「すっかり日が落ちてきたわね」
「まあ歩いてそんなに時間かからないし、大丈夫だよ」
「付き合わせてごめんだぞ」
「別に大丈夫だよ、姉さんも怒ってるわけじゃないし」
時刻午後五時半。
すっかり研究所に長居してしまったが、今日は研究所の所長もその孫でホップの上司にあたる人も居なかったためホップが帰る時に研究所の戸締りをする必要があったらしくその手伝いをしていたら遅くなってしまっていた。
まあとは言え、ここから歩いてそう時間はかからない程度の距離らしいし、完全に真っ暗になる前にはユウリの家にたどり着けるだろう。
そうして研究所を出て四人で歩いていくと、すぐに街の外へと出る。
ハロンタウンとブラッシータウンを繋ぐ間の街道が『1番道路』。
草むらなどから偶に野生のポケモンが飛び出してくるらしいが、まあ出てくるのは比較的温厚で臆病なポケモンばかりらしく、初心者トレーナーが偶にこの辺りでポケモンを捕まえたりもしているらしい。
「…………」
それはともかくとして。
歩いている最中に偶然、それが視界に入る。
それが視界に入った瞬間、目を見開き、思わず立ち止まってしまう。
「ソラちゃん?」
「どうしたんだ?」
「姉ちゃん?」
ふと立ち止まった私に気づいた三人がこちへと戻って来る。
そうして私の視線の先を追って。
「あ、ウールーだ」
もこもことした毛玉がそこにいた。
真っ白なふわふわの毛並みに愛くるしい黒い顔。
気づけば足が動いていた。
吸い込まれるように、無警戒に近づき。
両手を広げて……。
「はふ」
「ぐめ?」
後ろから警戒させないように優しく抱き着くとこてん、と愛らしく首を傾げて鳴く。
もこもこの毛に包み込まれるようにその毛に体が沈んでいく。
「なにここ……天国かしら」
「あ、ソラちゃん良いなあ」
「ユウリも来なさいな」
「わーい」
反対側からユウリがやってきて二度、三度とその頭を撫でると嬉しそうにポケモンが体を揺らし、そのままユウリが同じように抱き着く。
「やばいわ」
「やばいね」
「ソラもユウリも仕方ないんだぞ」
「二人とも語彙力が死んでるね」
外野が何か言っているが至福の感触に包まれて全く気にならない。
今なら何言われても許す……後でやり返すけど。
「良いわね」
「良いね」
道端で前後からポケモンに抱き着いて拘束する二人組とそれを後ろから見守る二人組のなんとも珍妙な光景がそこにあったが、幸いというべきか通りがかる人は誰も居なかった。
* * *
その後しばらくたっぷりとモフモフを堪能し、何度も頭を撫で、もう一度モフモフを堪能してから手持ちの『オレンのみ』をあげ、嬉しそうに鳴くモフモフをさらに堪能して野生のモフモフと別れた。
「素晴らしい地方ね、ガラルって!」
「うーん、ソラちゃんが今日一番の笑みを浮かべてる」
「ウールーの毛は触り心地抜群だからな!」
「現金だなあ」
実家でクッションに埋もれたまま死にたいとか言ってるぐーたらがいたが、その気持ちが良く分かった。
あれはダメだ、人をダメにするもふもふだ。でもダメになっても良い……それでもと引き換えにあの至福が得られるのなら、そう思わせられるほどのモフモフだった。
「……ぴぎゅ!?」
「あ、起きた」
「ぐっすりだったよね」
「あんな不安定な頭の上で良くそんな熟睡できるんだぞ」
「頭に乗っけたまま気にしない姉さんも相当だと思うけどね」
モフモフと別れてさらに道なりに歩いていると頭の上で寝こけていたココガラが目を覚ましたらしい。
寝ている姿は中々愛嬌があって思わずユウリにスマホで撮影してもらったくらいに可愛かったのだが、起きた途端に騒ぎ出して中々に喧しい。
「ほら、暴れない……どうしたのよ」
「
「だから誰がアンタの母親だっての……ほら、またちょっと贅沢に『オボンのみ』あげるから大人しくしてなさい」
「ママだ」
「ママだな」
「ママだね」
「うっさい、アンタら」
うん、こうして改めて腕の中でココガラを抱きしめていると、この子も中々にモフモフだ。
先ほどの至高のモフモフとは多少違う、艶やかなモフみがある。
「ユウリの家に着いて荷物置いたらブラッシングしてあげないとね」
「それなら私の貸してあげようか? この間思い切ってちょっといいやつ買ったんだ」
「そうね……ついでにアオもやってあげよっか?」
「自分でやるから良いよ」
「照れなくてもいいのに」
「姉ちゃんは少しは照れろよ」
「仲が良いんだぞ」
なんて話していると道が比較的整備されたものへと変わっていく。
