「そう言えばぁ、一つお願いがあるんですがぁ」
スーちゃんの育成も完了し、それ以外の子たちの調整も終わったため明日にはバウタウンへと向かおうと思いながら預かり屋で施設のレンタル完了の手続きをしていると先ほどまで共に育成の補助をしてくれていたユウゼンが突然口を開いた。
「お願い? 何?」
さらさらと筆を走らせ、最後に自らの名前をサインすればあとは勝手に支払いの手続きなどを進めてくれるだろう。
手続きのための用紙を受付に渡し、そのままユウゼンと共に預かり屋を出る。
「明日からバウタウンに向かうって言ってましたよねぇ……その前に少し会って欲しい人がいるんですよぉ」
「会って欲しい人?」
「人、と言いますかぁ。まあぶっちゃけて言えば私の双子の妹なんですけどぉ」
「……妹?」
ということはユウゼンは双子の姉、ということだろうか。
何だか親近感を抱いてしまいそうだ。
「その妹さんに何で私が?」
「実はうちの妹、配信者をやってましてぇ」
「配信者?」
確かテレビなどではなくインターネット上にあるサイト『poketubu』*1などで動画配信をしている人たち、だったか。
私自身あまりそう言ったものを見たりはしないのだが、ユウリの家に泊まっていた時はユウリやアオがよく見ていたので自然と目につくこともあった。
「毎年ジムチャレンジの時期になるとこれは、というチャレンジャーに許可を得た上で密着配信やってるんですよぉ」
「ふーん。で? 今年はその中の一人が私?」
「だいたいそんな感じですねぇ。正しくはぁ~今年はソラさんだけですねぇ」
以前にも言ったがプロトレーナーは人気商売であり、マスコミ相手の受け答えというのはリーグに入った時に一通り習ったりする。
つまりそのくらいにはメディアと接する機会は多いので今更映像配信されたところで、というのはある……あるのだが。
「それって私にメリットがあるの?」
どこまでついて来る気かは知らないが、当然ながらトレーナーには他者には隠したい情報というものがある。
特に手持ちのポケモンの情報はバトル以外の場ではできる限り隠しておきたいのが正直なところだ。
つまり密着配信なんてされたら隠したいことも隠せなくなるわけであり、これもまた以前に言ったが現代のポケモンバトルにおいてそういう情報の扱いは極めて慎重になる必要がある。特に安易な情報の流出、漏洩はバトルにおける勝敗にすら直結しかねないのだ。
その辺りのことを同じプロトレーナー……しかもジムリーダーというガラルでもトップ層に位置するはずのユウゼンが知らないはずが無いのだが。
「勿論ありますよぉ? というか、今のままでちょ~っとマズいかもですねぇ」
「どういうこと?」
ユウゼン曰く。
以前にも言った通りスタジアムにおけるポケモンバトルにおいて『盛り上がり』というのは実効力を持つ。
つまり観客を沸かせるようなバトルをすることで会場を盛り上げ、自分たちの力とすることができる。
そしてこの『盛り上がり』というのはそのトレーナーの『ファン』と『それ以外』では当然ながら『ファン』のほうが盛り上げやすいのは分かるだろう。
何せ『ファン』というのは最初からそのトレーナーに注目、或いは期待してくれているのだから。
そしてそんな『ファン』たちは自分たちの『推し』のトレーナーのバトルを客席から応援をしてくれる。
それは一つの『願い』だ。
『頑張れ』だとか『負けるな』或いは『勝ってくれ』だとか。
そんな言葉はファンの共通の願い。つまり『自分たちの応援するトレーナーに勝利して欲しい』という同じ願いの元に投げかけられた言葉の数々だ。
『ねがいぼし』とは、そして『パワースポット』とは『願い』に呼応する。
簡単に言えば『一定数以上のファンを獲得し応援されること』によって『バトル中に有利な効果が得られる』のだ。
しかもこの効果は綱引きのように『ファン数の差』によって上下する。
ユウゼン曰くの【応援】効果。
