バトルの記録……レポートを残す、というのはトレーナーにとって必須事項だ。
かつてまだトレーナーたちが地方を旅していた頃から『
大昔、まだ人とポケモンの融和がされる以前。
記録を残すことはつまりいつ脅かされるかも分からぬ自らの人生を残すためのものだった。
近代、10歳の子供が地方を旅するほどに安全性が増した世代において。
記録を残すことはつまり自らの足跡、積み上げてきた物を確かめるためのもの……つまりこれだけのことを自分はやってきたのだという自信の源だった。
そして現代、トレーナーが分業化され、プロトレーナーという明確な区分が生まれた今の時代。
記録を残すことは次の戦いのための振り返りであり、同時にその戦いに至るまでに積み上げてきた自らの育成の答え合わせだった。
どんな時代だろうとトレーナーたちは記録を残してきた。
当然ながらこれまでのバトルの記録……それこそリシウムやクコたちとやった非公式バトルの記録のみならず、ダーくん……サンダーたちなどの強力な野生ポケモンやムーくんなどのバウンティ指定の異常個体との交戦記録までも全て取ってある。
「大分増えて来たわね」
こういう記録は育成レポートと並んでトレーナーにとっての積み上げられた財産だ。
まだ2年目の私ですら紙に書き記せば相当に分厚くなるだろう量の文量があるのだから、今日戦ったカブさんのような歴戦のトレーナーならばその量は比にならないだろう。
「それでも今回のレポートは特に量が多くなったわね」
時間的に言えばカブ戦は比較的短かったと思う。
最後がやや特殊な動きとなったためトータルの時間は他のジムチャレンジとそう変わらないように見えるが、1手1手が必殺の領域の火力を常時振り回すような相手だったため短期決戦の印象が強かった。
だがその短い間には濃密な戦いがあった。
「……楽しかった、わね」
思わず漏れて出たその言葉は、けれど正真正銘私の本心からの言葉だった。
事前に情報を集め、その情報の中で対策を練り、相手に負けないように育成したポケモンたちと練りに練った戦略をぶつけあう。
ポケモンバトルの楽しさと奥深さが詰まりに詰まった一戦だった。
ある程度の予想はあったとはいえ、とんでもない火力を次々と繰り出すカブさんのポケモンたちに何度となく冷や汗をかかされたし、そんなポケモンたちをこちらの用意した手札を1枚ずつ出しながら切り崩していく興奮もあった。
何よりこちらの想定と戦略が最後にピタリとはまった時には快感すら覚えた。
そうしてバトルが終わった瞬間の感動を私はきっと一生忘れないだろう。
そういうもの全てをひっくるめた感想として、楽しかった、その一言に尽きた。
『おおあらし』を使えば恐らく完封できただろう。
もっと簡単に勝てたし、もっと余裕もあった。
だがそれで勝ってもこれほどの情動を抱くことは無かっただろう。
総評として今回は本当に良いバトルだった、それに尽きる。
だがこうしてレポートを書き、後に読み返してみると分かる。
初見殺しで攻め続けたヤロー戦はともかく、ルリナ戦とて今回と同じように激戦だった。
ルリナさんとの戦いは中盤のアズマオウの回避能力に苦戦はしたが、トータルで見るとこちらの策が綺麗にはまって最後にはこちらの思った通りの展開になったバトルだった。
別にあの戦いに不満があった、と言うわけではないがそれでも今回のほうが満足感が高い気がしたのは……。
「私自身の問題、ってことかしらね」
心当たりが無いわけではない。
切っ掛けは多分シノノメの一言。
―――やっぱりポケモンバトルって楽しいですね!
そんなシンプルなことをあの時、シノノメの言葉で思い出したのだ。
それを思い出したからと言って別に何かが劇的に変わる、と言うわけではない。
けれど先の戦いのような窮地の中で、それでも、と笑うことのできるだけのモチベーションが手に入る。それは些細なようで存外大きい。
窮地の中で縮こまってしまうか、それとも窮地の中でも笑って楽しむことができるか。その違いは発揮できる実力にも響いて来る。
もし今回のバトル、楽しむ余裕を持てていなかったら……。
「初手でラーちゃんを突っ込ませて負けてたかしらね?」
キョダイマックスマルヤクデの圧は凄まじい。
目の前で全長100メートル超の怪物が鎮座し、こちらを敵視しているのだから当然だろう。
それでもそこから放たれる一撃を耐えれると信じて『りゅうのまい』を選択したのは、キューちゃんをクッションに場に出た時の勢いを利用する『きゅうこうか』を持ってくるという迂遠な選択肢を選べたのも、全て思考が止まることなく動き続けていたからだ。
バトルを楽しみながら勝利のための道筋を描き続ける、それができたのもシノノメのあの言葉があったからこそと言える。
「そういう意味じゃ今回勝てたのはシノノメのお陰かもね……」
焦って初手でラーちゃんにダイマックスを切っていた場合、どうなっていただろうか?