ユウリによればどうやらもうハロンタウンの入口あたりらしい。本当に三十分もかからなかったな、と思いつつさらに少し歩いた先に見える近隣で一番大きな家がホップの実家らしい。
「じゃあソラ、アオ、まただぞ! ユウリ、久々にゆっくり話せて楽しかったぞ」
「またね、ホップ」
「うん、また話そっか、俺も話してみたいことたくさんあるし」
「こっちも楽しかったよ、またソニアさんがいる時にでも遊びに行くね~」
家の中に入っていくホップを見送り、その姿が見えなくなるとユウリがこちらを向き直る。
「それじゃ私の家に案内するね……すぐ近くだから」
そのユウリの言の通り、ものの五分もしない内に周囲が花壇に彩られた横に広めの家が見えてくる。
そしてその手前に見えるのは柵の門で封鎖された森らしき場所へと続く道。
「あっちは?」
「あっち? ああ、あっちは『まどろみの森』へ続く道だよ」
「『まどろみの森』?」
「そう、ザシアンとザマゼンタ……ガラル地方の伝説のポケモンが住んでた場所だよ」
ザシアン、とは確かユウリの手持ちの名前じゃなかっただろうか。
ああ、だから住んでいる、じゃなくて住んでた、なのかと納得してしまう。
「言われてみると……確かにちょっと不思議な感じがするわね」
と言っても森全体にぼんやりと力が行き渡っているようなイメージ。
恐らくこの森も『パワースポット』の一種なのだろう。ダイマックスとかいうのができるかどうかは知らないが。
ダイマックス現象が引き起こされるのは『ガラル粒子』が溢れている場所だけだ。
マグノリア博士はこの大地の下に流れる力の巡りから零れた力が『ガラル粒子』として見えていると思っているらしいが、同じような場所なら世界中に存在する。
不思議なパワーに満ちた地『パワースポット』というのはこの世界中に存在するがダイマックスなんて不可思議な現象が起きるのはこのガラルだけだ。
その辺の違いに何か秘密でもあるのかもしれないが……まあ私は研究者ではないのでその辺はどうでも良い。
「おーい、ソラちゃーん。早く早く~」
「ごめん、すぐ行くわ」
ユウリに呼ばれ、元の道を戻っていく。
その後ろで。
ばさり、と黒い巨大な影が森の中で羽ばたいた。
* * *
「あらあらあらあらあら?! もしかしてソラちゃんとアオ君!!? 本当に久しぶりね~、えっと、何年ぶりかしら? いつガラルに来たの? それに今日はどうしたの? え? うちに泊まっていく? 良いわよ~、好きなだけゆっくりしていってね。ソラちゃんご飯はまだ? お風呂は? どっちを先にする? どうせならソラちゃんとユウリ一緒に入ってきなさいよ。アオ君は少し待っててね、あ、お腹空いてない? 良かったら何か摘まめるものだす? 二人とも泊まっていくのよね、ソラちゃんはユウリと同じ部屋でも良いわよね? なんだったらベッド大きいし二人で寝たら良いんじゃないかしら、ソラちゃん前に会った時と同じくらいちっさくて可愛らしいし。アオ君はお父さんのベッドでも使う? 一週間くらいは帰ってこないらしいし、使ってちょうだい。え、ソファー? 良いのよ、遠慮しなくて、どうせ使わないんだから。あ、それといつまで泊まっていく? まあいつまででも良いんだけど~。二人とも可愛いし、昔から知ってるからもうほとんど自分の子みたいなものよねえ~」
うん、まあ歓迎はされた。
一緒になってテンション上げてるユウリを見て、やっぱこの二人親子だなあと実感する。
ユウリのお父さんは逆に物静かな感じなのだが……娘というのは母親に似るものなのだろうか。私も母さんに似ていると良く言われるし。
夕飯もご馳走になって、個人宅としては比較的広いお風呂も借りた。
途中でユウリが入ってきたあたりまあもう予想はできていたので知ってた、という感じだが。
お風呂から上がると荷物からパジャマを出して着替える。
擬人種のポケモンの場合、着ている服というのは毛皮や鱗の一部のようなものなので、お風呂で一緒に洗うと普通に綺麗になるらしいのだが、私は残念ながら人間なので着替える必要があった。
青色のシンプルなパジャマに着替えて、更衣室を出る。
後ろからついてくるユウリはカラフルな水玉模様のパジャマを着ていて。
何となくお洒落の差で負けたような気がした。
「わ~ソラちゃんパジャマ可愛いね」
「普通のシンプルな柄でしょ」
「そっか、じゃあソラちゃん可愛いね!」
「はいはい」
隙あらば抱き着く……というかもうへばりついて来るユウリを引きはがす。
何だか懐かしい感じもするが、まあ昔からのことなのでもう慣れた対処だ。
「上がったわよ」
「お先~アオ君もどうぞ~」
