ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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もえるちしお③

 

 

 

「ホウエンの出身というのは意外なほどに天候をパーティ戦術に加える傾向にあるんだ」

 

 空から降り注ぐ日差しと雨粒を見やりながらカブは泰然と笑みを浮かべる。

 

「だからこういうちょっとした小細工がよく突き刺さるのさ」

 

 反対にこちらは苦虫を噛み潰したような表情をしているのだろうと自覚している。

 カブの言う通り、ホウエンのトレーナーというのは天候戦術を使う事が多い。

 というのもホウエンにおいて『天候操作』系の特性を持ったポケモンというのが身近に多くいるのだ。

 その最たる例が『あめふらし』ペリッパーだろう。

 ペリッパーにその進化前のキャモメはホウエンならほとんどの場所で見かけるというほどに多くおり、そして『あめふらし』持ちのペリッパーというのもその数に比して多い。

 

 『ひでり』持ちもまたロコンやコータスといったポケモンはフエンタウン周辺に多くいるし、別に珍しいと言えるほどのものでも無い。

 

 砂漠周辺では『すなおこし』のギガイアスというのを時折見るようになったし、そうでなくても特性以外の手段で自発的に『すなあらし』を発生させるポケモンも多い。

 

 『あさせのほらあな』には『ゆき』や『あられ』を生じるポケモンも多く生息し、探せば『ゆきふらし』互換の能力を持った野生ポケモンも見つけることができる。

 

 何よりホウエンは『ひでり』続きの場所、『あめ』ばかり降る場所、『すなあらし』が常に吹き荒れる場所などがある。そしてその環境に適応したポケモンというのは『天候』を条件とした裏特性を仕込みやすい、或いは自然とそういう能力を持っていたりする。

 

 旅をする中で自然とそういうポケモンを増やしていくと『天候』パーティというのは一度は作ってみるのがホウエンのトレーナーの常なのだ。

 

 ―――同じホウエン出身のカブが相手なのだ、そこを狙って来ることは事前に予想してしかるべきだった。

 

「やられたわね」

 

 天候は『あめ』それに『にほんばれ』。

 おかしなことに2種の天候が共存している。

 

「いえ……見れて良かった、というべきかしらね」

 

 少なくともそれは今の今まで自分には無い発想だった。

 天候は天候で上書きする、或いはされる。

 それがこれまでのソラの常識だった。当然だった。

 だが今目の前で『にほんばれ』と『あめ』という2つの天候は共存する。上書きされることも無く。

 これまでのソラには無かった発想。

 

「今はそれは後回し、ね」

 

 だがそれはこれから始まるバトルに際して考えるべきことではない、そうきっぱりと思考を切り替えて、改めて状況を考え直す。

 

 こちらが通したかった『あめ』は通っている。

 だが打ち消したかった『にほんばれ』は消えていない。

 

 五分五分、と見せかけてけれど恐らくこんな仕掛けを用意している以上、向こうもまた『あめ』を利用する方法があるのだろう。そう考えれば結局この状況は向こうの手の上だ。

 

「とは言え、ね」

 

 相手はキュウコン。

 見たところタイプ異常の個体という感じではないのでいきなり『でんき』技……それも『あめ』を利用するとなると『かみなり』が撃たれる、なんてことにはならないだろう。

 

「キューちゃん!」

「キュウコン!」

 

 即座に状況を理解すると同時に互いが動きだす。

 素早さの関係からすればやはりさすがにキュウコンのほうが早い。

 だがこちらにだってそれを補う手段はある。

 

「吹き荒びなさい!」

 

 “つむぎかぜ”*1

 

 キューちゃんの背を押すように吹き始めた『おいかぜ』にキューちゃんのスピードが急上昇する。

 すでに技を出す態勢に入っていたキュウコンに先んじてその両腕を大きく薙ぐ。

 

「ざっぱーん!」

 

 “なみのり”

 

 キューちゃんの掛け声や動作に呼応するように生み出された大波がキュウコンを飲みこむ。

 前回のルリナ戦にて散々命中率に苦労させられたので『ハイドロポンプ』から命中重視の『なみのり』に変えたのだが、どうもキュウコンにそういう能力は無さそうに見える。

 

 だがまあ落ちた火力は『あめ』が補ってくれるはずだ。

 

 キュウコンは決して耐久自慢なポケモンではないが、それでも特殊攻撃に対する防御力はそれなりにある。

 故にこれで落ちるかどうかは不明……なのだが。

 

