どれだけ悩もうと時間は止まってくれない。
時間が進む以上タイムリミットというものは刻一刻と近づいて来る。
であるが以上、プロトレーナーとして立ち止まり続けることは許されない。
本当は分からないことだらけで、本当にこのままで良いのか、そう思わざるを得ないのは確かで。
けれど悩み続けたところで答えが出ないのならば結局悩んだって仕方ないのだ。
「なんて、逃避かしらね」
嘆息する。いや、自分でも分かっているのだ。
これは結局問題の先送りに過ぎず、何も解決してはいないのだと。
それでも今やるべきことがあるのもまた確かな事実であり……。
「切り替えていきましょうか」
そろそろ次のジムチャレンジへと挑むための時間的制限が迫っていた。
* * *
タイムリミットとは言ってもジムチャレンジ全体で見ればまだ期間に猶予はある。
だが実際まだ攻略が終わったジムはターフジム一つであり、序盤も序盤だ。
その上ですでに二週間近くが経過しているという事実。
推薦組ならともかくチャレンジ組として見るならばすでに遅れ気味と言えた。
とはいえこれに関してはスーちゃんという予定外の育成があったりとで致し方ないと言える部分もあり、最終的に予定よりも戦力の増強も見込めるとあるのでそこまで問題にはなっていない。
問題はさらにその後の予想外のガーくんの擬人化、それに伴う能力の見直しなどによって数日予定外な育成が入ったこと。
ガーくんの擬人種への変貌にまさか育成のやり直しかと頭を抱えたりもしたが思ったほど……いや、はっきり言えば擬人種となったことでの影響というのはほとんど無かった。
元より体躯や重量を駆使した育成は施してなかったこともあってか、寧ろ以前よりも動きが洗練されていたと言っても良い。
結果だけ見ればガーくんが擬人種となったことはプラスに働いたということもあってどれだけ自身が安堵したか、あのいまいち表情の無い小柄な少年は知らないのだろう。
だが想像していたより時間がかからなかったとは言え予定外は予定外だ。
元よりスーちゃんの育成で全体的に詰め気味なスケジュールになっていたのにさらに予定外の事態に時間を取られてしまって、これ以上は本当に余裕が無くなる。
そういうわけでそろそろ完了するスーちゃんの育成の終了を持って次のバウタウンへと向かう計画を立てていた。
「基本的には東に一直線って感じね」
現在地の『ターフタウン』から『五番道路』を東へと横断していき、ワイルドエリアを跨ぐ超巨大な橋を抜けた先の港にあるのが『バウタウン』だ。
そんなバウタウンにある『バウスタジアム』は港町らしく『みずタイプジム』が担当しているらしく、ジムリーダーは『ルリナ』。
「『みず』タイプのエキスパート、やっぱり主軸がスーちゃんになるわね」
妙なタイミングでゲットした今までのパーティにいなかった『でんき』タイプのポケモンだが、初の実戦がいきなりジムリーダー戦というのは少し不安なので道中で慣らしに何戦かバトルしてもいいかもしれない。
さらに言えばスーちゃん以外のパーティの面子も考える必要がある。
面子を組んだら残りの育成期間でその面子もまた対ジム戦のために調整する必要があるのだからジム戦前になって組んでいては遅すぎる。*1
そうして思い立ったがままにスマホロトムの図鑑アプリを起動させ、手持ちのポケモンたちの能力データを表示する。
「スーちゃんと相性が良いってなると間違い無くダーくんなのよね」
ただダーくんはターフジム戦でも出したのでできれば他の面子を使いたい。
あまり過度の情報の露出は避けるべきだが、それはそれとして対人戦における慣れというのはさすがに野生ポケモンとのバトルでは得られないものだ。
特に駆け引き……引っ掛け、フェイントなど細かい動作による翻弄は野生のバトルしか知らないポケモンたちでは対応しきれるものでは無い。
『おおあらし』で動きを制限してしまえばそういったものもついでに封じることができたりするのだが、少なくともジムチャレンジ中に使う予定はない。
「と、なると前回の面子を除いて『みず』タイプ相手に相性が良いやつね」