「うん、ありがとう、あと姉ちゃんこいつ」
「分かってる、預かっててくれてありがとう」
居間でテレビを眺めていたアオに一声かけてユウリの部屋へ……向かう前にアオからココガラを受けとる。
それから部屋へ入ると年頃の少女らしい可愛らしい内装が目についた。
「あら、お洒落ね」
「ありがと~」
母さんは比較的にそういうのに興味は無いらしいが、私はまあ着飾ったり、可愛らしい小物を集めてみたり年相応程度の興味はあるのでユウリの部屋の内装は中々にツボだった。
まあ外に出る時は、あの母さんの服に似せて仕立ててもらったコートをいつも着ているので着飾っても家の中だけだったりするのだが。
「それじゃ荷物の整理でも……って思ったけど」
「可愛い~♪」
「ぴぃ……」
腕の中で抱いたココガラが寝息を立てている姿に苦笑する。
ユウリがつんつん、と眠ったままのココガラの頬を突いてはむずがられている。
どうやら起きていると嫌がられるので眠っている間に弄ろうという魂胆らしい。
「タオルを二重三重に重ねて……っと。これで良いわね」
カゴの中にタオルを二枚、三枚と重ね簡易的なベッドを作ってそこにココガラを置く。
すぴすぴと寝息を立て、すっかり夢の中のココガラが起きる様子はない。
これで荷物の整理ができそうだ、とほっと嘆息して。
「あいたたたたた」
スマホを操作していると突如あがった悲鳴に視線を向ければ、眠ったココガラを突こうとしてぱくり、とクチバシに指先をついばまれているユウリの姿があった。
「何やってんのよ、ホント」
仕方ないなあ、と笑みを浮かべた。
* * *
深夜。
ふとぱっちりと目を覚ます。
眠れない……というわけではなかった。
というか先ほどまでぐっすりと眠っていたはずだ。
寝つきは悪くないほうだが、さてはて。
ふと隣を見れば同じベッドですやすやとユウリが眠っている。
安らかな顔である。見ているだけでふっと微笑んでしまうような。
ただ寝相が悪い。布団から半分はみ出している。
「風邪引くわよ……仕方ないわね」
布団を掛け直し、乱れた髪を軽く整えてやる。
「ん……そら、ちゃん」
「……はいはい」
ぽんぽん、とその背を軽く叩いてやると安心したかのような表情をする。
やれやれ、と複雑な内心を抱えながらも苦笑して。
ばさっ、とふと窓の外から何かが羽ばたくような音が聞こえた。
「……ふーん」
何となく予感のようなものを覚えて、ベッドから抜け出す。
途中足元のカゴに詰め込まれたココガラを踏みそうになりながらも部屋を出る。
しん、と静まり返った家の中ではキッチンで冷蔵庫がジージーと鳴る音と時計が針を打つかちかちという音しか聞こえない。
ともすれば先ほどの羽ばたくような音が幻聴……もしくは寝ぼけただけなのではないか、と思ってしまいそうになるが。
「うーん」
何とはなしに足は玄関へと進む。
途中、アオを起こしていくべきか、と考えて。
ばさっ、と再び羽ばたくような音。
「はいはい……一人で来いってことかしらね」
靴を履き替えたところでそう言えばパジャマのままだったな、と一瞬悩んで。
「まあ良いでしょう」
扉を―――。
「何が出るかしらね」
―――開いた。
ばさぁ、と羽ばたく音と共に、漆黒の羽が一枚ひらりと舞い落ちてくる。
「―――クラァ」
目の前にあったのは見上げるほどの巨体。
ぶっちゃけ水代はオールアドリブで書いてるのでプロットなるものは存在しないわけだが、取り合えず第一章のボスは決まったな。
ジムチャレンジ自体は三章くらいにしようと思ってる。
ここまでの流れ的に多分二章はチャンピオンカップになるかな?
ファイナルカップとかチャンピオン戦とか……そこまで勝てるかどうかは不明だけど、戦うなら四章になる、かな?
今作はドールズみたいに野生の伝説と戦うことは基本無い……はず? なので……あ、ダイマックスアドベンチャーであるかな? ある? 分からないけど、まああるかも?
まあそれでも前作が『伝説の脅威からホウエンを守る』ことを目的とし『チャンピオンになる』ことを途中経過としていたのと比べて、今作は『チャンピオンになる』ことが最終目的なので、前作ほど簡単にはリーグ戦終わらない予定。
あとめっちゃ今更なんですけど。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=258776&uid=7917
リーグ戦とかで戦うトレーナーのデータとか募集してます。
良かったら作ってみてください、ぼくのかんがえたトレーナーとパーティ、はとっても楽しいので(それでもデータ100体分とか無理