「……いつ、どこで、かしらね」

 

 波に飲まれたはずのキュウコンがいた位置にはいつの間にか……『みがわり』が置かれていた。

 

 

 * * *

 

 

「コココ、異なことを言う」

 

 崩れていく『みがわり』の裏からひょいと現れたのは最初に出てきたはずの『きつねポケモン』の姿ではなく、以前戦ったアズマオウにも似た白いゆらゆらとした衣装を着た金髪の女の姿。

 

「―――最初からよ」

 

 突き出された指に宿った火、それがこちらを狙っていることを理解させられて。

 

 “もえるちしお”*2

 

 “かえんほうしゃ”

 

「うきゃー!」

 

 指先から放たれた火が途端に膨れ上がり、炎の波となってキューちゃんを飲みこむ。

 キューちゃんが悲鳴をあげながら両手で守り、やがて炎が消えれば目を回すキューちゃんの姿。

 一瞬『ひんし』かと思ったがすぐに目を瞑ってぶるぶると顔を振れば視線が戻る。

 まだ大丈夫らしい、がこっそり手持ちの鞄から『オボンのみ』を取り出して回復しているのを見るに、今の一撃でHPの半分以上が削られたのは間違いないようだった。

 

「天候補正、タイプ補正、相性無視……馬鹿げた威力ね」

 

 体感で言えばもう一発は受けられる。

 だが手持ちの中でも耐久寄りのキューちゃんですら『オボンのみ』が無ければ2発で落ちると考えれば相当な火力だった。

 さて、次の一手どうすべきか、と考える自身の視界にゆらゆらと体を揺らすキューちゃんの姿。

 

「キューちゃん……?」

「はれ……なんだか、ねむひですぅ……」

 

 目をしょぼしょぼとさせながら相手を見据えるキューちゃんの姿にそれが『ねむけ』状態*3であると気づく。

 どこで入れられた、と考えれば先ほどの『かえんほうしゃ』が一番それっぽい気がする。

 

「不味いわね……」

 

 『おいかぜ』が切れて『さかさかぜ*4』が発動するのを待っていると先にキューちゃんが『ねむり』状態に落ちる。

 となると素交代させるしかないわけだが……。

 

「交代先が無いのよね……」

 

 あの威力の『かえんほうしゃ』を受けて無事で済む相手が現状いない、というのが何よりも問題だった。

 となると突っ張るべきか……? そうなればキューちゃんは恐らく眠ってしまうだろうが……。

 

「……いえ、それもありね」

 

 これは3対3のバトルだ。

 単純に目の前の相手を1:1で交換できるならこちらが勝てる。

 とは言えそれは互いの2体目次第な部分もある。2体目の相性が悪ければ3体目までその不利を引きずってしまう可能性だってあるのだ。

 

 よくよく考えるべきだが時間は少ない。

 すでに相手は動こうとしている。こちらも遅れるわけにはいかない。

 手持ちの状況、相手の狙い、そしてこちらの戦術……いくつも組み合わせて考える。

 

 そして結論を出す。

 

「キューちゃん! 行って!」

「っ! 不味い!」

 

 こちらが突っ張ったことにカブが一瞬驚いた表情をする。

 『ねむけ』状態で突っ張ってこないと想定していたのか『わるだくみ』でキュウコンが火力を上げる。

 だがその隙をついてキューちゃんが『ねむけ』を振り払って両手を広げ……薙ぐ。

 

「吹きあれろ~」

 

 “ぼうふうけいほう”*5

 “ぼうふう”

 

 いや、それ私の真似? と一瞬毒気が抜かれてしまいそうになるが、『あめ』下のこの状況で轟々と吹き荒れる暴風がキュウコンを飲みこみ、一瞬にして吹き飛ばす。

 ただまあ『あめ』下の『なみのり』ほどのダメージは出ない、それは分かっている。

 だがそれでも『ぼうふう』を選択したのは『あめ』下における必中という特性の重視、そして……。

 

「コココココ……」

「……やられた」

 

 ふらふらと頭を揺らすキュウコンの姿に、どうやら上手く『こんらん』させられたのだと拳を握る。

 ダメージだけなら『なみのり』一択だっただろうが、天候共存などというピンポイントな対策仕込んでおいて威力の上がった『みず』技対策をしていないというのはさすがに考えられない。

 となると『イトケのみ』あたりを持っていてもなんら不思議はなかった。

 これでそれなりのダメージと『こんらん』という行動阻害を与えた、かなりのアドバンテージだった。

 

