意外と知られていない話だが、地方の『育て屋』や『預かり屋』というのは正規トレーナー資格を所持していることを条件に、金銭を支払うことで施設を借りることができる。正確には現在使用されていない施設を、だが。
とはいえ何だったらレンタルの予約もできるので2週間くらい待てるのならほぼ確実に借りることができたりする。
どうして、と思われるかもしれないがこういうところでも各地のポケモンリーグが支援していたりするのだ。
というのも最大の理由として
基本的にその地方のポケモンバトルの事情はその地方で完結しがちではあるが、地方交流というものは昔からあるし、地方リーグが統一され統一リーグが作られてからはその傾向は余計に顕著となった。
故に現在のプロトレーナーにとって他地方へ向かって交流試合、或いは招待試合に参加するというのは一定ラインを超えると当たり前に存在する話だ。
まだ去年がリーグ一年目だった私はそれに参加したことは無いが……今年のリーグが終わればそういう話も持ち上がるかもしれない。
それはさておき、他地方で行われる試合に向かうにあたって問題となるのは『育成拠点』だ。
現在のプロトレーナーは自分の在籍するリーグのある地方に拠点を構え、そこで手持ちのポケモンたちに育成を施すのが当然の世界だ。
そんな中、他地方へ向かうということはつまりその間拠点を使用できないということになる。
だが行った先の地方のプロトレーナーは当然自分の拠点があってそれを使用できる。
この場合の対処法として三つ上げられる。
一つは試合直前まで自分の地方の拠点でギリギリまで育成すること。
ただこれは現地入りから試合までの間隔が短く、時差や風土の違いなどに慣れないまま全力を出せないことが多いのであまりプロには好まれない。
故に二つ目、行った先の地方の他のプロの拠点を一時間借りする。
当然交流試合、招待試合にその地方のプロ全員が出るわけではないので、試合に出ないプロの拠点を借りるというのは割と良くある話だ。
けれどそれだってそのプロと交流が無ければ厳しい話だ。
以前も言ったが現代のプロトレーナーは情報流出、漏洩に非常に警戒している。故に見知らぬ相手……しかも同じプロトレーナー相手にいきなり拠点を貸してくれることなど基本的には無い。
で、どちらも選びたくない、或いは選べないトレーナーのために用意されたのは三つ目の選択肢、それが『育て屋』や『預かり屋』の施設レンタルである。
* * *
リーグ委員会としてもこういう育成施設のレンタルは事前に予想されていたのか、ジムチャレンジ中だということを告げると割引されて思ったよりずっと安く施設を借りることができた。
まあ本業が預かり屋のため育て屋ほどの施設の充実は無かったが、それでも無しでやるよりは余程マシな話だ。
そうして育成施設を使ってまずはスーちゃんの基礎能力を確認していく。
その中で一つ気づいたことがある。
スーちゃんは『でんき』タイプだが根本的に発電器官のようなものを持たない。だが図鑑に『でんき』タイプと表記される以上、『でんき』タイプのエネルギーを大量に持っているということになる。
じゃあどうやって『でんき』タイプのエネルギーを発生させているのかと思えば、磁力を操作して電力を生み出しているようだった。
やってること自体は『じばそうさ』の応用のようなものだ。
技として覚えるほど意識的に使えるわけでは無いようだが、ジバコイルの力の影響を受けているだけあってスーちゃんの適性はどうやら『磁力』に関連したものになるらしい。
そうして一通りの能力を確認した後、今度はワイルドエリアへと繰り出す。
比較的弱いポケモンの出る『浅域』でスーちゃんを戦わせてみれば自分からバトルを強く望むタイプではないが、勝つことで私から褒められることでモチベーションを上げるタイプだと分かった。
まあ今はまだ幼く甘えたがりなので成長すればまた変わるのかもしれないが。
とはいえバトルを忌避するような性格でないことは分かったのは大きな収穫だった。
あとはどこまでバトルに真剣に打ち込めるか、それによってプロの手持ちとなれるかどうかは決まる。
要するに苦境にあって尚一歩踏みとどまれるかどうか、そのメンタルこそが最も重要になるのだ。
「スーちゃんは……どうかしらね」
「なーに?」
「何でも無いわ」
いくらかレベルも上がり、能力的にも強くなってきたスーちゃんだが頭を撫でてやれば嬉しそうに目を細める。
まだ少し早いが預かり屋に戻って今度は手持ちのポケモンたちの特訓もしなければならない。
