子が異常を引き起こしているように、ポケモンの『生まれつき』もまたその『生まれ持ったもの』が原因となるのだ。

 それは言い換えれば才能と言えるのかもしれないが、けれど才能が種としての限界を歪めてしまった結果それが異常となることもある。

 

 有名な例を挙げるならば『色違い』とは一種の『特異個体』と言える。

 単純な体色の変化は生まれ持った色素の欠乏が引き起こす異常であることが大半だ。

 或いは『生まれつき』本来存在しないはずの何かを持っていたが故の変化であることもある。

 

 次に分かりやすい理由を挙げるならば『親』の種族。

 違う種族同士でもタマゴが作れるというのはすでに解明されているが、違う種族同士で作ったタマゴから生まれたポケモンは同種同士でタマゴを作ったポケモンとは『血統』を異にする。

 

 例えば陸棲の『サダイジャ』と水棲の『ギャラドス』がタマゴを作った結果、陸棲の『コイキング』が生まれてしまったように。

 

 そしてさらに分かりやすい理由を挙げるならば『環境』。

 例えば地方全域に特殊な磁場が発生してしまっている結果、タマゴの時から影響を受け生まれたポケモンが本来の種族とは異なるタイプを擁するように。

 

 もしくは『巨大個体』だろうか。

 本来の種族の平均的な全長と比較して1.5倍……或いは2倍以上の巨体を持つ個体。

 これは生来の遺伝子の異常とも言えるかもしれないが、或いは環境の違いが要因となる場合もある。

 寒冷地帯において生物が巨大化しやすいように、または異なる環境で食べる物が異なった時のように。

 

 とはいえこれらは極端な例ではある。

 

 ただ実際問題、同じ種族のポケモンですら『地方』が異なれば微細な差異が生まれるのもまた事実である。

 

 例えば同じポケモンでもある地方では覚えるはずの技を覚えない、もしくは覚えないはずの技を覚える。

 ある地方のポケモンと別地方のポケモンでは同じ種族のはずなのに特性が異なる、など。

 地方ごとに環境が違えば同じ種族ですら差異は生まれる。

 

 そして先も言った通り。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 つまりワイルドエリアに生息するポケモンたちは最早在来種と外来種の区別すらつかなくなるほどに何代も代替わりする中で世界各地のポケモンたちの『血統』をいくつも、いくつも、ひたすらに混ぜ合わせ、煮詰めてしまっているのだ。

 

 その結果どうなったか。

 

 ガラル地方における『変異種』或いは『特異個体』の発生率は他地方と比較しておよそ5倍近いとされる。

 地方としては小さなはずの島国の中で特異化し、暴れ回るポケモンが通常の5倍のペースで出現する、と考えるとこれが中々に厄介であると分かるだろう。

 

 先も言ったが、『特異個体』というのはその異端さ故に大半が環境の中で淘汰されてしまっている。

 故に生き残って人の前に現れる個体というのは一握りに過ぎないのだ。

 だが例え一握りに過ぎない程度の数だとしても。

 その分母が増えれば結果的に生き残る個体の数も増える。

 

 しかも『血統』は今も尚、煮詰まり続けているのだ。

 

 つまりこれからも突然変異は増え続ける。

 否、その増加率はさらに増すだろうことは予測に難くなかった。

 だからこそガラルでは他地方のポケモンの持ち込みが厳しく制限されている。

 種族だけではない、技一つすらも抵触すれば持ち込みを禁止される。

 

 それは何故か。

 

 ポケモンの技とはつまりポケモンの体の構造によって放たれるものであり、ガラルのポケモンに使えない技を使えるということは同じ『種族』と分類されてはいても、違う『血族』だからだ。

 それはガラルの種とはまた別の地方の『血統』を持つ種ということだからだ。

 

 故にガラルはそれを持ち込むことは激しく厭う。

 

 これ以上『血統』を増やさないために。

 増やせば増やすほどに煮詰まっていく『血統』の果てにたどり着かないように。

 

 『血統』の果て。

 

 つまり煮詰まり続けた『血統』の極限。

 

 例えばの話、これが人間ならばあまり関係の無い話なのだ。

 ガラル人とカロス人が子を成したとしてそれはそれぞれの人種のハーフとなるだけだ。

 

 だがポケモンに二つの種族のハーフなどというものは存在しないのだ。

 