「と、とれーなー……さまあ……おやすみなさい~」

 

 同時に気の抜けるような台詞と共にキューちゃんが崩れ落ちる。

 直後に『おいかぜ』が消え去り―――。

 

 “さかさかぜ”

 

 逆風が吹くと同時にキューちゃんがボールへと戻る。

 そうして次のボールを手に取り……投げる。

 

「さあ、出番よ! ラーちゃん!」

「ギャァォォォ!」

 

 飛び出したのはプテラのラーちゃん。

 勿論このスタジアムの特性は分かっている。そのためラーちゃんには『ラムのみ』を持たせていた。

 

「プテラ……珍しいポケモンだね」

 

 そう呟くカブだったが、現状の不味さを理解しているのか僅かに汗をかいていた。

 

「ラーちゃん! 落として!」

「キュウコン! 目を覚ますんだ!」

 

 叫ぶカブだったが、ラーちゃん……プテラという種のスピードは相当だ。

 キュウコンが目を覚ますより先に急速に接近し、咆哮をあげながらその両翼がキュウコンを打つ。

 

 “きしゅうせん”*6

 

 “ダブルウィング”

 

 一瞬の交差にて叩きつけられた一対の翼撃にキュウコンが崩れ落ちた。

 

「……よくやったね、キュウコン。お疲れ」

 

 『ひんし』となったキュウコンをボールへと戻しながらカブが呟く。

 そして次のボールを手に取って、投げる。

 

「さあ、行くよ、ウインディ!」

「ウオォォォン!」

 

 投げられたボールから飛び出したのは『でんせつポケモン』と呼ばれる存在、ウインディ。

 

 ただし―――。

 

「色違い、ね」

 

 その体毛は黄……いや、どちらかというと金に近かった。

 色違い個体というのは何等かの異常を持つことが多いが……。

 

「分かりやすいわね、これは」

 

 ぱちぱちと体毛から弾ける静電気を見て苦笑する。

 推定タイプ『ほのお』『でんき』。

 

「早速『かみなり』でも撃ってきそうなのが出てきたわよ」

 

 空を見上げれば未だに『にほんばれ』が消える兆しも無ければ『あめ』が止みそうな気配も無い。

 これから起こることがありありと想像できて、そんな軽口すら飛び出してきた。

 

「ウインディ」

「ラーちゃん!」

 

 静かに呟いたカブの一言にウィンディが全身から放電する。

 そして放たれた電撃が空へと吸い込まれ……。

 

 “かみなり”

 

 雷となって降り注ぐ。

 『ひこう』タイプを持つラーちゃんからすれば絶対に当たることができない一撃、だから。

 

 “まもる”

 

 全身を覆うように作り上げたバリアは無敵の守りとなってラーちゃんを雷の奔流から守り抜く。

 同時に『おいかぜ』の時間が終わり、『さかさかぜ』となって吹いた一陣の風がラーちゃんをボールへと戻す。

 

「……一撃一撃の圧が半端じゃないわね」

 

 当たれば一発で『ひんし』になる、そんな圧が常に襲いかかってくる。

 手持ちの取り回しにも最新の注意を払うせいで神経が削られる。

 一つ間違えれば一瞬にして積み上げてきたもの全てを崩されかねない綱渡りのような状況。

 

 けれど―――。

 

「楽しい……楽しいのね、私」

 

 こんな状況に心が躍る自分がいた。

 

 ―――やっぱりポケモンバトルって楽しいですね!

 

 ふと、そう言った少女の姿を思い出す。

 自分のファンだと言った少女。自分のバトルの動画をいくつもいくつも作っては投稿して徹夜している少女。

 なのにそれを楽しそうに私に語って来る少女。

 

「そうね……やっぱり、楽しい」

 

 ポケモンバトルは苦しい。

 ポケモンバトルは辛い。

 たった一手の読み間違え、思考のミスで戦局は大きく変わってしまう。

 勝てたはずの勝負をたった1度のミスで逃してしまう。

 プロなら誰だって一度はあるだろう経験。

 だからこそプロトレーナーはいつだってバトルのことを考えている。

 もう負けたくないから、もう後悔したくないから。

 そんな負けず嫌いな集団がプロトレーナーというやつで。

 だから段々と楽しいという感情が鈍化していく。

 

 楽しさを覚えるより先に、どうすれば勝てたのか反省が来る。

 いざ勝てば、どうすれば次も勝てるのか、このまま負けないためにはどうすれば良いのかを考え始める。

 だからバトルが楽しいなんて感情、プロになると少しずつ忘れてしまう。

 