二日三日さぼったからといって別に弱くなったりもしないが、かといって窮屈なボールの中に入れっぱなしではストレスも溜まるだろうし他の子たちとて体を動かしたいだろう。
「帰りましょうか」
「はーい!」
機嫌の良さそうなスーちゃんが背におぶさるの感じながら自転車に跨って移動する。
快速に飛ばせば30分とかからず預かり屋に戻って来れるので建物へ入り、そのまま施設のほうへ向かう。すでに二週間期限でレンタルしているので預かり屋の従業員もおかえりなさい、と挨拶こそすれどそのことに何か言うことも無かった。
手持ちのポケモンたちをボールから出しながらガーくんだけ呼び寄せながら後は好きにさせる。
「というわけでガーくんはちょっとスーちゃんの攻撃受けてみて」
「クラァ……」
簡易のバトルコートの向こう側にガーくんを立たせて、こちら側にスーちゃんを立たせる。
ガーくんはすでにジム戦でも使用できるレベルの一線級のポケモンだ、レベルもすでに120に達し、こうして対面するだけでも圧のようなものが感じられる。
その圧を受けたスーちゃんの様子を伺うが……。
「んー?」
特に何か感じた様子も無くこちらを見ている。
注意散漫になっている、というのもあるのかもしれないがそれでも対面しているはずのガーくんから意識が外れるはずもない、となると案外その辺の圧に鈍感なのかもしれない。
野生のポケモンならば相手の強さを測れない鈍感さは短所になるのかもしれないが、トレーナーという外付けの頭脳がついているプロの手持ちとしてはそれは意外と長所だ。
「前見てなさい、行くわよ」
「はーい」
そう告げれば軽い返事と共に視線がガーくんのほうへと向く。となればもろに圧を受けるはずなのだが身震いする様子も無い……まだまだレベル差は歴然のはずなのに。
思ったより優秀な子に育つかもしれない、そんなことを考えながら技の指示を出していく。
「ガーくんは適当に避けて、当たりそうになったら守りなさい」
対面に佇むガーくんに告げながらさらに技を指示する。
野生のポケモンならともかく、トレーナーのついているポケモンはとにかく動く。
フィールドを動いて動いて自分の有利なポジションへと陣取ろうとするので、こちらも流動的に動きながら攻撃を当てなければならない。
さらにトレーナーは互いの動きを見ながら予測して指示を出す必要も出てくる。
となるとポケモンのほうもトレーナーが指示を出しやすいように動く必要性にかられてくるわけで……トレーナーとポケモンの相性、絆の強さがプロで重要視されるのも当然の話だった。
そういう意味で専用個体のガーくんはある種、それが極まっている。
詳細な指示など一つとしてないのに上手くこちらの意図を察して動いてくれている。
先ほどとて圧をかけろとは言っていないはずなのだが、自分で察してスーちゃんに圧をかけているし。
さらに実戦さながらの動きでスーちゃんを翻弄し、行くぞ、行くぞ、とフェンイントをかましている。
実戦ならばフェイントをかけたタイミングで攻撃が来るだろうか、といった絶妙の間。
お陰でスーちゃんも右に左に振り回されながらも徐々にその技の精度を上げている。
いや、徐々にとはいったが実際凄まじい成長速度ではある。育成事例自体が少ないためまだはっきりとしたことは言えないのだが……。
「やっぱりスーちゃん、天稟持ちなのかしらね」
天稟、或いは天賦でも良い。
ポケモンの能力を『HP』『こうげき』『ぼうぎょ』『とくこう』『とくぼう』『すばやさ』の6種に分けた時、その全てにおいて最高の才を持った個体。
こういう個体は育成している中で『てんぴん』*1や『てんさいはだ』*2という特性を覚えるのが特徴だ。
ありていに言えば『天才』だ。
父さん曰くポケモンの才能は数値的には32段階に分けられるそうだが、『最高』と『最優』の僅か1の違いは天才と秀才を分ける絶対的なラインとなるらしい。
ただひらすらに『天才』だけを10体集めた父さんだからこそその信ぴょう性は高い。
育成によって才能すらも後天的に伸ばすことができる現代において、けれどそれでも『
『種』の限界を超えることができるのは結局天才だけなのだから。
ただしレギュレーションによって能力に規制のかかった現代のポケモンバトルにおいて『天才』と『秀才』に大きな違いはない。
だがそれでも多少の
まあそれはさておき。
スーちゃんは恐らくその『天才』に入るのだろう。
要領が良いとか飲み込みが早いとかそういうレベルで片づけられる成長速度ではない。少なくとも私の予想を三段飛ばしに強くなっている現状、育成プランをもう一度練り直すべきだろうと思うほどだ。