 二つの種族から生まれたポケモンは母親の種族でありながら父親の血統……つまり種族の特性を一部得ることになる。

 そのポケモンがさらに他の……同じような別々の種族から生まれたポケモンとタマゴを作れば……これだけで一気に4種族の『血統』が混じる。

 これを単純にクォーターと表現できないのがポケモンという種の強固さ*1であり同時に脆弱さ*2である。

 

 そうして複数のポケモンの『血統』を混ぜ続け、煮詰め続けた結果。それは混ぜれば混ぜるほどに『単一の種』としては歪になっていく。

 その一つが間違いなく『ボマー』と呼ばれる存在だろう。

 あの巨大エアームドを見れば分かるだろう、その生態の歪さが。

 本来ならば単一の種として形作られるはずの自らの体が、複数の種の特徴を混ぜることで自らの命を危機に曝す。

 

 『血統』の果てとはつまりそういうことだ。

 

 自らの炎で自らの身を焼くような、成長過程でそうなるのならばともかく生来の性質からして生きることができないようにデザインされたようなそれは()()として根本的に間違っていると言える。

 そんな混ざるはずの無い複数のポケモンの特徴を持った『特異個体』でも『変異種』でも無い、それは最早『突然変異』ではなく『新生』と呼ぶべき存在。

 つまり『新種』へと至る可能性。

 

 それは良い方向へと転がれば……まあ一つの結果としてはありなのかもしれないが。

 だが決してそれは良い方向ばかりには行かないことは『ボマー』が証明している。

 

 変異するほどに生物として歪んでいく。

 その結果、自力で生きられなくなったポケモンたちが増え続ければ……それは最早種としての根絶に等しい。

 

 『血統』の果てとはつまり、絶滅するか新生するか、その二つに一つでしかないのだから。

 

 

 * * *

 

 

 ―――――オオオォォォォォォォォォォォ!

 

 

 遠方より響く鈍い汽笛のような叫び声に背筋が震える。

 ガラル本土より少し離れた場所に位置する個人所有のはずの島……ヨロイ島。

 島という特性上四方を海に囲まれているわけだが、その南に位置する『ワークアウトの海』に現在『怪物』が襲来していた。

 

 ガラル地方は過去より巨大な怪物の伝承が多く存在していた。

 

 それがダイマックスによるものだと分かったのはここ最近のことだ。

 だがその全てがダイマックスによるものだった……とは限らないのだ。

 何せガラル地方というのは他地方と比べても飛び抜けて『特異個体』や『変異種』が多いのだから。

 

 いくらガラル地方といえど海上にパワースポットというのはそう多くないのだ。

 

 故に海上のポケモンに関してはダイマックスしていないことのほうが多い。

 

 だがそれにしたって、だ。

 

「……いや、ないだろ」

 

 海岸に立ち、遠くに見える影を見つめながら咄嗟にそんな言葉が漏れ出た。

 遠く遠くに見えるはずの影は距離感が狂いそうなほどに巨大だった。

 確か地図によればあの影の手前の島までの距離が大よそ2000メートル程度はあったはずなのだが、その島影は薄っすらとしか見えないにも関わらずその後ろのほうの影はくっきりと輪郭が見える。

 

「なんだ……あれ」

 

 ガラル地方には全18タイプのジムがあってそれぞれ18人のジムリーダーが存在する。

 ジムリーダーの仕事というのはいくつかあるわけだが、その中でもジムリーダーだけに課せられた『義務』が存在するというのはあまり世間には知られていない話だ。

 

 というよりそれはガラルのトップトレーナーたちであるジムリーダークラスでなければあまりにも危険過ぎて任せられないが故に義務だった。

 

 それは世間一般には存在すら知られいない。

 

 それはリーグ委員会の手によって存在を隠されていた。

 

 それを知る者はガラルでも非常に限られていた。

 

 ガラルには毎年多くのバウンティーモンスターが発生する。

 それらは一般のトレーナーたちにも公開され、トレーナーたちの手に負えない時だけジムリーダーなどが出張って事態を解決していた。

 だがそもそもどうしてバウンティーモンスターという制度が求められたのか。

 確かにガラルは『特異個体』や『変異種』の発生率が高く、結果的に環境に馴染めずに暴れるような個体が多かったのも事実だ。

 けれど例え発生率が他地方より遥かに高かろうが、それでも総数としてはどうにでもなる程度の数でしかない。

 ジムリーダーやジムトレーナーたちが出張って行けばいくらでも解決できる程度ではある。

 何せガラルには18人ものジムリーダーがいるのだから。

 

 だとしたら、何故?

