3万年ほど前、このガラルという地に隕石が降り注いだ。
激しい衝突と共に、
長い長い、想像することも難しいほどに長い時間をかけて膨れ上がり続けたガラルの地脈を巡るエネルギーの川。
それがおよそ3000年前、突如決壊した。
ガラルの地に伝わる伝説『ブラックナイト』。
世界が黒に染まるその現象によって、地脈のエネルギーは無限に等しい量となり荒れ狂う奔流はやがて地表へ向けて噴き出す。
ガラル地方の各所に点在する『パワースポット』とはつまりこれだった。
『ブラックナイト』の元凶たる存在は『英雄』によって討たれ、再び長い長い眠りにつくことになるのだが、それは別として。
無限に等しいエネルギーの奔流がこの時、ガラル各地で噴きだしたわけだが……この時噴き出した穴……つまり今で言われる『パワースポット』の存在はそれ以降のガラルに大きな影響を与えた。
遥か昔よりガラルには『巨人・巨獣伝説』が存在したわけだが、それらの大半はこの『パワースポット』によってダイマックスしたポケモンたちを当時の人々がそう認識した、と今では証明されている。
そう、大半は。
今でこそダイマックスというのはどんなポケモンでも可能な所業だ。
だが同時にそこには『ねがいぼし』……つまり『ブラックナイト』の元凶たる存在の力が必要となっている。
なら『ねがいぼし』を持たない野生のポケモンが何故ダイマックスできるのか、といえばそういう才能を持っていたからだ。
強いて言うならば『ダイマックスの才能』。
それを極めればかつての『毒電波』のような、或いは『浮遊要塞』のような存在が生まれる。
逆に言えば『才能』を持たないポケモンは野生環境の中でダイマックスすることは無い。
無いが……だからと言って影響が無いわけが無い。
パワースポットとは星に流れる膨大なエネルギーの奔流が噴き出す地点だ。
そこで生まれ、育った環境に、生命に、生態に、何の影響も出ないなんてことはあり得ないし、それはダイマックスのみのために使われるものでは無い。
遥かな昔……『ブラックナイト』の終焉より。
3000年の時の中で多くのポケモンが生まれ、そして自然の中に還っていった。
連綿と続く営みの中で、けれど時折自然に生まれる
つまり、
そう、実のところ。
昔にガラルの人間が世界中からポケモンを集めるまでも無く、ガラルとは特異個体が生まれやすい環境なのだ。
―――例えば地域全体に特殊な磁場が発生し、生まれるポケモンが全て通常とは異なるタイプを持つとある地域のように。
各地にパワースポットを持つガラルもまたそこに生まれる生命に、育くむ環境に、連なる生態に影響を与え、そして結果的に通常とは異なる『ガラル種』とでも呼ぶ存在が生まれる。
そしてその中でも極めて特異な才能、或いは性質のポケモンが生まれ、自然淘汰の中で生き残り続け。
そして現代に至るまで生き残り続けた怪物たちが……3体。
それらを知る人々はそれらを『三大災禍』と呼んだ。
* * *
―――それは海底の奥底に眠っていた。
―――それは数年に1度目覚めの時を迎える。
―――それは目覚めると海を漂う。
―――それはパワースポットからパワースポットへと渡り歩き、エネルギーを蓄え続ける。
―――それは海上の、或いは海中の
―――それは時折『生』を求めて陸地へと近づく。
―――それは海上を彷徨う亡霊の嘆き響く災禍の箱舟。
―――それは人々に“幽霊船”と呼ばれ、恐れられた。
* * *
―――それは深い深い森の奥で静かに潜んでいた。
―――それは普段森の奥底で静かに暮らしていた。
―――それにとって森は自らの領域が故に、それは森から出ることは無かった。
―――それは数年に1度、自らの支配域を広げんと気まぐれに
―――それが森を広げようとするたびに人の領域は失われた。
―――それは森にやってきた弱い生命を操った。
―――それは深き森に潜む惑いの地の災禍の幻想。
―――それは人々に“白魔女”と呼ばれ、恐れられた。
* * *
―――それは豪雪激しき山の頂上で佇んでいた。
―――それはまるで彫像のように、一切の動きも無かった。
―――それは数年に1度、それは目を開き、動き出した。
―――それの後ろには数多くの“
―――それの歩みはまるで軍隊の行進のように。
―――それが一歩踏み出せば、そこは極寒の大地へと変貌した。
―――それは季節の訪れを待たず歩き出す災禍の厳冬。