単純に『すばやさ』を競えばラーちゃんのほうが速いのだろうが、何よりラーちゃんは『ダイマックス』状態というものに初めてなるのだ。
どうも『ダイマックス』状態というのはそれなりに慣れが必要な状態なようだった。初めてダイマックスして十全に動けるポケモンがどれほどいるか、という問題。
恐らくラーちゃんが一度『ダイロック』を撃つ間に『キョダイヒャッカ』が2回飛んできてたと思う。
そしてそれを耐えれず3度目の『キョダイヒャッカ』がキューちゃんを落として最後にフーちゃんと早撃ち勝負、だろうか?
それでもラーちゃんの『ダイロック』を気合で1度耐えたあたり、負けていた可能性のほうが高いように思う。
「そう考えるとあの手順は最適解だったかしらね?」
レポートをもう一度読み直す。
そうして今回分かったカブさんの育成などの考察も含めて考えるとやはりあの時の手順以外では負けていた可能性が高いように思う。
「そして一番重要な点は……」
エースのマルヤクデは凄まじかった。
単純にデカイ、というだけが戦いにおいてどれだけ意味のあることかというのを分からされた。
そしてあの色違いのウインディは恐らく火力という一点だけを見ればこのガラルでも最強クラスかもしれない。
ただしデメリット無しというわけでもなさそうなこともあり、さらに言うなら火力だけを追求したポケモンだけあって脇が甘い印象がある、恐らく上から叩かれる*1のに弱いのだろう。元々のウインディと違って『いかく』が無いようなので耐久力は過信できない程度だと予想する。
どちらも凶悪なポケモンだったが、個人的に一番重要だと思ったのは初手のキュウコンだ。
「複合天候なら分かるけど、天候の複合化……ね」
全く同じようで微妙に違う。いや、きっとほぼ全ての人間にこの感覚は分からないだろうし、実際問題ほとんど同じようなものではある。
ただ天候操作に関してだけは私としても一家言あるわけで、その私の感覚がその二つのほんの微細な違いを感じ取っていた。
「繋ぎ合わせる、という発想は無かったわね」
例えば私の『おおあらし』は効果的には『らんきりゅう』と『つよいあめ』の複合という感じではあるが、あれは私の能力で起こす『嵐』をポケモンバトルに流用したものだ。つまり『らんきりゅう』+『つよいあめ』ではなく『おおあらし』という私が作り上げた一つの天候なのだ。
こういう独自の天候を作り上げる、という例は実は決して多くは無いが全く無いわけでもない。
ただしその場合、多くは既存の天候からの発展で作り上げていく。
私の場合ベースは『らんきりゅう』だ。
何せそのお手本が実家にいて、私の能力を使いこなすための手助けをしてくれていたのだから必然そうなっていた。
ベースとなる『らんきりゅう』に『つよいあめ』の要素を足して、さらに発展させていったものが『おおあらし』。
まあこういうと単純に『らんきりゅう』+『つよいあめ』じゃないのか、と言われるのだろうし、先も言ったが大半の人にとってその差異は大したものではない。
だがカブさんのキュウコンはそうではない。
あれは『にほんばれ』と『あめ』を足した複合天候、のように見えて……そう、『てんきあめ』とでも呼ぶべき『型』に『にほんばれ』と『あめ』の両方をセットしているような状態だった。
天候には往々にして『場のポケモンに有利をもたらす』効果と『場のポケモンに不利をもたらす効果』の2種がある。
『にほんばれ』なら『ほのお』技の威力の上昇、『こおり』状態にならない、『ソーラービーム』等の技の溜め短縮、『あさのひざし』等の効果の上昇などが有利な効果。
『みず』技の威力の軽減、『こおり』状態にできない、『かみなり』等の命中が下がる、『かんそうはだ』などのポケモンがダメージを受けるなどが不利な効果。
『あめ』にも『すなあらし』にも『あられ』にも『ゆき』にもこういうメリット、デメリットは確実に存在する。
私の『おおあらし』にだって『つよいあめ』の『ほのお』技が使えなくなるというデメリットがある。
だが『てんきあめ』にはこれが無い。