「これは3:3の勝負だと純粋に盛り上がりが足りないのでまだ発揮されないんですよねぇ。でもぉ~このままジムチャレンジを進めて6:6のフルバトルになった時にぃ、確実にその差は出てきますねぇ~」
「人気、知名度、ファン数……だから配信?」
「ですねぇ~。配信を通してファンを獲得していくこと、ジムチャレンジの中でテレビ中継なんかもありますのでぇ、そちらでもファンを獲得すること、ガラル出身じゃないソラさんにはこの二つは必須だと思いますよぉ」
そう言われるとこちらとしては弱い。
他地方からの参戦故に知名度の低さはどうしても仕方ない部分はある。
だが他地方ならば何も問題無いそれもガラルにおいては弱点となってしまうようだった。
「実際のところ、その応援ってどれくらい変わるのよ」
応援で効力が得られると言われてもいまいち想像ができない。
そんな私にユウゼンが少し考え込み。
「例えばぁ~有名なところで元と現在の両チャンピオンなんてこんな感じですねぇ」
そう告げてスマホの画面をこちらへと向け。
>>【応援】『チャレンジ&チャンプ』
味方の『テンション値』の能力上昇値が2倍になる。
>>【応援】『スーパーダンデタイム!』
『エース』が場に出た時、『エース』の全能力が上がる。
画面に表示された内容に一瞬意識が飛びそうだった。
* * *
ユウゼンの能力について私ははっきりと聞いたわけではない。
なにせユウゼンだってれっきとしたこのガラル地方のトップトレーナーの一人なのだから、当然商売敵となる私に自分の力の底を簡単に見せたりはしない。
けれどまあワイルドエリアでの戦いを通してみればユウゼンの能力が極めて正確性の高い『解析力』を持つことは理解できる。
もっと正確に言えば恐らくは『ポケモン図鑑』の解析能力を極めたようなこと
故に画面に表示されたやたら具体的な効果はつまりそのままの意味なのだろうが、確かにこんなふざけた能力を一方的に押し付けられるとなると不利なんて言葉では済まない。
「これを一方的なんて冗談じゃないわね……まあファンを作ることの意義は理解したわ、けどそもそもジムチャレンジってテレビでも放映されてるはずよね、配信って需要あるの?」
わざわざ手の内明かしてまでろくに視聴者がいません、ではあまりにも意味が無い。
「そこに関しては問題無いですよぉ。というかソラさんの場合は配信のほうがテレビよりファン獲得に向いてると思いますねぇ」
「どういうこと?」
「視聴者の年代の問題でしてぇ。ソラさんみたいな若いチャレンジャーはどちらかというとぉ、年代的に近いほうがファンを作りやすいんですよねぇ」
「そうなの?」
そう言われれば動画配信というのは若い人向けのイメージがある。
実際はどうなのかは知らないが、スマホやPCなどを利用する関係上、テレビより視聴者の年代が若くなる傾向はあることは予想に難くない。
「少なくともぉガラルの場合、テレビって家族で囲んで見ることが多いんですよねぇ。逆に配信は個人で見ることが多くてぇ、その分『自分だけの推し』を見つける人が多いんですよぉ」
そしてガラルにおける視聴者層というのは配信のほうが平均年齢が低いのが事実らしい。
「それに妹の配信ってそこそこ視聴者さん多いんでぇ、ソラさんにとってメリットは結構あると思いますよぉ?」
ユウゼンの言葉に少しだけ考える。
受けた場合、受けなかった場合のメリット、デメリットがそれぞれ頭の中でグルグルと渦巻いて……。
「分かった……一先ず会うわ」
そんな自身の答えにユウゼンが了解ですぅ、と笑った。
* * *
預かり屋の周辺は基本的に何も無い場所だったので指定されたのはターフタウン外周にある適当な喫茶店だった。
まあ預かり屋自体がターフタウンのすぐ近くであり、多少戻ることにはなるが自転車で移動するなら距離的には誤差みたいなものだろう。
尚、場所だけ告げてユウゼンは帰った。
まあ要件はすでに伝えられたしもう用は無いのだから問題無いと言えば問題無いのだが、妹に顔見せもせずに帰るあたり案外ドライなのか、はたまた……?
