ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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もえるちしお①

 

 配信から一晩を経て、ようやく天気にも恵まれたのでさっさとエンジンシティへと移動する。

 徒歩ルートだと『第二鉱山』を通っていくのだが、別に歩いていく必要もないのでシノノメと共にアーマーガアタクシーを利用してエンジンシティまで飛んでいく。

 

 例えばこれがリーグ初年度の新人トレーナーならば自らの足で歩くことで新しいポケモンと出会い、ゲットすることにより新戦力の加入に期待をしたりするのかもしれないが現状ホウエンから連れて来たアオを除いても11体もゲットしているのだからこれ以上は育成しきれない。

 さらに単純にバトルしたいだけならワイルドエリアに行ったほうが効率が良いし、強敵も多い。

 それにこれからジムチャレンジ……つまりプロトレーナーとのバトルも控えているとなると最早移動時間は一番の短縮要素になっている。

 

「そろそろ残り時間も意識しないと」

「そろそろってまだジムチャレンジ始まって一月経ってないはずなんですが」

 

 エンジンシティへとたどり着くと即座にジムに受付をしに向かい、その帰りでポケモンセンターにやってくると、さっさと部屋を取ってシノノメと打ち合わせをする。

 少なくともこのガラルでトレーナーとしてやっていく以上、早急に『応援者』を集めなければならないというのはここまでで良く分かった。

 その一番手っ取り早い手段は間違い無くシノノメの配信である以上、当初よりもその重要性は増していた。

 

「もう一月経ってるのよ、決して無駄だったとは言わないけれど最短1か月でジムチャレンジを終わらせることも考えていたんだからかなり遅れてるのも事実よ」

 

 この辺りはプロトレーナーとしての感覚だろう。

 育成というのはとにかく時間がかかる。正直一度の育成で完璧な仕上がりになる、なんてことあり得ないので何度も何度も試行錯誤が必要になるし、その上で他のトレーナーたちも同じように試行錯誤する以上常に必要なスキルは変わって来る。つまり完璧も完成も存在しない。

 パーティの完成度は時が経つにつれ劣化するし、それを補うために新しい面子を入れたりもする、その度にまた新しく育成は必要となるしそれに応じて他の面子も調整したりする。

 

「時間なんていくらあっても足りないわよ……それにこの3つ目のジムまではできるだけ早急に終わらせたいのよね」

「エンジンジムまでは、ですか?」

「だって、ここが一つの分かれ目になってるんでしょ?」

「は? あ、ああ! そうですね、確かに」

 

 一瞬私が何を言いたいのか理解できなかった様子のシノノメだったが、直後にそのことに行き当たったのか納得した様子で頷いた。

 そう、3つ目のジム、ここまでは早急に終わらせたかった。

 何故ならこのエンジンジムというのは『推薦枠』の登竜門とされるほどに躓くチャレンジャーが増える。

 別に他のトレーナーが躓いていること自体は私には関係無いのだが、ジムチャレンジ自体は期間中は何度でも挑戦できる仕様上、ここで躓くチャレンジャーが増えれば増えるほど『エンジンジム』に挑戦するチャレンジャーの数は溜まっていく。

 

 私は一応『推薦枠』だがホウエンリーグで1年所属していた実績があるので難易度自体は『チャレンジ枠』のほうで出ているわけだが、難易度は変われど対応する人間はジムリーダーのカブ1人なのだ。

 

 つまり『推薦枠』のトレーナーが溜まれば溜まるほどにこちらのジムチャレンジの受付の時間が伸びていくのだ。

 

 ターフジムで三日。

 バウジムで五日。

 そしてここエンジンジムで七日。

 

 順調に受付時間が伸びている。

 もしこれがターフタウンでジムチャレンジを終えて即座に動いていればバウタウンとエンジンシティ合わせて三日から四日は短縮できたはずだ。

 そしてもしここエンジンジムで一度でも負けるようなことがあれば、次の挑戦は二週間後と言われても不思議ではないほどに詰まってきている。

 

「逆に言えばここさえ抜ければ受付の期間はぐっと狭まるはずよ」

「そうですね……ジムチャレンジャーの半数以上はここで脱落すると言われるほどですから」

 

 ついでに言えば私がスーちゃんを育成している2週間の遅れで『チャレンジ枠』のトレーナーはすでに次々と進んでいるだろう。

 いくら難易度が大幅に変わる『チャレンジ枠』とは言え、全力ではないジムリーダーに手古摺る程度のトレーナーがいるとは思えない。いや、いるとしたらそんなトレーナーは警戒に値しない。*1