真っ先に上がるのはキューちゃんだろう。
『みず』タイプを半減できる上にこちらは『ひこう』タイプ技で攻撃できる。
さらにアタッカーのスーちゃんから回すのにクッション役として期待できる。
同じクッション役として育てたチーちゃん(チルタリス)もいるが、『ひこう』『ドラゴン』の同じ『みず』半減のタイプではあっても『みず』タイプのポケモンというのは結構な割合で『こおり』技を覚えるのでキューちゃんより弱点を突かれやすいことを考えて無しにした。
当然キューちゃんにも『でんき』タイプという致命的な弱点はあるが、強力な『でんき』技を覚える『みず』タイプというのも少ないので相手できる幅というのはどう考えてもキューちゃんのほうが広い。
「それに今は『らんきりゅう』も無しなのを考えないといけないのよね」
『らんきりゅう』によって『ひこう』弱点をケアできるのならばチーちゃんも十分に採用できるのだがジムチャレンジ中にそれではさすがにゴリ押しが過ぎる。
タイプ統一のジムリーダーに対してこちらは選出が自由なのだからそこはパーティ選出もトレーナーとしての腕前の一つと言える。
「あとはまあアオがいれば楽なんだけど」
『ドラゴン』タイプで『みず』タイプを半減した上で特殊な特性で『でんき』エネルギーを放出できるアオがいてくれればかなり助かるのは間違いないのだが……。
「楽してばっかりなのも問題よね」
忘れてはならないのはこれがジムチャレンジであること。
つまりジムバトル……勝てるように加減されたジムリーダーが相手なのだ。
確かに推薦枠……新人たちとは違いチャレンジ枠としてそれなりに本気のジムリーダーが相手だがそれでも全力で来ているわけでは無いのだがそんな相手にパワープレイを強行したところでトレーナーとしての実力が伸びるわけが無い。
「ま、そもそもアオのやつ規則で使えないし」
だからまあ居てくれればと一瞬考えるがこの思考も結局は無しだ。
ジムチャレンジの規則によればエンジンジムまでの3つのジムは3対3が基本となるらしいので残りは1枠。
そしてここで重要なのがスーちゃんの立ち位置だ。
先ほどスーちゃん(トゲキッス)を主軸にする、とは言ったが汎用的アタッカーにして最初からガンガン回していくのかそれともエースとして最後に出し渋るのか。
その辺りで話は大きく変わって来るだろう。
といってもスーちゃんの方向性的に出し渋ってもあまり性能を発揮しきれないだろうし。
「となると最後の一体が必要ね」
ジムリーダー相手にスーちゃん一体で全員押し切れるとも思っていない。
何よりまだ実戦経験が少なすぎるスーちゃんなのでどこでボロを出すとも限らないのだ。
となると必要なのはスーちゃんというアタッカーがいなくなった後それを引き継げる相手……。
「ん、これで決まりね」
図鑑に表示された一体のポケモンを見やり、呟いた。
* * *
ポケモンの育成とは模倣から始まる。
そんな風に言われるのは裏特性などの技術を習得させる過程にある。
ポケモンとは極めて適応力の高い生物だ。
進化というポケモン独自の成長能力はその最たるものだろう。
だがそんな適応力の高いポケモンとて見たことも無い技をいきなり覚えろと言われて即座に覚えるなんてことができるわけでは無い。
故にポケモンに技術を仕込むなら大別して二つのやり方がある。
一つが環境を変えることでその技術を自ら閃くように導くこと。
例えばの話、天候が『あめ』の時に発動できるような技術ならば実際に『あめ』の日や『あまごい』などによって天候を変化させ、環境を合わせた状態でその技術を習得できるような練習をする。
その環境下に何度となく置き、ポケモンを少しずつ適応させていけばやがて『あめ』の環境下で発揮できるような技術が生まれてくる。
ただしこれはやや迂遠な方法だ。
確実性に欠けるというべきか。
トレーナーが意図した通りの技術に完璧に適合するものが生まれるとは限らない。
故にもう一つのやり方というのが基本的に使われる。
それが模倣することだ。