 

 答えは純粋に手が足りないからだ。

 

 他地方ならばジムリーダーたちが赴き解決するような事態だが、ガラルにおいてのみそんなことをしていられない事情があった。

 解決の手にジムリーダーを取られたくない事情があった、常に半数以上のジムリーダーを待機させておきたい事情があった。

 例え18タイプ、18人のジムリーダーを揃えても尚、人手が足りない恐れがあった。

 

 

 その答えの一つが視界の向こう側に見える数百年前からガラルを襲う『怪物』。

 

 

 その一体。

 

 

 

 “幽霊船(ゴーストシップ)

 

 

 

 かつてガラルから船出した多くの船乗りたちから恐れられた、七つの海の航海者たちの天敵。

 

 

 それが、今クコが相対することを義務付けられた怪物の名だった。

 

 

 

*1
どれだけ血を混ぜようと必ず母親の種になる、つまり必ず一つの種族が決定される強固さ

*2
どれだけ血を混ぜようと根本となる種までは混じることができない、だからこそ相性の悪い血統が混じると生来の機能にすら不全を起こす強固過ぎて柔軟性の無い脆弱さ




・七つの海の航海者
ポケモン世界に七つの海があるのかは知らないけど、まあガラルってイギリスモチーフらしいし、そういうことにしといて(

・煮詰まった血統
ガラル編書きだしてから『特異個体』と『変異種』ばっか出てきてるのはこういう背景があったんだよー(後付け

・血統の限界
ムーくんことボマーさんを見てもらえば分かりやすいと思うけど『自分の生来の能力で自分の命を脅かしている』みたいなやべーやつらのやべー部分が遺伝してしまうこと。
ムーくんはぶっちゃけソラちゃんに捕まるのが後半年くらい遅れてたら自分の炎で自滅してました。自然に淘汰されてた。で、問題は血統が限界まで煮詰まってしまうとそういう『生命として生きることに影響のあるレベルの生来の能力』みたいなのがバンバン遺伝、或いは持って生まれてしまう。
そんなのばっか野生に増えていったら……まあどんどん個体数勝手に減らして行って、交配が追いつかなくなった時点で滅亡一直線になる。
もしくはそういう矛盾した性質すらひっくるめて『新種』として生まれ変わる可能性もある、あるけどそんなの確率的には奇跡みたいなものなのでほっとくと野生のポケモンが9割9分絶滅しちゃうんじゃね、って状態に陥ってる。

血統限界の失敗例→ムーくん(自滅型)
血統限界の成功例→イズモ編で出そうと思ってたキュウコン(通常キュウコンとアローラキュウコンの交配種で『ほのお/こおり』の通常矛盾するタイプを複合したある意味の新種)

・入国規制
別にそんなつもり全く無かったんだが、血統の煮詰まりについて書いてたら「そういうやガラルって入国規制してたよな、そうかこのタメだったのか」って勝手に符合してしまったからそういうことにしといて。
因みに技まで規制されるのはドールズ世界における解釈として『他の地方の同種に出せない技が出せる』=『その地方特有の血統によって得た能力、或いは器官がある』としているため。要するに種族的には同種と見做されてるけど、実際には地方ごとに分岐進化した亜種と言ったほうが正しい。つまり完全には同一の種じゃないんだよ、ってことで規制されてる。
対象の技を消せば『地方特有の差異』を必要としなくなるから適応力の高いポケモンは基本的にその能力、ないし器官を遺伝させない、つまりタマゴ作ってもガラルの種と同じ種が出来上がる、という解釈。


因みに“幽霊船”さんに関しては本編で出番あるかどうかマジで謎。
一応バウンティとして以前からデータは作ってたけど、海の上のモンスターにソラちゃんが関与することあるの??? って感じなので。

ただどっかでデータ出して読者を白目にさせたいなあとは思ってる。

一つ言うなら設定レベルが178です(尚not超越種)

挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?

  • あったほうが良い
  • ほどほどで良い
  • 無い方が良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。