バウスタジアムにおけるジムミッションは『通路を塞ぐ水の迷路』だ。
迷路と言っても壁が無いので通路をどういう順に辿ればどこに着くのかは普通に見える。
ただし途中途中に滝のように降り注ぐ大量の水が通路を塞いでおり、これをジムトレーナーたちが守るスイッチを操作し滝の位置を切り替えながら進んでいく一種のパズルにもなっている。
これを制限時間内にゴールにたどり着けばクリアだ。
ターフスタジアムの時と違ってスイッチ操作のために必ずジムトレーナーを倒さなければならない仕様となっているのだが、このジムトレーナーというのが中々に手強い。
チャレンジ枠の相手というのは基本的にジム側もかなり本気を出してくるようで全員がレベル100以上のポケモンを駆使する準トップ層とでもいうべき相手ばかりだった。
ただしそれらトレーナーは『ジムトレーナー』、つまり『ジムリーダー』たるルリナの下で鍛錬に励んでいる以上ルリナの影響を大きく受けている。
さらにステージのギミックなのかバトル中は常に『あめ』が降っている状況下でのバトルはルリナ戦の予習としては十分過ぎる意味を持っていた。
それらを突破すれば前回と同じく午後のジムリーダー戦までポケモンたちの回復と休息……なのだが、その前に行くべきところがある。そうジムの備え付けのシャワールームだ。
バウスタジアムのジムミッションはその性質上どうしてもジムトレーナーもチャレンジャーもびしょ濡れになってしまう。
いやそれ自体は受付時に聞かされていたので着換えは当然用意してあるのだが、それでも肌に張り付く濡れた衣服の不快感は酷いもので、ジム側もそれを想定して備えつけのシャワールームを解放していた。
濡れた衣服を乾燥機にかけながら熱いシャワーを浴び、全身がさっぱりした気分になれば持ってきた衣服に着替えてさっぱりした気分になればターフスタジアムの時と同様にスタジアムの食堂にやってくる。
食堂内を見渡せば隅のほうの机に座るシノノメの姿を見つけた。*1
「お疲れ様です、ソラさん」
「シノノメも、席取っておいてくれたのね、ありがとう」
荷物を置いて確保してくれていたらしい向かいの席に座りながらジムミッションで散々動き回って空いた小腹を満たすために適当に注文をする。
そして料理が来るまでの合間にテレビ中継されているジムミッションの様子を呆れながら見やる。
ターフジムの時も思ったがこのジムミッションで失敗するようなチャレンジャーというのはどうやってもいるらしい。
今回の場合、落ち着いて順路を確認しながら進んで行けばいいだけなのだが、制限時間のせいで焦ってしまい、バトルでもミスして余計なダメージを負ったり、スイッチの操作を誤ったりでタイムアップになる、なんて新人トレーナーが数人いた。
このジムに挑んでいるということはヤロー戦で勝利しているはずなのだが、どうにも余裕がないように見えるのは何故なのだろう。
「それはソラさんに十分な経験があるからこそ言えることだと思いますよ」
そんな私の疑問に答えたのはシノノメだった。
「時間制限から来る焦りは咄嗟の状況判断を狂わせます。経験を積んだベテランならまだしも今年トレーナーになったばかりの新人にそれを期待するのは酷だと思いますよ?」
「そうは言っても正規トレーナー資格取ってるんだし最低限の実力はあるんじゃないの?」
準トレーナー規制令*2の発布によって現在プロトレーナーと呼ばれる人間は須らく十二分な知識とある程度以上の能力を保証されているはずだ。
「あれだってメインはペーパーテストです。内容が実戦的なものを多分に含むので錯覚しがちですが、試験対策の書籍があるのでそちらをしっかりと読み込んでいれば経験
「そんなトレーナーいる?」
確かに正規トレーナー資格取得のためには難解なテストに合格する必要がある。
それは当時のエリートトレーナーたちの経験を詰め込んで作った極めて実戦的な内容であり合格できればそれだけである程度の実力を見込めると言われるほどの難易度だったらしい。
それから時は過ぎ、地方リーグの統合によってプロトレーナーという『職』の誕生によって内容に幾分かの変化はあれど難易度の変化は無かった。
故にトレーナーになるためには大まかには二つの道しか無かった。
一つは公認スクールを卒業しテストをパスする方法。これはスクールの卒業試験がある種の正規トレーナー資格のテスト代わりとなっており難易度的には対して違いが無いが故の措置だ。
そしてもう一つがポケモンの保有資格だけ取り地方を旅するなどしてトレーナーとしての経験を積んでからテストに挑むこと。
テストの内容に実戦的なものを多分に含むが故に実際にトレーナーとしての経験を積むことで勉強するまでも無く理解できる部分も多い。
