ざあざあという耳鳴りにも似た音、それにぽつぽつと窓を叩く小さな物音に目を覚ます。
昨日のジム戦の疲労を僅かに残しながらも起き上がって窓の外を見やればどうやら今日は雨らしい。
「まあちょうど良かった、と思っておきましょうか」
やはりプロとの本気バトルというのは相応に心身が削られるので元より今日は休養の予定だ。
本当はヤロー戦の翌日も休養に当てる予定だったのだが、ユウゼンからの依頼があったので仕方ない。
それにヤローとのバトルは選出の噛み合いなどもあり、比較的優位のまま進んだので疲労もそれほど溜まることは無かったのもある。
そういうわけで今日は一日部屋で次のジムチャレンジのための情報収集とパーティ編成でも考える時間としようと思う。
時計を見れば時間的にはいつもより少し遅いくらいの時間。
まあ昨日はシノノメに付き合って遅くまで配信していたし、その後はその後でユウリと長電話していたのもある。
「全くユウリのやつ……次に会ったらただじゃおかないんだから」
不特定多数の人間が見る場で個人情報漏らしすぎである。
それ以上にトレーナーのパーティ情報が零れ出るのはさすがにアウトだ。
まあ今頃リーグ委員会の人間にみっちり怒られているだろうし、アオに関してはどうせファイナルトーナメントまで使うつもりは無かったので良しとする。
「それに……そもそもユウリには知られてることだしね」
ジムチャレンジの最終目標は全てのジムリーダーを倒しジムバッジを集めセミファイナルトーナメントで全てのチャレンジャーを降し、そしてファイナルトーナメントで勝ち抜いた先……つまりチャンピオン戦で勝利することにある。
その肝心のチャンピオンにすでにアオのことは知られている以上、正直その情報価値はすでに大分低い。
勿論ユウリ以外に知られているかいないか、というのは全く関係ない……とは言わないが、それほど神経質になるほどのことでも無かった。
「ま、それはそれだけど」
だからと言って他のプロトレーナーのパーティ事情を公共の場で口にするのはさすがにマナーが悪いのでユウリへの説教は昨日からまだまだ続くだろうが。
「ん……? ああ、そろそろいい時間ね」
母さんも愛用のワンピースタイプのパジャマを脱ぎ、いつものシャツに着替え……ようとして、どうせ今日は部屋にいるのだからと以前にユウリと街をぶらついた時に買った私服に着替える。
時間的にはいつもより遅めの起床だったからかすっかり空腹感を覚えるお腹に朝食でも食べに行こうかと部屋を出た。
そうして自身が部屋を出たのとほとんど同時に隣の部屋の扉が開く。
隣の部屋はシノノメが取っているので当然そこから出てきたのはシノノメなのだが……。
「えっと、シノノメ?」
「あ……おはようございますぅ、ソラさぁん」
「アンタ、その……大丈夫?」
生気のない青い顔をし、意識が朦朧としてそうな虚ろな目をしながら姉みたいな間延びした喋り方をしているのはさすがに口に出さずにはいられなかった。
「あはは……配信の後にショート動画や切り抜き編集なんかを作ってたら徹夜になっちゃいまして……ふふふ、それにしても今日はいい天気ですねぇ」
「外思いっきり雨だけど」
何かもうダメそうな気配がプンプンするのだが、本人の朝食を食べたら休みます、という言葉を信じて共に食堂に向かい朝食を済ませる。
「ガラルって朝は基本パンよね……未だに慣れないわ」
「そうなんですかぁ……?」
「ホウエン、というよりは実家だと朝はご飯が多かったしね」
特にこだわりの無い1人を除いて親がみんな朝食はパンより米派だったので仕方ないことだ。
別にパンがダメだというわけではないのだが、習慣というべきか何となくパンばかり食べているとご飯が欲しくなってくる。
カレーライスが流行っているようにガラルでも米食はあるのはあるのだが、どうにもシンプルに白ご飯で食べるという文化が無く、一品物の料理として何がしか調理されて出てくることが多い気がする。
「サンドイッチも嫌いじゃないんだけどね」