 

 となるとジムチャレンジの速度自体は私とそう変わらないだろうし、エンジンジムさえ抜けてしまえば後は一気に進んでいけるだろう。

 

「それにしても1週間か、長いわね」

「そうですね……ジムチャレンジ期間中はジム攻略を進めなければナックルシティへ向かうこともできませんし、エンジンシティには育成施設も大してありませんしね」

「あっても使われてるわよ……一週間待ちよ? その間に何人のトレーナーがいることやら」

 

 カブ戦での対策はすでにいくつか考えているし、カブ戦で出そうと思っている手持ち面子に関しても選考はしている。

 勿論時間はいくら費やしてもいいのだが……。

 

「そうね、ルリナさんとのバトルから籠りきりだったし、少し街でも歩いてみようかしら。シノノメはどうする?」

「そうですね……いくつか編集予定の動画もありますけど、急ぎというほどでも無いですし、付き合います」

 

 ジムチャレンジは旅と言われるには移動距離が短いが、まあそれでも旅行というには少しばかり長いのでそれなりの距離を日数をかけて移動するのだが当然と言えば当然、衣服や靴というのは消耗品であり毎日使っていれば少しずつ小さな摩耗が見えてくる。

 プロトレーナーというのは当然他者に見られる職業だ。故に身嗜みに関してはそれなりに気を付ける必要がある。

 故に服にそこそこ金をかけているトレーナーは多い。

 

 特にバトル時には火花が散り、水流が撒き散らされ、雷が迸り、風が吹き荒れ、土が捲れ上がるわけで、フィールドで戦うポケモンほどではないにしろトレーナーの衣服にもダメージはあるわけで、故にトレーナーがバトル時に着ている服というのはそういうダメージに耐性のある生地を使っている。

 具体的に言えばポケモン素材だ。『いとをはく』ことのできるポケモンの糸を繊維にして上手く編み込むことでバトル時でも破れにくい丈夫な生地にしているのだとか。

 

 ただし当然ながら普通の生地より値が張る。

 

 ポケモンの素材を使うこと……というよりはそれを素材化するのが難易度が高いらしい。

 さらにそれを上手く組み込んで生地にするというのも手間がかかるらしく、特にトッププロの衣服などオーダーメイド前提な部分がある。

 まあそうでなくても一般的な高級ブランド並の値段は当たり前のようにするわけで……。

 

「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅう……」

「何やってるの? シノノメ」

 

 買い物の総計を見てシノノメが目を回しているのに首を傾げる。

 

「な、何って、いや、その……値段が……」

「値段?」

 

 ブティックにいつも着ているのと同じような白のワイシャツがあったので買ったのだが値段が20万ちょっと。

 いつも使っているのと同じメーカーのハイソックスが1万。

 ついでにこれから夏場に向けて暑くなりそうなので帽子が5万ほど。

 そこにシノノメが買った衣類などを合わせて総計30万ほどか。

 

「トレーナー用だとこんなものでしょ? というか普通の衣類使ってたらバトル一回で買い替えよ?」

「そ、そうなんですか?」

 

 そもそもポケモンバトルに関連する品というのは基本的に高額である。

 例えば『きあいのタスキ』なんてただの布切れにしか見えないのに1つ500万くらいでしかも消耗品である。

 安価に手に入る物など量産しやすい『きのみ』関係の品くらいだろう。

 

「その辺ユウゼンなら知ってるんじゃないの?」

 

 なにせこのガラルのトッププロの一角、『でんき』タイプジムのジムリーダーなのだ。

 その妹のシノノメがこの程度のことに驚いているというのも中々不思議な話である。

 

「いや、その……姉さんとはそういう話はあまりしませんので」

 

 ついっとどこか気まずそうに目を逸らすにシノノメに少し疑問が沸くが、けれどあまり深く突っ込んで良い様子では無かったので、そう、と短く返す。

 何となく見えてくるものはある、が別にそれを深掘りする必要性はあるかと言えば否。

 だったら波風は立てないほうが良いに決まっている、私とシノノメの関係性は配信の主演とゲストというそれに過ぎないのだから。

 

「……ユウリなら、踏み込むのかしらね」

 

 ここにはいない親友のことをふと思い出す。

 ユウリは他人の心情、その機微にとにかく敏い。

 ユウリならきっと今のシノノメの心情を敏感に察して欲しい言葉の一つ二つかけてやることはできるのだろうけれど……。

 

「私には無理そうね」

 

