沈黙の栄光   作:ノービス

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レース用のマヤノ育成が中々捗らないので初投稿です。
A+A+BDB目指したい……。


第10話「覚悟と願いの先に」

「え? 入りたいチームが見つかったの?」

 

 寮の食堂でニンジンハンバーグ定食を突きながら、スズカは驚いた表情でシャムを見た。

 シャムはと言えば、報告の直後に口いっぱいにニンジンハンバーグを詰め込んでおり、ハムスターになりながら頷く。

 

「んく、んんぅんんん」

「シャムちゃん? 食べながら喋ろうとしちゃだめでしょ?」

「んぐぅぅぅ……」

 

 一気に頬張ったせいで中々飲み込めない様子のシャムを見ている内に、スズカはムラッと魔が差した。

 つん。つんつん。つんつんつん。

 

「んぶっ!? んぐっ、んんんっ!」

 

 スズカによる突然のほっぺたへの強襲に思わずハンバーグを飲み込んでしまい、喉を詰まらせるシャム。

 慌ててコップの水を飲み、詰まった食べ物を無理やり流し込む。

 ぜひゅー、ぜひゅー、と女の子が出したらマズい呼吸を繰り返しながら立ち上がってスズカを睨んだ。

 

「スズカぁ……!」

「もう、そんなに急いで食べたら喉に詰まっちゃうわ。ゆっくり食べないと」

「どの口が……!」

「ふふ、ごめんなさい。シャムちゃんが可愛くて、つい」

「……はぁ」

 

 そう言われてしまえばシャムも怒りを鎮めざるを得ない。毒気を抜かれた顔で溜息を吐くと椅子に座り直した。

 

「はぁ、全くとんでもない目に遭ったわ……。それで続きだけど、そうね。一応【ポラリス】ってチームに行く事なりそう。条件付きだけど」

「条件?」

「そ、条件。それはね……」

 

 お箸でびしっとスズカを差すシャム。お行儀が大変よろしくない。

 しかし、スズカが注意するよりも先にシャムが続ける方が早かった。

 

「スズカを【リギル】から【ポラリス】に引き抜く事」

「ぶっ!?」

 

 今度はスズカが咽る番だった。幸い、食べ物も水分も口に含んでいなかったので大惨事は免れたが。

 ハンカチで口元を拭いてから、務めて冷静にシャムに聞き返す。

 

「こほん。んん、シャムちゃんは私を【ポラリス】に連れて行きたいの?」

「そ。流石にちゃんとした話は神戸新聞杯の後になるとは思うけどね」

「ふぅん……シャムちゃん、走る事にしたのね」

 

 やや素っ気ない返事になったスズカだが、内心ではちょっとした小躍り気分であった。

 ずっと一緒に走りたいと願っていた事が実現しそうなのだ。喜ばない筈が無かった。

 

(って、スズカは考えてるんでしょうけど。分かりやすいわね……)

 

 内心を隠したところで、耳と尻尾がピコピコ、パタパタと動いているのでシャムには筒抜けだった。

 ふ、と息を吐くと、甘い笑みを見せて口を開く。

 

「そうよ。スズカと走りたいと思ったし、それに私の走りを近くで見ていて欲しいからね」

「シャムちゃん……」

「デビュー戦がいつになるかは分からないけど、スズカは見ていてくれる?」

「シャムちゃん……! もちろんよ!」

「ぐぇっ」

 

 ガタッ、と席を立ちあがるとシャムの方へさっと回り込み、力いっぱいに抱き締める。

 この小さな女神様が走る事を決意して、それを見てくれなんて言うのだからもう可愛い。

 一緒に走る時もそう遠くはないのかも知れない。そう思いながらスズカは愛でに愛でた。

 

「す、スズカぁ……私、頑張る……から……スズカも、ね?」

 

 シャムが苦しげに漏らした言葉を聞いて、愛でていたスズカの手が止まった。

 完全に入った状態になって目を白黒させているシャムをそのままにして、少し思考に沈む。

 そして、悟った。

 今の自分は走る事に恐怖を感じている。だから、彼女はそれを取り払おうとしてくれているのだと。

 ここまでされているのに自分が恐怖から目を背けていたら、一生このままで終わってしまうに違いない。

 すぐに克服するのは出来ないだろう。だけど、それでも向き合う事はできる。

 二人が初めて相部屋になったあの夜に決めた事を、もう一度思い出す。

 

 ──これからは二人で未来を掴みに行こう。この子となら、きっと出来ると信じているから。

 

 今度は、ちゃんと向き合って、本当を嘘にしないためにも頑張ろう。

 移籍の件もおハナさんと話せばきっと分かってくれるはずだ。

 心の中でむん! と気合を入れ直したスズカは改めて宣言する。

 

「ええ。分かったわ、シャムちゃん。私はもう逃げないから。だから、いつか必ず一緒に走りましょ?」

「ふふ……よかっ……」

「……えっ」

 

 スズカの言葉に、力無く笑みを浮かべたシャムはがくり、と項垂れた。

 ここでようやく異変に気が付くスズカ。目の前には、自分の腕の中で極められ泡を吹いて気を失っているシャムが居た。

 

「……シャムちゃん?」

「……」

「シャムちゃぁぁぁん!?」

 

 涙目になって返事が無いシャムをがっくんがっくん揺さぶるスズカ。しかし、シャムは全く目を覚ます気配がない。

 まさか、と思ったが、胸は上下しているから生きてはいるようだ。

 

「シャムちゃん……こんなになってまで……ごめんね、ありがとう……」

 

 涙を拭い、シャムを抱き抱えると部屋に寝かせるべく立ち上がり、食堂を出ていく。

 

 そう、食堂だ。ここは寮の食堂なのだ。

 必然、夕食の時間には食事を摂りに来るウマ娘が多くなる。

 つまり、今の一連の出来事も大衆にばっちり見られていた。

 

「ぅぷ……私達は一体何を見せられているのですかぁ……?」

「なんかもう、何食べても味が甘いですよぉ……」

「良かったな、スズカ……」

「あっ! エアグルーヴ、もしかして泣いてマスカ?」

「なっ、いやっ、これは違う!」

「いやぁ、ポニーちゃんも隅に置けないねぇ」

 

 二人が出て行ってからの皆の反応は三者三様である。

 口から砂糖を吐くか胸焼けを起こす者。感激の余り涙を浮かべる者とそれを揶揄う者。話の展開ににやつく者。

 思う事は皆違ったが、それでも1つ、同じ思いがあった。

 

 ──サイレンススズカとシャムに幸多からん事を。

 

 

 ⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱

 

 

 二人の旅路は未だ途中。流れ星の様に駆けていく。

 そして、新たな流れ星がまた1つ、トレセン学園へ落ちてきた。

 

「──こ、ここがトレセン学園かぁ……! 見ててね、お母ちゃん。私、ここで頑張ります……!」




世界の歯車は狂い出し、新たな可能性と未来を紡ぎ出す。
その未来の結果は、女神でさえも知らない。
挑戦は、まだ始まったばかり。


次回は閑話の予定です。

ここまで読んでいただきありがとうございます。
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