ようやくスズカさんをお迎えできたので初投稿です…。(クルクルジュワァ)
地獄のトレーニングが始まって早数日。
デビュー戦直前になったので、今日からはストレッチと走り込みがメインとなっていた。
デビュー戦でのシャムの作戦はまだ決まっておらず、とりあえず合いそうなのを探してみようということで、まずは並走する事になった。
走り込みの並走相手はまたしてもリョテイだった。
とりあえず前めで走るシャムの後ろから鋭い眼光で睨み付けながら接近してくるリョテイに、シャムは悲鳴を上げながら走っていた。
そして、半周と少しで追い付かれて差されてしまっていた。
ゴールしてからリョテイに活入れと称して尻尾を齧られて悲鳴を上げているシャムを見ながら、茜と葵は揃って首を捻っていた。
「やーっぱ、しっかり鍛える前から先行策は無理かぁ?」
「うーん……どうだろう、お姉ちゃん。リョテイ自身がデビューして、もうそれなりに長いこともあるし……」
「せやんなぁ……。やからと言って、後方策も今のままやとパワーが足らん……」
「でも、元々強引なスケジュール強行してる訳だし、デビュー戦ぐらいは目を瞑るべきじゃないかな……」
「やっぱそうなるかぁ? どれでやっても変わらん感じあるのは確かやし」
今度は後方策を試すべく、前後を入れ替えて走り始めた二人を遠目に見ながら茜は溜息を1つ漏らした。
シャムが最終コーナー手前から加速すべく前に踏み込むが速度が足りず、結局リョテイの背中を見続けるだけで終わってしまった。
そして、またしても尻尾を齧られているシャムを横目に見ながら二人は悩み続ける。
「……一応、本人に希望も聞いとこか?」
「……そうしようか」
二人で頷き、尻尾を齧られてビクビクしているシャムの方に近づいて声を掛けた。
「なあ、シャム。今ちょっとええか?」
「ええかするならこれ何とかしてよぉ!」
「しゃーないなぁ。ほら、離れやリョテイ」
尻尾にかぶりついて離れないリョテイを何とか引き剥がしてから、改めてシャムにどの走り方がしてみたいのか聞いてみる。
涙目で尻尾をさすっていたシャムは暫く考え込むようにしてから、一言、「逃げがいいな……」と呟いた。
「逃げかいな。まあ周り気にせんでええのんは楽やろうけども」
「ただ、逃げだとスタミナがかなり必要になりますよ?」
「うー……分かってるけど……」
恐らくスズカの影響だろうな、と茜は考えた。
一緒に走りたいと言っていたし、それなら確かに逃げで叩き合うのも1つなのかもしれない。
スタミナは鍛えればある程度何とかなるだろう。しかし、この短期間でそれを鍛えるのは難しい。
「それでも、やるんやな? スズカの背中は遠いで」
だから、確認する。それを分かった上でその道を進みたいのかを。
「やるわ。私はもう決めたから。スズカの走りを見ているだけじゃなくて、一緒に走るんだって」
シャムは、茜の目を見てしっかり頷く。その答えを聞いた茜は破顔一笑した。
お互いにやる事は決まった。後はそれをやり遂げるだけである。
「……ほうか。なら手伝ったるわ。ちゃんと付いてきぃや」
「もちろん。頼むわよ、トレーナー」
「よし、よう言うた。ほな、次はスタミナ稼ぐ為にも坂路10本や」
「えっ」
「スタミナつけるなら長距離走もええな。3000m5本ぐらいもやるか」
「えっ」
「プールもするか。クロール500mも3本ぐらいやってもいけるやろ」
「えっ」
「デビューまでもう時間無いけど、何とかなるやろ。リョテイとスズカにアフターケア任せとくから頑張るんやで」
「嘘でしょ……!」
「嘘や」
シャムは盛大にずっこけた。
あっはっはっ、と大きく笑う茜の横で葵がこめかみを押さえて首を振っていた。
「流石にもう時間が無いという状況でそんなハードトレーニングは無理でしょう……」
「そらそうや。やから実際にやるのはプールだけでええで。効率ええしな」
「まあ、プールぐらいなら……」
「やけど、プールだけにするならちょっと余裕あるやろうし、500m5本にするか」
「嘘でしょ……!」
「今度は嘘や無いで。──リョテイ!」