 あいにく人の心情どころか、自分の心情だって口にできない自分にそんな資格などきっと無いのだ。

 

 

 * * *

 

 

 消耗品を買い足していくにしても一日もあれば十分で、その日のうちに大よそ揃ってしまう。

 帰り道に見かけたバトルコートでポケモンバトルが行われており、なんだったらジムチャレンジャーらしきトレーナーも何人かいたが、さすがにこんな街中で堂々と情報を曝け出すのは勘弁だと顔を合わせることも無く帰りを急いだ。

 

「ソラさん、ちょうどジムチャレンジやってるみたいですよ?」

「そうね……あんまり参考にはならないけど」

 

 そんなわけでポケモンセンターへと戻ってくれば、センターロビーの大型モニターにちょうどジムチャレンジの生放送が映されていた。

 まあ『推薦枠』のトレーナーのだが。

 やはり『チャレンジ枠』で参加したトレーナーはすでに先に先にと進んでしまっているのだろう。

 その後も数人、ジムリーダーであるカブとのバトルをしているのと見るがあまり参考になるようなバトルでは無かった。

 

「見事なくらいにみんな負けてますね」

「『ほのお』ジムなのに『やけど』対策してないのってどうなのかしらね?」

 

 基本的にバッジの数が増えるほどにジムリーダー側も本気を出してくるわけだが、ジム挑戦とはただジムリーダーと戦うことだけではない『プロトレーナーとして必要なこと』を新人たちに教えるために存在する施設だ。

 バッジが0のトレーナーに対しては『タイプ相性』などの基本中の基本を抑えれば勝てるくらいだが、1つのトレーナーならば『状況に応じた技の選択』、2つならば『能力ランクの押し引き』や『状態異常への対策』などジム側も明確な『課題点』を作って来る。

 

 これはだいたいの場合『ジムリーダーの得意戦術』をダウングレードしたようなものを出してくることが多い。

 

 逆に言えば『課題』への対策はジムリーダーの本気戦術に対する対策の根底とも言える。

 

 プロトレーナーとはひたすらに自らの戦術の洗練、昇華と相手の戦術に対する対策、妨害を突き詰めるのが仕事だと言われることがあるが、的を射た言葉だと思う。というかバトルをしている時以外は基本的にこれに尽きる。

 

「リーグ所属一年目の新人トレーナーが最初に学ぶのは情報収集だって言われてるんだけどね」

 

 3つ目のジムチャレンジまでやってきてまだそれを学んでいない未熟者はこうやって『登竜門』に跳ねられていくわけだ。

 偶にタイプ統一パに対して有利タイプで固めることを卑怯などと言うトレーナーがいるが、はっきり言ってそういうタイプはプロの世界では絶対に勝てない。

 対策する(メタを張る)という行為はプロトレーナーとして決して恥ずべき行いではない、というか寧ろ本気で勝ちに行くなら当然のことなのだ。勝つためだったらなんだってやる。そのくらいの気概はプロとして必要不可欠である。

 

「ま、だからって本当に何でもやっていいわけじゃないけれど」

 

 ―――例えば今モニターに映る男……カブはその代表と言って良いかもしれなかった。

 

 

*1
因みにソラ自身はジムチャレンジ中の敗北まで織り込んで日数計算をしているが、それはまだガラル式のバトルに慣れていないこと、それに慣れるためにも完全なメタを張るような戦い方をしていないから。要するにまだ手探りでやってる段階だから負けても十分な経験になれば良いと思っている。逆に言えばカブさん相手に『おおあらし』でメタって何の経験にもならなさそうなバトルするくらいなら負けたほうがマシだと思ってる。




因みに読者たちはすでに忘れてる設定かもしれないがソラちゃんの財布はハルトくん(父親)からの資金援助で成り立ってます。ただしソラちゃん自身、ホウエンリーグで一年暴れ回ってた実績があるのでそこそこ賞金稼いでます。実力的にはもっと稼げたけどまあ一年目だったからね。


話変わるけどカブさんキャッチ、ちょっとダサない???
ヤローさんが『ファイティングファーマー』
ルリナさんが『レイジングウェイブ』
で、うおー!かっけー!ってなるのに。
カブさんが『いつまでも燃える男』……ん???

いつまでも燃える男、です……は???

今回のサブタイ今までの法則にすると『いつまでも燃える男①』になってたんだが、さすがに違和感ありすぎてトレーナー技能から取ったわ……。


いつまでも燃える男…………………………うーん。

挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?

  • あったほうが良い
  • ほどほどで良い
  • 無い方が良い
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