例えるならコインの表と裏。表側にメリット、裏にはデメリット、『てんきあめ』はそんなコインの裏と裏とくっつけてしまった状態だ。こうするとどちらを見ても見える面はメリット部分の表側だけになる。この感覚を理解できない人間に精一杯例えるならば多分そんな感じになる。
これ自体はそれほどスゴイことではない。
発想さえあれば同じようなことが私にもできる。
―――発想されあれば。
今まで私がやっていたのは『らんきりゅう』という模様の書かれたコインに『つよいあめ』の絵柄を書き足すような作業だ。そうしてできた二次創作染みた『おおあらし』というデザインを使っていた。
というよりそれしかないと思っていた、というべきか。
基本的に天候は共存しない。
それがこの世界の理屈だ。
空の領域の奪い合い。それが天候合戦の理屈であり、だからこそ1つに混ぜるわけでも無くつなぎ合わせるという発想が私には無かった。
だがカブさんのキュウコンを見ることでそれを理解した。理解したからにはこれからの発想に出てくる。
そういう意味で、あの『てんきあめ』こそが私にとってこのバトルで最も重要で、衝撃的なことだった。
カブさんは異能トレーナーではないし、キュウコンとて特異個体であっても別にそれに特化しているというわけではないが故に……まあ敢えて言うならば
実際、その発想を知ってから私の中でいくつもの案が浮かんできて……その上でその全てが可能である、と私の本能が言っていた。
「けれど足りない……わね」
ガラルでバトルをしていて何度も思っていたが、このガラルのバトルで求められるものはホウエンのそれとは随分と異なる。
それはこのトップ環境にジムリーダーが多く存在しているが故の問題というべきか、このガラルにおいてタイプをばらけさせるというのはあまり行われないことらしい。ジムリーダーだけでなく、チャレンジャーの側にも統一パというのが多い印象がある。
勿論それは他地方でも居ないわけではない、がこのガラルにおいてそれは顕著に感じる。
私のパーティもまた『ひこう』統一ではあるが、このガラルではなくホウエンの流儀に合わせて作られた能力であり、パーティであるが故に噛み合わないと感じることは何度もあった。
「元々ジムチャレンジを終わらせてからそれまでの経験で作り直す予定ではあったけど……」
私のパーティは本質的には『ひこう』統一というより『天候』パーティなのだ。
『おおあらし』という私が作った最も使いやすい能力を生かすために『ひこう』統一にしているだけであり、究極的には自分の能力である『天候』を生かせるならばタイプ統一に拘る必要も無い。
「―――足りないのは自覚していたわよ」
ホウエン時代に『おおあらし』は猛威を振るった。
それこそリーグ所属1年目にしてホウエンの頂点に手をかけるくらいには。
それでも届かなかった。ユウキには……ライバルにあと一歩、届かなかった。
届かなかったその一歩を埋めるためにこのガラルで戦っているのだ、いつまでも同じことばかりしているのならば去年より成長するユウキにもっと差を付けられるだけに決まっている。
私だって、成長しなければならない。
「まだ構想でしかない、その構想だってちゃんとできてるわけでもない……けど」
地方の頂点、チャンピオン。
その座に手をかけようとするならば、その座を簒奪しようとするならば、ただのトレーナーではダメなのも分かっている。
ただ強いだけのトレーナーでは足りない、圧倒的に足りない。
どんな時代だろうと、どんな地方だろうと。
ただ強いだけの凡庸なチャンピオンなど一度も生まれたことが無いように。
この世界においてチャンピオンとは覇者だ。
他のトレーナーとは隔絶した一種の絶対を持っている。
ユウキも、ユウリも……かつてのチャンピオンダンデも。
それに……。
「父さんも、か」
果たしてそんな絶対が自分にあるだろうか?
ユウリに勝ち得るだけの最強が自分の中に存在するだろうか。
「……無い、わね」
少なくとも、
最終系ソラちゃんのデータはある程度作ってあるからそこに至るまでのフラグ回収って感じの回。
最終系ソラちゃんはちょっとこう……データ見て3回くらい首捻ってそれから「は???」って声出る感じの子になります。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い