「…………」
「シノノメ?」
「……くぅ」
食べてる間、眠気覚ましに何か話でも、と言ってきた当人の反応が無くなったことに気づき見やり、トーストにかじりついたまま船を漕いでいるシノノメに嘆息した。
* * *
次のジムチャレンジは『エンジンジム』となる。
ジムリーダーはカブ。同じホウエン出身らしい男性ジムリーダー。
ムーくんの育成においてかなり世話になったことから分かるように専門とするタイプは『ほのお』だ。
―――ぶっちゃけた話『おおあらし』を展開すればメインとなる『ほのお』技が軒並み封殺されるのでほとんど消化試合になる。
ただしそれをやったところで貴重なトッププロとの一戦がまるで成長に寄与しないとかいう無駄極まり無いことになる。あくまで自分はチャンピオンを目指しているのであって、ジムチャレンジに勝ち進むこと自体は最低条件に過ぎないのだ。このガラルのトッププロとの一戦で得られる経験はユウリとの戦いにおいて非常に重要なものとなるのは間違いない以上そんな無駄なことをしている余裕はない。
ポケモンの育成とはトライ&エラーの繰り返しだ。
構想を持って育成し、バトルで実践し、理想と現実の差異を反省して得られた知識と経験でまた育成する。
対策は常に行われ、だからこそ対策の対策はいつだって要求され続ける。
「昨日のバトルは反省が多かったわね」
特にあのアズマオウ戦は非常に反省が多かった。
よくよく考えればガラルは居座りスタイルが主流なのだから、火力の足りないポケモンが居座るなら『耐久力』か『回避性能』のどちらかが必要になることは分かっていたはずだ。
「スーちゃんでも捉えるのに苦労すると思わなかったわ」
スーちゃん……特異個体の色トゲキッスには磁力を使った技の導線を作ることで命中率を上げる術を仕込んだのだが、それでも回避されたとなるとアズマオウがさらに回避をあげていたか、もしくは……。
「私の未熟ってことかしらね」
ポケモンの技の命中率は技自体の命中率とは別に
相手との距離、フィールドの状況、戦況、相手の動き、そういったもろもろを加味しながら『当てれる』タイミングでトレーナーが指示を出す。逆に相手のトレーナーもまたこちらの動き、距離、状況、そういったもろもろを加味しながら『避けれる』タイミングを教える。
クルクルと攻守が入れ替わるフィールド、十秒にも満たない時間の中で2,3秒の溜めを必要とする技をそうやって当てあうのがポケモンバトルという競技なのだ。
磁力導線による技の誘導とアズマオウの回避能力は互いの強みを消し合っていたと思う。
その上で当てられなかったのは私の指示が下手で、ルリナの指示が上手かったということだ。
「いえ、もっと言えば技のチョイスが悪かったかしら?」
『カレイドストーム』は『フェアリー』タイプ最強クラスの特殊攻撃技だが同時に命中率は『だいもんじ』と同じくらい。
プロの間では『乱数が悪い』だの『クソ外し』だの『はいはいワロスエッジ』と言われるいわゆる運悪く外れてしまった、というよくある話でもある。
その命中率の不安定さを補うための磁力導線だったのだがアズマオウの回避の上昇に上手く相殺されてしまった、という状況。
「やっぱり必中化……いやでもうーん、できるかしら?」
恐らく『でんき』技に絞れば必中化もできる、がそれだと『でんき』無効の『じめん』タイプや『でんき』タイプ吸収系の能力を持つポケモンたちに対して対処に困ることになる。
実際アズマオウという『でんき』を吸収する能力を持った実例があるのでそれが必ずしも正解とは言えない。
「いっそ必中技を1つ入れておくというのも選択肢よね」
スーちゃんの特異なタイプを加味しても候補は威力もあって攻撃側のタイプが優秀な『はどうだん』。
もしくは『でんき』技を無効化してくる『じめん』タイプ対策となる『マジカルリーフ』。
『ノーマル』という育成で改良しやすい、その上で多くのタイプに等倍で当たれる『スピードスター』あたりだろうか?