一応シノノメの言うようにテストの対策本のようなものが一般に売られているのも事実だが、はっきり言ってそんなものを読んでトレーナーになっても何の意味も無い。
なにせトレーナーになったとして肝心のポケモンバトルは座学じゃないのだ。
「それは多分ソラさんにとってトレーナーという存在が身近だったからだと思います。普通の人にとってプロトレーナーは憧れや夢の類、プロトレーナーになった後、なんて思い描ける人は早々いませんよ」
「そんなものかしらね……」
よくわからない、そんな私にシノノメが苦笑する。
私にとってプロトレーナーになることは目的の途中だった。
最初からチャンピオンという明確な頂点を目指していた私にとって正規トレーナー資格を取ってリーグトレーナーになるのは前提に過ぎない。だからわざわざトレーナーになるためのテストの対策なんてしなかった。そんなもの受かって当然、逆に受からないのならば今の自分はまだトレーナーに相応しくないというだけの話なのだから。
だがシノノメ曰く、一般的な人間にとって『プロトレーナーになる』というそれ自体が一つの目標になり得るのだそうだ。
プロトレーナーになること、それ自体の敷居の高さがそう思わせているらしい。
まあトレーナーの部分を他の言葉に置き換えてみれば多少イメージできなくもない。プロスポーツの選手だとかプロの料理人、或いは芸能関係だとか。
そう考えれば私のように幼少の頃から明確にプロトレーナーになるための下積みを続けているような人間は少ないのだろう。
そしてだからこそ一年目の新人にそれを要求するのも酷というシノノメの話も……まあ分からなくも無かった。
「でもユウリも確か座学で資格取ったはずだけどジムミッションなんて遊びみたいなもの、って言ってたわよ?」
まあユウリの場合、トレーナーになると決めたのが私と別れた数年前のなので基礎的な部分の勉強だけで手いっぱいだったのは仕方ないのだろうが。
「あの……例外中の例外みたいな例え出してくるの止めません? その人一年目の推薦枠でそのままチャンピオンになった現ガラル最強のトレーナーなんですけど」
「まあユウリの場合、要領が良いから確かに例外か……」
昔からユウリはとにかく飲み込みの早い性質だった。
トレーナーになってからの僅かな期間での経験からメキメキと成長していったのだろうことは想像に難くない。
「というか噂には聞いてましたが、チャンピオンのユウリさんと幼馴染というのは本当なんですね」
「噂? よく分からないけど、そうね。ガラルに来る前のユウリはホウエンで近所に住んでいたからその頃からの友人ね」
「なるほどなるほど、昔のソラさんやユウリさんの話というのは興味がありますね」
「……まあ、今度時間があったらね」
是非よろしくお願いします、なんて笑顔で告げるシノノメから視線を逸らしながら壁にかかった時計を見ればそろそろ全員のジムミッションが終わる頃合いだった。
順番を考えればジムリーダールリナとのバトルまで二時間とかからないだろう、それを考えれば今の内に用意した資料に目を通しておくべきかもしれない。
そんなことを考えていると先ほど注文しておいた料理が運ばれてきて。
「……これ食べたらにしましょうか」
考え事は後回しとばかりにフォークを取った。
* * *
そうして時間は過ぎて行き、やがて私の順番が来る。
頑張ってください、と。
応援してしますから、と。
そう告げて別れたシノノメに見送られながら関係者用の通路を進んで行けばやがて開けた場所に出る。
轟音がごとき大歓声に僅かに眉をしかめながらもバトルフィールドの中央へと進んで行けば反対側の入口から一人の女性がやってくる。
ガラルでは珍しい焼けた黒い肌にやたらと露出の高いトップスとパンツのユニフォームを着たその女性……このバウスタジアムの主であるルリナがフィールド中央を挟んで私の反対側に立つ。
「よくぞいらっしゃいましたチャレンジャー! 私はルリナ」
腕を組みながらピンと背筋を伸ばし立つその様はどこかスタイリッシュであり、彼女がこのガラルにおいてモデル業を兼業しているという事実を納得させるものがあった。
「なんでもチャンピオン推薦のチャレンジャーだとか、ジムリーダーの間でも噂になっていますよ」
ぶっちゃけて言えば、格好いい。
私の憧れの最たる母さんとはまた違った様ではあるが、こういう背筋を伸ばした格好いい女性というのは正直憧れる。
「その実力の程がいかほどか、私に見せてください。もっとも、私と私の自慢の パートナーが全て流し去ってしまうかもしれませんが」
そんなことを言いながらルリナが不敵に笑みを浮かべ、ボールを掲げる。
そんな相手にこちらもまた笑みを浮かべ。
「上等! まとめて吹き飛ばしてあげる!」
ボールを掲げ、互いに投げた。
―――ジムリーダーの ルリナが 勝負を しかけてきた!