―――それは人々に“冬将軍”と呼ばれ、恐れられた。
* * *
ワイルドエリアで一晩過ごし、朝早くに起きるとさっさとナックルシティへと移動する。
一晩休んだことでシノノメもすっかり元気になったようで、午前中にはナックルシティへとたどり着く。
とは言え、ナックルジムは8番目のジム、今はまだ挑戦できないのでそのままラテラルタウン目指して進んでいく。
アルカはもうしばらくワイルドエリアで新しい手持ちを探すとのことで、今度はピッピ人形を忘れずに買ってそのままワイルドエリアへと向かって行った。
6番道路を歩いていると途中で遺跡らしきものが見えてくる。
何故か巨大なダグトリオの像が置かれており、一体これは何の遺跡なのだろうと首を傾げるがシノノメも知らないらしい。
時間も夕暮れ近くなってきていたのでダグトリオ像近くのキャンプ場で一泊してさらに翌日ラテラルタウンへと到着する。
ジムチャレンジの予約をすれば翌日には挑戦できるとのこと。
やはりエンジンスタジアムで詰まっているチャレンジャーが多いらしい。
前回の一週間と比較すると雲泥の差である。
そうしてジムチャレンジの予約は終わったのでシノノメと2人、ポケモンセンターにやってきて宿を取る。
まだ午前中なのでラフな格好に着替えると早速明日のジム戦の対策を始める。
相手は『ゴースト』使いのジムリーダー『オニオン』だ。
『ひこう』統一の私のパーティとの相性は普通、ただ『ゴースト』タイプというのは豊富な変化技を使って来る厄介な手合いが多い。
何より『ゴースト』タイプというのは『のろい』『みちづれ』という凶悪な技を覚えるポケモンが多い。
『のろい』『みちづれ』『おにび』『おきみやげ』……この辺りは『ゴースト』タイプと対峙するならば必ず注意しておかなければならない技だろう。
「となると特殊アタッカーで攻めるべきかしらね」
フーちゃん……ガラルファイヤーなどが弱点もつけて適任かもしれない。
残り2体……ここをどうするか。
恐らく最後の1体、エースポケモンはキョダイマックスができるゲンガーだろう。
キョダイマックスゲンガーの専用技である『キョダイゲンエイ』は交代封じにしてくる厄介な技だ。
この効果はこちらの『さかさかぜ』*1でも交代できない。となると『とんぼがえり』や『ボルトチェンジ』*2などの交代技を使うか、或いは『きれいなぬけがら』*3を持たせるか。
「或いは」
真正面から殴り合う、というのも選択肢だ。
ゲンガー自体は強いポケモンだが、分かりやすい速攻アタッカー型の能力であって決して耐久に分があるポケモンではない。
キョダイマックス状態によって耐久力が大幅に引き上げられていることを差し引いても同じダイマックス状態で殴り合うことは不可能ではない。
「そうね……そうしましょうか」
前回のカブ戦の相手の強打を受け流しながらの細やかな立ち回りとは真逆。
こちらもまた全力のパワープレイでどこまでガラルのジムリーダー相手にやれるのか、それを確かめることにする。
ジムリーダーであるオニオンの残りの手持ちを確認しながらもすでに大よその選出は決めた。
あとは残り1日だが細かい技の調整くらいならできるはずだ。
「厄介な技の候補は……」
そんなことを考えながらあっという間に一日が過ぎて行き……。
「こ、これ……ゴーストバッジです」
呆気ないほどに、あっさりと、ジムチャレンジは終わった。
ここまでの苦労ぶりを考えると首を傾げるレベルだが、フーちゃんの相性があまりにも良すぎた。
場に出すだけで相手を『ちょうはつ』できるフーちゃんが故に、『ゴースト』タイプの持ち味である多彩な変化技を完全に防いでこちらは『あく』タイプの一致技を出すだけで相手を倒してしまっていた。
唯一相手のミミッキュには苦戦するかとも思ったが『じゃれつく』で大ダメージを受けたことで『ぎゃくじょう』が発動し、そこからはさらに一方的となった。
さすがにゲンガー相手には落ちたがすでに2対1。しかもこちらは2体とも無傷。
先に出したムーちゃん……エアームドの『ばくげき』ですでに『ひんし』寸前まで追い込んでいたのでそのままガーくんで詰めて終わった。
キョダイマックスを切り合う戦いになるかとも思っていたのだが、それすら必要無く終わってしまったのはちょっと拍子抜けだった。