一応『はがね』タイプの『スマートホーン』や『ひこう』タイプの『つばめがえし』もあるが『こうげき』能力の低さを考えると採用価値は無いに等しいだろう。
「もうちょっとしっかり育成時間が取れれば『ぼうふう』覚えさせるのもいけそうだけど……」
スーちゃんは生まれの特異性のせいか、私の力に適応力が非常に高い。
多分2,3カ月しっかり時間を取って育成すれば『ぼうふう』だって覚えることもできるだろう。
『おおあらし』を展開して『おいかぜ』状態のポケモンが上から必中の『ぼうふう』を叩き込む。まだバトル経験の足りない私が去年ホウエンリーグを勝ち抜くために作った必殺パターンである。
「でもそんなに時間が無いのよねえ」
残念ながら3か月も育成していたらジムチャレンジが終わってしまうのでこの案は無しだ。
先に挙げた技の調整だけならそれほど時間も取られないので今後対戦する相手の専門タイプなどに合わせて適宜調整する形にしておく。
「他に気になる点と言えば……クッション役かしらね」
クッション役、つまり受け。
要するに相手が攻撃してくる時、味方を交代して代わりにダメージを受けてくれるポケモン。
前回で言えばチーちゃん……チルタリスが該当する。
あとはキューちゃん……ペリッパーもそうだし、多少毛色は違うがリーちゃん……フリーザーもそうだ。
「リーちゃんはまだ良いけど、チーちゃんとキューちゃんだと圧が足りないのが気になるわよね」
受け役はその名の通り、攻撃を受けるのが役割。つまり耐久力にリソースを多く割いている。
さらに自分のパーティではそこに『バトンタッチ』効果を持たせているので攻撃面での圧がどうしても足りなくなっているのを感じた。
圧が足りないが故に相手に自由に動かれるのは困る。確かに必要な役割ではあるのだが『どうせ一撃では落とされない』と割り切って積み技でもされれば一気に不利になる展開だってある。
とは言えこれはコンセプトとして決して間違いではないのだ。
要するにスーちゃんやダーくんのような『攻撃したら味方と交代する』と『味方と交代した時に技を出す』の動きを組み合わせ動かすことを前提としているから。
ただそれができるのはスーちゃんとダーくんの2体だけなのが問題なだけで。
「互いに3体しか使わないのもやや逆境なのもあるわよね」
3:3のシングルバトルにおいて、役割被りというのは大きな問題になる。
例えばリシウムのような『おいうち』効果を持たせたポケモンがいれば両方が引っかかることになるのだから。
「これは私の取り回しの問題かしら? 6:6なら解消される?」
ただドヒドイデ対面でのスーちゃんへの交代からの『しっぷうじんらい』による一撃は完全に決まっていた。
あの動きは割と理想ではあったのだが……。
「一回見せると警戒されるかしら?」
まずもってガラルにおいて『交代戦術』というものが珍しい、故に今までのガラルではあまり対策されてこなかったのだが、一度見せた以上次もあるという前提で考えるのがプロトレーナーだ。
交代際の攻撃は次戦う時にはこれほど綺麗に決まることは無いと考えたほうが良いかもしれない。少なくとも一度見せた時点で奇襲性は大きく薄れてしまっている。
「ひとまず問題点はこのくらいかしら?」
力押しで押しまくったヤロー戦とは異なり、サイクル戦で優位を取りにいったルリナ戦のほうがどうしてもパーティの使い方が複雑化する。故にその反省点も多くなっていた。
「それから……次のジムチャレンジの対策もしないとね」
先も言ったが次のジムは『ほのお』ジム。
手持ちでタイプ的に有利を取れるのは
「まあキューちゃんは確定でしょうね」
特性『あめふらし』によって『ほのお』技の威力を軽減するキューちゃんは最適解と言えるだろう。
それに『ほのお』ジムならば『ひでり』*1持ちもいるだろうし、それに対抗するためにもキューちゃんは入れておきたい。
さらにメイン技の『なみのり』で弱点を突けるウーちゃんも採用候補だ。特に『なみのり』で味方と交代できるのは明確な長所だ。
ラーちゃんは物理偏重な点を考えると『やけど』に対するケアが必須となるだろうか?
『ほのお』タイプならば『おにび』はメジャーな技だ。『こうげき』が半減する『やけど』状態は『ほのお』タイプの十八番だろう。
アーくんの場合相手にほぼ関係無く一定のダメージが期待できる。速度のあまりに裏特性も技能もすり抜けて攻撃できるのはあまりにも強い……がシンプルに火力不足の可能性がある。特にダイマックスエースを弱点をついても一撃で落とせるかどうか悩ましい。
正確には
それにどちらも『ほのお』タイプに対する有効打が乏しいという難点もある。
いや、ムーくんなら『ひこう』技で攻められなくもないのだが。
「キューちゃんとウーちゃんは確定……いやでも同じタイプで弱点が被ってるのは……でもラーちゃんはラーちゃんで……」
考えども考えども思考はまとまることも無く。
半日寝てすっきりした顔のシノノメが
しばらくジェネシスお休みでこっち書きます。
取り合えず中途半端で終わってるこっちを区切りのいいとこまでやりたいので。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い