 シノノメはプロの事情に多少詳しいようだが、それでもアマチュアだ。

 バトルの本当の厳しさも、奥深さも、そしてプロの世界の過酷さも知らない。

 

 でもだからこそ、その言葉は純粋だ。

 

 彼女は私のファンとして純粋に言ったのだ。

 

 私のバトルを見て、私の苦悩や辛苦の末の結果を見て、言ったのだ。

 

「ポケモンバトルは楽しい……ね」

 

 それはトレーナーとして最も根源的な感情。

 パートナーたちと絆を結び、苦楽と共にし、そして共に戦う。

 勝ったら共に喜び、負けたら共に悔しがる。

 そんなトレーナーの根源に根差した感情。

 

 どうして自分のパートナーを傷つけるような真似ができるのだろう。

 ポケモンバトルを知らない人間は偶にそんなことを言う。

 それだって別に間違いではない。

 ポケモンバトルはポケモン同士の傷つけ合いだ。大切なパートナーが傷つくことを私たちは許容しあっている。

 

 どうしてそんなことができるのだろう。

 

 そう思うのもまあ間違いではないのかもしれない。

 

 だが、まあその答えは簡単だ。

 

「こんな楽しいこと、止められないわよね」

 

 突き出したボールに入った最後の1体に語り掛けるように呟く。

 果たして彼女はそれに対してどう思うのだろう。

 

「ねえ、アナタはどう思う? フーちゃん!」

 

 投げたボールから飛び出した影が黒い翼を羽ばたかせる。

 ガラルでも非常に珍しい、或いは人によっては見たことすら無いかもしれないその姿にスタジアムの観客たちからどよめきが溢れる。

 

「珍しい……なんて言葉じゃ語れないね、これは」

 

 ターフスタジアムではガラル種のサンダーが縦横無尽に暴れ周り。

 

 バウスタジアムではガラル種のフリーザーが相手のダイマックスエースを打ち倒し。

 

 そして。

 

 エンジンスタジアムに舞い降りた最後の一種、ガラル種のファイヤーを見て、カブはそう呟いた。

 

 

*1
味方のポケモンを出した時、2ターンの間『おいかぜ』状態にする。

*2
味方の『ほのお』ポケモンの『ほのお』タイプの技の一致補正を2倍にする。味方の『ほのお』技が相手に『こうかはいまひとつ』の時、ダメージを2倍にする。

*3
『あくび』などで発生する次のターンに『ねむり』状態になる状態変化。

*4
自分の場の『おいかぜ』が切れた時、味方と交代する。

*5
場の状態が『おいかぜ』の時、自分の出す『ひこう』タイプの技の優先度を+1する。

*6
相手より先に攻撃した時、技の威力を1.5倍にする。




キュウコンイメージ

【挿絵表示】


因みにこのキュウコンは原種と擬人種どっちの姿にもなれます。
とてもとても長生きなキュウコンなので、化けるのはとても得意なのです。
この辺のことは前回誰も指摘しなかったけど
>>【種族】キュウコン/原種/擬人種/特異個体
ちゃんとネタバレはあったのだ(誰も気にしてないだろう伏線)。


今回『ひんし』になったのでデータ載せときます。


【種族】キュウコン/原種/擬人種/特異個体
【レベル】120
【タイプ】ほのお
【特性】ひでり
【持ち物】イトケのみ
【技】かえんほうしゃ/ソーラービーム/わるだくみ/おきみやげ

【裏特性】『きゅうびへんげ』
場に出た時、HPを1消費して『みがわり』状態になる。
自分の特性で天候が変化した時、効果ターン数がバトル終了時までになる。
『おきみやげ』で『ひんし』状態になった時、自分の能力ランクの変化を次に出すポケモンに引き継ぐ。

【技能】『ゆらめくほのお』
『ほのお』タイプの攻撃技に『50%の確率で相手をねむけ状態にする』効果を追加する。

【能力】『きつねのよめいり』
天候『はれ』が『あめ』に上書きされる時、天候を『てんきあめ』にする。


【備考】長寿個体。長く生きているだけあって特異な力を持っている。原種が基本の姿だが、擬人化もできる。

天候:てんきあめ
┗『ほのお』『みず』タイプの技の威力を1.5倍にする。天候が『はれ』の時と『あめ』の時に発動する効果が全て発動する。

挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?

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