「十日……いえ、一週間で行けるかしら」
予定の半分。今のまま成長し続けるならばそれだけの時間で一先ず育成を止めて進んでいいだろう。
才能はある。
度胸も悪くない。
モチベーションは……まだこれからだが、マイナスも無い。
メンタルさえしっかり整えてやれば予想以上の拾いものとなるかもしれない。
そんな予感に笑みが零れた。
* * *
暗くなるまで訓練を続けた後、まだはしゃぎ足りないらしいダーくん含め数体を一晩預かり屋で預かってもらうことにした。
さすがにプロの仕事だけあって手慣れた様子でダーくんたちを遊ばせていた。
お陰であまりバトルができていないフラストレーションも幾分解消されるだろう。
そうして日もどっぷりと暮れ、ターフタウンに戻ってポケモンセンターの一室を宿にする。
育成訓練が終わってから私にべっとり張り付いて離れないスーちゃんをあやしながら一緒に風呂に入れて一通り洗ってやるとうとうととし始めたのでさっさとベッドに放り込んだ。
「全く……子守も楽じゃないわね」
まだそんな歳では無いのだが、と思いつつまだ実家で幼い弟や妹を相手にしていた頃を思い出して懐かしい気分になる。
ベッドに腰かけてすやすやと一足先に夢の世界に旅立ったスーちゃんの頭を撫でながら明日のスケジュールを確認していると……。
ぽん、とモンスターボールから一体のポケモンが飛び出して。
「クラァ……」
「ちょっと、ガーくん、こんな部屋の中でデカイのが出てくるんじゃないわよ」
全長4m半ほど。最早5メートル近いその巨体が部屋の中で無理矢理体を曲げながら座している光景に何をやっているのだと呆れる。
「クラァ」
「ズルいって何がよ」
「クラァァ……クラァァォ」
「は? スーちゃんばっか構ってる?」
どうやら最近スーちゃんの世話ばかり焼いているせいで、寂しくなったらしい。
「いや、でかい図体して何言ってんのよアンタ」
そういえばコイツもココガラの時から引っ付いていたなあ、と思いだす。
アーマーガアに進化して少しは成長したのかと思ったら我慢していたらしい。
なのに最近はスーちゃんがべったりしているのを見て、ズルいと思ったのだとか。
「あのねぇ……馬鹿言ってないで、さっさと寝なさい。まったく」
部屋にみっちり埋まりそうなほどの巨体をして何を情けないことを言っているのか。
呆れながらもけれどこれもメンタル管理の一環かと嘆息し。
「ほら、これでいいわよね」
かがむようにして突き出した頭を何度か撫でてやる。
『はがね』タイプだけあって触れた感覚が完全に鋼鉄だ。この金属質な体で良く飛べるものだ。
「まったく……もう大きくなったんだから、いつまでも甘えさせたりしないわよ」
そうやって構ってやったことに多少なり満足したのか、ガーくんがボールに戻っていく。
―――
去り際、妙なことを言いながら。
* * *
チクタク、と時計が針を刻む音が不意に耳朶を打つ。
それがポケモンセンターの備え付けの時計だとうっすらと覚醒した意識で思いだし、差し込む朝の光にゆっくりと目を開く。
そうして。
「おはよう、母さん」
視界の中に
「…………」
「母さん?」
「……アンタ、誰よ」
その違和感に気づいた時、意識がはっきりと覚醒する。
「
「うん? そうだけど?」
自身をそう呼ぶ相手を二体だけ知っている。
一体は今もベッドの中ですやすやと眠る小さな少女。
そしてもう一体が……。
「アンタもしかして」
目の前にいる黒髪の少年。
「
その名を呼べば少年が薄く笑みを浮かべ。
「おはよう、母さん」
嬉しそうにそう告げた。
因みに♂の擬人種登場しましたけど、今作に恋愛要素とかそういうのは特にないです。
ガーくんのソラちゃんに対する感情は母親に向けるそれ一色なので。
でもソラちゃんの傍に擬人種の♂がいるってだけでアオくんは大丈夫じゃないかもしれないが……。
因みに因みに、なんでガーくんいきなり擬人化したの? って言われたら『専用個体』だからです。
基本的に『専用個体』は相手のため、を理由にすれば大概のことはできるのだ……。
因みに因みに因みに、スーちゃんはかなり専用個体に近いレベルで相性は良いけど、専用個体ではないです。相性98/100って感じ。
ガーくんイメージ
【挿絵表示】
元になったメーカーサイトが現在無くなっているっぽいのでリンクは無いです。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い