いや、さすがに全力を出したジムリーダー相手ならばこうはいかないかもしれないが、ジムチャレンジで制限のついたジムリーダー相手に天敵に近いフーちゃんを出してしまったが故の結果だった。
「うーん、予想外だったわね」
フーちゃんの相性の良さは分かってはいたが、ここまでハマるとは思わなかった。
結果的には楽勝だったが、目的には失敗だったかもしれない。
相手の強さを確かめ、肌で感じ取り、それに対策し続けてこそパーティの完成度は増していくのだから。
あまり簡単に勝ってしまうと反省点が見えてこない。
でもあまり手を抜き過ぎるとそれはそれで正しい結果が返ってこないのでその辺りの塩梅というのが難しい。
あまりにもあっさりと勝ちすぎたせいか試合後のシノノメも苦笑しており、振り返りの配信のネタに困る有様だった。
まあ過程はともかくとして結果的には4つ目のバッジを獲得。
これでジムチャレンジも半ばだ。
そして次のバトルからは手持ちの数が1匹増えて4対4のバトルになる。
たった1体増えただけ、と安易に考えてはならない。
その1匹が増えることによって戦術はより高度になり、思考も複雑さを増すのだから。
ジムチャレンジ後のトーナメントでは6対6のバトルとなるのだ、このまま交代を多用するパーティで組むのならば6体をフルに活用した戦術を考えるべきだろう。
「……バトルが終わっても考えることは山積みね」
寧ろ増えている。
けれど……いや、だからこそ。
「楽しくなってきたわ」
楽しい、そんな感情に支配される。
それこそがトレーナーの愉悦であるが故に。
* * *
ラテラルタウンから次のジム……アラベスクタウンジムへ挑むために移動する。
ジムのあるアラベスクタウンというのはアルカも言っていた『ルミナスメイズの森』の中に作られた町だ。
比較的浅いところにあるらしいが、それでも森に入ることは強制らしい。
「……森の魔女ねえ」
―――『ルミナスメイズの森』の奥地に立ち入ると二度と出てこれなくなる。
―――森の奥地は魔女の世界、立ち入ればたちまち魔女の
そういう逸話がアラベスクタウンにはあるらしい。
シノノメは知らなかったらしいので、本当にアラベスクタウンにだけ伝わる話らしい。
それを知っているアルカはどうやらアラベスクタウンの出身であり、過去に一度だけ森で迷ったことあるらしく、それがトラウマとなっていて森でポケモンを探すことはせず、ワイルドエリアまでわざわざ来ていたのだとか。
まあ今度はワイルドエリアのポケモンに追い回されていたようだが。
まあとにかく、ジムチャレンジの目的地である以上はどうこう言っても行かなければならないのだからと森に踏み入り―――。
「妙な気配ね」
森全体に広がる異質な気配に第六感が警告を発した。
普通の森ではないことは見れば分かる……が、それを差し引いても何か妙だ。
後ろのシノノメも異能者ではないが、それでも森の妙な気配を感じ取っているのか周囲をきょろきょろと見まわしている。
「シノノメ、この森はこれが普通なの?」
「いえ……以前に来た時はもっと普通の……」
何か妙だ、と思いつつそれが何なのか分からないらしいシノノメの語尾が小さくなっていく。
「嫌な感じ。アラベスクタウンへ急ぎましょう。幸いにして浅いところを通っていればすぐにつくらしいし」
「はい、私もそれが良いと思います」
「……一応、私の後ろから離れないようにしてなさい」
最悪の時、守れるように。
言葉にはしなかったその思いを何と無しに理解したのか、シノノメが硬い表情で頷いた。
なお、最終覚醒したソラちゃんが実家からアオくん連れてきてユウリちゃんとタッグバトルやるとやべーやつら全員倒せます。
アオくんもいないし、覚醒もしてないし、ユウリちゃんもいない現状だと……。
今作における前作のグラカイみたいな「自然の脅威」枠の3匹ですね。
挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?
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あったほうが良い
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ほどほどで良い
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無い方が良い