うーっす、と答えたリョテイがシャムを所謂ファイアーマンズ・キャリーで抱え上げる。
シャムは抵抗しようとしたが片手両足を封じられては満足に動けず、情けない悲鳴を上げながらプールへ連行されていった。
「あの、茜さん……」
それを両手を振って見送っていた茜の後ろから声が掛けられる。
振り向けば、スズカとフクキタルが不安そうな顔で運ばれていくシャムの後姿を見ていた。
「なんや、スズカ、フク。シャムが心配なんか?」
「はい……急なハードトレーニングですし、身体を壊したりしないかって……」
「私は凶が出てないから大丈夫だって言ってるんですけどね……」
どうやら連日ハードトレーニングでボロボロになっているシャムの事を心配していたらしい。
スズカは同室だし、特に心配なのだろう。可愛い奴やな、と茜は思った。
──そのスズカが、シャムを抱き枕にしてボロボロにする一端を担っているという事は流石に茜も知らなかったが。
「心配あらへん。壊れん程度に加減してるし、そのためにリョテイもブレーキ役で付けてるしな」
「そうですか……?」
何も知らない茜はスズカの後ろに回り込みながら安心させるように語り掛ける。
そこまで言うならと胸を撫で下ろしているスズカは完全に無防備で、一連の流れを見ていた葵とフクキタルは小さく息を吐いて少し離れた。
「せやせや。やからスズカは次のレースの事に集中しや」
「分かりま……ひゃぅっ!?」
ピン、とスズカの尻尾が逆立つ。茜がスズカのトモを触りだしたのだ。
変な声を上げるスズカを無視して、茜はトモを触り続ける。
擽ったいような感触にスズカは動けずにいた。
「んー、見てて思ったんやけど、やっぱええトモやなぁ。柔らかいし、前に出て走るための部分だけが研ぎ澄まされとる……」
「あ、ぁ……っ!」
「おっと」
再起動したスズカが咄嗟に後ろ蹴りを放つが、その頃には茜は離れてしまっていた。
「おお、怖い怖い。ウチの綺麗な顔に傷が付くとこやったわ」
「な、な、な……何をするんですか……!」
「何って、トモ触らせてもろただけやで」
「い、いきなり触るなんて……!」
「つい手が先に出てしもた。堪忍堪にガフゥッ!?」
てへぺろ☆ と舌を出した茜の頭を分厚い本が強打した。
頭をさすりながら茜が後ろを向くと、下手人である葵が手に持った『トレーナー白書』の背表紙を労わる様に撫でながらジト目を向けていた。
「全く。これが無かったらお姉ちゃんの事、素直に尊敬だけするものを……」
「やからってその『トレーナー白書』を鈍器にするもんやないで、葵!」
「お姉ちゃんの頭は素手で叩いたら固いんだもん! 石頭!」
「なんやと! 葵かてカチカチやろが!」
「「がるる……!」」
「はいはい、そこまでにしてよ、二人とも。他の子たちの前でみっともない姿見せないの」
「喧嘩は良くありませんよぉ……」
「「うぐぅ……」」
「何なのこれ……」
「これが【ポラリス】のいつもの光景ですよ、スズカさん……」
互いに頬を引っ張り合う取っ組み合いに発展しかけた所で、仲裁に来たドーベルとドトウに引き離される。
スズカが目の前で繰り広げられる展開についていけない中、フクキタルが悟ったように遠い目をしてスズカの肩に手を置いた。
それだけでフクキタルの心労が推し量れてしまったスズカは、こんなのでこれからやっていけるのだろうかと少し不安になるのだった。
そうしている間にも時間は過ぎていく。シャムのデビュー戦はもうすぐそこまで迫っていた。
新しい場所と言うものは、得てして馴染み難いものである。
そこで染まるか、孤立するかは全て本人次第なのだ。
日曜日すっぽかしてしまって暫く虚無になっていました作者です。
なんなら伏線回収回やるって言ってまた延びてます。
大人しく月水金の週3で良かったんじゃねーのと思いつつ、投稿しました。
身体を分裂させたい…。
次回更新は火曜日をお休みし、木曜日を予定しております。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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