「行くわよ! リーちゃん!」
「行って! ドヒドイデ!」
互いが投げたボールからポケモンたちが飛び出す。
「フォォォェェェェ!」
こちらのフィールドにはガラルフリーザーのリーちゃん。
そして。
「プェプェ~!」
シノノメの読み通りのドヒドイデ。
「っ、なるほど。珍しいポケモン持ってるじゃない」
前回のヤロー戦に続き飛び出したフリーザーというガラルでも非常に珍しいポケモンに観客がどよめく。
同時にさすがジムリーダーというべきか、ガラルでも滅多に見かけないはずのフリーザーのタイプを知っているらしく苦々しい表情をする。
リーちゃんことガラルフリーザーのタイプは『エスパー』と『ひこう』。
そしてドヒドイデのタイプは『みず』と『どく』。
つまりこの時点で相性負けしていると言って良い。
さらには―――。
“フェイクアバター”*3
場に出たリーちゃんがその場で
『みがわり』を盾にしている間はこちらのポケモンは状態異常にならない。つまりドヒドイデ得意の『どくどく』もこれで封じられる。
そう考えた時、スタジアムの上空が雨雲に包まれる。
“スタジアム効果【バウスタジアム】”*4
やがてぽつりぽつりと『あめ』が降り出し、同時にドヒドイデが鳴き声を上げる。
―――少し元気になった?
ドヒドイデの様子を観察しながらそんな感想を抱く。
同時に恐らくユウゼンの言っていた『テンション』とかいうやつだろうと予想をつける。
ユウゼンの言う通りならばあれで全体的な能力も僅かながら上昇しているのだとか。
―――削り切れるか?
と僅かに不安に思うが。
“シックスセンス”*5
きらり、とリーちゃんの視線が光り、集中を高めたリーちゃんがドヒドイデを睨みつける。
―――否だ。
不安を消し去るようにぶん、と頭を振って。
―――
「リーちゃん!」
「ドヒドイデ!」
互いが互いのポケモンの名を呼び、そして私はリーちゃんに向けてボールをかざす。
「
ボールから赤い光が放たれリーちゃんを包むとボールの中へと収める。
「なっ!?」
『みがわり』や『タイプ相性』という利点を全て消し去るような愚行にルリナが驚きの声を上げる。
だがすでに指示は終わっている、ドヒドイデがその身を固め、防御の態勢を取る。
“トーチカ”
ガラルらしい、と言えばらしい指示。
だが同時にそれは消極的な指示でもあった。
「スーちゃん!」
投げたボールから飛び出してくるのは一人の少女。
「はーい!」
ボールから飛び出す勢いのままにその全身から『でんき』エネルギーが弾ける。
“ジェネレーター”*6
“じりょくどうせん”*7
“しっぷうじんらい”*8
“ か み な り ”
放たれた雷撃が身を『まもる』ドヒドイデの守りすらも貫いてその身を焼き焦がしていく。
「―――ッッッ!」
悲鳴にすらならない絶叫を上げながらドヒドイデが崩れ落ちる。
同時にルリナがドヒドイデをボールへと回収し。
「……やられたわね」
悔しそうに歯を軋らせた。
『あめ』の中かみなりは必中!
まあそれなくても普通に命中100なんですが。
全データ公開はルリナ戦後。
【名前】スーちゃん
【種族】トゲキッス/擬人種/変異種/特異個体
【レベル】110
【タイプ】でんき/ひこう
【性格】おくびょう(イタズラが好き)
【特性】しっぷうじんらい(自分が『でんき』技を出した時、味方と交代する。行動前の味方と交代して場に出た時、『でんき』タイプの技を出す。)
【持ち物】じしゃく
【技】エアスラッシュ/カレイドストーム/かみなり/じゅうでん
【裏特性】『ジェネレーター』
持ち物が『じしゃく』の時、特殊攻撃技の威力が1.3倍になり、場の状態が『エレキフィールド』の時に自分が発動できる技や効果を発動できる。
味方と交代して場に出た時、『じゅうでん』状態になる。この効果は1度だけ発動する。
『じゅうでん』状態の時、自分の『でんき』技が相手の『まもる』状態を解除して攻撃できる。
【技能】『????』
【能力】『じりょくどうせん』
持ち物が『じしゃく』の時、自分の技の命中が1.5倍になり、相手が交代する時、交代前の相手を攻撃できる。
『じゅうでん』状態になった時、自分の『とくこう』を上げる。
【備考】色違い。6Ⅴ。
さすがに化け物過ぎたので交代時に『じゅうでん』状態になるは1回だけにした。うん、化け物過ぎる。
因みにここまで化け物なのはちゃんと理由ある。前にあとがきで書いたけど、このトゲキッスちゃんは色違い+6Vに加えて『ほぼ専用個体』。つまりソラちゃんとの相性ばっちり、なのでガーくんほどじゃないけどソラちゃんの理想通りに育ちやすい。みたいな設定がある。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い