別に世の中の家族という家族がみんなべったり仲良し、とは思っていないが自分たち家族とはまた違った家族の形を見せられた気がして少し不思議な気分だった。
喫茶店の中に入り、案内に来た店員に先に人を待たせていることを伝え案内された先には一人の少女がテーブル席に座っていた。
ユウゼンより少し色素の薄いピンクブロンドのウェーブヘアに特徴的な黒いリボンをした少女がこちらに視線を向け、少し驚いたように目を開いてすぐに立ち上がる。
「ソラさん、ですよね? 姉さんから聞いてるかもしれませんが、ユウゼンの妹のシノノメと言います」
どうぞ、とテーブルの反対側の席へと勧められるままに座るとユウゼンの妹、シノノメがやってきた店員に注文する。
その横顔を見ながら姉のはずのユウゼンよりも大人びた印象の少女にあまり似てない姉妹だなあ、と内心で呟く。
それにユウゼンのあの独特な間延びした口調とは対照的にこちらはきびきびした喋り方をしているので余計にそう思う。
「ソラさんもどうぞ、私が払いますので、お好きなものを」
あ、ユウゼンの妹だ。と一瞬にして真逆のことを思いながらこちらも適当なドリンクを注文して向かい合う。ユウゼンの時とは違い、突然に強引に押しかけられたわけでも無いので嫌がらせのような大量注文は止めておく。
「改めてまして、今回はご足労いただきありがとうございます。このガラル地方で『
告げてから差し出されたのは名刺だった。
そこにはシノノメの名と自チャンネルのURLが書いてある。
よく知らないが配信者というのは趣味の領域の話だと思っていたのだが、名刺まで用意しているあたりは思ったより本格的なのかもしれない。
「姉から聞いているかもしれませんが、今回は私のチャンネルで毎年で行われている『今年一押しのチャレンジャー!!』という企画でソラさんを取材させて欲しいと思いまして」
そう言って傍にあった鞄から数枚のプリントを出して机の上に並べる。
視線を落としてみれば書かれていたのは『どんな動画を作る予定か』『その動画を作るために何を撮影したいのか』『どのようにして撮影するのか』と言った企画の詳細を記したレジュメだった。
「……思ってた以上にしっかりしてるのね」
「ジムチャレンジに挑戦するチャレンジャーはリーグ登録もされているれっきとしたプロの方々ですから。こちらもその辺りは考慮しながらやっています」
内容に目を通すが基本的に『生放送』はジムチャレンジでのバトルの時のみになるようだ。これはテレビでも普通に放映されているので特に問題は無い。
その他ジムチャレンジ期間の旅に様子や手持ちの育成などは許可を取った上で撮影、映しては不味いものは編集を行った上でこちらに確認を取ってから投稿、ということらしい。
職業トレーナーでも無いのに情報の重要性に関してしっかりと認識しているらしい。まあトップトレーナーのユウゼンを姉に持つのだからその辺りは知っているのだろう。
大まかに目を通し、事前に危険視していたような情報漏洩の可能性はかなり低いように見える。
「こちらとしては大分気を使ってもらってる感じでありがたいけど、こんなので動画を出して面白いのかしら?」
「えぇ! そこは保証します。やはり皆さんプロトレーナーの日常風景だけでも十分に刺激的ですし、ジムチャレンジャーの旅風景ともなればどんな些細なことでも見てくれます」
まあ後は勝ち上がってくれればもっと良いのですが、と苦笑するシノノメ。
まあ資料を見た限りでは十分こちらの許容範囲内だ。
そしてユウゼンの言う事を信じるならばこちらにもメリットは多大に存在する。
あちらのメリットがどれほどのものかは私には分からないことだが、向こうからこちらを選んだ以上その結果もまた向こうの問題だ。
総評するならばこの話は受けて損は無い。
ただ一つ、不思議なことがあるとすれば。
「どうして私なのかしら?」
つまりそれだ。
言っては何だが私は地元ホウエンでならともかくこのガラルにおいて無名に等しい。
知名度も無く、実力も知られていない、当然注目もされていない。
だから最初は動画と言っても複数いるチャレンジャーの中の一人くらいだと思っていたのだがユウゼンにも否定されたように例年はともかく今年は私一人らしい。
別に私はその道のプロというわけでは無いので動画配信についてお世辞にも詳しいとは言えないが、それでもこの条件で私が選ばれるというのは中々に違和感を覚える程度には不可思議な話だ。
そんな私の問いにシノノメが予想外のことを聞かれたと言わんばかりに硬直し。
「あー、え、えっとですね」
どことなく気まずそうな表情で頬を掻き。
「あまり有名じゃないからこそ他の配信者とかテレビとかに先を越されないから、とか。お姉ちゃんが実力は確かだって言ってたから、とか。チャンピオンのポケッターのせいで密かに名前が知れ始めてるから、とか色々理由はあるんですけど……そのですね」
困ったように苦笑し。
「実は私、ソラさんのファンなんです」
―――そう告げた。
というわけで多分、恐らく、予定では、今のところ、ガラル編において最後の独自システムとなる【応援】効果公開です。
因みにこれヤローさん編でも発動してました。
3:3じゃ発動しないとか言ってたけど盛り上がればちゃんと発動します。
正確には通常の大会とかの3:3じゃ発動しないけど、ジムチャレンジ補正でみんなの注目が集まり期待が高まり、願いが強まっているので3:3でも発動する。
因みに因みにファン数で強弱変わるみたいなこと言ってたけど、データとしては特に変動しません。
いや、互いのファン数の差とかで変わることにしようかとも思ったけど余りにもバトルの処理が面倒になるので……。まあフレーバーみたいなものだと思ってもらえれば。
最後にユウゼンちゃんの双子の妹、シノノメちゃんです。
【挿絵表示】
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い