同じ技術を持つポケモンを用意して目の前でその技術を見せる。
そうすることによってより的確に、必要な技術を磨くことができ、意図した技術を身に着けさせることができるわけだ。
故にタイプ統一パーティというのは分かりやすい利点がある。
共通のタイプを持つポケモンであるが故に、同じタイプの他のポケモンの育成手腕を流用しやすいということ。そして共通したタイプを持つ他のポケモンを真似ることで育成の難易度を大きく下げ、育成期間を大幅に短縮できること。
逆に言えばタイプをバラバラにしているトレーナーはそれぞれのポケモンごとに流用できない育成を施す必要がある。
それ故に育成を得意とするブリーダータイプのトレーナーでも無ければ数を用意しきれないという難点がある。*2
ただ今回は少しばかり勝手が変わって来る。
スーちゃんは確かに『ひこう』タイプを持っているが、今回主軸となるのは『でんき』タイプの育成だ。
そして残念ながら私は『でんき』タイプのポケモンを育成した経験が無かった。
とは言えこの手の問題はトレーナーをやっていればあるある、と共感するくらいにはよくある話だ。
じゃあそんな時どうするのか、というと大まかには三つに分けられる。
一つはタイプごとの育成についてまとめた参考書のようなものがあるのでそれ読みながら少しずつ手探りで育成していく。
勿論手探りな分時間はかかるが、その過程で得られた経験はトレーナーとして何よりの財産となる。当然無事育成しきれるかどうかは本人の才覚などもあるのでやや安定性に欠けるのが難か。
ただこれはとにかく時間がかかるので今回は無しだ。
二つ目は同じタイプのポケモンと戦わせること。
別にこれは野生のポケモンでも良い。とにかく自分と同じタイプがどういう戦い方をしているのか、自分のタイプをどういう風に生かしているのか、それを知ることでポケモン自身が自然と自分の能力の使い方を身に着けていく。
ただこれもまた難があり、自分よりも戦い方を知ったポケモンと戦うわけなので常に不利な状態で戦い続けることになり、それを補うトレーナーの腕が必要になる。さらに言えばどんな能力を身に着けてくれるか分からないので確実性が無い。
なので最後の手段、三つ目がプロトレーナーとしては一般的になる。
つまり。
「でぇ、私が呼び出されたわけですねぇ」
専門家に頼む、だ。
このガラル地方においてユウゼン……というか各ポケモンジムのジムリーダーというのは同時にトップトレーナーの一人だ。
故に同じジムのジムトレーナーならばともかく、リーグ所属の他のトレーナーに手を貸すなんてことは基本的には無い。
そう、基本的には。
だが例外的に対価と引き換えにプロトレーナーが他のプロトレーナーのために力を貸すことは実は時々ある。これは別にジムリーダーに限らない。
「報酬はスーちゃんの育成レポートで良いのよね?」
「それでオッケーですねぇ。こっちとしてもこんな特異個体の育成に関わる機会なんて滅多にないですしねぇ」
育成の経験とは極論、どれだけ多くの多様なポケモンを育てたか、その蓄積とパターン化にある。
このタイプのポケモンにこんな育成をすればこんな結果になった。という事例の積み重ねをいくつも集めて新規ポケモンの育成の際に過去の事例との類似点や差異点を比較し、どのような育成を施すかを決定する。
故にジムリーダーというのは例外なく本人の育成の不得手に関係無く専門タイプの育成ができるのだ。
過去のジムトレーナーたちが積み重ねてきた育成の経験を集積し、常に見比べることができるから。*3
「まあそれじゃ早速始めましょうか」
「そうですねぇ、こっちも暇というわけでも無いですし」
そうして施設内で半ば遊んでいるような状態のスーちゃんを呼び出しながら。
―――どこまで行けるか、楽しみになってきたわね。
図鑑に表記されたスーちゃんの現在のデータを見やりながら、その将来を思い笑みを浮かべた。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い